じぃわ、じぃわ、じぃわ、じぃわ……
りり、りり、りり、りり……
夏の日差しが強すぎて、外があまりに明るくなっているために
真昼間でありながら妙に薄暗い室内。
蝉の鳴き声に紛れて聞こえてくる電子音に、
汗と湿気をほたほたと吸い込んでべたつく煎餅布団の上で、
横島忠夫は目を覚ました。
じぃわ、じぃわ、じぃわ、じぃわ……
りり、りり、りり、りり……ばんっ!
妙に緩慢に聞こえるアラーム音を響かせる目覚し時計の上に
背泳ぎでもしているかのように手を伸ばし、
下ろすと言うより落とすと言った感じでその頭を叩く。
時計の上部についたスイッチが派手な音を立てて押し込まれ、
不快な電子音が糸をひくように小さくなっていき、やがて止まった。
「……ぐ、む、ぶふぅ……」
しばらくそのままぐったりとしていた横島だが、やがてもぞもぞと動き出す。
のろのろとした動きで腹ばいになると、目覚し時計を引き寄せた。
時計の針は午後一時を示している。
「うぅ……、もうこんな時間か」
そう呟いて起き出した彼の眼の下にはくっきりとした隈が浮き上がっている。
八月に入ってからこの方、記録的な長さで続いている熱帯夜
―ーという表現すら生易しく感じられるほどの酷い暑さの毎夜――に
まともに眠ることができず、さすがの鉄人も体力を消耗しきっていた。
毎夜のあまりの蒸し暑さに、横になって目を瞑ってもまるで眠れず、
一晩中転々と寝返りを打ち続け、稀にとろとろとまどろんでもすぐに目を覚ます。
そんなことの繰り返しで、どれだけ長い時間布団に横になっても
身体も精神もまるで回復しないのだ。
「……今日は……午後からだったっけ……」
そう呟いて大儀そうに身を起こす。
身体中に浮いた汗の玉が妙な熱を持ってとろとろと流れ落ちていく。
その不快さに眉をしかめた横島は、じっとり湿った髪をガシガシと掻き回し、
べったりと張りつく寝巻き代わりのTシャツを脱いだ。
そのまま一畳あまりの玄関兼台所の床に放り投げる。
びしゃり、と濡れ雑巾を叩きつけたような音が響いた。
「……」
ふらふらと流しに近づき、水道の蛇口を捻る。
ざ、ざざ、と派手に水が流れ出した。
寝起きの喉の渇きを癒すべく、両の手のひらでそれを受けようとする。
「ぅあっち……」
外の強烈な日差しに水道管までゆだっているのか、
水道の蛇口から出てきた水はぬるめのお湯くらいになっていた。
うんざりした表情でそのまま少し待つと
多少落ち着いて生ぬるいという程度になる。
まあいいや、と横島は両の手のひらを流れていくその水に口を付けた。
ごくりごくり、と喉を鳴らす。
渇きにひりついていた喉が癒されていく。
が、同時に身体中から汗が噴出してきた。
下を向いているためにこめかみあたりを伝った汗が目に入る。
自分の身体から出てきたその塩辛い水はジンジンと痛む目に酷く染みた。
擦ったり拭いたりするのも面倒になってそのまま蛇口の下に頭を突っ込む。
「ふひぃ……」
ぬるぬるとした汗洗い流され、髪の中の篭るような頭の熱が取れていく。
さすがに心地よい。
しばらくして蛇口をしめた。
そのあたりにあった手拭いを取って頭を拭く。
ずぶ濡れになった手拭いをもう一度蛇口を開いてざっと洗い、
軽く絞るとついでに身体もそれで拭いた。
べたべたした汗が拭われ、
身体の表面から熱が少しだけ奪われるのが感じられる。
「はあぁ……さて事務所行かないとな」
ようやく一息ついた横島は
部屋の隅に干しっぱなしになったままの洗濯物の群れの中から
新しいTシャツを手に取り、袖を通した。
次いで靴下を履き、脱ぎ捨てられていたGパンに足を通してチャックを引き上げる。
「……おし、いこか」
そう自分を奮い立たせるように呟いた横島は立ちあがり、
かなりへたったスニーカーに足を突っ込むと、アパートの部屋を出た。
「う、むっ」
