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ブルーバード (中編)


翼は、リミッターを手にとり、通信を始める。

「こちら美ヶ速、皆本さんですか?」

リミッターから聴こえて来たのは、皆本ではなく柏木のものだった。

「翼くんですね。私です、柏木朧です。チルドレンの3人も聞こえてますね?」

紫穂が、翼のリミッターに向かって言う。

「こちら、紫穂です。朧さん、いったい何があったんですか?」

「実は予知部から、今からあと一時間後にブラックファントムのエスパーがここから北西に2キロはなれた街を襲撃すると言う予知が届きました。発生確率は85%です」


「皆本は!?」

薫は、焦りを堪えられない様子だ。

「皆本さんは先に現場へ向かいました。4人とも、すぐにバベルで準備を整え、ブラックファントムの襲撃に備えて下さい!」

「了解!」

4人の大きな返事を最後に、通信は切れた。


「すぐに行きましょ。葵ちゃん!」

紫穂が葵を急かす。

「OKェ!行くで!」

4人はテレポートで、バベルへと向かった。









「どうなんだね、皆本クン」

今回はブラックファントム来襲と言うことで、局長桐壺自身が現場に急行し、援護をすることとなった。

一方、皆本は額に玉汗を浮かべながら答えた。

「この辺りは全て封鎖、整備が終了しました」

「よし、ご苦労。チルドレンとブルーバードはあとどれくらいで来るんだね?」


桐壺はあくまで冷静に聞きだす。

「チルドレンとブルーバードはあと五分程度ですが、ブルーバードはちょっと遅れるかもしれないそうです」


桐壺の顔に苦悶の色が浮かぶ。

「くそっ!やはり間に合わないのか!?」

桐壺はそう言うと、悔しそうに地団駄を踏んだ。

しかし、皆本が冷静に説明する。


「確率は85%ということは、恐らく五分程の誤差があると思われます。多少は平気です」







その時、空中に突如として現れたのは、ザ・チルドレンだけだった。ブルーバードはいないらしい。



皆本が、薫に訊く。

「翼はどうした?」

「何でも、自分の超度じゃ3人には追いつけないから先に行ってって。すぐに来ると思うよ」

薫るが言ったときだった。装甲車から、険しい表情で、柏木が出てきて、桐壺に告げる。

「局長!道は封鎖したのですが、予知による被害の確率が一向に変わりません!」

「1%もかネ!?」

桐壺の顔も厳しくなる。

普通、予知はその原因を取り除けば回避される。例えば交通事故ならば、トラック同士の衝突を避けたければトラックを走らせなければいい。


しかし、今回予知されたのはブラックファントムのエスパーによる襲撃。正確には、その襲撃により町や一般市民に多大な被害を受ける、という物だった。


しかし、1%も変化しないのは妙だ。一般市民を近づけないように周囲を封鎖したのに全く予知率が変わらないとなると、考えられるのは………





「かなりの広範囲にまで被害を及ぼすってことか!?」

皆本の顔まで厳しくなり、それを見たチルドレン達も、不安な顔をする。


「くそ、いったいどうすれば………」


いいんだ、と言い終わる前に、突然大爆発が起こる。


「うわぁぁぁっ!!」

「きゃぁぁぁぁっ!!」

激しい爆風に装甲車は横転し、その場にいたみんなが吹き飛ばされる。


「な、何だ……?」

何とか起き上がった皆本は、チルドレンの安全を確認するため、周囲を見渡す。


「!薫、紫穂、葵!大丈夫か!?」

突然のことで薫はバリアも張れなかったようで、3人とも、傷だらけで皆本から3、4m程離れた路上に倒れていた。

「うっ………」

薫が呻きながら頭をもたげる。取り敢えず、意識はあるようだ。

しかし、脳にダメージを負った可能性がある。とにかく今は様子を見なければ。

そう思った皆本は、薫達に歩み寄る。しかし、その背後には、人影があった。


「………」

その人影は、何も喋らない。

ただ、黙々と歩み寄ってくるだけだ。


次第に、その姿がはっきりと見えてくる。まだ周りの炎のせいで陽炎のように揺らいでいるが、髪は長く金髪。どうやら外人の少女のようだ。


身長は薫達と同じぐらいだろうか?その影が少しずつ、歩み寄る。

皆本はただならぬ気配を感じた。だが、まるで蛇に睨まれた蛙のように身動きできない。


少女は大体薫達から10m程離れたあたりで、両手を前に翳す。そして、その掌の上に炎弾が現れる。


(っ!ヤバい!)

