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【夏企画】小鳩危機一髪!

 ある夏の日のことだった。
 事務所に出勤した西条公彦は、備え付けのコーヒーミルでお気に入りのコーヒー豆を挽いた。
 都内の専門店で買い求めた、英国王室御用達の最上級品の豆である。
 西条は芳醇な香りのするコーヒーを、美神美智恵からもらった安物のマグカップに入れた。
 自宅では、目玉が飛び出るほどの値段のカップを使っていたが、ここは大勢の人が出入りする職場である。
 うっかり、(美智恵を除く)職場の上司がそれを触って壊したりでもしたら、お互い気まずい関係になりかねない。
 よって職場では、壊れるリスクのある物は、なるべく一般の物を使うようにしていた。

 西条は職場での自分の席に座ると、バサッと新聞を広げる。
 もし、横島がその場面を目にしたら、「この道楽公務員めが!」と口にしたであろう。
 西条の名誉のために付け加えると、毎朝の新聞記事のチェックもオカルトGメンの職務の一つである。
 新聞の三面記事や週刊誌を読んで、まだ連絡がきていないオカルト絡みの事件をチェックしているのだ。
 もっとも、そういう仕事は新人の担当であり、主任クラスである西条がすることではなかったのだが、あいにく若手のメンバーが全て昨夜の仕事で出払ってしまい、まだ事務所に出勤していなかった。

「“謎の怪人、海辺で大手柄”か」

 西条は、今日発売された週刊Gendaiの表紙に、でかでかと印刷されたタイトルに目をとめる。
 ページをめくると、湘南海岸に現れた妖怪コンプレックスとそれを退治した覆面男の記事。
 そして助けられた女子高生のインタビューが載っていた。

 ――ヘンな気持ち悪い妖怪が現れて、ちょっとヤバいかなーって思ってたら、『彼』が助けに来てくれたんです! これって、モロ青春ですよね☆――

 同じページに、なぜか水着姿で、机を背負いながらピースサインを出している少女の写真があった。
 ちなみに水着は、紺のスクール水着のように見える。
 西条は、ふーっとため息をつくと、週刊誌をパタンと閉じた。

「西条さん、電話ですよー」

 その時、電話の応対をしていた部下が西条を呼んだ。

「どこからだ?」
「N県警です」
「わかった。回してくれ」

 N県警の担当者から西条が聞いた話は、今朝発見された殺人事件に関するものだった。
 発見されてから間もないため、まだ新聞には掲載されていない。
 担当者から一通り話を聞いた西条は、受話器を置くと事務所に部下全員を別室の会議室に集めた。

「N県のXX町で、殺人事件が起きた。話を聞いたところ、捜査中の事件との関連性がかなり高い。現地で詳しい状況を調べるから、何人か一緒に来てくれ」




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 『小鳩危機一髪!』        Presented by 湖畔のスナフキン   

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「あーっ。いそがし、忙しいっと」
「小鳩ちゃん、次は布団の片付けお願いね」
「はーい、女将(おかみ)さん」

 小鳩が、田舎の旅館でアルバイトを始めてから、二週間が経っていた。

 生まれた時からずっと貧乏神が家にいた小鳩は、学校行事以外でどこかに旅行したことが一度もなかった。
 しかし、偶然引っ越した部屋の隣に住んでいたGS見習の横島忠夫と、彼の雇い主である美神令子の活躍により、彼女は貧乏神の呪いから解放されたのである。

 貧乏神転じて福の神となったビンは、わずかではあるが花戸家に金運をもたらし、その結果、花戸家の家計は徐々に好転していった。
 生活ぎりぎりの貧乏から脱出した小鳩は、長年の夢であった国内旅行を楽しみたいという願いをもったが、さすがに遊びに使うほどの貯蓄はなかったため、次善の策として田舎での住み込みのアルバイトを選んだのである。

「女将さん、お布団の片付け終わりました」
「ご苦労さま。二階の部屋の掃除が終わったら、三時まで休憩していいから」
「はい」

 小鳩は掃除を終えたあと、従業員用の休憩室に入って、そこで昼食をとった。
 昼食のメニューは、鮎の塩焼きと冷奴、それに沢庵と白菜の漬け物である。
 米や味噌も含め、素材は土地でとれたものばかりであり、都会育ちの小鳩はどれも美味しく感じられた。