ドアを開けた途端に部屋の中の篭るような暑さとはまた違った、
熱の壁が押し寄せてくるような暑さに包まれる。
げんなりしつつもずるずると身体を引きずるように階段を降りると
ぎらぎらとした日差しが肌に突き刺さった。
「……あちっち」
通勤とシロとの散歩のために買った自転車を引き出そうとすると、
それまで直射日光に晒されていたそれは尋常でない熱を持っていた。
またがってみるとかなり厚手のGパンを通してさえ
臀部にじりじりと炒られるような熱が伝わってくる。
あまりの熱さに思わず挫けかけるが、
「くく……いや、とにかく事務所に行けば……エアコンもきいてる筈やぁ……」
ただその一事のみを念じて横島はペダルにのせた足に力をこめ、
強い日差しを反射して白茶けたように見える街をよろよろと走り出した。
「ふむ、今日は一千万の依頼が一件だけか……
ま、この暑い中、しゃかりきになって働きたいとも思わないし、丁度いいかなー」
執務室のデスクで今日の仕事の詳細を確認していた美神が呟いた。
成功報酬一千万の除霊と言えば並みのクラスのGSなら命懸けなのだが、
そこはそれ、業界TOPをひた走るこの才媛にとっては
軽めの通常業務と言ったところでしかないらしい。
「そうだ、このレベルなら現場では横島クンに任せてみるってのもいいわね。
そろそろあいつにも人を指揮して
計画的に除霊することを覚えさせないといけないし」
そうやって上機嫌で除霊の計画を練っていると、
ガチャリ、執務室のドアが開いた。
「こん……ちゃ〜す……うは、生き返る〜」
ついで、横島の蚊の鳴くような声が聞こえてくる。
「ん、おはよ、横島ク……うわ、なによそのひどい顔」
それを聞いた美神は書類から目を離し、顔を上げて挨拶を返そうとしたのだが、
視界に飛び込んできた横島の憔悴しきった顔に目を丸くする。
「いやあ、もう暑くて暑くて……まともに眠れないんですわ」
苦笑しながらそう言いつつ横島は背負ったデイパックからタオルを取りだし、
だらだら流れ続ける汗を拭き出した。
「あんたねえ……時給も上げてあげたってのに
どうしてエアコンくらい買わないのよ」
「いやあ、去年はなんとか乗りきれたんで、どうにかなると思ったんすよ」
「まあ確かに今年はの暑さは異常だけど……さっさと買えばいいじゃない。
あんたのアパートなら六畳一間だもの、そんなにかからないでしょ?」
「ええまあ、五万出せばかなりいいものでも買えるらしいんすけどね」
「それなら」
「いや、それがですね、今年の暑さに慌てて買う人間が多いみたいで……、
なんか取り付け工事の予定が一杯に詰まってるとかで、
今から買うとウチに来るのが来月の半ば過ぎらしいんすわ……
あ、ありがとう、おキヌちゃん」
横島が苦笑いしながらそんなことを言っていると
彼が出社したのに気付いたらしいキヌが冷えた麦茶を持ってきた。
結構大きなグラスになみなみと注がれており、ストローまで添えられている。
だが、
「んぐ、んぐ、んぐ……ぶっはあああ、ごちそうさまあ」
余程喉が乾いていたのだろう、
横島はそのままグラスに口をつけると一息に飲み干してしまった。
その様子に思わず目を丸くするキヌだったが、
「もう一杯どうです?」
すぐに気を取り直し聞く。
「あ、ありがとう。お願いするよ」
横島がそう答えてグラスを渡すと
キヌは嬉しそうにそれを受け取ってパタパタと台所にかけていった。
それを見送りながら横島はソファに座ると
美神に向かってなにか聞こうと口を開きかける。
が、
「それで、今日、ふぁ?」
口から漏れ出しそうになった欠伸に語尾がおかしくなった。
適度な室温と柔らかいソファの感触に眠気を誘われたらしい。
ふらふらと前後に上体が揺れ、
半分閉じかけたまぶたが痙攣するように上下して今にもくっつきそうだ。
そんな横島の様子に美神は眉をひそめる。
「ちょっと、ホントに大丈夫?
