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ひかりのみち 1


「ピート!冥子と横島クンをお願い!」
「!!」
 横島は愕然としている。聞き違えたのかと美神を見直し、問いかけのまなざしを向けたようだが、美神は意に介さない。冷静に断じる。
「問答してるヒマはないわ!残りは中でヤツを追うわよ!」
 そのとおりだ。事態は切迫している。二言、三言、あわただしく言葉を交わした後、GSの面々は、勘九郎が岩に穿った抜け道を行き始めた。
 火角結界が爆発するまで、あと15分。このままでは全員爆死の運命である。クビラを使った透視で、冥子がそう告げた時、脱出の方法がひらめいた。
「美神さん!」
 原始風水盤が地脈を何度もいじったせいで、このあたりの空間はひずんでいるはずだ、よって火角結界といえど小さなスキが生じている可能性は高く、バンパイア・ミストで体を霧にすれば、そこからの脱出が可能である――。
 そう説明すると、美神は時間を問いただした。バンパイア・ミストは一度に一人しか連れて行けない。14分で全員分は・・・
「七往復はできないでしょ」
 その通りだ。苦渋のうち、14分なら二人が限度だと答えた。美神はすぐに結論を下した。
「令子ちゃん〜〜っ!!冥子も行くう〜〜っ!!」
 結論に納得できず、後追いをして泣く冥子を、羽交い絞めにして引き止める。泣き声に
ちらりとこちらを見やった雪ノ丞が、前方に目を戻した。魔装術の彼の目の前には、かつての仲間、勘九郎が岩に穿った穴が、口を開けている。
「・・・・・・俺たちは・・・」
 深い闇。
「俺たちは・・・強くなるために・・・」
「どうした、小僧」
「・・・なんでもねえ。急ごうぜ」
 カオスの問いに、短くそう答えて、雪ノ丞は闇に身を躍らせた。追ってカオスが、マリアが、エミが、穴に飛び込む。
「・・・・・・!」
 隣で、声にならない声を聞いた。冥子とともに脱出組に選ばれた横島だ。凝然として皆の背中を見つめていたが、最後の人影が暗闇に消えようとする時、耐えかねて身を乗り出した。そしてそれに答えるように、
(!)
 美神が振りむいた。横島と目が合う。
(・・・・・・)
「美神さん・・・!」
 横島のそんな声を、初めて聞いた気がする。名を呼んだきり、言葉にならない。
「・・・」
 まなざしの必死さに、美神は少し驚いたようだった。瞬きし、不思議なものでも見るように彼を見返す。
「みか・・・」
 無心な少女のようだ。でも一瞬だった。彼女の両眼にすぐ、いつもどおりの不敵な光が満ちた。
「心配いらないわ。すぐに戻るから」
 瞳が微笑む。
「じゃあね」
 絶句する横島を残して、美神は駆け出した。
「時間は?!」
「Tマイナス13分21秒!」
「行ってくるわね〜〜。ピートおおおんv」
 エミの明るい声が、尾をひいて遠くなる。
「令子ちゃん、令子ちゃ〜〜んっ!!」
「い、急ぎましょう横島さん」
 暴走などされてはおしまいだ。火薬庫も同然の式神使いの少女を、羽交い絞めにしつつなだめつつ、ピートは横島に呼びかけた。
「結界の穴を探します。協力してください!!」
「し・・・死にたくはない・・・」
「横島さん!」
「そのためならウンコも食えるかもしれんが、しかし・・・」
「横島さんっ!!」
「令子ちゃん〜〜〜っ!」
 ああっもう!時間がないというのにっ・・・
「結界の穴って、どうやって探すんですか」
 横島についてきたおキヌが、真面目にたずねた。よくぞ聞いてくれました。
「霊波を放射して、その手ごたえで探ります!」
 叫ぶように答える。
「穴があれば、そこから抜ける気配がするはず。・・・冥子さんは、式神でも探れますよね?!」
「ふ、ふぇ」
 冥子はようやく泣きやみ、
「クビラちゃんなら〜。そういうのも〜〜」
 こくこく、とうなずく。ピートもうなずき、
「それで行きましょう。僕と横島さんと冥子さんとクビラ、あとあなたも・・・」
 おキヌを見上げる。
「ええもちろん手伝います」
「手分けして探しましょう。見つかったらすぐ知らせてください!!」



