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赤・青・紫

  
「せんせー。賢木せんせー」

 バベルの廊下を歩く賢木修二は、呼び止められて、後ろを振り向く。
 そこに立っているのは、チルドレン三人娘。

「ん、なんだ?
 外出許可なら出してやったろ」

 彼女たちは、子供になってしまった皆本と共に遊びに行った。賢木は、そう思っていたのだが……。

「出かける前に、
 ちょっと聞きたいことがあってさ」
「センセが子供の頃って
 何が欲しかったん?」

 子供らしい純真な瞳で、薫と葵が問いかけてくる。

「子供の頃に欲しかった物?
 ……ああ、そういうことか」

 大人の皆本ではなく子供の皆本へ。
 子供同士ということで、何かプレゼントしたいのだろう。

「そうだな。
 俺が子供の頃は……」

 と答えかける賢木だが、それを紫穂が遮った。

「ダメよ、薫ちゃん、葵ちゃん。
 センセイと皆本さんじゃ、趣味が違い過ぎる。
 ……参考にならないわ」
「おい!?」

 賢木が反論する間もなく、

「それもそうだな」
「子供ゆーても色々おるもんな」

 薫と葵の視線は、賢木の隣へと移動する。
 そこでは、柏木朧が、優しい笑顔を浮かべていた。

「そうねえ。
 女のコと男のコじゃ、
 興味の対象も違ったけど……。
 私たちが子供の頃って、
 スーパーカーとかブームだったわ。
 消しゴムだけじゃなくて
 クイズ番組にもなるくらい。
 ……そうでしたわね?」

 賢木に同意を求める朧。
 年齢不詳で通している彼女であるが、『私たちが子供の頃』という言葉からすると、『皆本や賢木と同年代』という意味になるだろうか。

「そ、そうですね」

 実際、賢木は朧の言葉を肯定してみせた。
 それは賢木や皆本が子供の頃ではなく、実は1970年代の話だ……と、ちゃんと理解しながらも。




       赤・青・紫




「あれ?
 ケンはんやんか」
「何やってんだ、
 いい年した大人が、こんなところで?」

 買い物をしていたケン・マクガイアは、聞き覚えのある声を耳にして、後ろを振り向く。
 そこに立っているのは、チルドレン三人娘。

「オー!
 『チルドレン』は、
 やっぱりチルドレンなんですネー。
 まだまだオモチャが欲しい年頃なのデース」

 場所はデパートのオモチャ売り場だ。
 勝手に納得するケンだったが、これは誤解。

「違うわ。
 私たちは、皆本さんへの
 プレゼントを買いにきたの」

 皆本が子供になってしまったので、同年代の男のコが喜びそうなものを買いに来たのだという。

「オー!
 それは大変ですネー。
 でもプレゼントの選択は正しいデース。
 私も子供の頃、車のプラモデル、よく作りました。
 でも……ここにあるのはチョット違いマス!」

 親切なアドバイスをするケン。
 昔のプラモデルは、今と違って、単色だったのだ。
 それを塗装するのも楽しみの一つだった。

「そっか。
 それじゃ、そーゆー昔ふうのを
 探した方がいいかもしんねーな」
「おーきに!」

 そう言って、立ち去る薫と葵。
 紫穂も続いたが、ふと立ち止まって、振り返る。

「アドバイスの御礼に、
 私からもアドバイスするわ。
 ケンさんもプレゼント買いに来たんでしょ?」
「オー!
 アナタ私の心よみマシタネ?」
「違うわ、初歩的な推理よ。
 ケンさんがこーゆーの
 自分で買うとは思えないから……」

 そのとおり。
 ケンは、本国の母親へ送るプレゼントを買いに来たのだった。

「日本らしい人形?」
「そうデース。
 コノゴロハヤリの人形は、どれデスカ?」
「うーん……。
 コレがいいと思うわ!」

 紫穂は、素直に悪気なく、流行のフィギュアを指さすのだった。


___________


 そして、帰宅後。

「え?
 僕にプレゼント?」

 皆本少年の前に、それが差し出された。

「今なら子供同士だもんな」
「ウチらのおこづかいでも
 プレゼント買えるから、
 いい機会やと思って」
「いつも御世話になってる御礼よ」

 それは、丁寧にラッピングされており、ピンク色のリボンがかけられている。

「ありがとう」

 その場の『早く開けてみて』という空気を読んで、皆本少年は、リボンをほどく。
 包装紙を破らないように丁寧に剥くと、中から出てきたのは……。

「……プラモデル?」

 ミニカーにしては完成されていないし、プラモデルにしては、中途半端に出来上がっている。
 しかし天才少年の皆本は、「この十年の間に、こういう『親切設計』になってしまったのだ」と理解したのだった。
 
(ここまで組まれていては、
 あんまり作る楽しみも
 残ってなさそうだけど……)

 実際、サッと仮組みするだけで、一応の形が完成してしまった。

「どや?」
「カッコいいだろ?」

 女性のように滑らかな、美しいライン。
 同時に、男性のような力強さも感じさせる。

「……うん」

 シェルビーコブラと呼ばれるスポーツカーだった。
 少しだけ味気なさも感じるのだが、それは未塗装状態のためなのだろう。
 だから……。


___________


「男のコなら、やっぱりブルーやろ。
 ……ウチのベレー帽の色やで!」
「何言ってんだ、葵。
 コブラって言ったら赤だろ、赤!」

 色を塗りましょう。
 そう言って、皆本少年に迫る二人。
 紫穂は、一歩、出遅れてしまった。

(葵ちゃん! 薫ちゃん!)

 心を読むまでもない。
 二人の顔には、『わたし色に染めてね』と書いてあった。
 だから、紫穂も負けずに、言ってみる。

「えーっと……紫色は?
 紫色っていうのはどうかしら」

 だが……。

「紫色?
 あんまり車には使わない色じゃん」
「わざわざ、
 そーゆー色で塗ろうなんて
 ……そんな奴おらんやろ」

 薫と葵には反論されて、

「そうだね。
 これには……ちょっと紫は合わないかな」

 含意に気付かぬ皆本少年にも、却下されてしまう。

(負けた……)

 珍しく敗北を味わう紫穂であった。



   
 「短編はサクッと書けます」とチャットで発言したばかりだったのに、結構時間かかってしまいました。
 明日(というより、もう今日)は、休みじゃないどころか、いつもより早く行かなきゃいけないのに、何やってんだ俺……。

 それはさておき。
 ミッション(http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/patio/read.cgi?mode=tree&no=109&l=all)には参加しなきゃ……ということで。
 彩色前という点に注目して書いてみました。
 ちょっとオチが弱いんですけど、こういう立場の紫穂も、たまには良いかと。

 ところで、御題の絵って……赤に彩色される予定なんですよね?
 ということは、勝者は……。
 

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