そんな状態で除霊作業なんて出来るの?」
「だ、大丈夫、といいたいところなんですが……」
「……このままじゃ絶対ポカするわね」
「はあ……、面目次第もありません」
そう謝りつつもふらふらと上体が揺れるのは止まらない。
落ちかかるまぶたを開けておくのも酷くつらそうだ。
見かねた美神は溜息を一つついて言った。
「仕方ないわね。とりあえず準備は私たちでするから
その間に仮眠取っときなさい」
「はあ……、ありがとう、ございます。甘えさせて、もらいます、わ」
見栄を張る余裕もないのか、横島は心底助かった、と言う表情で礼を言う。
思わず美神の頬が赤くなる。
「か、勘違いするんじゃないわよ!
そんな状態じゃ私たちまで危険なことになるかもしれないからなんだからね!
あ、仮眠してる間の時給は差っ引くから覚悟しなさいよ……って聞いてる?!」
「たす、かり……ま……ぐぅ」
照れてなにやら言い募る美神だったが、
ずるずるとソファに沈んでいく横島には聞こえていないようだった。
すぐに規則正しい寝息が聞こえてくる。
「……まったくもう」
横島が眠ってしまったのでそれ以上なにか言うわけにもいかず、
複雑な表情で頭をガシガシと掻きながら溜息をつく。
「エアコンの効いてる部屋で汗かいたまま寝ちゃうなんて、
本当に健康管理の意識がなってないわよね」
それほど室温は下げていないが
汗で湿ったTシャツ一枚では身体に良かろうはずもない。
ぶつぶつと文句を言いながらも椅子から立ちあがった美神は
なにか掛けてやろうと室内を見まわし、
部屋の隅に掛けてあった自分のジャケットを手に取った。
僅かに口元がほころぶ。
「ま、まあ、これでも掛けないよりはマシ……っ!」
「お待たせしました、横島さ……あれ?」
と、そこへ麦茶のお代わりを持ってきたキヌが部屋に入ってきた。
思わずギシリ、と固まってしまう美神。
無論キヌの目の前で臆面も無くジャケットをかけてやるなど思いも寄らぬが、
といってそのまま元に戻すのも不自然でどうすればいいかわからない。
「……」
「……」
一方のキヌもソファの背もたれに寄りかかって大口をあけて眠っている横島と、
まだ出かける時間でもないのにジャケットを手に
なにやら顔を赤くしている美神を見て大方のところを推測し、
なんと声を掛けたものかわからずに戸惑ってしまったようで口篭もっている。
「……おキヌちゃん、毛布でも持ってきてかけてあげて。
風邪でもひかれたら面倒だからね」
数瞬の沈黙の後、美神はバツの悪さを隠すようにキヌに背を向けるとそう言った。
「え、あ、はい」
それを聞いたキヌは麦茶を置くとパタパタと部屋を出て行く。
その足音が聞こえなくなったところで美神は
「……」
憮然とした表情でジャケットに袖を通した。
「……んは?」
鼻腔をくすぐるいい匂いに横島は唐突に意識を覚醒させた。
一瞬自分がどこにいるのかを見失い、狼狽して周囲を見まわす。
数瞬の間の後、ようやくここが事務所の一室であることを思い出した。
すると、
「あ、やっと起きたわね、このねぼすけ」
「おはようございます、先生」
そんな横島の様子に気付いたのか、
同じ部屋にいたらしい二人が彼の方を向いて声をかけてくる。
「……タマ、モ? シロも」
美神除霊事務所の居候の犬神、シロとタマモの二人だった。
二人とも部屋の中央に据えられたテーブルにつき、それぞれ食事をとっている。
タマモは手に大ぶりな丼をもち、飴色の太い麺をずるずるとすすり込んでおり、
シロはシロで焼いた肉をおかずに丼山盛りのご飯を食べていた。
先ほど鼻先に香ってきたのはそれらの食べ物の匂いだったようだ。
「……あれ?」
その二人の手にある丼を見た横島はなにか強烈な違和感を感じる。
仕事前の昼飯にしては妙にどっしりした量なのだ。
もう一度周囲を見まわす。
すると、
「……は?」
窓の外は既に真っ暗になっていた。
慌てて壁にかかった時計を見る。
「……へ?」
時計の針はすでに十時を回っていた。
僅かに残っていた眠気が一気に吹き飛ぶ。
「のわああああっ! シロ、タマモッ!