殺気を感じたが、皆本は動こうと力を入れたが、上手く行かない。体に力が入らないと言うより、思い通りに動かない感じだった。


(精神感応系の能力とヒユプノの合成能力か!?体の自由が奪われている……!)

頭では判っているが、体が動かない。どうしようもない現状に、皆本は焦燥感を抱いていた。


(くそ!脳はある程度動くが神経は完璧に乗っ取られてる………)

冷や汗が皆本の背中を伝う。


皆本が思案している間も、少女は一歩ずつ薫達に近づいていく。


(ダメなのかっ!?)

まさに、少女の手から炎弾が放たれた、その瞬間。




全く別の方向から、炎弾が少女を直撃した。


すると、皆本の体が急に自由になる。

「………っ!」

薫達もまた、体が乗っ取られていたようで、手を握ったり開いたりしながら、体の自由を確かめている。


しかし、実際現実はそんな悠長なことをしている場合ではない。見れば、あの少女がまた炎弾を構えて立っている。


すると、今度は皆本の真後ろから、炎弾が轟音をあげ少女にぶち当たる。


すると、薫達の前に1人の少年が姿を現した。


右肩には蒼の羽根が無数に重なって織り込まれ、さながら雛鳥の羽のようだ。


その羽が織り込まれているブレザーは、周りの炎で微妙に色が変わって見えるがどうやら蒼色らしい。ズボンは灰色か白か。よく見れば銀に見える。


美しい制服を身に纏い、美ヶ速翼がそこに立ち、少女を見据えていた。








顔を上げた葵の目に映ったのは、燃え盛る町と炎、そしてその中央に、互いに視線をぶつけ合う少女と翼の姿だった。


助けに来てくれた。葵がそう思い翼の横顔を見る。

その横顔は炎に照らされ、より色っぽく艶やかに………


(って何でウチはそんな不謹慎な!)

葵の顔も赤く染まっていたが、炎のせいではない。


首を左右に振り、気を取り直し、葵は翼に話し掛ける。


「翼はん!ウチらも一緒に戦うで!」

しかし、返ってきた答えは冷たいものだった。

「駄目だ。葵ちゃん達は早くこの場から離れた方がいい」

「何でや!ウチらはまだ戦える!全然平気や!」

葵は必死に言うが、翼は首を横に振る。

「君達はさっきの爆発で吹き飛ばされただろう?脳にダメージが無かった訳じゃない。それで戦って超能力が暴走したら大変だ」

「でも………」

葵はまだ何か言いたげだったが、そこに皆本が制止をかける。

「彼の言う通りだ。君達は暫く休んでろ。僕達は大丈夫だから」


「でも翼はんは攻撃するのが難しいんやで!?どうすんねん!」

確かに、葵は普段当たり前のようにやっているが、テレポートは意外に精神力が必要だ。しかもこの辺りはほとんどが燃えてしまい武器を探すだけでも大変だし、何より相手は炎弾を使える。これに、いったいどう対抗するというのか。


すれと、皆本がそんな葵の考えを読んだように答える。

「あまり公にはされていないが、彼は普通のテレポート以外にも、それをベースに空間や物を一時的に固定してサイコキネシスで操れる合成能力をもってる。彼なら互角に戦えるはずだ。君達は付近のバベル職員を救出し速やかに応急処置。いつでもブーストが使えるようにスタンバイしておくんだ。判ったな!?」


