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新たなる敵 第四幕

第四幕  仮想世界

「あともう一回テレポートすれば警察署や。」

二回テレポートしてニューヨーク警察まであと一キロないところまできた。三回テレポートでつくのに要する時間はだいたい五秒あるかないかぐらいである。普通はドラマかなんかではカットされるシーンである。しかしそんなところで

       ドーン!!

「なんだ!?」

皆本は視線を爆発音がした方向に向けると近くにあったゲームセンターの屋根の部分が激しく燃えていた。その火花が皆本たちに散ってくる。それと同時にゲームセンターの中にいた人々が次々とでてきた。
              パーン!
消防車の来るサイレン音や炎が燃え盛る音、人々が逃げて叫んでいる声、それらの音の中で銃声らしき音が混じった。

「今なんか・・・変な音が・・・」

薫は聞こえたようだ。

「私の好きな お・と  」

紫穂はもっとよく聞こえたようだ。

「銃声だ!建物の中からだ。」

皆本はゲームセンターの中を注意深く見ようとするが煙がひどくてなかなかみえない。中も炎上しているのだろう。そんな時、人影が見えてきた。それと同時に背後に大きな影があった。明らかに人の身長ではないだろう。手前にいた人影が姿をあらわしてきた。三十代かもしくは二十代後半ぐらいの男が銃を片手にでてきた。そしてその背後には全体的に球体の形をしたいかにもロボット、いやロボットがあった。大きさはだいたい三メートル弱はある。それに追われるかのようにその男は皆本たちのところに向かってきた。


「ダ、ダメだ・・・あいつ、強すぎル・・ど、ド・・ノくらイつヨイカッテイウト〜・・」

男は助けを請う目から何か薬で狂ったような目に変わってきた。その異変にいち早く気づいた皆本はすぐさま薫に指示をだす。

「薫!バリアだ!」

薫もさっきまでのことがあったからかそれを予想してすぐにバリアをつくった。


「コ・ノ・く・ら・イッイッイッイ〜〜〜〜〜!!!」

狂ったように先ほどの強盗事件と同じく片手にもっていた銃で乱射してきた。

「くそっ、こいつもか・・・」

薫はもどかしそうにバリアをはっている。いつもなら敵を攻撃するのだがむやみやたらに攻撃できないのには慣れていないのである。さらには後ろにいたロボットも何かレーザー砲を発射するような素振りを見せている。

「マ、マズイ、防ぎきれるか?薫。」

「わからない、でも・・・ここで私たちがよけたら・・」

薫たちの後ろにはたくさんの一般人がいる。よけるという選択しはない。しかしレベル7の力をもってすればこんなレーザー砲など無力に等しいだろう。それなのに薫には何か嫌な予感がしてならないのだ。がしかしレーザーがくるか否かというときそのロボットの機体は横の方に吹き飛ばされた。銃を乱射していた男も同様にふきとんだ。
ふと左上を見上げると長い黒髪のサイコキノが浮かんでいた。

「助けに来たわよ〜。」

その少女は梅枝ナオミであった。その姿をみたチルドレンは自然と安堵の表情が浮かぶ。

「ナオミちゃん!!!」

もちろん金魚のフンのごとくこの男もついてくる。

「消防隊、何ぐずぐず水をかけているんだ。早く消化せんか〜!!いずれ私と結ばれるナオミの体に火傷を負わせたら承知せ・・・・」

バキャ、ベキ、ズン、ドン

この効果音とともに谷崎主任は地面にたたきつけられた。

「一生頭の中でやってろ!!この変態おやじ〜!!」

先ほどのロボットに対する攻撃より若干強い。その中年を地面に沈めると鬼のような形相から普段のやさしい笑顔にもどりチルドレンのほうに顔をむける。

「大丈夫?怪我ない?」

口調も穏やかにチルドレンに声をかける。

「助かったよ、ナオミちゃん!本当にきてくれてよかった。」

「ほんまにありがとな。命びろいしたわ〜。」

「さすが、ナオミちゃんね♪・・・でも、もうおしゃべりしてる余裕はなさそうよ。」

十メートル後方で立ち上がりながらレーザーの発射するそぶりをみせる例のロボットをしり目に、紫穂は他の四人に戦闘態勢にはいるように促す。

「薫とナオミちゃんの二つの力を合わせれば一撃であのロボットを破壊できるはずだ。頼むぞ。」

皆本は薫とナオミに攻撃の指示をだす。

「了解!いくよ、ナオミちゃん。」

「OK!」
二人がサイコキネシスを出し始めると同時にロボットもレーザーをだす。二つのエネルギーがちょうど中間で激突するかというところだった。そのレーザーはそのままサイコキネシスの力を無視してすり抜けるように薫たちのほうに向かってくる。

