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うっかりヒャクメの大冒険 第十三話「ヒャクメ様よ永遠に……」

 
『アシュタロスは、いったん
 平安時代で滅んだんだけど……。
 でも復活してるのね!
 ……あれから数百年後に!!』

 『平安ヒャクメ』が残してきた心眼、そこに記録された約千年間の歴史。
 もちろん、世界中の全ての映像が刻まれているわけではない。だが、いくつかの重要な事件はしっかり含まれていた。
 中世での、プロフェッサー・ヌルの暗躍。
 突然の、アシュタロスの復活。
 彼の配下たちによる、時間移動能力者の探索。
 その一つである、ハーピーによる美神母娘襲撃事件……。

「……なんだか私たちの
 『逆行』前の歴史と同じみたいね?」
「『歴史は繰り返す』ってことっスか?」
『あの……横島さん?
 幽霊の私が言うのも何ですが、
 ちょっと意味が違うような気が……』

 アシュタロスの復活云々以外は、美神や横島が経験してきた『もとの時代』そのままである。
 この時空ではハーピー事件は美神が三歳の部分しか起こっていないが、この様子では、おそらく『もとの時代』と同じく現代で決着がつくことになるのだろう。
 そして、これは、

『……私の知ってる歴史とも同じなのね』

 『しっかりヒャクメ』が把握している本来の歴史とも、ほとんど同じであった。
 彼女の知る歴史では、アシュタロスは死から蘇るのではなく過去から送り込まれるわけだが、その一点を除けば寸分違わずと言っても構わないくらいだった。

「でも……どうして?
 なんで復活しちゃったわけ!?」
「倒しても倒しても蘇る……。
 それじゃ打つ手なしっスよ!?」
『これも……いわゆるひとつの
 「死んでも生きられます」でしょうか?』

 アシュタロス復活の謎について語り合う美神・横島・幽霊おキヌ。
 三人を見ていた『しっかりヒャクメ』が、突然、大きな声で叫び出した。

『……あっ!』

 彼女は、ようやく思い出したのである。
 平安時代からの帰還の際に、何か忘れているようで気になっていたこと。
 うっかりド忘れしていたこと。
 それは、未来で戦後に資料を集めて判明した、アシュタロスの戦意の背景。
 つまり……。

『蘇ったのも当然なのね!
 だって、アシュタロスは……
 「魂の牢獄」に囚われた魔神なんだから!』




    第十三話 最終回 ヒャクメ様よ永遠に……




『魂の……』
『……牢獄?』

 『しっかりヒャクメ』の言葉に惹かれて、『うっかりヒャクメ』と『平安ヒャクメ』が彼女の頭の中を覗き始める。
 二人が思考をスキャンして直接理解している間に、『しっかりヒャクメ』は、口頭で美神たちに説明し始めた。

『アシュタロスは
 一種の適応不全……。
 自分が魔物であることに
 耐えられなかったのね』

 独自のシミュレーションの結果、神と魔は同じカードの裏表にすぎないと悟ったアシュタロス。
 しかしデタントの時代となり、もはやカードをひっくり返すことは許されない。魔族は、勝ってはいけない戦いを繰り返すしかない、茶番劇の悪役なのだ。
 しかも、神魔の霊力バランスを崩さないために、彼のような魔神は滅んでも強制的に復活することになっている。アシュタロスは、そのシステムを『魂の牢獄』と呼び、そこから抜け出すことを願っていた……。

「それじゃ……
 アシュタロスの目的って
 単純な世界征服じゃなかったの?」
「結構複雑な奴だったんスね」

 美神も横島も、まだアシュタロスとは平安時代で対面しただけである。
 しかも、あの時のアシュタロスは、フード付きのマントで全身を包んでいた。だから美神たちにしてみれば、その容姿や顔立ちすら不明瞭なくらいだった。

『でも……このまま
 放っておくわけにはいかないのね。
 ……地上侵略が始まっちゃうから!』

 ここまでの経過が『しっかりヒャクメ』の知る歴史と似ているのだ。この先も酷似するであろうと推測するのは簡単だった。
 彼女の言葉に、『うっかりヒャクメ』も頷く。

『……そうね。
 倒しても倒しても蘇る……。
 それはそれで厄介だけど、
 でも何とかしなきゃいけないのね!』
『ちょっと待って!?
 心眼の記録では、復活後に
 アシュタロスは姿を消しているから、
 今どこにいるのか分からないんだけど……』