きょ、今日の仕事は、除霊作業はどうなったあああっ?!」
「とっくの昔に終わったわよ」
「先生、お疲れのようでいくら起こしてもお目覚めになりませんでしたので。
今日は拙者がかわりに荷物持ちを」
そう言って鼻で笑うタマモと、苦笑するシロ。
そんな二人に恐る恐る尋ねる。
「……み、美神さんは?」
「さっきまで一緒に夕食を摂っておられましたが……
食事が終わったのでシャワーを浴びてくると言われて」
「お、怒ってた?」
「ん? もーカンカン」
「ど、どのくらい?」
「とりあえずこのまま永眠させてやろうかしら、とか言ってたわね」
「……」
二人とのやり取りに十分な睡眠で血色が良くなった横島の顔色が
再びみるみる蒼白なものになっていく。
「……さらばっ!」
「あ、逃げた」
生命の危機を感じた横島は逃亡を図る。
近くにあった手荷物をひっ掴んで脱兎のごとく部屋を飛び出そうと
ドアを勢い良く開けた。
しかし。
「ひゃっ……あ、横島さん。目、覚めました?」
「あ、お、おキヌちゃん」
そこにはキヌが立っていて危うくぶつかりそうになる。
かろうじて立ち止まって事無きをえたものの、
見ればキヌの服装は先ほど麦茶を持ってきてくれた時とは違うものになっており、
長く美しい黒髪も微かに濡れている。
どうやら本当に今日の除霊作業は終わってしまったようだった。
それを見て絶望的になった横島が立ち往生していると、
彼を見たキヌがにっこり笑う。
「元気になったみたいですね、良かった。あ、今晩御飯用意しますからね」
「い、いやそのあの」
「駄目ですよ、暑いからって食べないと体力が落ちる一方ですからね」
そう言ってキヌは台所に取って返した。
そんな状況ではないとは思いつつも
折角用意してくれているものを放って帰るわけにも行かず、
また、漂ってくるいい匂いに空っぽになった胃袋が
派手な音を立てて足を萎えさせる。
そうして横島がうろうろと逡巡している間に、
「はい、お待ちどうさまです」
手早く料理を温めなおしたキヌはそれをお盆に載せて持って帰って来てしまった。
そのまま押されるようにテーブルにつかされた横島の前に、
ふんわりと湯気を立てる料理が並べられる。
思わずごくり、と喉が上下した。
「さ、どうぞ召し上がれ」
食べ物にはいつも感謝の心。
しかもキヌの心づくしである。
そう言われた横島に食べないなどと言う罰当たりな選択肢は与えられなかった。
「い、いただきます」
両手を合わせて箸をとり、始めはおずおずと、
そして次第に勢い良く料理を掻っ込み出す。
食べ始めてしまえばここのところろくなものを食べていなかった横島である。
胃腸も疲れているだろうと言う配慮から
さっぱりしたものを中心のメニューになっていたこともあって、
凄まじい勢いで出された料理を平らげていく。
「おーおー、凄い食欲ね……働いてないのに」
「ね、寝ているだけでも腹は減るものでござるよ」
呆れたようなタマモの呟きも
シロのフォローになってない擁護も耳に届かない様子で
あっという間に出された料理を片付けてしまった。
「ふはあ、旨かった……ごちそうさ」
「ごちそうさま、じゃないっ、このスカタンッ!」
「ぶっ?!」
すっかり満腹になり、思わず幸せそうな顔になって箸を置いた横島の脳天に
後ろから神通棍が振り下ろされ、派手な音を立てる。
慌てて振り向くと、そこにはいつのまにか青筋立てた美神が立っていた。
「私らが汗水たらして働いてるときに高いびきかいてたくせに……
いい度胸よねえぇぇぇ?」
「あ、い、いや、それはその、ふ、不可抗力っす!