「本日、XX町の別荘地で、○○さん一家5名の遺体が発見されました。
 殺された△△子さんの近所の方からの通報で、警察が調べたところ、遺体を発見したとのことです。
 ○○さん一家は、休暇で所有している別荘に遊びにきていました。
 警察は、殺人の疑いで捜査を進めています」

 休憩室においてあったテレビから、隣町で起きた殺人事件のニュースが流れていた。

「まあ、怖い話ね」
「この辺りも、物騒になってきたわ」

 小鳩の同僚の仲居たちが、ニュースを見ながらお喋りしていた。
 東京のような都会と違い、田舎のこの町では事件そのものが滅多に起こらない。
 アルバイトの小鳩と違い、この土地に住んでいる彼女たちからすれば、珍しい話なのだろう。

「小鳩ちゃん。悪いけど食事が終わったら、急いで銀行に行ってくれない?」
「はい。わかりました」
「休憩時間なのに悪いわね。その代わり、明日はお休みにしてあげるから」




 小鳩は、別棟にある自分の部屋に戻ると、私服に着替えてから町へと出かけた。
 小鳩が働いている旅館は、町の中心部から徒歩で15分ほど離れた場所にある。
 銀行で用事を済ませた小鳩が、旅館に戻ろうとして駅の前を通りすぎたとき、見覚えのある人に出会った。

「あの、ひょっとして西条さんですか?」
「小鳩ちゃんじゃないか。どうしてここに?」
「夏休みを利用して、旅館で住み込みでアルバイトしてるんです」

 駅の改札から出てきたのは、西条だった。
 スーツを着ているところを見ると、おそらく仕事と思われる。
 西条の背後には、同じくスーツを着た部下らしき人物が三人いた。

「僕の方は、見てのとおり仕事さ」
「例の殺人事件ですか?」
「そのとおり。ところで、いつも一緒にいる元貧乏神の彼は?」
「ビンちゃんなら、福の神研修会があるとかで、出雲に出かけました。今は私一人です」
「そうか。それなら、小鳩ちゃんも、暗くなってからは一人で外を出歩かないよう、気をつけないとね」
「はい。お仕事、頑張ってください」
「大丈夫。僕がここにいる間に、事件を解決させるさ。それから、横島君は元気かな?」
「アルバイトを始める前に少しお話ししたんですけど、こっちに来てからはちょっと……」
「そうか。まあ、今度ばかりは『彼』に負けないように頑張らないとな。それじゃあ」

 小鳩にとって、若干意味不明な言葉を残しながら、西条は去っていった。




 小鳩と別れた西条は、部下と一緒にこの町の警察署に設けられた合同捜査本部へと向かった。

「おお、よく来てくれたね」

 西条たちオカルトGメンのメンバーを、捜査本部の責任者が迎えた。

「はじめまして。ICPO超常犯罪課の西条です。早速ですが、遺留品を拝見したいのですが」

 担当者の案内で、血染めになった衣服など、西条は現場に残された遺留品を見た。

「君、あれを」
「はい」

 西条の指示で、オカルトGメンのメンバー一人が、見鬼くんをその上にかざす。
 すると、見鬼くんの体が、まるでコマを回すかのように勢いよく回り始めた。

「間違いないですね。ヤツです」

 西条はポケットから携帯を取り出すと、電話をかけた。

「西条です……ええ、やはり“J”でした。隊長、応援の部隊に結界の装備を持たせてください……ええ、明日の朝までにお願いします」

 西条は電話を切ると、キッと眼(まなこ)を開いた。

「“J”……今度こそ、決着をつけてやる!」




 翌朝、西条は捜査本部の設置された警察署の大会議室を借りて、東京から駆けつけたオカルトGメンの隊員と現地の警察官にブリーフィングを行った。

「こいつが、“J”だ」

 西条は目の部分だけくり貫かれたヘルメットを被っている大きな悪霊の写真を、会議室のスクリーンに映し出した。

「国内だけで、10件に上る犯行を繰り返している。犯行は極めて残虐であり、夜中に人家を襲撃。一家全員を虐殺するというものだ」

 スクリーンには、Jが起こした事件の一覧が表示された。

「もはや人としての意識はなく、殺戮本能だけで行動していると思われる。特に若い女性に対する執着心が強く、殺害したあと遺体を食い散らかすのが特徴だ」

 西条は、Jに喰われた遺体の写真を映した。あまりの酷さに、若い隊員が数名、口元を手で押さえた。

「フーチの反応によると、“J”は犯行現場近くの山に潜伏していると思われる。よって、我々は目的地の周辺に結界を張りつつ山狩りを行い、“J”を発見しだいこれを除霊する。以上!」




