翌日、葵が部屋で着替えていると、外から優夜がドアを強く叩いていった。
「おい!葵、なにしとんのや!」
「ちょ、何やのん!?」
ちょうど、葵はTシャツを着始めた所だった。
「おい、入んぞ!」
まぁ、人は非常時には冷静になれないもので、この時の優夜も焦りからとんでもない行動をしてしまったわけで。
ちなみに、後から死にたいと思うほど優夜は後悔した。決して彼は変態ではないことを、作者からも弁解しておく。
あまりの焦りから、「ドアの外から話す」という最善策を見失った彼は、愚かにも葵の部屋へと踏み込んだ。
ちょうど、ジーンズをはくところに、彼は遭遇した。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!」
瞬間、彼は葵のテレポートによって部屋の外の壁にめり込むハメとなったのだった。
*
「また被害者が出たん!?」
葵は、車の中でようやっとそれを聞いた。
「ああ。被害者は棗雪奈さん。やはり、他の被害者と同じ大学のサークルに所属していたようだ」
現在3人は皆本の運転する車で、5人目の被害者が発見された被害者の自宅へと向かっていた。
「やっぱりそのサークルで何かあったんやな」
「多分そうだろう。僕が後で問い合わせてみる」
*
3人が現場に着いたのは、約30分後のことだった。
「特務エスパー、ただ今到着しました!」
「お疲れ様です!」
警官達の敬礼で迎えられた3人は、早速部屋の中へと入った。
二階建ての一軒家である棗宅は、玄関から入り右に進むと、まるでキャンプ場のコテージのようにダイニングから二階が見えるように吹き抜けた空間となっていた。
そんな二階の手摺りから首を吊って死んでいる、1人の女性がいた。
彼女こそこの家の主、棗雪奈である。絵描きをしていたのだろう、二階の奥の部屋から、僅かに画板の様な物が見えた。
「ひっ!」
葵は遺体を見るなり、すぐに顔を覆い隠した。当然の反応である。
皆本は、出来るだけ葵の視界に遺体が入らないように寄り添い、優夜に透視をするように促した。
優夜はゆっくりと頷くと、降ろされ床に横たわる遺体にそっと触れ、透視を始める。
暫くして、優夜は手を離すと、皆本に振り返り、言った。
「駄目や。どれだけ深くまで潜っても、自殺する瞬間すら読み取れへん」
「やっぱり……………。すみません、遺書を見せて下さい」
皆本に言われ、1人の警官が遺書を持ってきた。
『家族のみんなへ
何だかもうダメです頑張ったけど、目指すものには届かず非才がこう、自分を苦しめるばかりではいつか、死を考える様になり何かのお、許しが出るのを待つように時を重ね、辛抱できずに首を吊ることにしましたこれが、天恵ですどうか私の死を悲しまないで下さい。
棗雪奈』
「自殺が天恵?狂ってる!」
皆本は声を荒上げた。
その横で、吐き気を懸命に押さえながら遺書を読んでいた葵は、何か違和感を感じていた。
「優夜君、こっちはどうだい?」
「…………………………!ほんの少しやけど残ってます。でも、何にも解らん………意識の存在は読み取れるんやけど」
「そうか………………しょうがない、僕らはこれから如月要さんに会いに行こう」
そう言って、3人が歩き出したときだった。
「おいこらぁぁぁぁぁぁっ!何すんだよ!離せっ!」
外から男の怒声が聞こえてきた。
警官に連れてこられたのは、やはり20代の男だった。
皆本が、警官に尋ねる。
「その男性は?」
「この男は綿貫剛といって、一度捜査線上に上がったヤツなんですが、アリバイがありまして捕まえられなかったんです。被害者と同じサークルにいて催眠能力者なんですが………………」