 表情を曇らせる『平安ヒャクメ』だったが、彼女とは対照的に、『しっかりヒャクメ』が晴れやかな顔を見せていた。

『それなら大丈夫!
 この時代のアシュタロスのアジトなら、
 ……私が知ってるのね!』


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「ジャングルの奥地とは
 思えないところっスね」
「それより……
 悪魔の居城らしくない感じだわ」
『むしろ神々しい雰囲気ですね』

 内部に足を踏み入れたとたん、横島・美神・幽霊おキヌが口々に感想を述べる。
 彼ら三人は今、『しっかりヒャクメ』の先導のもと、南米にあるアシュタロスの基地に来ていた。もちろん『しっかりヒャクメ』だけでなく、『うっかりヒャクメ』と『平安ヒャクメ』も同行している。

『美神さんたちの言うとおり……
 まるでギリシアの神殿なのね』

 と、つぶやく『平安ヒャクメ』。
 周囲には壁はなく、代わりに、飾り気のない太い柱が何本も建っている。
 床に敷き詰められたタイルは綺麗に磨かれており、まるで鏡のような光沢を伴っていた。

『昔のアシュタロスは
 もっとゴテゴテした有機的な
 アジトを作ってたけど……
 彼の趣向も変わってきたのね』

 周囲を見渡す五人に対して、『しっかりヒャクメ』が説明する。
 それを聞いて、『うっかりヒャクメ』も思い出した。

『そう言えば……南極でも
 バベルの塔みたいな基地を造ってたわ!
 しかも……
 自分を造物主に喩えるようなこと言ってたのね』
『そーゆーこと。
 悪魔のくせに神を気どってるのね』

 そして、二人のヒャクメがこうした会話をしている間に、『平安ヒャクメ』は興味深いものを発見していた。

『あれは何かしら?
 裸の女の子が、中で
 眠っているようだけど……』

 それは、遠くの柱の陰にあった三つのカプセル。中には、緑色の培養液が満たされている。

「……裸の女の子!?」

 ヒャクメの言葉が言葉だっただけに、横島が敏感に反応した。真っ先に駆け寄ったのだが、

「……なーんだ、子供か」

 カプセルを覗き込んで、すぐにガッカリしてしまった。
 たしかに裸体ではあるが、色気も何もない。二人は幼女、もう一人は赤ん坊だったのだ。
 しかも、横島は気にしていないようだが、それは人間ですらなかった。

「魔族ね、これも。
 ……メフィストと同じで、
 アシュタロスが作ったのね」

 と、口にする美神。
 三少女の頭には、昆虫の触角のようなものが付いているのだ。
 
『ああ、これって……』
『……例の三姉妹なのね』

 『うっかりヒャクメ』と『しっかりヒャクメ』は知っている。
 ここに眠っている三少女こそ、ルシオラ・ベスパ・パピリオの幼体だった。

「例の三姉妹……?」
『そうなのね。
 ちょうどメフィストが
 アシュタロスを裏切ったように、
 彼女たちも……』

 ヒャクメが説明しようとした時。

『おまえら、何をしておるかーッ!?』

 別の柱の陰から、アシュタロスの配下が現れた。


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「こいつが……
 この宮を守護する番人か!?
 きっと、こんなのが十二人くらい……」
『横島さん、
 それ何か違うと思います……』
「おキヌちゃんの言うとおりだわ。
 こんな弱そうな奴が
 守護兵なわけないでしょ」

 彼らの前に姿を見せたのは、遮光器土偶のような形をした兵鬼、土偶羅魔具羅だった。
 美神たちは初対面だが、『うっかりヒャクメ』や『しっかりヒャクメ』や読者には御馴染みの存在である。

『おまえら……侵入者なのか?
 ならば、わしが……。
 ……ぶっ!?』

 土偶羅魔具羅は、何かのスイッチを押すつもりだったらしい。
 だが、突然、柱に衝突して気絶してしまった。

『えへへ……』

 ピースサインをしてみせる幽霊おキヌ。
 いつのまにか背後に回っていた彼女が、えいっとばかりに突き飛ばしたのだった。

「でかした、おキヌちゃん!」

 彼女に駆け寄り、その頭を撫でる美神。それを眺めながら、横島は、おキヌとの出会いの場面を思い出していた。

(そう言えば……俺も
 最初は突き飛ばされたんだよな。
 『この時代』では、その前に
 こっちからおキヌちゃんに声かけたんで、
 そんなイベントも消滅してたけど……)