「な、なに!?」

「なんやのこれ?」
紫穂
「これ攻撃用のレーザーじゃないわ、精神波を含んだ光よ。」
皆本
「い、いったい何が?」

光は四つに分断し、わかれてチルドレンのメンバーをそれぞれ包んだ。そして四人の姿が薄くなっていく。

「み、みんな〜。」

ナオミの声もむなしく、徐々に消えていき数秒で皆本を含む四人は完全に姿を消した。

「い、一体なにが起こったんだ!?」

地面に沈められていた谷崎主任はようやく目を覚まし今起きた現象を目の当たりにしていたようだ。
一方ロボットのほうは薫とナオミの放ったサイコキネシスをくらってバラバラに破壊されていた。
谷崎
「敵を始末できたのはよかったのだが・・・」

ナオミと谷崎は呆然とたちつくすしかなかった。まわりの野次馬もこの今おきた現象に対してあっけにとられているようであった。




「・・・しさん・・・かしさん!・・・明石さん!!」

「う、う〜ん。」

目をあけると見覚えのある風景が視界にはいる。どうやら自分はベッドの上にいるらしい。白い枕に白いシーツ、白いカーテン、白い天井。少し消毒液のにおいが漂うこの空間。そして窓が開いているのか、カーテンがひらひらと風を受け、それと共に何やらガヤガヤと声聞こえてくる。そして

「あっ、気がついたみたいね。」

聞き覚えのある声、そして目がぱっちりと開くと

「ち、ちさとちゃん!?」

なんで、ちさとちゃんがといった表情をする薫。状況をよく呑み込めていない。

「え?だって、さっきまで・・・・?・・さっき・・・あれ?・・どうしてたっけ?」

「もう明石さんたら〜、男子に混じってサッカーするなんて・・もう中学生なんだから身体的な差ぐらい考えなきゃ。」

「えっ?あ、あたし・・・」

頭の整理がまったくできない。それどころかついさっきまでの記憶がなかなか掘り起こせない。

「ボールが後頭部に直撃したの・・覚えてないの?」

花井ちさとは薫の様子がどこかおかしいのでボールをくらったことで記憶が飛んでしまっているんじゃないかと心配した。
一方、薫はなんとか頭の記憶を蘇らせようとする。するとサッカーをしてた記憶がなぜだかでてきた。何度かシュートを決めて活躍して女子から黄色い声援を受けている光景が頭の中を駆け巡る。そしてどこの男子だかわからないがボールを強く蹴りそれが場外にでようとした。そのボールの進行方向にはか弱そうな雲居悠里がいた。そしてポジション的に一番近くにいた薫が体をはって守ったといったところだった。

「そういえば、そうだった・・悠里ちゃんは怪我してない?」

薫が心配そうに訊くと、タイミングを計ってか計っていないのかは知らないが雲居悠里が保健室のドアをあける。

「悠里ちゃん!!大丈夫、怪我ない!?」

そんなことをいう薫に対し

「人のこと心配してる場合じゃないわよ、明石さん。」

と、花井ちさとが呆れた顔をしていう。

雲居悠里は明石のベッドにゆっくり近づき、五十センチぐらい手前まできた。そして最初は何か暗い顔をしていただけであったが徐々に目が潤みだし、しまいには涙がぽろぽろこぼれ落とし泣き始めた。

「ごめんなさい・・明石さん・・私のせいで・・」

泣きじゃくりながら鼻声で薫に謝り始めた。そんな悠里の様子に薫は困惑する。それと同時にその泣く姿に対し少し萌えているのか、変な感情が芽生え始めている。そんな気持ちを抑えながら

「悠里ちゃんのせいじゃないよ〜。あたしが勝手にやっただけのことだから・・・でも、怪我なさそうで良かった。守った甲斐があったってもんよ。」

この薫の何気ない優しさに悠里はもうなんともいえなくなり、薫に抱きついた。

「えっ、ちょっ!!」

薫は顔を真赤にしながら両手をあたふたさせている。悠里は薫の胸に顔をうずくめて泣きじゃくっている。最近の薫はオヤジと少女が激突していたが、もはやこうなると話は別である。あたふたさせていた両手をがっしりと悠里の背中と首にまわしギュッと抱きよせる。

「もう、あたしダメ・・久しぶりにオヤジスイッチいれちゃいます!」

「・・・えっ?」

泣きじゃくっていた悠里であったが薫の様子の変化に気づいた。しかし時すでに遅し。薫はもう止まらない。

「ちょ、ちょっと、明石さん。」

花井ちさとは止めようとするが半ばもうあきらめていた。悠里は逆に抱きしめられビクビクしている。その反応が薫の感情をさらに促進させる。

「あ、ヤン!」

「ほらほら、ここ触っただけでそんな反応しちゃいけないよ〜。」

「ア、 アン  」

もう、やりたい放題であった。そんな様子を保健室のドアの隙間からただならぬ雰囲気で凝視するものが約五人。東野も含まれていたが、それ以外は完全にその光景に鼻の下をのばしていた。
一同
「も、萌え〜!!!」