 西条たちオカルトGメンの部隊は、幾つかの班に分かれると、目的地の山を取り囲みながら山狩りを始めた。

「それにしても、この最新式の結界装置は便利ですね。以前の装備だと、このクラスの悪霊に対抗しようとしたら、車やヘリを使わないととても運べなかったのですが」

 西条の部下が、背中に結界発生装置を背負いながら、山道を歩いていた。
 登山用の大きなリュックサックほどのサイズだが、人が運べない重さではない。
 ただし、その装置から出ているケーブルが、山の麓に向かって伸びていた。

「前の大戦で、美神隊長がアシュタロスに対抗するために使った、電気を霊力に変換するシステムの応用さ」
「これも、一種のハイテクなんですかね。まあ、電気がないと、ただの重たい荷物ですが」

 そのとき、西条たちの耳に、雷鳴の音が聞こえた。
 西条が空を見上げると、遠くに雷を起こす積乱雲が見えた。




 山の頂上まであと少しの場所まできたとき、木の陰から突然、大きな悪霊が姿を現した。
 手に大きな斧をもち、顔には目の場所にぽっかりと穴が開いたヘルメットをかぶっている。

「撃て!」

 西条の合図で、隊員たちが構えた破魔札マシンガンが一斉に発射された。
 全身に破魔札を受けたJは数歩後ろに下がるが、斧を使って体についた破魔札をそぎ落とす。

 バババ……

 破魔札マシンガンが、大量の破魔札をJに浴びせかけるが、Jはその圧力に屈せず、斧を振り上げながら突進した。

「結界装置作動!」

 結界発生装置を背負っていた部下が、装置のスイッチを入れた。
 西条たちのすぐ目の前に、強力な結界が展開される。
 結界に衝突したJは、それを破ろうと斧を振り回すが、結界はびくともしなかった。

 ダーン!

 別方面から登ってきた班が、Jに向けてライフルで精霊石弾を発射する。
 さしものJも、精霊石の威力にはかなわず、頂上めがけて逃げ始めた。




 Jは頂上近くにあった小屋へと逃げ込んだ。
 ほぼ同時に頂上に到達した各班は、Jの逃げ込んだ小屋を包囲し、結界発生装置で厳重な結界を張った。

「ようやく、ヤツを追い詰めましたね」
「そうだな」

 西条たちの頭上には、厚い雲があった。
 遠雷の音が、ゴロゴロと聞こえてくる。
 今にも、大粒の雨が降ってきそうな天気だった。

「これ以上は、長引かせたくないな」
「小屋に、火でもつけますか?」

 西条の部下が、軽い冗談を言った。

「まあ、そこまでする必要はないだろう。部隊を突入させて、精霊石弾の一斉射撃でケリをつける!」

 西条が突入用の散弾銃をもったメンバーを、小屋の入り口近くに集めたその時だった。
 ひときわ大きな雷の音とともに、突然結界が消えた。

「なにが起きたんだ!?」
「わかりません! スイッチを入れ直しても、装置が動かないんです!」

 西条は、思わず舌打ちした。
 おそらく、先ほどの落雷で停電が起きたのだ。
 電力に頼った最新の装備が、裏目に出てしまった。

 パリン!

 Jが窓を破って、小屋の外に飛び出した。
 ライフルや散弾銃をもった隊員たちが、慌てて銃をかまえるが、Jは銃が発射される前に突っ込んできた。
 Jが振るった斧に当たり、三人の隊員が吹っ飛ばされて木の幹に激突する。
 Jはそのまま、オカルトGメンの包囲網を破って、山を下っていった。




 一日休みをもらった小鳩は、駅前の商店街で買い物をすることにした。
 スーパーで日用品を買ったあと、東京に帰るときのお土産を考えながら、何軒かの店を外から覗きこんでいたとき、突然パトカーのサイレンの音が聞こえた。
 何事かと思って立ち止まった小鳩の目の前で、数台のパトカーが横に止まって道を塞ぎ、即席のバリケートを作った。