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『さあ……先に進むのね!』
「なんでヒャクメが仕切ってるのよ」

 美神にツッコミを入れられながらも、『しっかりヒャクメ』が一同を導いていく。
 そして、宮殿を駆け抜けて……。
 彼らは、ついに、そこに辿り着いた。


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「これが……!?」
『そうなのね!』

 そこだけは、他とは雰囲気が異なっていた。
 つきあたりの壁に生き物のイメージがあるのは、血管の浮いた肌のような起伏があるからであろう。同時に、ところどころに埋め込まれたカプセルのせいで、人工的な様相も呈していた。
 そして遥か上の方に、石像の頭のようなレリーフが埋め込まれている。見る者が見れば、誰を模したものなのか、一目瞭然だった。

『これが……アシュタロスなのね!』

 壁の向こう側は、巨大な培養カプセルとなっているらしい。ゴポッゴポッという音が聞こえてくる。

 ジャバーッ!

 突然、壁の一部が開き、中から黄金の液体が溢れ出してきた。
 それと共に、一つの人影が姿を見せる。

『どうも騒々しいと思ったら……。
 我が眠りを妨げるのは、おまえたちか。
 ……メフィスト、そしてヒャクメ君!』

 この拠点の主、アシュタロスの登場である!


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『す……すごいパワー……。
 私でもわかるくらいです!』
「心配しないで、おキヌちゃん!
 私たち、平安時代でも
 こいつを圧倒したんだから!」
「あそこではヒャクメまかせでしたよ?
 俺たち何もやってないじゃないっスか」

 苦笑いしながらも、横島は、キチンと自分の役目をこなしていた。
 文珠を二つ作り出し、それを『うっかりヒャクメ』に渡す。

『さあ、これがホントの
 ……最後の戦いなのね!
 最後の最後だから、今回は
 主役の私が中心となって……』

 彼女が喜々として語っている間、他の二人のヒャクメは、アシュタロスの現状を解析していた。

『大丈夫……。
 これなら楽勝だわ!
 だって……』
『以前よりも力が落ちてるのね!
 最終作戦の準備で
 霊力を使い過ぎたのか、
 あるいは、復活後の回復が
 不十分だったのか……』

 勝利を確信した二人は、その手を、文珠を握った『うっかりヒャクメ』の手に重ね合わせる。

『ファイナルファイナルうっかり……』

 合体シークエンスに入ったヒャクメたちだが、最後まで続けることは出来なかった。

『おまえら……
 もういいかげんにせい!』

 という言葉と共に。
 大いなる二つの光が、その場に降臨したのだ!


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 右の光は、長髪の男性のような姿をしている。
 そして左の光は、側頭部の大きなツノと背中の翼を特徴とするシルエットだった。
 まず、その左の光が、アシュタロスに語りかける。

『あんさん……ホントは滅びたいんやろ?』

 問われたアシュタロスは、口元を僅かに歪めていた。

『フ……。
 おまえたちが直々に現れたのか……』

 肯定も否定もしないアシュタロス。返事の必要はないと悟っているのだ。

『アシュタロス……。
 私たちは他でバランスをとる策を見出しました』
『だからな、
 あんさんの望みは叶えてやるさかい……』
『静かにお眠りなさい……!』
『そうや、もうおしまいや!』

 二つの光の説明を、アシュタロスは、神妙な面持ちで聞いていた。
 それから、ニヤリと笑った。

『……そうか。
 まあいい、それが嘘だとしても……。
 また蘇ってしまうのだとしても……。
 その時こそ……今度こそ、
 おまえたちを出し抜いてやろうじゃないか!』

 と宣言するアシュタロス。
 彼の姿が、どこか遠くに召されるかのように、スーッと薄くなっていく。
 そして。

『おまえの……』
『罪を許そう、アシュタロス……!!』

 二つの光の言葉と同時に、アシュタロスは消滅した。
 それを見届けてから、左の光が、美神やヒャクメたちの方に向き直る。
 今までも硬直していた彼らだったが、まっすぐ見つめられると、ますます動けなくなってしまった。
 そんな彼らの様子にも構わず、光は、言葉を発する。
 
『さて、ヒャッちゃん。
 これだけ時空を混乱させといて、
 タダで済むとは……思うてへんやろな?』


___________


『……え?』
『それって……』
『まさか……』

 しばらくの後、ようやく口を開くヒャクメたち。
 三人は、ようやく気付いたのだった。
 さきほどの『おまえら、もういいかげんにせい』の対象は、アシュタロスではなく自分たちなのだ、ということに。