皆本の指示に、葵は渋々頷くと、他の2人を連れてテレポートでこの場を離れた。


「皆本さん、貴方も離れて下さい」


翼は静かに言った。しかし、皆本は頷かない。

「駄目だ。僕はザ・チルドレンの主任と同時に、今は君の主任でもあるんだ。僕はここから離れるわけには行かない」


ふぅ、とため息を1つ吐くと、翼は言った。


「判りました。皆本さん、指示を」


皆本は一拍おき、言う。


「ブルーバード!ブラックファントムのエスパーを鎮圧しろ!」

「了解!」


翼は、瞬時にテレポートで少女の背後に回る。


「何!?」

意表を突かれ、少女の姿に動揺の色が浮かぶ。


しかし少女はすぐさま、手にあった炎弾を翼に向ける。


(っ!ゼロ距離射程!)


瞬時に判断、テレポートで空中に移動する。


自分の背中にある空間を固定し羽代わりにしてみれば、空中に留まる。



ほっとしたのも束の間、かわしたはずの炎弾が大きな弧を描いて背後に迫っていた。


「パイロキネシスで生み出した炎弾をサイコキネシスで遠隔操作している………」



複数の合成能力を持ったエスパー。しかも、さっきの精神操作も、炎弾も、おそらく相当な超度だ。



翼は身を翻すと、近くにあった炎を物体固定で切り取り、サイコキネシスで動かして敵の炎弾と相殺させる。


「これじゃあ埒が開きません!」


弱音をいいつつも、翼は次々と飛んでくる炎弾を相殺していく。


(何だ?あれだけ炎弾を使っているならそろそろバテてきても良いはずだ……あのエスパーは力が無尽蔵なのか!?)



先にバテてきたのは翼の方だった。空中で、空間を固定しながら戦っているため、早く疲れが来たようで、空中で体制がよろけた。




その瞬間を見逃さなかったブラックファントムは、特大の炎弾を2発、翼に向かって放った。


「危ない!」

皆本が叫ぶ。




ドォォォォォンッ!

翼の周囲で1発、その後に追い打ちをかけるようにもう1発。


しかし、翼は無傷だった。何故なら………





「へっ!それくらい何だってんだよ!」


薫が、バリアを張っていたからだ。



「な、薫ちゃん?!」



翼は驚いたが、すぐに険しくなる。



「どうしてきたんだ!危ないって言ったじゃないか!」

しかし、薫はそれを無視し、ブラックファントムへと突っ込んでいく。


「くらえ!念動ぅぅ………」


周囲の炎が超度7のサイコキネシスによってかき集められる。


「ヒートストーム!」



紅蓮の竜巻が、ブラックファントム目掛け放たれる。



「っあぁぁぁ!」


ブラックファントムは炎の渦に呑まれ、しばらく動きが取れないようだ。


すると、皆本の横に、葵と紫穂が現れた。


「皆本さん!今の内にブーストを!」


紫穂に促され、皆本は素早い指捌きで完全解禁用パスワードを打ち込んでいく。


「ったく!無茶しやがって!」



全て打ち終え、皆本は決定キーを押し、叫ぶ。



「ザ・チルドレン、完全解禁!!」



テレポートで移動した2人は薫の体に掴まり、薫は翼から力を放つ。



「念動 強制解放!」



凄まじい力が少女の体に纏わりつく亡霊の催眠を引き剥がし、砕いていく。




「あ、ぁぁぁぁああぁあぁぁ!?」


断末魔に聞こえる叫び声を上げると、やがて少女は倒れ込んだ。


紫穂がサイトメトリーで、様子を確認する。


「大丈夫。気を失ってるだけよ」



その言葉にようやっと、皆本の顔が緩んだ。


「よくやった。ザ・チルドレンにブルーバード。おかげでブラックファントムのエスパーは確保出来たし、被害もそれ程出ていない。本当に良くやってくれたよ」



こうして、無事任務は完了した。

何とか中編です。


あまりに長かったので、最後の方はまともな文なんだろうか、と不安です。もし、変だと思った方はご指摘お願いします。


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