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新たなる敵 第三幕

3-1 忍び寄る影

ニューヨーク郊外にあるスラム街のとある倉庫

「例の三人のガキどもがアメリカにきたようだ。」

一人の男がいう。倉庫の中は薄暗く天井から光が二筋さしこんでいる程度だった。通常の学校の体育館ぐらいの大きさで奥のほうに木箱や木材が積まれている。そんな倉庫の中で五人がまばらに座っている。さっきの言葉に一人の男が返す

「団長のプレコグ通りだな、レニー・・・やはり高いレベルを持っているのか?」

レニーとよばれた男
「あぁ、サイコキノ、テレポーター、サイコメトラーの三人で、みなレベル7だ。わかっているとは思うがサイコキノの奴はこの前おまえが挨拶したサイコキノよりパワーは上だぞ。まともに戦おうなどと思うなよ、ジャッカル・・・計画通りにことを運ぶんだ。」

ジャッカルとよばれた男
「この前は警察の奴らに俺らを驚異に思わせるため。きちんと団長に言われたとおりに動いたんだ。いわれなくてもやるべきことはわかっているよ。」

レニー
「そうか・・・団長、そろそろ始めていいか?他の奴らもずっとこの時を待っていた。開始するには頃合いだと思いますが・・・」
当の本人は何か難しい本を読んでいた。団長のまわりは盗んできた学問の本が百冊以上積まれている。
団長
「そうだな・・では始めてくれ、レニー。襲撃をしかける。」

そう団長がいうと他の団員たちは待ってましたといわんばかりに各々笑みを浮かべる。レニーは団長にいわれるやいなや、作戦実行にとりかかった。


ニューヨーク警察

メアリーたちと再会を果たしたチルドレンたちであったがのんびりしている間もないようだ。会議室では連続強盗事件についてザ・チルドレンに詳しい説明が行われていた。とはいうもののほとんどは日本で局長から話を聞いたことばかりだった。強力なサイコキノが一人、透視を妨害する空間曲げができるテレポーター。しかもテレポーターはあえて力を抑えて空間を曲げるだけに止めた可能性が高いとのことだった。
しかしサイコキノと直接対峙したメアリーから新しい情報得られた。

「ワタシが見たのは拳で地面を破壊する動作だけだった。奴はサイコキノを自分の筋肉に作用させて拳のまわりをサイコキノで強化して地面を殴りつけたんだと思う。そしてここが肝心なところなんだけど殴りつけた地面を後で見たら殴りつけた部分を中心に半径三メートルは砂と化していた。」

「砂?それってコンクリートをそんな細かいところまで砕いたということか?」
と皆本が口をはさむ。

メアリー
「物理的に不可能に近いわ。普通、人が何かモノを殴るときその力は当たった瞬間分散するわ。でもその分散を抑えるほどまんべんなく平均的に力を与えることができれば可能かもしれない。」

皆本
「つまりそいつは力の与え方・・使い方を熟知しているということか?」

メアリー
「そういうことになるわね。それに・・」

メアリーは少し不安そうな、そしてくやしそうな、そういう顔をしていた。
皆本
「それに、何だ?」

メアリー
「・・・ワタシの力よりも強かったかもしれない。いいえ、それだけじゃないわ・・もしかするとカオルよりも・・・」

するとその言葉を聞いた薫は

「まさか・・・私の力を超えるサイコキノなんているもんか!」

と全く信じられない様子だ。事実上、地球で最もサイコキノとして力が強いのは薫のはずだ。それを超えるというのはにわかに信じがたい。葵も紫穂もそして日常で直接薫のサイコキノをよくくらっていた皆本が一番驚いていた。皆本は少し考えてからこう述べた。
皆本
「僕もそれは誇張しすぎだと思う。・・・とりあえず紫穂・・メアリーのその時の記憶を探ってみてくれないか。この後そのサイコキノが使われた現場にいって比較してみよう。」
メアリー
「ワタシの記憶が間違っているとでもいうのですか?・・確かにカオルの能力をレベル的には上回っているとは思えない。けれど同等の力、もしくは近い力をもっているかもしれない。」
皆本
「メアリー・・僕は君の話を信じていないわけではない。ただ薫の力を超えるぐらいに感じたのならばそれなりにできるだけ詳しくそのサイコキノについて調べる必要があるんだ。・・・紫穂、やってみてくれ。」