「小鳩ちゃん、急いでここから逃げるんだ!」
「西条さん!?」

 血相を変えながら、パトカーから出てきたのは西条だった。
 他に何人もの警官が、強化プラスチック製の盾をかかえて車から飛び出していく。

「うわーーーっ!」

 警官の一人が、盾をもったまま空中を飛ばされ、商店のショッピングウィンドウに突っ込んだ。

「もう来たのか!」

 警官を体当たりで吹っ飛ばしたのは、Jだった。
 西条はパトカーの向こう側にいたJを見つけると、懐から拳銃を出して三発発射する。
 そのうちの一発がJにあたり、銀の弾丸でダメージを受けたJの動きが一瞬止まった。

「小鳩ちゃん、今だ!」
「はいっ!」

 小鳩は急いで、その場から逃げ出した。
 走りながら後ろを振り返ると、パトカーをひっくり返しながら警官を追い散らしているJと一瞬だけ目が合った。




 小鳩は、駅の近くにある建設中のビルの中に逃げ込んだ。
 中が暗いので窓から外を見ると、まだ昼間にも関わらず、真っ黒な雲が空を覆いつくし、雷鳴を轟かせていた。
 小鳩はコンクリートがむき出しになったビルの階段を上がると、一階と二階の間の踊り場で、体を隠しながら頭だけ出して入り口を覗き見る。
 その時、轟音と共に雷が地面に落ちた。
 雷の光を背にして、巨大な人影が建物の入り口で見えた。
 恐怖で顔を引きつらせた小鳩の目に入ったのは、大きな斧を手にもち、ヘルメットの奥から不気味な眼光を光らせていたJの姿だった。

「ヒッ!」

 小鳩が、小さな悲鳴を上げた。
 建設中のビルの中に入ったJは、一歩一歩踏みしめながら階段を上がって小鳩に近づいていく。
 小鳩は必死になって足を動かし、階段を上って逃げた。
 最上階である三階にたどり着くと、奥の部屋へと向かった。

「急げ!」

 Jに続いて、現地の警察官とオカルトGメンの部隊もビルの中に突入する。
 物音がする上の階に上がると、三階でJを発見した。
 オカルトGメンの隊員たちが、ライフルと散弾銃を構えたが、西条がそれを制止した。

「待て! Jの先に彼女がいる」

 ゆっくりと歩いていくJの向こう側に、小鳩の姿が見えた。
 この状態でJを撃つと、外れた弾丸が小鳩に当たる危険がある。
 また位置を変えようにも、Jが歩いている通路は狭く、他にJを撃つ場所がなかった。
 西条は打つ手を失い、窮地に立たされてしまった。




 小鳩は恐怖のあまり、足がすくんでいた。
 それに、もう逃げ場所がない。
 どうしてよいかわからず、頭の中が真っ白になりかけたとき、不意にビンの言葉が浮かんできた。

(わいがおらん時に、絶対絶命のピンチになったらな、この御守りを使うんや。そうすれば、必ず助かる!)

 小鳩は無我夢中で、肌身離さず身に着けていた御守りを外すと、それを握って合言葉を叫んだ。

「助けてーー! ヨコシマーーン!」




















「ハーッハッハッハ! 我こそは正義と愛と謎の宇宙人、ヨコシマンだあああっ!」

 謎の笑い声が、コンクリートがむき出しになったビルの中に響き渡った。
 小鳩が声のした方を振り向くと、大きく開いた窓のところに、口元をスカーフで覆い隠したランニングシャツと短パン姿の男が、路上に立っていた。




















 小鳩は謎の男の出現に一瞬ポカンとしたが、稲妻の光でその男の顔がはっきり見えると、パーーッと顔が明るくなった。

「横島さんっ!」
「ち、違う! 私は横島忠夫というナイスガイではない!
 私は横島クンそっくりの人間が大勢住む、ヨコシマ星からやってきた宇宙人なのだ〜〜っ!」

 あらためて解説を入れると、本人は否定しているが、ヨコシマンの正体は横島忠夫である。
 横島にはかつて、韋駄天・八兵衛に憑依されたことがあったが、今は八兵衛に退治された九兵衛が力を貸している。
 御守りを使うと九兵衛が横島に憑依し、さらに最低二個の携帯を義務づけられた文珠によって、御守りの使用者のいる場所に転移するのである。