 ホワッ フシュッ イィィィィンッ
 伸ばした手の、両手のひらから光があふれる。
 それをあびた岩がやはり淡く光り、不思議な共鳴音を発する。
 正確には音ではない。いわゆる「霊鳴」と呼ばれるものだ。
「ど、どうやるんだ?それ・・・?」
「こんな風に、手から岩壁に向けて霊波を放射するんです」
 ピートは、とまどい気味の横島に説明した。
「さっき美神さんに波動を送ったでしょう?あの要領です」
「う、うー」
 両手を構えながら、横島は首をひねった。
「わ、わかんねーぞ。だってさっきは・・・美神さん、周りに場みたいなの作って、自分で取り込んでたから、こう、力を向けるだけで、行ってたけど、岩にはそんなもの・・・」
「自分でイメージすれば大丈夫ですよ。なるべく広い範囲に当ててください。方向を絞る必要はないから、むしろ簡単なはずです」
「わ、わかった」
 横島は手を斜め上方へ向けた。手のひらが光りだす。
 バシュッッッ ギィィィン ガシュッ ザシュッ
 ぐわららっ ごんっ がんっ!
「わあーっ?!て、天井がっ!石がふってくるぞっ?!これっ!」
「ぶ、物理的ダメージを与えるほど強くなくていいんですっ!そーじゃなくて・・・うわっ?!」
 落ちてくる石をかろうじてよけ、ピートは叫んだ。
「探るために当てるんですから、こう、もっと柔らかくやってくださいっ!」
「ど、どーちがうんだよ?」
 落石のひとつが頭に当たったらしい。横島が流血しながらたずねる。
「霊波で殴ったり切ったりするんじゃなくて。さわるだけ・・・触診のつもりで、」
「触診・・・」
「軽くぶつけて。他と手ごたえの違うところはないか、そこを探ります」
「はあ…」
 パウッ フィィイイイインン
「こ、こんな感じか」
「そうです。それで、音っていうか、波動に耳を済ませて・・・」
 説明しつつ、ピートも逆方向に霊波を放出する。と、
「きゃあああっ?!」
「冥子さんっ?!」
 離れたところから悲鳴があがる。ふってきた石にあたったのだろうか?!ピートは急いで駆けつけた
「大丈夫ですか?!」
「あ〜〜。びっくりした〜〜」
 かたわらの大石を見ながら、冥子が胸に手を当てている。
「ケガは・・・」
「ううん〜。大丈夫よ〜〜」
 クビラを頭にのせた冥子はぱちぱち、と瞬きし、再び霊波を放出しはじめた。
「ねえ〜〜。ピート〜〜」
「はい」
「結界の穴が見つかったら〜」
「・・・・・・」
「私はいいから、横島クンを連れてって頂戴〜〜」
 ピートは冥子を見た。冥子は正面へ霊波の放出を続けつつ、つぶやいた。
「私は〜〜令子ちゃんたちのところへ戻るわ〜〜」
「・・・・・・」
「あなたは・・・戻ってこなくていいから〜〜。外で待ってて〜〜。横島クンを・・・」
 後方でおっかなびっくり霊波を操っている横島を見やり、
「横島クンを、ちゃんと安全なところに送り届けてね〜〜」
「冥子さん」
「でないと・・・」
 冥子は微笑んだ。
「でないと私〜〜、令子ちゃんに、怒られるから・・・・・・」
「冥子さん・・・」
「ピートさん!」
「わっ!」
 にゅっ、と壁から顔を出したおキヌに、ピートはのけぞった。
「あっちの方、」
 おキヌは肩まで出てきて、南側を指差した。
「結界がゆるくなってる感じです。今、周辺をひとまわりしてきたんですけど、あっちの方だけ、なんか、結界の縛りが『うすい』感じがするの。スキがあるとしたら、あのへんだと思います」
「わ、わかりました、すぐ」
 ピートはうなずいた。
「そちらへ行きます。南側を集中的に探しましょう。横島さん!」
 ピートはバンダナの背中に呼びかけた。

こんにちは。カヤマといいます。
こちらへははじめて投稿させていただきます。前後2回になる予定です。
読んでいただいた方、ありがとうございます。何か一言でも、感想いただければ
とても嬉しいです。

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