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新たなる敵 第三幕(part 2)

3-2 忍び寄る影(2)

パララララ。この軽快な音と同時に弾丸は皆本達をめがけて飛んでくる。咄嗟に薫はバリアをつくる。薄いバリアだったがマシンガンの弾はことごとく弾かれる。

「急に何なんだ!?」

「ウチらだけ狙ってるみたいやけどこのままじゃいつ民間人のほうに流れ弾があたるかわからへん、とりあえず没収や!」

葵はそういうと男のマシンガンをテレポートでとりあげた。マシンガン以外武器をもっていないのか男は微動だにしないで固まっている。薫はその様子をとって見てその男に攻撃を仕掛けようとする。しかし取り上げたマシンガンに触れていた紫穂はすぐに止めに入る。
紫穂
「薫ちゃん、ダメよ。あの人手榴弾を隠しもってるわ・・自爆する気よ。」

「な、何!?」
犯人のふところから何かピンが外れて落ちてくるものが見える。紫穂がマシンガンから男の記憶を読み取ったとおり手榴弾であった。

「アカン、それもテレポートや!」

瞬時にその手榴弾を三十メートル上空に移動させた。ほぼ同時にそれはけたたましい音をたてて爆発した。

「ふぅ〜、危機一髪やで。」

被害をださずに爆発させて安堵の溜息がふとでる。気付くとその男は警察にとりおさえられていた。手榴弾はすべて警察官の手にわたりひとまず事態は落ち着いたとみえる。あとは人質救出と残りの犯人確保だけだ。しかし皆本は未だ腑に落ちない表情をしていた。

「なんで単独でいちいちマシンガンを乱射なんかしたんだろう?威嚇するためとはいえ捕まったら犯人グループにとって一人仲間が減り事を運ぶのが遅くなるだけだ。一体、何の得があるというんだ?」

一人悩んでいると急に紫穂が皆本の袖をひっぱりだした。

「どうしたんだ?紫穂・・」

「さっきから、手榴弾を犯人から奪った警官の様子がなんか変よ。」

紫穂のいった警官をみてみると顔を上にうつむけながら空の一点を見つめて何かつぶやいている。英語で早口で声も小さいので皆本でさえも聞き取れない。
ピンッ
聞きなれた音があの警官から聞こえた。そしてその警官を中心に手榴弾がばらまかれた。

「な、何!?」

皆本たちは突然の警官の信じられない行動に目を白黒させる。

「あかん、こんなにいっきに手榴弾テレポートさせることできひん。」

とっさに葵はそうつぶやきながらも数個は上空にテレポートさせた。しかし二つほど放たれたものは残っていた。一つは銀行の正面の位置の空中に浮かんでおり、もう一つは向かい側のビルに放たれていた。上空に移動したものが爆発したとほぼ同時にそして止める間もなく爆発した。銀行やビルの破片のコンクリートが炎が舞うと同時に周囲に飛び散る。皆本たちのところだけでなくまわりにも破片が落ちかけている。

「サイキックゥー、水平バリア!」

薫は咄嗟に地面から二メートルの高さにバリアをつくった。そのおかげで軽傷を負うものさえでなかったようだ。

「よくやった、薫。」

皆本はそういうと同時に気の狂った警官のほうを向く。まわりの警官が抑えているが殺気のこもった目線がこちらに向けられている。その警官だけでなくさっきのマシンガン男もそんな目でこっちをみている。

「紫穂・・これはまさか・・・」

「えぇ、誰かにあやつられているわ。」

紫穂は男のマシンガンから情報の読み取りを進めていた。

「脳内でノルアドレナリンが異常に大量にでてるわ。そして私たちの記憶を強く植え付けているみたい。あやつっているというよりは異常をきたらされているというほうが正しいわね。誰があやつっているかまではよめなかったけど、彼らを迂闊に攻撃できないことだけは確かね。」

紫穂がそういうと皆本は一つの可能性に冷や汗を流した。

「まてよ・・・ということは他の強盗グループの連中も・・いや、それだけじゃない。強盗だけじゃなく警察や民間人も・・・」

慌てて皆本は周囲を見渡した。しかし今のところ警察官も民間人にもあやしい行動をとっているものはいなかった。

一分間ぐらいの静寂の後、銀行の表口から人質と思われる人々が次々とでてきた。子供を連れた親なども見られることから人質だとは思うが妙なことがある。

「・・・なぜ、拳銃を?」

皆本はまた発砲してくるのではないかと身構えた。人質がやはりあやつられている。しかしよく見てみると警官や群衆も、そしてさらには銀行から人質についででてきた犯人グループまでもがチルドレンに向けて銃を構え始めた。

「あいつらの持っている武器を破壊するんだ。くれぐれも直接攻撃はするな、あの人たちには何の罪もない。」

「わかってるって。サイキック〜、真空かまいたち!」

皆本の命令に軽くあいづちをうった薫は即座に市民、警官、強盗犯のもっている拳銃を破壊していった。

葵はテレポートで拳銃をこっちにかき集めている。

紫穂は自前のデリンジャーで拳銃やナイフを撃ち落としていく。

その対応が行き届かないものから次々と連射してくるがそれも薫のシールドで見事にはじかれる。

そして数分後

「もう、武器は全部破壊し終えたみたいだわ。犯人たちと警官、民間人の銃、手榴弾はもうないわ。」

犯人たちの記憶や地面、ビルなどからのサイコメトリーで正確に調べ上げた紫穂。もちろんのこと武器は使い物にならなくなっている。しかしそれでもなお素手で攻撃を仕掛けようとチルドレンたちにせまってくる。

