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ラスト ラブソング

「おねーちゃーん!」
「なーに。どうしたの。恐竜のコーナーはあっちよ。『はくぶつかんで、きょーりゅーがみたい』って言ったのはあなたでしょう。ここは月のコーナーだから、岩と宇宙船しかないわよ。はやくこっちへ・・・」
「でも、おねーちゃん、ここ。ここみて。おにんぎょうさんがいる」
「え?・・・ああこれ。このガラスケースの中のは・・・お人形さんじゃないわ。ほんとの人間よ」
「にんげん?えー、えーうそ、だって、ちいさいよ。ゆびにんぎょうみたい」
「有名な『月の小人』よ。ほら、ここ、書いてあるでしょ。
『この小さな少年は、星暦3786年に月で発見されました。
 作り物ではなく、本物の遺体です。体のサイズ以外は、骨格、細胞、遺伝子組成もすべて地球人類のものと一致しています。年代測定により、ほぼ7万年前のものだと判明していますが、保存状態は極めてよく、腐敗や風化はまったくありません。
 不思議現象として、発見当時は大きな話題になりました。
 この少年は背から胸への貫通創があり、これが死因だろうといわれています。傷以外の腐敗や損傷がないのは、少年が身に着けている小手やヘアバンドが一種の霊具で、身体保存の機能を果たしていたからだという説が有力です。着ている服は宇宙服の形状をしており、この少年が月土着の種族ではなく、別の場所から来た、つまり地球由来だという説を、裏付けています』
 ・・・この男の子はね、発見された時、手に石を握ってたんだって」
「いし?」
「そう。ほらあれ」
「・・・・ちいさいね。ビーズみたい」
「・・・『この石には古代文字が浮き出て見えます。研究が進められていますが、いまだ解読はなされていません』・・・ほら、こっち。ルーペがあるわ。よーく見てごらんなさい」
「んー。これ、字なの?」
「そうよ」
「なんてかいてあるの」
「学者の人にもまだわからないんだって。・・・大変動の前の言語だから、記録がほとんど残ってないのね・・・」
「ふーん」
「・・・綺麗な石よね。・・・死んでも、この石を握りしめてたのね・・・この子」
「なんでそんなものもってたの?」
「さあねえ・・・。お守りだとか、宗教的な儀式だとか、恋人へのメッセージだとか、いろいろ言われてるけど・・・」
「・・・ラブレター?」
「そうかもね・・・」
「ふーん。ろまんちっく!だね」
「・・・・・・そうね・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・おねーちゃん」
「・・・・・・」
「どしたの。おねーちゃん」
「・・・・・・」
「おねーちゃんってば!」
「え?ん?何?」
「・・・おねーちゃん。あのね、わたしね、しょうらい、がくしゃさんになる」
「・・・・・・」
「がくしゃさんになって このこだいもじをかいどくするの。それで、なんてかいてあるか、おねーちゃんにおしえてあげる」
「・・・・・・」
「ね。いいかんがえでしょ」
「・・・いい考えね。でもいっぱい勉強しないと、学者さんにはなれないわよ」
「いっぱいべんきょうする」
「本当?」
「ほんとほんと。がんばる」
「ほんとかなー」
 彼女は小さな妹にむかって微笑んだ。
「とりあえず今日帰ったら、算数の宿題、がんばってね」
「えー。それとこれとはべつよー」
「別じゃないでしょー」
 姉の少女は笑いながら、妹の手を引いて、恐竜コーナーへと歩を進めた。数歩歩いて、ふと、今まで覗き込んでいたガラスケースの方を振り返った。
 亜麻色の髪が揺れる。耳のイヤリングも揺れた。そのまま立ち止まり耳を澄ます。
 呼び声に。けれど聞こえない。再び背を向けて、彼女は歩き出した




・・・暗くてすいません。

7万年後の地球が舞台です。
なんかこー、いろいろ微妙な2次創作ですが・・・投稿させていただきます。何か、どこか、少しでも、読んでくださった方の気持ちに触れるものがあれば幸いです。

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