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新たなる敵 第六幕

2002年5月14日  シカゴ オズワルド邸にて

コメリカでも有数の資産家のオズワルド家、所有する敷地も広大であり、豪邸のまわりの庭は草木が生い茂り、野鳥も飛んでくる。太陽の光に照らされて、一言でいえば長閑な風景といえばいいのだろうか、和やかな雰囲気を醸し出している。

このオズワルド家の主人、ケビン・オズワルドは多大な資産と権力を持っているにもかかわらず、堅実で他人から信頼される、人望のある人物で誠実という言葉がよく似合っているであろう。

そしてその妻、セリーヌ・オズワルド。第一印象はおしとやかで優しい笑顔を持っていた。誰もが癒されるような存在であった。

そして、その二人の前でハトに餌をあげて、太陽のような笑顔を浮かべてはしゃいでいる少女がいた。白い鳩が集まってくる。十羽ほど集まってきていきおいよく食べていた。食べ終わった頃合いを見計ると、その少女はいたる所に餌をまき散らした。鳩はそれにつられるように散っていく。

「スティルちゃん、餌撒きすぎよ。ほどほどにしなさいね。」

言葉とは裏腹にやんちゃな一人娘の様子に目を細めているセリーヌ。そして注意されてもいまだに餌をやり続けることに夢中になる娘はテンションが上がる一方だった。

「まぁ、今日はスティルの誕生日だからな。無理もないよ。」

父親のケビンはセリーヌ同様、無邪気に走り回る娘を、目を細めて見ていた。

「自分の娘に対していうのもなんだが・・まるで天使のようだ。容姿はやはり母親ゆずりだな。」

「おだてたって、何にもでてきませんよ、アナタ。」

両親がベタな会話をしている中、娘はまだ鳩と戯れていた。元気いっぱいに笑顔を浮かべながら・・・


              新たなる敵 第六幕

 コメリカ合衆国西海岸を抜けたあたりの上空に一機のジェット機が飛んでいた。ジェット機の飛ぶ音で普通は聞こえるはずもないが、中では大声をあげて怒り狂うものがいた。

「ちっくしょぉおぉおおお!!!ぜってぇ、今度あったらぶっ殺してやる!!ていうか今殺ラセロ〜!!!」

「落ちつけよ、ジャッカル。戦闘マニアのお前には不本意かもしれないが、奴との戦闘はできるだけ避けたい。」

怒り狂っていたのは言うまでもなく団員一の肉体とサイコキネシスの強さを誇るジャッカルであった。そしてその怒りをスモンが諫めていた。

「あぁ!?俺が負けるとでもいいたいのか?」

「そうじゃない、俺がいいたいのは。お前が奴と戦って勝ったとしてもその分余計な時間を費やしただけになる・・・いいか、今は私情よりも作戦実行を優先しろ。今回の仕事が終わったら、いの一番に兵部京介の居場所突き止めるのに協力してやるよ。」