「それじゃあ、何故今ここに?」
「ええ、遺体の死亡推定時刻頃に、コイツがこの辺りにいたとの目撃証言がありまして、それで、連れてきたんですよ」
「よし、優夜君、早速見てくれないか?」
「はい」
優夜は、綿貫にそっと触れた。
「そんなに深くまで潜れへんでしたが、昨日、死亡推定時刻頃、この辺りにいたのは間違いないなぁ」
「よし、署まで来て貰おうか」
「冤罪やぁ!わいは何もしとらん!」
「犯人はみんなそう言うんだ」
そして、綿貫剛は警官に連れて行かれた。
「これでアイツの容疑が確定すれば、それにつれてアイツの残り3人をどう殺したか、アリバイトリックだってバレるな。さぁ、一件落着やな」
「ほんまにそうやろか……………?」
葵はぽつりと言った。
「何か引っかかんねん。あの遺書」
「そんなに気がかりならコピってもらえばええやん?それで皆本はん、このあとはどないすんの?」
優夜の問いに、皆本も顔を困らせながら答えた。
「僕も気になるところがある。取り敢えずさっき言ったとおり、一度如月要さんに会いに行こう」
そう言って、3人は再び車に乗り込むと、如月要に会うため、彼の家を目指した。
如月要の家は、中々広い日本家屋だった。訪問した3人を出迎えてくれたのは、彼の妹、如月若菜さんだった。
「兄なら自室にいると思います」
そう言って、3人を客間に通すと若菜さんは兄を呼びに行った。
その間、葵は例の遺書とにらめっこを繰り広げていた。
(何やろう。凄く引っかかる…………………)
待つこと5分ほど、如月要が現れた。
(わぁ、なかなかカッコええやん。こんな人が殺人なんてあり得へんなぁ)
葵はぱっとみてそう思った。
要が反対側に座ると、皆本が自己紹介をした。
「初めまして、超能力支援研究局、バベルより派遣されました、皆本光一です」
皆本は名刺を差し出す。
要はそれを受け取りながら言った。
「バベル………………となると、そちらのお二人は兄弟ではなく特務エスパーの方ですか?」
「ええ、そうです」
「そうですか、これは失礼しました。2人とも、皆本さんに似ているようでしたから」
確かに、と葵は思った。自分は眼鏡を取ったら皆本とそっくりだと言われることがある。優夜も、どこか皆本に似ている。まあ、どちらかというと薫や東野と似てる………………のは当たり前か。
「宜しければ、名前を聞いて良いですか?」
「ウチは野上葵」
「オレは、朝月優夜よろしゅうに」
「宜しく」
「そう言えば要さん、あなたはこちらの方言は使わないんですか?」
「ええ。私は元々東京に住んでいて、大学進学と同時にこっちに来たんです。両親はこっちの生まれなんですけどね。それで、御用件というのは?」
皆本は表情を引き締めると、本題に入った。
「要さんは御存知ですよね、最近この辺りで連続自殺事件が起きているのを」
要は悲しげに頷く。
「ええ。僕が容疑者の1人だと言うことも知っています。警察から、詳しい話は聞きました。それでも、僕はやっていません!あんなに仲の良かったサークル仲間を、ヒユプノで洗脳して自殺させるなんて………………」
「失礼ですが、要さん、あなたは超能力は………?」
「サイコメトラーです。超度は4」
「他には………………」
「持ってません!」
要は声を荒上げた。
「警察にある超能力調査の機会で何度も調査されましたが、サイコメトリー以外何もありません」
「そうですか……………………」
暫く沈黙が続く。
そして、皆本は意を決して言った。
「今朝、新たな被害者が出ました。名前は棗雪奈さん。自宅で首を吊っていました。遺書には、絵を描く才能が無く生きていくのがつらい、と」
バンッ!