こちらも手がつけられない状態であったが、その状態は簡単に崩された。

「はよ、いかんか。」

後ろから蹴飛ばされた男子一同は全員保健室の中に倒れこんできた。

「お、お前ら!」

薫は咄嗟に悠里から離れる。悠里は抱きつかれた余韻にすこし浸っている、というかやつれている。

「まったく男のくせに何グズグズしとんねん。」

「ま、気持ちはわかってあげましょうよ。」

そしてもう毎日顔をあわす、幼少時代からの親友の姿がその後ろにあった。

「葵!紫穂!」

薫はこの二人をみて何か大事なことを忘れているような気がしてきた。しかし、それが何だかわからない。考えてもわからないことを考えるのは性にあわないのかすぐやめてしまった。
「こいつらな、薫に謝りに来たっていうのにいつまでも入ろうとせえへんからな。無理やり押し込んでやったわ。」

「でも、無理もないわ・・あんなの見せつけられちゃね♪」

薫と悠里の抱きついている光景は中一の男子にとってはお宝映像そのものである。携帯にその様子を東野以外の男子はもちろん録画しておいたのは言うまでもない。そして、萌え状態に陥っていない東野は明石にきちんと謝る。というのもボールを蹴ったのは東野であったからだ。

「マジでゴメンな、明石。パスのつもりで蹴ったつもりが変な方向に強くいっちゃって・・・」

東野は本当に申し訳なさそうな顔をする。

「いや、本当にいいって。事故だったんだししょうがないよ。それよりお腹すいちゃった。次、給食でしょ。」

そういうと薫は何事もなかったかのようにベッドから降りた。東野は救われたといわんばかりの表情をしていた。また、そんな薫の様子を見ていた男子たちはさらに好感度が増していた。先ほどの抱擁シーンがよほど響いているおかげでちょっとしたことで薫に対して異性としての感情がでてきてしまう男子なのであった。


そしてなんやかんやでこの一件は終わり、給食の時間になった。薫、葵、紫穂の三人はいつものように給食を食べていた。しかし・・・
(やっぱなんかぱっとしないんだよな〜。何か忘れてるっていうかさ)

(何か頭の中でひっかかっとるんやけど・・・)

(・・・あともう少しで何かわかりそうな気がするんだけど・・・)

三人とも何かを思い出そうとしている。サイコメトラーレベル7 の紫穂ですら思い出せないのだから無理に近いだろうが・・・。
そんな三人の様子を不思議そうに、ちさとは見つめていた。
「どうしたんだろ?」

「何がどうしたって?」

近くの席で男子グループと食べている東野が訊いてきた。

「う〜ん、なんかね。明石さんたち元気ないような気がして。」

「そうか?まぁ、確かに会話は弾んでなさそうだけど・・・そういう時もあるだろ。それよりさ、この後転校生がくるらしいぞ。朝のホームルームには間に合わなかったみたいで午後からくるらしい。でもこのまだ始まったばっかのころに転校生っていうのもめずらしいよな?」

東野はそういうのを最後に男子グループの会話のほうに戻った。また花井ちさととの仲を茶化されるのがいやだったのだろう。
そして、例のどことなく盛り上がっていない三人は。

「なんていうかウチら、元気の素を失くしているような気がしない?」

「それ思った。なんか調子でえへんのそれかもしれん。」

「そうなのよね。何か心を揺さぶられるっていうか何か心地よくなるものだった気がするわ。」

三人がそれぞれ口にするのはある一人の人物がからんでいる。というより核心である。正しい記憶がもどらないのもあるが、ある男の存在がないことで気分がのってこないのである。

そして、給食が終わり、次は数学の授業である。薫の最も苦手な科目の一つである。

「はぁ〜あ。次、数学か〜。憂鬱だなぁ〜。」

「何言ってるのよ。いつも質のいい睡眠時間にしているじゃない。」

薫の言葉に紫穂のつっこみがはいる。そんな中その数学の教師と一人の少年が教室に向かって廊下を歩いていた。そしてその教室のドアが開いた。まず、先生がいつものように入ってくる。

「え〜、突然ですが今から転校生を紹介します。どうぞ、入ってきて。」

先生がそういうとその少年は入ってきた。髪は男子にしては長いほうでメガネをかけている。顔立ちは良い。穏やかな外見の中に少し凛々しい感じが含まれている。その姿をみた三人は徐々に目を見開いていく。そしてその少年が教壇のある真中の位置につくと自分の名前を黒板に書き始めた。

