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三人のお義母さんになる人

   
「……ともかく、皆本はんが
 ウチらをお嫁さんにしてくれるって
 わかっただけでも朗報やな」

 ちょっとした騒動が終わった後で、つぶやく葵。
 その『騒動』とは、薫の『お義母さん』発言・皆本の対応・紫穂のツッコミで構成されたもの。
 たわいない一場面ではあったが、これで葵たちは、『三人のうち一人とは結婚するつもり』という言質をとった気分になっていた。

「そうだな……」
「なんや、薫?
 ノリが悪いやんか。
 三人一緒じゃないと嫌なんやろうけど、
 でも、こればっかりは……」

 葵は、薫に声をかけながら、その肩をポンと叩く。いつもほどノリノリではない彼女を心配したのだが、そんな二人に、背後から別の言葉が投げかけられた。

「大丈夫よ」

 振り向いた葵が目にしたのは、ソファーに座っている紫穂。
 紫穂は、ポッキーを食べながら、何かの本を読んでいる。

「皆本さんを外道にせずとも……。
 三人で一緒に、
 皆本さんのお母さんを
 『お母さん』って呼べる日が来るわ」

 手にした本から視線を逸らさないまま、話を続ける紫穂。

「ホンマ!?」
「ホント!?」
「ええ!
 だから私にまかせて」

 葵だけでなく薫も目を輝かせるのだが、二人とは別の意味で、紫穂の目もキラリと光っていた。


___________


 そして。
 時は流れて……。


___________


「おめでとう!」
「おめでとー」
「おめでとー」
「おめでとう!」

 親族・同僚・友人・知人などから祝福される新郎新婦。
 しかし、その『祝福』の声に少しぎこちなさも混じっているのは、事情を知る者も混じっているからであろうか。
 新婦は、それを誰よりも理解しているはずだった。なにしろ、新婦はサイコメトラーなのだから。
 そして、新婦の親友である二人は……。

「なんで……?
 なんで紫穂ひとりが皆本と結婚できて……」
「……ウチらは皆本家の『養女』なんや!?」

 参列客の中で涙を流していた。

 二人は、あのとき紫穂が読んでいたのが漫画本だったことを知らない。その内容も、あまり詳しくは知らなかった。
 だから、『その漫画ではヒロインの一人が養父母に対して「お養父さんお養母さん」と言ったり「お父さんお母さん」と言ったりしている』ことも、知らなかったのである……。


   
 一週間前に『お義母さん』という言葉を見た時から、他の椎名作品がずっと気になっており、今朝になってようやく頭の中で形になったので、文字にしてみました。
 絶チルSSを書くのは三つめですが、実は、チルドレン三人や皆本を登場させたのは初めてです。書いていて、なんだか緊張しました。
 まだ今週号は読んでいないので、ある意味、私的には一週間遅れの『展開予測』……カナ?

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