けして仕事したくないとかサボりたいとか考えてたわけでわぁぁぁっ?!」
「問っ答無用ぉっ! そこに直れえええっ!!」
「ぎゃーすっ?!」
鈍い打撃音と悲鳴が室内に響き渡る。
が、その阿鼻叫喚の地獄もいつものことなので
他の三人はのんき食後のお茶をすすっていた。
「……でもあれよね。
なんだかんだ言っても横島が食べ終わるまでは待ってたんでしょ、あれ」
「そういうことはわかってても言わないのが嗜みというものでござるよ」
「……」
のほほんとそんなやり取りをしてると、がちゃり、と入り口のドアが開く。
「ちょっと令子、何時だと思ってるの? ひのめが目を覚ましちゃうでしょ」
入ってきて苦情を言ったのは美神の母、美智恵だった。
アシュタロスの事件以後、すっかりこの事務所に神輿を据えてしまった彼女は
現在も二階の一室、キヌの隣の部屋に次女のひのめと住んでいる。
今はひのめを寝かしつけていたところだったのだろうが、
怒声と悲鳴が轟いて来てはさすがに目を醒ましてしまう。
「手や大声を出さなくたってお説教は出来るでしょ。静かにやりなさい」
「む、う」
美神のほうはまだし足りないといった表情だったが、
さすがの彼女も母親には逆らえない。
不承不承といった風情で横島を開放すると、事務所内は一気に静かになった。
キヌが美智恵と美神、そして横島の分のお茶を新たに淹れる音だけが響く。
そんな中、少々重くなった空気を払拭するようにキヌが口を開いた。
「で、でも、困りましたねえ。
この暑さはまだ続くらしいですから、
当分今日みたいなことになりかねませんよ。
今回はちゃんとこなせましたけど、ちょっと不安ですね。
やっぱり横島さんがいないとちょっと勝手が違いますから」
「確かにその通りでござるなあ。
やってみるとわかりますが荷物持ちというのも相応に才覚がいるもので、
いつ何が必要かと言ったことは勿論、ここで美神殿が何を欲するか、とか、
おキヌ殿やタマモが術を使うときにどのくらいのガードをするか、とか
いろいろなことを心得た上で目を配らなくては、
微妙にタイミングがずれてしまうのでござるよ。
今日の仕事くらいならともかく、
強敵相手ではその一瞬が命取り、ということもありえましょうし」
懸命にとりなすキヌとシロだったが、
「なにより万が一のときの壁がいないのは痛いわよねー」
「「……」」
そうまぜっかえしてニヒヒと笑うタマモに
一瞬困ったような表情で二人は言葉を詰まらせる。
「こほん。とにかくこのままじゃ良くないですよ、美神さん。
なにか対策を考えないと」
「うぅん、と言ってなにが出来るってものでもないし」
言われて美神も考え込む。
確かに今のままと言うのは問題が多い。
一瞬、社宅としてエアコンつきワンルームを提供、という
どこかで聞いたようなビジョンも浮かんだが、
さすがにそれは過保護だろうと却下する。
といって他に解決策も思いつかない。
そもそもメドーサの事件とアシュタロスの事件で
不動産屋のブラックリストに載ってしまっている美神にとって
住関係の問題は扱いが難しいのだ。
うぅん、と考え込み黙り込む一同。
すると黙ってお茶をすすっていた美智恵が口を挟んだ。
「あら、そんなの簡単でしょ?」
「え?」
きょとんとする長女を見た美智恵は悪戯っぽく笑うと軽い調子で言い放つ。
「この事務所に泊めてあげればいいじゃない」
「「「「「へ……」」」」」
発言の意味を測りかねて一瞬沈黙が訪れる。
そして、
「「「「「えええええっ?!!」」」」」
恐慌が巻き起こった。
色々問題が山盛りで、美智恵とシロ以外の面々はやや難色を示したが、
夜にしっかり眠れるという魅力に抗えなかった横島は美智恵の提案に乗り、
とりあえずこの異常な暑さが収まるまでは事務所に世話になることになった。
一階の倉庫から引っ張り出してきた予備用の布団を担ぎ、
あてがわれた三階の応接間兼執務室に向かう彼に
人工幽霊一号が話しかけてくる。
『横島さん……、正気ですか?