要がいきなりテーブルを叩いた。
「嘘だ………………雪奈が……………」
「嘘やない。ほんまの話や」
「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
要の悲痛の叫びは、虚しくその場に響いた。
「婚約までしてたんです!僕と雪奈は!なのに、なのに何で…………………」
その頬には、大粒の涙が溢れていた。
*
「これからどないすんの?皆本はん」
3人は如月家の前にいた。結局その後、あまり有力な情報は得られなかった。
「取り敢えず車に乗って、警察署まで行こう。さっき捕まっていた綿貫って男にも話を聞かないと」
「せやな。最悪オレが強制的に透視すればええしな」
「せやったら、着くまでに情報を整理しよか」
今回の事件は、ヒユプノによる間接殺人。被害者は皆同じ大学サークルのメンバーで、現在容疑者は2人。
1人は、5人目の被害者、棗雪奈さんと婚約していた、サイコメトラーの如月要さん。彼は、現在割り出されている死亡推定時刻には間違いなく自宅にいた。これは、彼の家族全員が証明していた。また、彼の家は被害者が発見された場所の何処からも離れており、徒歩では最短でも30分はかかる。
2人目の綿貫剛は、やはり被害者や如月要と同じサークルのメンバーで、催眠能力者。最初の事件でアリバイがあったため容疑者から外されていたが、5人目の事件で目撃証言があり、逮捕。その後、少しずつ2、3人目の事件の時の目撃証言も寄せられているらしい。
「こんなところやろか」
「大体そんなもんやろ。まあ、十中八九その綿貫って男が犯人だろうけどな」
「けど、やっぱりあの遺書が引っかかんねん。それに、動機があらへん。何でこんな事件を起こしたかって言う、動機が………………」
葵は記憶をたどる。何かないか、自分は何か重要な見落としをしてはいないか。
そうこうしてる内に、車は警察署へと到着した。
「さて、ここからは僕だけが向かう。君達はテレポートで先に帰るんだ」
「何でやねん!またそうやって1人でカッコつけるんか?皆本はんは!」
葵の言葉に皆本は軽く笑い、直ぐに表情を引き締める。
「僕はカッコつけたりしないって。それに、優夜君の任務は如月要の調査。君はここまでだ。葵だって、本当は僕達が応援を要求しなきゃ関わらないはずだったんだ。兎に角、君達は先に帰るんだ」
葵はもちろん、優夜も首を振る。
「嫌や。ここまで関わらせといてそれはないで」
「せや。それならオレの任務を『事件の解決』に変えたらええやん」
「はぁ。しょうがない。解ったよ。ただし、必ず勝手な行動はしないように……………」
「そうと決まれば、ウチはその大学に行って関係者に話を訊いてくるわ。何か解るかもしれへん」
「ってこら!言ってるそばから何勝手な行動を……………」
「せや!危ないから勝手に行くんやない!」
2人は心配して言うが、葵は真に受けない。
「大丈夫やって。大学行って話訊いてくるだけやし、第一ウチを誰やと思ってんねん!絶対可憐な特務エスパー、『ザ・チルドレン』の1人、野上葵やで?」
そう言って、葵はテレポートで消えていった。
「ったく。まあ、何かあったら通信入れるだろうし」
「…………………そうですね」
そう言って、2人も警察署に入っていった。
*
その人物は、悲しげな表情で一枚の写真を手に持っていた。
その人物と、もう1人、青年が写っている。
今は亡きその青年の名を、静かにその人物は口にした。
「竜彦…………………」
*
皆本と優夜が警察署に入ると、1人の警官が慌ただしく駆け寄ってきた。
「どうしたんですか?一体何が…………」
「連続自殺事件の容疑者として逮捕された綿貫剛が脱走しました!」
その一言で、2人の表情は一変した。
「なっ……………!」
「皆本はん、葵が危ないかもしれへん!」
*
「え?以前この学校で自殺事件が?」
大学で聞き込みを始めてから10分、葵はやっと耳寄りな情報を見つけ出した。
「そうらしいんよ。何でも、演劇サークル内で陰湿なイジメが在ったらしくて、それが原因で自殺した人がいたらしいんや」
話しているのは女子大生である。まるで記憶をたどるように顔をしかめながら、女子大生は話を続ける。
「ウチも先輩から聞いたから詳しくは知らんけど、何でも『国見竜彦』って人が自殺したらしいんや。あ、この名前は間違いないと思うで。将来ハリウッドに通用するような脚本を書いていたらしくて、新聞でも取り上げられたはずや」
その名前なら、葵も確かにニュースで聞いた覚えがある。と言っても、確か報道されたのは去年だったはずだ。
「確か、その人と凄く仲が良くって、そのサークルで主役を張っていた人が居たって」
「その人の名前、解らへん?」
「うーん、ちょっと思い出せへんなぁ」
「さよか……………」
葵は女子大生に別れを告げ、学校を後にする。
「うーん………………やっぱりこの遺書が何か握ってると思ってるんやと思うけど」
暫く遺書のコピーを睨んでいると、ふと葵の脳内に閃光が走った。
(そうか…………………そういうことやったんか!)
すぐに皆本に連絡しなければ、そう思って携帯を取りだそうとしたときだった。
トントン。
突然、背後から肩を叩かれ、葵は振り返った。
そして、そこでプツリと葵の意識は途絶えた。
to be continued.............
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