スモンの説得にようやく理性を取り戻してきたのか、口調をいくぶんか和らげ、声の音量を下げていった。

「・・・あそこまでコケにされたのは初めてだったからな・・・頭に血が行き過ぎた。恩にきるぜ、スモン。約束だからな。」

「ああ、お前の悔しさはヒシヒシと伝わってくるからな。約束は守るさ。」

ジャッカルの怒りがひとまず抑えられたのを機に

「ふぅ、やっとおさまったか。ホント急に叫び始めるからビックリしたよ。」

そういいながら、茶髪で少し天然パーマがかかった一人の男が半分目が閉じた状態、眠たそうに別室からはいってきた。

「よう、目さましちゃったみてぇだな。」

「そりゃあ、起きるっての。あんなバカでかい声だされたら・・・他の団員も数人起きちゃったぜ。」

「すまねえな。とりあえずもう騒がないから安心しろよ。」

「つってももう目がさえちゃっているよ。明日から大仕事が始まるというのに・・・。」

「ねちねちうるせぇ奴だな。」

「さっきの反省はどこいった?・・・まぁ、いいや。グダグダいってても始まらねぇし、がんばって寝てみるわ。」

ジャッカルの図太さに呆れ顔をしてすくっと立ち上がって、その男は去ろうとする。とそこで思い出したように振り返ってスモンに

「あっ、そうそう。スモン、お前、例のプレコグの妨害ちゃんとやっているか?」

「あぁ、一応神経は削っているよ。今夜はおかげで眠れないけどね。だからジャッカルとモンハンでもしながら夜過ごそうかと・・・」

「えっ?」

ジャッカルはスモンの言葉に思わず声を漏らした。

「そうか、なら安心だ。明日は本当に大仕事になるからな。俺達。気を引き締めとけよ。それじゃあ、おやすみ〜。」

そういって男は元の部屋に戻って行った。

「えっ?何?俺、付き合わされるの?」

「俺が眠れないんだぞ。お前も眠らないのは当然だろ・・・。」

「いや、待て待て。お前が眠れないところがなんで俺の眠らせない理由になるんだ?」

ジャッカルの適格なツッコミを無視してスモンはPSPを二台取り出す。

「て、おい!人の話きけよ。」

「なんせ討伐するモンスターが多いからな〜。」

「思いっきり私情じゃん!なんだったの?さっきの説得は」

しかしながらジャッカルの声も空しく、狩りが始まった。兵部に勝手に戦闘を挑んだことや、先ほどの騒音のこともあって強く反論ができないのであった。結局、ジャッカルは眠ることはなかった。


一方、さっき愚痴っていった男がいる部屋では・・・

「おい、ボマー。まだアイツきれてたのか?」

「あぁ、おとなしく寝たと思ったら発作的に怒りがわきあがったらしい。まぁ、スモンが抑えてくれたけどよ。」

もとの部屋に戻ってくると一人の男が話かけてきた。他の奴は努めて眠りについたようだった。

「それはなによりで。ところでよ・・・一番前の席、見てみろよ。」

その男はイタズラな笑みを浮かべてボマーにいう。ボマーはいわれるままに遠隔透視した。すると、そこにはスヤスヤと眠る団長の寝顔があった。普段ではなかなか見れない光景ではある。団長の整った顔立ち、容姿が見える。

「確かにあまりみれないものだけど、それがどうしたんだ?」

ボマーの今の言葉に大袈裟にその男は落胆してみせる。

「はぁ〜。つれないねぇ、あの人間の世界を超越した美貌をみて何も思わないわけ?天使だよ、天使。みんな絶対狙ってるって。」

あくまで小声でテンションをあげる。しかしそのテンションに全くついていけないボマーは

「・・・いや、おまえだけだと思うぞ。確かに団長は美人だと思うし、そこらのモデルなんかより全然上だとも思う。けど・・」

「けどもクソもねぇよ。ていうかまどろっこしい表現抜きにすれば・・・なんていうんだ・・・ムラムラする・・・。」

その男の言葉にボマーは当然ひいた。しかしそんな様子にお構いなく続ける。

「あぁ、ちくしょう。俺の息子がもう我慢できないっていってるよ。」

「おい、そろそろいいかげんにしろ。下手すりゃ見えざる手がのびて削除されちまうぞ。」

あまりにも暴走しかかっているのでボマーは一応リアルなツッコミをいれた。そしてさらに

「てか、みんなもお前と同じように団長のこと美人だとは思っているよ。けれどお前みたいに欲望にまかせていってみろ。殺されるのは目に見えているぞ。」

「あの冷徹な目がいいんじゃん。ツンデレっていうかさ・・・。」

「いやデレはないからな。デレがあるのはお前の妄想の中だけだよ。てかヴィラインさ、レニーに似てきたな。」

「はぁ?失礼なこというな。あんなオタクと一緒にすんじゃねーよ。」

ヴィラントは多少口調を荒げていった。レニーの男としての評価はゼロに限りなく近いのであろうか。

「そうだな・・・じゃあ、何度もいうようだけど明日いろいろと大変みたいだから。そろそろ寝るわ。おやすみ。」

ボマーはそういうと目をつむり毛布にくるまり寝た。そしてヴィラインも寝ようとしたがふとあることに気がつく。

「やべ、絶対チルチルの時間だ。」

そう一人つぶやくと超能力を併用できる特殊な携帯をとりだし、電波をひろいつなげた。そしてイヤホンをつけて携帯の画面を一人にやつきながら食い入るようにみていた。

(・・末期だな・・・)