「今日からこの学校に来ることになった皆本光一です。みんな仲良くしてください。」

薫、葵、紫穂の三人は唖然とするばかりであった。


そのころ、例の倉庫では

「ふふふ、楽しんでいるみたいだな。いっそのことその世界で永遠に過ごさせてやるよ。」

パソコンの画面には六条中の教室風景がモニターされていた。そこにはもちろんチルドレンと皆本もいる。レニーはその様子を怪しげな笑みを浮かべながら見ている。

「レベル7あったってまともに使いこなせていないなら敵じゃないな。ただのガキか。なんでわざわざ団長は・・・」

とそこまでいうと、視線をグリシャム大佐にむける。

「アンタのいってたチルドレンってやつもぶっちゃけ大したことないな。」

「・・・・」

グリシャム大佐は何もいうことができなかった。そして何より何もできない今の自分の状態に腹をたててさえいた。


ニューヨーク市警察内  

「その話はホントですカ?梅枝ナオミ。」

ケン・マグアイアはナオミと谷崎主任からあらかた事情を聞いていた。そして最後にその確認のためにそういった。

「はい、間違いありません。光線を浴びて四人は姿を消しました。」

ナオミは平静を装ってそういう。内心チルドレンのことが心配で仕方がないのである。そんな様子をメアリーは悟ったのか

「大丈夫で〜す、ナオミ。わたしたちがツイテマ〜ス。心配ムヨウネ。」

メアリーは精一杯の気持ちでナオミを励ます。ナオミは何もいうことができずメアリーに抱きついた。

「本当に大丈夫デス。わたしたちも力をツクシマス。だから泣かないデ。」

「とりあえずそのような能力を使う者がいるかコンピューターに登録されている能力者から探し出しています。きっと見つかると思うヨ。」

ケンもそう励ましの言葉をかけると、その会議室をでていった。
そして会議室からしばらく廊下を歩いたあと・・・

「ふぅ、やっぱりあの子たちには荷が重すぎたか。」

一人そうつぶやくと、ケンは突然姿を消した。



プレーリー平原上空

一基の小型ジェット機が飛んでいた。その中には例のあの倉庫にいた連中が集まり何やら話していた。
「ボス、なんでテレポートしていかないんです?」

ジャッカルと呼ばれていた男がいった。その質問に団長は答えず別の男が答えた。

「そんなの決まっているだろ、ジャッカル。日本につくまでどれだけ距離があると思っているんだ。体力を無駄に消耗してもしょうがないだろ。」

「そんなことぐらいわかってるよ。でも、ボスなら平気でできそうな気がしたからな。」

そんな会話をしている中、急に機体が爆発音とともに傾いた。そして数秒あくまでもなく完全に爆発した。しかしその中にいた奴らは外に脱出して浮いていた。

「あいつか。」

ジャッカルを含め、他の連中も一人の人間に焦点を合わせている。サングラスをかけた金髪の男。

「たしか、ケン・マグアイアとかいったな・・・なんの真似だ。」

先ほどジャッカルの質問に答えた男がいう。

「ちょっと、お聞きしたいことがあるので署に御同行願いにキマシタ。」

ケンは悠々といった。

「はぁ?ふざけてるのか、てめぇは。」

ジャッカルはキレぎみにいう。そんな時、まったく声をだしていなかった団長が発する。

「・・・兵部京介か・・・」

その言葉に他の団員も反応し改めてケン・マグアイアのほうをみる。

「君にはヒュプノは効かないみたいだね。」

そういうと、スーツ姿の金髪の外人から学生服姿の銀髪の日本人へと姿を変えた。

「本当のこというとちょっと君らの邪魔しにきたんだ。」

いつもどおり余裕綽綽であった。

(ホントニソノマンマダナ)

兵部の言葉にげっ歯類がヒマワリの種をむさぼりながらつっこみをいれる。

「ふん、やれるものならやってみろ。」

相手側は戦闘態勢に入っていた。
徐々に話が書きすすめられています。なんやかんやで。話がパターン化して長くなりそうだったので少しほのぼのした話を入れときました。てか今後はほのぼのした話が多くできそうです。仮想世界にいってくれたので(笑)
ちなみにここでレニーだけ能力を紹介しときます。
ヒュプノ 7  サイコメトリー 6 テレポート 5
合成能力名 プログラマー
パソコンで設定したプログラムをサイコメトリーを駆使して針か何かに移しとり、それを人にさせばそのプログラムどおり動くというもの。能力の中にテレポートも含まれているので、ヒュプノと併用すればまったく違う亜空間の世界に精神とともに閉じ込めることもできる。

とまぁ、こじつけですけど大目にみてください。

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