『勝手な時間移動って……』
『思った以上に……』
『……大きな罪だったのねー!』

 ヒャクメの頭の中に、今頃になって、小竜姫の言葉(第十一話参照)が蘇る。

   『……断っておきますが、
    この時間移動は神魔族最上層部の
    特別許可のもと行われます!
    本当なら、これ以上の時空の混乱は
    もう絶対に避けたいんです』

 顔面蒼白になるヒャクメたち。

『それじゃ……』
『まさか……』
『私たちは……』

 そんな三人に対して、左の光がニヤリと、右の光がニッコリと笑いかけた。


___________


 それから。
 色々と言うべきことを言った後、その二つの光もフッと消えて……。


___________


『それじゃ……サヨナラなのね!』

 夕陽が沈む西方へ。
 ヒャクメが去っていく。
 今のヒャクメは、三人が合体した状態。
 つまり、アシュタロスに匹敵する力を持っているのだ。
 そう、あの光の述べた『策』とは、合体ヒャクメをアシュタロスの代わりにすることだった。
 時空を大きく混乱させたヒャクメは、その罰として堕天。そして新たな魔神となったのである。
 なお、意識を取り戻した土偶羅魔具羅も、目覚めたばかりの幼い三姉妹――まだ眠いようで目をこすっている――も、合体ヒャクメの後ろを飛んでいた。彼らは、魔神ヒャクメの配下に組み込まれ、共に魔界へ向かうのだった。

「ヒャクメの冗談が……
 本当になっちゃったわね」

 と、口にする美神。
 彼女は、『しっかりヒャクメ』たちが登場した際の会話(第十二話参照)を思い出していた。

   『光あるところ闇あり、
    魔族あるところ神族あり……』
   『あーあ。
    最初が微妙に間違ってる……。
    それじゃ私たち悪役なのね』

「これが……ことだまってやつなんスか?」

 同じ場面を思い浮かべたらしく、美神の隣では、横島も苦笑している。

「まあ、これで平和になるわね。
 ヒャクメだったら……
 あんまり悪さもしないでしょうし」
「というより、ヒャクメだったら……。
 悪行を為すつもりで、
 うっかり……善行を施すのでは?」
『ひどいですよ、横島さん。
 かりにも神さまのことを……あっ!』

 ツッコミを入れようとしたが、何かに気付く幽霊おキヌ。

「そうよ、おキヌちゃん!
 今のヒャクメは神さまじゃなくて
 悪魔のお偉いさんだからね?
 もう敬う必要はないのよ……!」
「美神さん……。
 最初から敬ってないじゃないっスか!」

 冗談を言い合う三人。
 こうして表向きは軽い態度を示しながらも、美神は、心の中で真面目に状況を考えていた。

(これでいいのよね……)

 『時空の混乱』で歴史がどう変わったのか、本来の歴史を知らない美神には分からない。
 そもそも、ここは『もとの時代』ではないのだ。しかし美神は『もとの時代』ではなく『この時代』に留まることに決めていた(第十二話参照)。『この時代』の肉体に入り込んでしまった以上、『もとの時代』へ戻ったら、『この時代』の二人が消えることになるからだ。

(ともかく……)

 逆行前の『もとの時代』では、平安時代への時間旅行イベントまでは経験している。だから、美神たちは、メドーサ・デミアン・ベルゼブルといった魔族たちとも戦っていた。
 当時は知らなかったが、今は、彼らの背後にアシュタロスがいたことも理解している。
 そして、その大ボスであるアシュタロスが滅び去ったということも。

(一番ややっこしい敵が消えたんだから!)

 ちょうど美神が思考をまとめたタイミングで、横島が話しかけてきた。

「『俺たちの戦いはこれからだ』
 ……って言葉がありますが、
 これで……俺たちの戦いは
 もう終わりなんスかね!?」
「そんなわけないでしょ。
 もー気になる伏線もなくなって、
 ようやく借金を全部返したよーな
 さわやかな気持ちで……通常業務復活よッ!」

 振り返った美神の顔には……。
 ジーンという擬音が似合いそうな、感動の微笑みが浮かんでいた。


___________


 ヒャクメが魔神となり、おキヌは幽霊のままであるという世界。
 変わってしまった歴史の中で、

「さあ、これからも……
 現世利益最優先よ!」

 変わらぬ美神の信条のもと、彼らの物語は続いていく……。






(『うっかりヒャクメの大冒険』 完)
 