そういわれると紫穂はメアリーの頭にそっと手をおいた。二、三秒間があいてから紫穂はいった。
紫穂
「確かに力は強力なものだったわ・・・だけどやっぱり記憶からだけじゃわからない。実際に現場にいってサイコメトリーしないと。」

ケン
「それはこれからしてもらおうかと思っていました。その現場だけではなく他の強盗のあった場所もサイコメトリーしてもらいます。そのために呼んだようなものですから。」

と突然会議室にはいってきたケン。ケンはチルドレンたちを会議室まで案内したところで急に事件があったとのことで駆り出されていた。そして続けざまにケンはいう。

「でも、他にやるべきことができてしまいました。先ほどまた銀行に強盗がはいったようです。ただ今回はその銀行内に犯人が人質をとって立てこもっているということです。犯人は十人以上の集団でこの近辺にあるマフィアの一部だということは判明しました。みな超能力はありませんが銃器をもっていてノーマルの警官ではいつ解決するかわかりません。」

と述べると

「そこで、私らの出番ってわけだな。そうだよな皆本。」
皆本
「あぁ、来た目的とは違うが見過ごすわけにはいかない、すぐに現場で急ごう。」

「現場にテレポートってわけやな、皆本ハン、はよ解禁して!」
皆本
「よしっ!ザ・チルドレン解禁!」

三人のリミッターが解除されるとほぼ同時に現場にテレポートした。銀行の手前あたりまで着くとそこは警察官が銀行から一定の距離を保って待機していた。未だこう着状態が続いているようだ。急にテレポートしてきた4人に警察の周囲をざわついていた民間人が驚くように指をさし、ところどころエスパーという単語がとびかう。ただここのところ起こっている強盗事件がエスパーによるものだと報道されてからノーマルのエスパーに対する考え方がシビアになっていた。エスパーが現れたことに驚いただけでなく蔭口をたたいているふうにもみえる。

「なんだ、なんだ・・言葉はわかんねぇけど、なんか嫌な感じがするな。」

「ウチらのこと・・まるで汚いものでもみてるみたいやな。」
紫穂
「ちょっと感じ悪いわよね。」

と三人の士気は下がっているようであった。せっかく助けにきたというのにそんな態度を受けたら誰だっていい気はしない。そんな三人の様子を察した皆本は

「みんな、最近の強盗事件がエスパーによるものだと知ってエスパーに対して神経過敏になっているんだよ。今回の事件の片がつけば忘れるだろうし、エスパーである君たちが解決したら逆に考え方を改めてくれるだろうさ。」

と三人にそう言葉をかける。ちょっと曇った表情をしていた三人だったが皆本の言葉に少し救われたのか、表情が三人ともゆるんだ。

「・・・なんかパッとしないけど・・・でも、考えたってしょがないよね。人質も心配だし早く終わらせよ。」

「せやな・・ここでふてくされて何もしないよりも事件解決して少しでも信用を取り戻さなあかんわな。」
紫穂
「そうね・・早く解決しましょ!・・で、どうやって人質を救出するの?」

三人のやる気が戻ってきたことにほっとする皆本。しかし気を抜くわけにもいかない。
皆本
「そうだな・・とりあえず、紫穂と葵は一緒に裏口までいってくれ。外側から紫穂はサイコメトリーで中の様子を探ってこっちに教えてくれ。わかりしだいこっちも薫と一緒に突入する。」
紫穂
「了解!」

「じゃあ、裏側までテレポートやな。」

そう葵がいった瞬間、周囲の警察がざわめきだした。葵がテレポートをやめて、皆本たちはざわめきのする銀行をおおっている警官のほうをみた。銀行の表口から犯人のうちの一人がでてきた。のろのろと歩き、右手にはマシンガンを所持している。二、三歩進んだのち皆本とチルドレンのいる方にくるりと向きを変えた。
皆本
「?」
急にその男は引き金をひき皆本たちに発砲してきた。
なんとか第三話目です。今回はわりと慎重にかけたと思います。二話目は少し急ぎすぎました。

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