そうボマーが心の中でつぶやいたことをヴィラインが知る由もなかった。

そうして皆が寝静まった頃一番前の席に座っていた団長は一人静かに目を開いた。備え付けの鏡を開き見る。夢にでてきた昔の笑っていた自分を思い出しながら・・・。しかし笑うことの意味すら今は理解することはできなかった・・・。



そのころB・A・B・E・Lでは、職員の人間が忙しく動き回っていた。全ての部がフル活動状態、そして最高責任者の局長、桐壺帝三は目を血走らせて血管を首筋や頭の側面に浮かびあがらせながらシャウトしていた。

「あの子たちはどこに消えたんだぁああぁあ!!?なんとしてでも探しだして救助するんだ!!国の宝であるあの子たちの身にもしものことがあったら・・・・」

と、自分でいっておいて脳裏に不安が余計に増してきてしまったらしく

「ぬうおぉおおお!!こうなったらワシ自らコメリカに飛んで行ってみせる!!」

そう大声で宣言すると猛ダッシュでヘリのあるところ(バベル1)まで行こうとする。まわりは一斉に食い止めようとこのゴリ局長に飛びかかる。

「落ちついてください、局長!」

「うるさい!これが落ち着いてなどいられるかぁ!」

聞く耳を持たないこのゴリラに対して説得するのはあきらめて、隊員の一人が目で白衣をきた色黒の男に合図した。その色黒の男はそっと、暴れる局長に背後から近づき

            ブスッ

と音をたてて首筋に麻酔を注射した。

「うおっ!?」

局長は床に卒倒した。

「毎度すいません、賢木先生。」

「いえ、もう慣れましたんで・・・。檻の中にでも放り込んでおいてください。」

「はい、責任もって保管しておきます。」

局長という身分などもはや関係ないのか、気絶しているのをいいことに賢木と隊員は言いたい放題である。

「にしても局長がこの状態じゃな・・・蕾見管理官は?相変わらず睡眠中かい。」

賢木は期待薄げにきいた。

「いえ、ちゃんと起きておられますが・・別の用があるとかで・・・柏木一尉からチルドレンの消息が絶たれたと情報が入る前に外出されています。」

その隊員の応答に賢木は少し意外そうな様子だった。(蕾見管理官が?)

「・・・?どこに行ったかは知らされていないのか?」

「いえ、まったく・・・」

「・・・そうか、わかった。」

賢木はどこか引っかかる感じがしていたが長居はしていられなかった。予知部から緊急招集が掛けられていた。賢木だけではなく現在バベルに残っている高レベルエスパー全員に対して掛けられている。ダブルフェイスの二人、ザ・ハウンド、バレット、ティム・トイなどなど。

「とりあえずコメリカ側と連絡を取り続けてくれ。管理官が帰ってきたら手早く状況を伝えてくれ。」

「はい、わかりました!」

そう隊員が元気よく返事するときには賢木は走り去っていた。こんな状態でなければ賢木は気づいていたかもしれない。しかしその隊員に触ることもなかったので気づくはずはなかった。傍から見れば銀髪の学生服男と話していたということに・・・・。

「キョウスケ・・・普通ニ入リ込メタケド一体何ガシタインダ、オ前ハ?」

「さあね・・・ただ様子を見に来ただけかな?クイーン達のほうはあまり心配はないよ。どうしてもダメそうだったら助けにいくけどね。むしろ危ないのはコッチのほうさ。」

「デモ、バベルガ無クナッタホウガコッチトシテハ都合ガイインジャナイノ?」

「もちろん、そんなことは当たり前さ。ただ奴らのやり方ではバベル内にいるエスパーにも被害がでる。・・・・それに・・」

兵部は言葉に詰まった。何か思い出したくないつらいことを思い出しているように・・

「それに、奴らとはあの場では同盟成立ということにしたがそれは単に無駄な戦闘を避けるためだ。たぶん近いうちに戦わなくてはならなくなるだろう・・・。」

兵部はいつになく真剣な表情で何かを思いつめていた。さすがの図太いげっ歯類の桃太郎も察したのかそれ以上は触れようとしなかった。

「フーン、オ前ノ考エテルコトハ相変ワラズワカンネーヤ。トリアエズ、バベルトハ不本意ナガラモ協力スルッテコトダナ。」

「・・・あぁ・・・本当に不本意だけどね・・」

「トコロデアノ垂レ乳ノバーサンドコニ行ッタンダロウ?」

「本人に聞こえたら八つ裂きにされるぞ・・・まぁ、心あたりはある。ていうか今から行こうと思っていたんだけどね。」

兵部は思いつめたというよりも少し悲しげな顔をしている。彼にしては珍しい表情だ。桃太郎はそんな兵部を不思議そうに見つめていた。

(まさか、奴が生き返っていたなんて・・・)