 なお、正体がバレバレな件については、関係者一同の暗黙の了解により、本人およびマスコミには固く黙されていた。

「それはともかく、力なき乙女を襲うとは卑怯千万! 天が見逃しても、このヨコシマンは絶対に見逃さん! 成敗してくれる!」

 ヨコシマンを新たな敵と認識したJが、斧を振りかざして襲い掛かった。
 しかし、ヨコシマンは瞬速の速さで移動すると、斧を振り上げてがら空きになったわき腹を狙った。

「ヨコシマン、ハイパーキーーック!」

 ヨコシマンの鋭く重い蹴りをくらったJは、真横に吹っ飛んでコンクリートの壁にめり込んでしまった。

「ガーーーーッ!」

 しかし、Jはまだまだ弱らなかった。
 斧を水車のように振り回しながら、大きな叫び声をあげる。

「ヨコシマン、バーニングファイアメガクラーーッシュ!」

 Jの周囲の空間で、連続した爆発が起こった。
 これにはさすがのJもたまらず、いったんその場から離れようとする。
 しかし、逃走したJの行く手に、運悪く小鳩が立っていた。

「グワーーーッ!」

 逃走本能より殺戮本能が勝ったのか、Jは最後の力を振り絞って斧を振り上げた。
 しかし、斧を振り下ろすより早く、ヨコシマンがJの正面に現れた。

「ヨコシマン、メガトンパンチ!」

 横島の重い一撃を受けたJは、再び吹っ飛ばされてしまった。
 ヨコシマンは、Jが壁にぶつかって動きが止まった隙に、最後の大技を仕掛ける。

「ヨコシマン、ハイパースペシャルライトニング!」

 ヨコシマンが両腕を横に伸ばすと、左右の窓から雷が部屋の中に飛び込んできて、横島の両腕で帯電した。
 ヨコシマンは両腕を上げると、Jに向かって勢いよく振り下ろした。

 ドーーーンッ!

 稲妻を全身に浴びたJは、敗北した特撮怪人のように激しく爆発し、その最後を遂げた。




 翌日、東京の事務所に戻った西条は、美智恵の部屋に呼ばれた。

「西条君。客観的に見て、あなたはよくやったと思うわ」
「ありがとうございます」
「でも、これじゃあねぇ」

 美智恵が手にしたレポートには、“変態怪人、またもや大手柄! Gメンを出し抜いて無事少女を救出”というタイトルの新聞記事の切り抜きが、でかでかと張られていた。

「お陰で、上層部はお冠(かんむり)よ。Gメンの面目は丸つぶれだって、カンカンに怒ってるわ」
「言いたいことはわかりますが、正直なところ、彼に出てこられては打つ手がなくて」
「とりあえず、結界装備の改良については、上に具申してみるから」

 美智恵は西条が退出すると、ハーッと大きなため息をついた。

「いっそのこと、横島君をうちに引き抜いた方がいいのかしら?」

 調査報告書を見るまでもなく、よく知る少年の今後について、美智恵は真剣に考え始めた。




 事件の数日後、バイトを無事終えた小鳩は、東京行きの電車に乗っていた。
 今はもう、横島に一刻も早く会いたい一心である。

 もともと、貧乏神のビンをめぐって運命的な出会いをした二人だったが、今回の事件はさらなる絆(きずな)の強さを小鳩に実感させていた。
 幼い頃からの貧乏暮らしのため、あまり夢をみないよう自らを律していたのだが、今回ばかりは頭の中がすっかりお花畑になっていた。

(も、もう、結婚式も済んでるし、そろそろお嫁に行ってもいいわよね♪ うん、きっと大丈夫☆)

 小鳩の頭の中では、横島の部屋で朝から晩まで甲斐甲斐しく夫の世話を焼きながら、新妻気分を満喫している自分の姿がしっかりとイメージされていた。




 そんな小鳩が、いざ横島の部屋に出かけたとき、同じく横島の部屋を訪れた愛子とバッティングをしたことや、横島が美神除霊事務所の面々とトラブルを起こしたり、その背後で美智恵が暗躍していた件については、また別のお話である。


(お・わ・り)
(あとがき)
 実はこの話、去年の夏企画向けに書き始めたものなんです。(汗)
 しかし、いつものように筆がなかなか進まず、プロットも十分に組み立てられないまま夏が終わってしまいました。(爆)

 その後、ずっとHDの片隅に放置していたのですが、今年の夏企画向けにまた頑張ろうと思って執筆を再開し、でもやっぱりなかなか進まないで最終日になってようやく形になりました。

 そういえば、GTY+になってから初めての投稿ですね。
 他にもいろいろと書きかけの話が転がってるので、次にいつ投稿できるかわかりませんが、今後ともよろしくお願いします。

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