「うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!?」
その夜、私は自分の悲鳴で目を覚ました。
「静かにしろ、666号!今何時だと思っているんだッ?!」
スピーカー越しに、看守の声が独居房に響く。
―― うるさい黙れ。あんな恐怖、味わったこともない奴が暢気に言うな。
そう噛み付きたい気持ちを抑え、私は毅然とした態度で看守の声に応じた。
「は、はいッ!申し訳ありませんッ!666号、就寝いたしますッ!」
ちくしょう、覚えてやがれ。
我ら“普通の人々”のメンバーがこの刑務所にいたら、メンバーに頼んで妙に熱い茶で口を火傷させてやるんだからなッ!!
……なんだか虚しくなってきた。
仕方ない。復讐の計画は今度にして……寝よう。
くしゃみ一つの後、震えながら床につく。
この震えの原因が、コンクリートの壁が伝える冷えなのか、それともさっき見た夢なのかを考えることのないまま、私は薄い布団に包まった。
* * *
「TRICK or TREAT?」
私の目の前に現れたのは、ほんの小さな子供だった。
だが、見た目に騙されてはいけない。
こいつらは我ら人間の敵、エスパーという名の化け物―― 。
「化け物がどうかしたんか?」
「うおぅッ?!」
背後からの声に、私は思わず飛び退く。
ちくしょう、思わず謝っちゃいそうになったぞ?
「まぁ化け物やろうとなんやろうとええわ。とにかく、縁起物やさかい―― なんかくれるか、一生残るトラウマのどっちか……好きな方選び♪」
振り返った私の目に飛び込んだのは、眼鏡をかけた狼男―――― 声と顔立ちは女のそれだが、こんな色気のなさそうなのは男に決まってる。きっとそうだッ!
「誰が色気のない貧乳眼鏡やッ!!」
その言葉が聞こえた一瞬で、私の身体は墓石に埋め込まれていた。
「あーあ、葵ちゃんを怒らせるから……という訳で、『お仕置き』ということでいいのね?」
「ちょ……ちょっと待て!いくら化け物とはいえ、手も足も出せない無抵抗の人間に対して気が咎めるとか言う気は―― 」
「ないわ」
あっさり答えやがったのは、けたたましく笑う帽子と不気味に笑う
髑髏の杖の丁度中間で、静かに微笑む魔女娘。
ごめんなさい。少しは躊躇してください。
正直、土下座出来るものならしたいくらいだ。
しかし、腰から下が墓石と一体となっている今の私にそれは出来ない。
「じゃあ、薫ちゃん……お願いね」
「おうッ!じゃあ紫穂……危ないから離れてなッ!!」
魔女娘の呼びかけに応じて現れたミイラが掲げているのは、人の顔状に刳り貫かれたカボチャ―― 所謂“ジャック・オー・ランタン”。
人の頭ほどの大きさのそれを投げつけられるのは、流石に痛―――― いや、ちょっと待て。
人の頭ほどに見えていたはずなのに……異様に大きくありませんか?
人の頭ほどだったそれは、自動車のタイヤほどの大きさになり、大画面テレビほどの大きさになり、ちょっとしたプレハブほどの大きさになり……いつしか、背後にそびえる城よりも、城の影を呑み込もうとする月よりも大きくなり―――― 私目掛けて飛んできた。
―― 遠近法舐めるなこの野郎ッ!!
私は十字を切るとともに、アラーでもブッダでもヤハウェでも、その他諸々の土着神をもひっくるめた全ての神に―― この悪夢を終わらせ、超能力者という名の人間の姿をした化け物の存在を抹消してくれることを祈っていた。
* * *
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!?」
私が目を覚ましたのは、やはり自分の悲鳴だった。
「いい加減にしろ、666号!何度目だと思っているんだッ?!」
「は、はいッ!!申し訳ありませんッ!!」
自分でも涙声になっているのが判る。
「あ……ご、ごめん。判ったら、寝ろ……な?」
とうとう看守にも同情された。
火傷しろなんて思って悪かったです。取り下げます。
「判りました。666号、改めまして就寝します。
…………オバケなんてないさオバケなんてうそさエスパーなんてホントはいないんだ」
少々退行気味になっている自分を自覚しつつ、私はこの日何度目か思い出せない眠りの海に身を委ねようと試みる。
散々掻き続けた寝汗の冷たさが、睡魔を寄せ付けようとはしなかった。
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