   東京都某所 陸軍特務超能部隊 慰霊碑前

周りには何もない物静かな場所に広大なバベル所有地がある。そしてそれなりに立派な慰霊碑が多々ある。その入口のほんの少し入ったところに立っている木の前で、外見だけみると若い、銀髪の女性が線香をあげている。その慰霊碑は他のものとは少し離れた場所に造られた感じであった。

       水代 巴 1927 12 12 ~ 1945 5 29

と慰霊碑には書かれている。そしてその墓の前で例の女性、蕾見不二子は座って両手を合わせて目をつむっていた。すると、ふと後ろに気配を感じる。

「懺悔の時間かい?不二子さん・・・。」

聞きなれた憎たらしく生意気な声も聞こえてきた。しかし蕾見不二子は姿勢を変えず水代巴のお墓と向き合っている。

蕾見不二子の雰囲気がいつもと違うことは話しかける前からわかっていた。しかし、とりあえずいつものように兵部京介は憎たらしさをこめて話しかけたのだ。十秒たっても反応もなかったので兵部京介も不二子の隣に座り、手をあわせてお祈りをした。

ぽつぽつと霧雨が降っていたが二人は黙って手を合わせていた。兵部は毎年沖縄の海で死んでいった戦友たちにお祈りをしているが、ここにはできるだけ来ないようにしていた。理由はもちろん不二子がいたからであるが。数分たっただろうか、兵部から先に口を開いた。

「捕まえなくていいのかい?こんなすぐ隣にいることなんて滅多にないぜ。」

その言葉に対し不二子はゆっくり目を開いていった。そして数秒の間が空いたのち

「そうね・・・でも今だけは見逃してあげるわ・・・。」

いつもの張り合いがない・・・。

(やはり、罪の意識に囚われているのか・・・)

兵部はどう言葉をかけるか、話を切りだすか悩んでいた。そんなとき、不二子が続けるように言葉を発した。

「・・京介・・・あなたのこと殺人者とよんできたけど、結局私も同じね。私は彼女を・・・。」

彼女の声が震えてきているのがわかる。横を向くと目に涙を浮かべている。

「・・・あれは事故だったんだ。少なくとも彼女を殺したことにはならない。」

兵部にしては優しい言葉をかける。不二子はしばらくだまって涙を流した。霧雨も長々と降り注いでいた。


遡ること70年近く前、朦朧とした意識の中でひたすら超能力を使い続ける自分がいた。
欧米諸国とは違う日本特有の木造建築の家が次々と焼かれている。焼夷弾が次々と落とされるなか、米兵は地上に降りてきてまで徹底的に日本人を殺そうとしていた。

 そんな米兵を次々と倒していったのが不二子であった。そしてその仲間のなかに水代巴がいた。上からの爆撃はかなり抑えられてきた。なぜならその戦闘機がすごい勢いで破壊されているからだった。

「へっへーん!逃がさないぞぉー。」

そういいながら一気に二、三機をサイコキネシスで破壊した。当時から兵部はサイコキネシスにおいてはずば抜けていたようだ。そんなペースで兵部を中心とする空中戦に向けられた部隊は戦闘を行っていた。

そのおかげで幾分か地上戦は楽になったが、不覚にも不二子は銃弾を二、三発当たってしまったようだ。当たった箇所が腕や足などで内臓には損傷が至ってなかった。しかし、血をサイコキネシスで抑えながら戦うのは至難の業であった。意識が朦朧としながら戦っていたがそろそろ限界が近い。血が流れて目が霞んでくるのと、あたりの炎の煙で目をやられているのとが重なってほとんど視界が見えなくなっていた。