「クソッ、このままじゃ拉致があかない。操られている人を攻撃するわけにもいかない。葵!いったん安全なとこまでテレポートだ。」

皆本はそう指示すると葵は返事する間もなくすぐにテレポートした。皆本とチルドレンはその銀行から約一キロ離れた場所にいた。あたりには人の気配もなく比較的安全な場所だ。

「さっきのはいったい何なの?」

薫はさっきまでの異様な状況に言葉をもらす。ただ犯人を一網打尽にするいつもの事件と違い、警官や民間人から攻撃を受けるとは思ってもみなかったのだろう。

「たぶんこの今回の強盗騒ぎは我々をおびき寄せるためのものだったんだろう。つまり標的は僕たちだ。今こうしている間にもどこからか狙われているかもしれない。」

この皆本の言葉でチルドレンたちに緊張がはしる。冷や汗が薫の頬を伝っている。すぐにサイコキネシスを発動する態勢にかかっている。葵も空間認識力をフルに使って周囲の状況に鋭敏に神経を張り巡らせている。紫穂もどうように地面に手をあてサイコメトリーでどこからくるかを探っている。数秒の膠着の後、皆本の携帯が鳴りひびいた。三人とも一瞬ビクついたが、その電話は柏木朧からであった。

「さっきの強盗の件は穏便にかたがついたみたいよ。気がついたら犯人グループを逮捕していたって警官の方々はいっていたわ。」

あの後あの場の全員の意識がもとに戻ったのだろう。そして何がなんだかわからずとりあえず犯人を逮捕したというところか。人質もなく、武器もなければ人数的に犯人たちは捕まるしかない。

「そうですか・・・で、今度はなんです?」

皆本はまた出動要請だと思いそう聞いた。

「いえ、まだ事件発生の予知もないですし、起きてもいません。ただこちらも無事に解決したことを報告しとこうかと・・」

「と、いいますと?」

「先ほどの銀行強盗事件と同時にもうひとつプレコグがでていたんです。でそれはブルックリン美術館で絵画が盗まれるというものだったのですがそこに出動したナオミちゃんが無事に解決してくれたわ。だけど・・・」

「どうしたんです?」

「犯人を確保した後にまわりにいた人たちの様子が急変してこちら側に攻撃を仕掛けてきたの。」

「!?」

皆本は驚きを隠せなかった。そしてその驚きとは裏腹に「やはりそうか」という気持ちもあった。まさかとは思っていたがといった感じだ。

「いえ、実をいうとこちらも同じでした。次から次へとこちらに発砲してきて、最終的にはその場にいた全員から攻撃を受けるところでした。誰かにあやつられている感じでしたし彼らの武器を破壊したところでいったん引きあげたんです。罪のない民間人を攻撃するわけにもいかなかったので。」

「そういうことでしたか。こっちはあとから駆けつけてくれたメアリーたちに助けられてなんとか解決しました。あやつられていた方々も今はおとなしく病院で寝ています。もちろん怪我などは負わせていません。」

「わかりました。詳しいことは署に戻ってから改めて連絡します。」

皆本はそういって電話を切った。

「とりあえず、署に戻ろう。詳しいことはその後だ。」

皆本がそういうと葵はわかっているといった感じで四人一斉に署までテレポートした。

 そのころ、例の倉庫では

窓からの光だけで照らされていた倉庫だが日が傾き中はさらに薄暗くなっていた。そんな中一人の男がパソコンからニューヨーク市内の様子を町のいたるところにある監視カメラを通じてみていた。

「何の罪のない人間は殺さないか・・・ずいぶんと甘いやつらだな。」

レニーと呼ばれていた男は画面をみながらぼそっとつぶやく。そして倉庫のすみには縄で縛られ、エスパー錠をかけられた男がひとり。

「こんな話を知っているかね、下手に強い相手を茶化すようなマネをすると後でエライ目にあうということを・・・」

白髪のオールバックのその縛られた男は苦しそうにそう吐き捨てる。

「そういう負け惜しみをいいだすってことはずいぶん弱ってきているとみたな。まぁ、三日も飲まず食わずじゃそのご老体にはキツイか。ただチルドレンをなめているわけではないよ。実力を測っていたんだ。」

レニーはその脆弱した男の様子を見て、少しにやつきながらいった。

「ザ・チルドレンをコメリカにおびきよせたのはどういうわけかね。」

息をあらくしながら力をふりしぼってその白髪の男はいう。

「・・・・どういうわけかなんて知らないね。ただ団長の命令に従って動いているだけさ。それより腹へったろ。お前を死なすとコメリカ警察が黙っちゃいないからな。生きてもらわなきゃ困るんだよ、グリシャム大佐。」

レニーはどっかで適当に盗んできたパンとミネラルウォーターをもってきた。グリシャム大佐は敵から食糧を恵んでもらうなどもってのほかと最初は拒んだが、さすがに疲れてきたのかしぶしぶそれらを口にいれた。

(なんとしても生きて脱出しここの情報を警察に持ち帰らねば・・・)

グリシャムは複雑な思いをしながら食糧をむさぼっていた。
無事投稿しました。
kei679さん、確かに薫は自分のことをアタシっていってましたね。ご忠告ありがとうございました。

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