テレビのアイドル達が、少年のような心を持った男性が好み、と言っていたのをふと思い出す。
それを見た時は、はー、そういうものなのだろうかと思ったものだ。
実際、その時私は異性に興味を持つことが出来なかった。
――語弊があるかもしれない。
私だって、恋愛というものには興味があったのだ。
ただ、どうしても同級生達をそういう目で見ることが出来なかった。
何か、大事なことを忘れているような、そんな事にばかり気が取られていた。
それが、恋愛や、異性に興味を持つことよりも重要だったのだ。
今思い返せば、それで良かったのかもしれない。
何も知らず、何も気にかけず、普通に暮らしていけば、その私も幸せだったのだろう。
きっと、誰かと恋愛して、失恋をして、結婚をして……それも、幸せであることは間違いない。
それでも、私はこっちを選んでよかったと思える。
何も知らずに生きることより、全てを思い出して生きることの方が、そっちの私よりも、何倍も幸せだったろうと。
目を向ければ、そこには皆がいる。
美神さん。
シロちゃん。
タマモちゃん。
それに――。
横島さん。
みんなみんな、私の大切な家族だ。
もし、そのままに過ごしていれば、思い出さなければ、決して出会えなかった人たち。
『私』が『私』を思い出さなければ、きっとこんなに充実した日々は送れなかっただろう。
そして何より――。
「か、堪忍やー! 仕方がなかったんやー!」
「アンタねぇ! 仕方がないで依頼人を呪うんじゃないわよ!」
「違うんや、ワイは富の偏在を防ぐためにやっただけなんじゃー! 畜生、やっぱり男は顔なのか! 顔がよければ何をやっても許されるんかー!」
「アホなこと言ってんじゃないわよ!」
大好きな貴方のことを、思い出せたから。
そっと、髪を撫でる。
美神さんたちは一億円の仕事が入ったとかで、気絶している横島さんを置いて出て行ってしまった。
横島さんのポケットから文珠を持っていったのはお約束かもしれない。
放って置けばいいといいながら、私に横島さんのことを頼む辺り、美神さんも素直じゃないなぁと思う。
――私も、そんなこと言えないけれど。
私が、美神さんみたいにバリバリ働ければ、あんな行動力があれば、こんな思いをしなくてもいいのだろうか。
暫く想像してみるが、やっぱり無理そうだ。
神通棍を持って悪霊退治をしている自分なんて、想像すら出来なかった。
それに、多分これは私の性格のせいだろう。
バリバリのキャリアウーマンになっていようが、きっと変わらない。
……時折、エミさんが羨ましくなる。
彼女みたいに、開けっ広げに自分の気持ちを口に出来たら、こんなにヤキモキしなくてもいいかもしれない。
この気持ちを伝えることが出来たら、どんなに楽なんだろうか。
応えてくれるか、断られるのか、それは分からない。
でも、自分で言うのもなんだけれど、そんなに悪くは無いと思う。
そっと、頬に触れる。
美神さんに殴られたせいか、少し火照っている。
心地いい。
思い返せば、この体温を幾度感じただろうか。
除霊中だけど、抱きしめられたことだってある。
でも、美神さんにするように抱きついて来てはくれない。
勿論、覗きにだって来てくれない。
……覗かれたら、恥ずかしいけど。
でも、そんなに魅力が無いのだろうか。
横島さんは、女性と見れば誰でも口説いてしまう。横島さんなりの基準があるのかもしれないけど。
私は、その基準を充たしていないのだろうか。
もっと積極的になってくれればいいのに。
そっと、唇をなぞる。
こんな時間が、何時までも続けばいい。
タマモちゃんがいて。
シロちゃんがいて。
美神さんがいて。
横島さんがいる。
そして、出来れば――。
横島さんの隣に、私がいて欲しい。
美神さんには悪いけど、これだけは譲りたくない。
誰がいても、嫌なのだ。
横島さんの隣に、女の人がいる。
その光景を想像するだけで、胸が締め付けられる。
息が苦しくなる。
誰がいても、我慢できない。
そこにいるのが、自分であって欲しい。
自分勝手な願望だと思う。
我侭な、嫌な女かもしれない。
でも、あの笑顔は、私にだけ向いて欲しい。
私にだけ、語りかけて欲しい。
私だけを、抱きしめて欲しい。
嬉しいことは一緒に喜んで。
哀しいことは一緒に哀しんで。
それでも、手を繋いで一緒に歩きたい。
こんな風に思えるのは、横島さん一人だけだから。
だから――。
「ねえ、横島さん。
貴方の心に、他の人が住んでいたっていいんです。
全部私にだけ向けて欲しいけど、そんな我侭は言いません。
忘れて欲しいなんて、言いません。
でも……私の分の居場所も、ありますよね?
私が隣にいても、いいですよね?
私だって、何時までも我慢、できませんよ?」
横島さんが起きないように、そっと呟く。
「横島さん――大好きです」
伏せていた顔を上げる。
きっと、今の私はトマトみたいに真っ赤っ赤だろう。
横島さんが起きていたら、絶対に出来ない。
ううん、普段の私だったら、告白の真似事さえ、出来なかっただろう。
――もしかしたら、我慢の限界が近いのかもしれない。
でも、まだ大丈夫。
もう少しだけ、我慢できる。
だから、今はこれを胸に、頑張ろう。
やっぱり、女の子としては告白するより、されたいから。
だからこのことは内緒ですよ、人工幽霊さん。
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