その日、わが愛するお兄ちゃんは、少し様子が違った。
朝から珍しくじっと何か考えていた。
いつも楽しい朝ごはんも、いつもどおり「うまいうまい」って言ってくれたけど、
何処か心ここにあらずって感じ
今日は平日だから、学校に居る時間は、様子が分らないけど、夕方事務所で会った時には、
なにか妙な気合が感じられた。
事務所は、いつもと違い静かだった。
事務所の所長にして、お兄ちゃんと私の雇い主にして、師匠である、「素敵な年増」ゴーストスイーパー美神令子さんは、精霊石の買い付けに海外まで出かけている。
獣2匹は、ICPOのおっさんに頼まれて手伝いに借り出されてらしい。
したがって事務所に居るのは、わが親友にして、姉弟子、兄にとっては、かわいい後輩
最近、令子おば様の影響か、妙に色っぽくなった気がするおキヌちゃんだけである。
近頃は、令子おば様が居なくても、お兄ちゃんをリーダーにして徐霊に出かけることもあるけど、
今日は、3人だけということもあり、事務所で装備の点検と依頼の確認をするだけである。
インターネットの予約サイトには、2件ほど依頼が来ていたけど、期限は2週間以内。
どちらもたいした金額でもないらしく、依頼内容からすれば簡単な仕事なので、お兄ちゃんは、美神おば様に確認して、私とおキヌちゃんに任せてみようかといってた。多分、所長が居たら即断るような仕事らしい。
装備の点検もすぐに終わって、お兄ちゃんが昨日、一人でやった徐霊の報告書を作成している間、私とおキヌちゃんで、夕飯を用意した。
いつも、私が作った時とおキヌちゃんの時とで「うまい」のイントネーションが微妙に異なるのだけど、今日の「うまい」には、やはりいつもとは違う気合が感じられた。
食事が終わって、二人で洗物をしていると、お兄ちゃんは「明日の徐霊の準備をする」と言って、ガレージに下りていった。
洗物が終わって、おキヌちゃんが「先にお風呂はいるね」といって出て行った。
今日は、おキヌちゃん一人だと物騒なので、私が一緒に泊まることになっている。
無論、お兄ちゃんは、所長の折檻を避けるため、一人アパートに変えることになってるんだけど。
しかし、煩悩再結晶、自称覗のプロにして、我が愛すべき兄が居るうちにお風呂に入るとは、
花も恥らう女子高生として、我が頼るべき親友は、無防備すぎではないだろうか?
もしや誘っているのでは・・・。まあ実際問題、兄がおキヌちゃんを覗こうとしたことは無く、
そこで安心しているのかもしれないが・・・・。
居間でソファーにすわり、あまり興味をそそらないテレビドラマを眺めていると、目の前に私の大好物『絶対あまあまはちみつ饅頭』がおいてあった。いつもなら、いきなり引っつかんで、丸ごと口に放り込んでしまうところだけど、ここで妙に霊感に引っかかるものがあった。
まず饅頭の一部を極小さくちぎって(大丈夫な場合もったいないので)いつも持ち歩いている
「蛍特製呪いと毒素の検出溶液セット」に入れてみる。
とりあえず、何もない
続いて、霊波探知機で探ってみたが、こちらでも何も無い。
普通ならここで安心して一気に飲み込むところだけど、ここで今日の兄の態度が思い当たった。
「アレは、悪巧みしている時のお兄ちゃんの顔だ!!」
相手があのお兄ちゃんだとするなら、この程度の検査では、不十分である
私は、自らの霊力を全開にして、調べることにした。
私は、もともと魔属「ルシオラ」だった存在。
お兄ちゃんやカオスおじいちゃんがいろいろがんばった挙句、妹「横島蛍」として
人間となって今に至るけど、魔属だった頃の能力も人間の霊能者レベルに減退したものの残っている。
「秘儀、サイキックスキャン!」
私は、光を霊力で操り、まんじゅうの中身を透視した。
すると、饅頭の中心になりやら球状のものが存在している。
「霊波スペクトル解析」
私の光学系霊波を饅頭を透過させて、球状のものに当てて、解析してみる。
すると、明らかにこれは、霊力の凝縮物であることが分った。
「霊波探知機では何も出なかったのに・・・・」
普通これだけの霊力がこめられていたら一発で探知機に引っかかるはず。
そう、ある一つの可能性を残せば・・・・・
私は、涙を浮かべながら、饅頭を2つに割った。
「よりによってこの饅頭を私に割らせるなんて・・・」
ふつふつと怒りが湧いてくる
そして中からでてきたのは、「眠」と言う文字が入った珠が一つ
・・・・怒・・・・・・!
文殊
これを作ることが出来るのは、世界で一人しかいない。
この大きさのものを、気付かずに人のみするのは、確かにあの饅頭を前にした私以外にいない。
このことを十分理解した、見事な作戦と言えよう。
そして、今この状況で犯人の狙いは1つしかない。
私は無言でバスルームに向かった。
「ねー、おキヌちゃん、一緒に入ってもいい?」
「えっ! 蛍ちゃん!!・・・・」
「ダメ?」必殺!ちょっとすねた声!!
これが兄だけでなくおキヌちゃんにも効くことは最近発見した
「ううん!いいわ、背中流しあっこしよ!」
作戦第1段階終了
「おキヌちゃんって肌きれいだよね。胸も結構あるし」
「蛍ちゃんだってきれいですよ。私が男だったら絶対ほっとかないのにな」
「えへへ、じゃあ、こうだ!」いきなり後ろから抱きつく
「あっ!やん! えい!」今度はおキヌちゃんがお湯をかけてきた。
しばし、女の子同士の裸のじゃれあいに勤しむ
ピピピピピッピ
先ほどひそかに仕掛けた、霊波検出装置から警告音が出た。
私はじゃれあいをやめ、さっと浴室の窓に向かう
ガラッ
開けたそこには、予想通り見間違える我が愛すべき熱血スケベおにいちゃんがいた。
「ほッ蛍! なぜここに!!」
ちなみに私とおキヌちゃんの麗しき裸体は、幻術で見えないようにしてある
「お兄ちゃんの悪巧みなんてお見通しよ!!」
さっとあげた私の右手に光が宿る
「サイキックヴェノム!!」
「ごかんべーん!!!」
私の必殺技、霊気麻酔がヒットしてしびれたまま、兄は地上5階から落ちていった。
後ろを振り向くとおキヌちゃんがちょっとうれしいような、安心したような、且つやや残念そうな顔で赤くなっていた。
「ひょっとして同意のうえだった?」
私の疑問に彼女は赤い顔を思いっきり左右に振るばかりだった。
「まだまだ、いくらおキヌちゃんでもお兄ちゃんは、あげらんないし、お兄ちゃんにおキヌちゃんもあげらんない」まあ、令子おば様よりはましだけど・・・・
疑惑はいずれ解明しよう
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