 
 
 
 

 主人公の魔神化という形で物語は幕を閉じましたが、十一話の「ルシオラが調査官になったらヒャクメは不要」発言や十二話の「三体合体でアシュタロスに匹敵するパワー」発言があったので、この結末は既に予想されていたかもしれませんね。
 ともかく、ここでの私の初投稿長編を読んでくださり本当にありがとうございました。色々悩みながらも精一杯の努力で仕上げた結果ですので、読者の方々に少しでも楽しんでいただけたことを祈っています。
 以下、次作品の予告にも繋がりますので、蛇足ながらその『色々悩みながら』を少々。


 ……もともと私が二次創作を始めたのは、NONSENSE様の『椎名作品二次創作小説投稿広場』でした。
 当時は他に投稿できる場があることを知らず、その後、Night Talker様や、このザ・グレート・展開予測ショーPlus様を知るようになりましたが、「『小ネタ掲示板』や『展開予測掲示板』に二次創作小説がある」ということには気付かないままでした。
 それから頂いたコメントに導かれて『小ネタ掲示板』に辿り着き、両方を利用させていただくようになって「同じGS二次創作でもサイトによって作品やコメントの雰囲気が違う」ということを感じるようになりました。
 そして今回、こちらにも投稿させていただくようになったのは、こちらで『椎名作品二次創作小説投稿広場』に関する企画が行われていると知ったのがキッカケです。あれがなければ、私がこちらに御世話になることはなかったでしょう。
 ある意味で私は、サイト間交流という波に乗って、こちらに辿り着いた一例です。ただし活動のメインの場をこちらに移したわけではなく、メインは、あくまでも『椎名作品二次創作小説投稿広場』のつもりです。
 そんな私が、こちらにこのような作品を投稿させてもらってもいいのだろうか、と疑問に思いながら、この作品を書いていました。

 サイトによる雰囲気の差異は、重要だと思っています。
 複数のサイトを利用している以上(特にサイト間交流に乗ってやってきた身であるからこそ)、意識しておかねばならないと思っています。
 それぞれに特色があるからこそ幾つもが存続できるわけで、その特色が薄まってしまったら共倒れにも通じると思うからです。

 私の認識では、ここは、二次創作小説の発表の場である以前にファン同士の交流の場。「公開された場でのコミュニケーションを行う為のツール」(『当サイトに関する説明』より引用)という言葉も、そのためだと捉えています。
 そしてファンサイトに二次創作作品を投稿するということは、ある意味、非常に勇気を必要とする行為だとも感じています。

 二次創作の世界に入る前には他でファン活動をしていたので(そして自分がファンになった経緯を考えると、当時のほうが原作の売り上げに貢献していたと思えるので)二次創作を書き続けることの是非に関しては、色々考えてしまうのです。
 これがファン活動として正しいことかどうか。そして、これが原作を愛するファンの書いている作品なのか、と。

 今回の作品は、はたしてどうだったのでしょうか。
 一ファンが書く二次創作小説として、相応しいものだったのでしょうか。
 こちらに投稿する作品として、相応しいものだったのでしょうか。
 発表した以上、もはや、読者の皆様の審判を仰ぐしかありません。

 ……私は、小学生の頃に既に「こんな文章力では文系は無理だから将来は理系に進みなさい」と言われたくらい、文才のない人間です。それでも、奇人変人であるが故に他の人とは違う発想が出来るかもしれないと思って、書いています。
 表現よりもアイデアで、料理法よりも素材で勝負するタイプの書き手だと自己認識しています。
 その点、この作品は「誰でも思いつくアイデアだったのではないか、それならば他の人が書いた方がもっと面白いのではないか」という心配もありました。
 もちろん、書き始めた以上は最後まで頑張りましたし、それが冒頭でも述べた『精一杯の努力』でした。努力が実を結んで読者の皆様が楽しんでくださったことを願っています。

 ……そして、こうした試行錯誤を踏まえた上で。
 この作品のみでこちらへの投稿を終わりにするのではなく、再びチャレンジしたいと考えています。
 次は、もっと自分にしか書けないものを投稿したいと考えています(長編ではなく全二回程度を構想中です)。


 本来、作品を通して伝えるべきなのに、あとがきで長々と弁説してしまうのは、書き手としての力量不足。いつか、このようなあとがきを書かずに済む日が来ることを祈っております。

 最後に、もう一度。
 最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

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