(まずいわ、このままじゃ・・・)

そんな弱音を心の中で吐きながらも視界に影となって映る米兵らしきものに対して次々と力を振り絞って攻撃していく。しかしそんな攻撃はいつまでも通じるはずもない。他の仲間のエスパーたちもギリギリの状態で戦っている。自分がピンチの状態に陥っても助けてくれる可能性は低い。不二子は死の覚悟を改めて強くし、前からくる米兵に向って右手にサイコキネシスの波動を作りながら突っ込んでいく。相手も銃を途中で失ったのか、アーミーナイフをもって襲い掛かってくる。十分に対応できる・・・普段なら。相手に強烈なサイコキネシスを浴びせようとする瞬間に傷口に激痛が走り、膝がガクンと曲がった。米兵はナイフを振り下ろす態勢に入っている。

(殺られる!!)

 心の中で覚悟を決めた瞬間だった。しかしナイフが来ない・・・。もう不二子はわけがわからず最後に残っていた力を振り絞り、渾身のサイコキネシスを前方にレーザーを描くように放った。その一、二秒後、ドサッ と倒れる音がした。やったかと思い目を開けるとなぜか人が立っていた。そしてその人も後を追うように倒れた。二人のうち自分からみて奥の方に倒れているのはまぎれもなく米兵であった。しかし、手前に倒れている人物をみて不二子は驚愕した。

「と、巴さん!!」

水代巴は腹部に穴をあけて倒れていた。不二子は即座に巴の手を握りしめて叫んだ。巴は不二子の手を弱々しく握りかえすが、数秒もたたないうちに力が抜けくずれ落ちた。不二子は思い切り泣き叫びたかった。しかし、肺が苦しく大きな声が出しづらいという肉体的な理由と周りから銃撃されかかっているという状況からできなかった。

(・・私も巴さんの後を追うわ)

そう思ったはいいが、それが叶うことはなかった。空中戦から降りてきた兵部が周りの敵を一気にやっつけたからだ。結局これ以上は全滅する恐れがあるということで横浜から一時撤退することになった。巴も一応テレポートすることにはなった。

帰って数時間後、懸命に手術を行ったがその努力のかい空しく巴は息をひきとった。


そして現在、その水代巴の墓の前に当時の戦争参加者が二人いる。不二子は長い回想を頭の中で終えると、重い口を開いた。

「巴さん、あの時にはもうサイコキネシスを使う余力も残っていなかったのね。そんな状態で私のことをかばって・・・。」

一度止まったはずの涙がまたこぼれ始めた。

「やっぱり歳ね・・・涙腺が弱くなっているみたいね・・・。」

そんな中、雨も霧雨からやや強い雨に変わってきた。兵部は不二子に対して同情を抱きながらも現在の状況を話すかどうかを悩んでいた。桃太郎の言うとおりバベルが崩壊してくれるのならばありがたいことこの上ない。しかし、昔、自分たちが守りきれなかったもののせいでこれから悲劇が行われようとしているのだ。そんな葛藤のなか雨は次第に強さをましていった。




ところで、例のレニーによって作り出されたゲームの世界では・・・・。

胸のことばかりいわれて葵が教室をでていったところで終わっていた。しかし葵は瞬間移動能力者、なかなか見つかるわけもない。皆本、薫、紫穂は三人わかれて探していたが、結局行方はわからない。かれこれ二十分探したのちに、薫と紫穂は廊下でばったり出くわした。互いに見つけたかどうか訊くが、両方ともかぶりを振る。そして二人で改めて探し始めていた。

「なんかさー、hiroって奴あたし達の扱いひどくね?もうかれこれ何ページぶんでてないんだよ。」

薫はまたわけのわからないことをいっていた。

「薫ちゃん、小説を冒涜するのもほどほどにね。それにしても葵ちゃんどこいったのかしら?」

紫穂は軽く受け流したあとすぐに本題に戻った。そして当の本人はというとベタというべきか何というべきか屋上にいた。
更新一か月ぐらいたってしまいました。改めて思いましたが頭の中にすでに思い浮かんでいるものでも文章に直すのってかなり大変なものですね。
感想、意見等を述べてくださるととてもうれしいです。
一か月以内にはまた更新したいと思います。

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