美神オーナーはともかく、おキヌさんやシロさん、タマモさんに何かしたら
それこそ本当に命にかかわりますよ?』
やや狼狽した様子で迂闊なことをぽろりと言ってしまう人工幽霊一号に
横島は苦笑しながら答える。
「そりゃそうだけどさ……とびきり危険な肉体労働なのに
暑くてろくに眠れない夜を一週間も続けてみやがれ、
多少の無理は目を瞑ろうって気になるわい」
『まあわからないではありませんが……。
私も今年は空調関係に物凄い霊力食われてますし』
とにかく現状のままでは除霊作業の時に致命的なミスをしかねない。
その場合、危険は一緒に作業している仲間に及ぶわけで、
それだけはどうしても避けたい、というのが今の横島の偽らざる心境だったのだ。
「それにお前の監視もつけてもらったしな。
さすがに美神さんと隊長の二人相手じゃ悪い気起こしても太刀打ちできん」
そう、現在人工幽霊一号は警戒度MAXで横島を監視中なのである。
本来人工幽霊一号の目は館全体に及ぶのだが、
監視カメラを何台設置しても一人が一時に確認できるのは
一ヶ所だけなのと同じように、
彼が一度に見ることが出来るのは一ヶ所だけであり、
それを常時横島にひきつけさせているのである。
他の場所や人間たちには多少目が届かなくなるが、
横島がなにか少しでもおかしなことをしようとすれば
その瞬間に美神や美智恵のところに注進が行くようにしたのだ。
もしも横島が悪心を起こしても、
通報を受けた美神が物理的に不可能なはずのスピードで現れて
拳で止めてくれること請け合いである。
最後まで横島の宿泊に反対した美神が
最大限の譲歩として持ち出した条件だったのだが、
今回に限っては下心がないとは言え、
自身でも多少煩悩の抑制が心許なかった横島としても
――少々窮屈ではあるが――悪くない話ではあった。
「まああれだ、セクハラしようと考えられるくらいまで回復できたら
向こうに戻ればいいさ」
『そうですね。予報では明後日か明々後日あたりに
久しぶりに一雨来るようですし』
「あーそりゃちょうどいいな。
ま、とにかく今日明日しっかり眠れれば……よっと」
そう言いつつ三階の執務室の前についた横島は、
布団を片手で担いだまま空いたもう片方の手でノブを回し、
肩でドアを押し開ける。
中に入って絨毯の敷かれた床に布団を下ろすと、
ドアの横の壁に手を這わせて照明のスイッチを探し出し、明りをつけた。
真っ暗だった部屋が温かみのある暖色系の光に照らされる。
「いやあ、見なれた部屋もこうして寝泊りするとなると妙に新鮮だなー」
照らし出された部屋を見まわして横島が呟く。
備え付けの本棚や接客用のソファにテーブル、
美神がいつも座っているデスクなどがあって
他の部屋に比べるとやや手狭なのだが、
元々十畳以上ある部屋なので布団を敷くスペースは十分にある。
部屋の中央にあったテーブルとソファを少し端に寄せ、
そこに持ってきた布団を投げ下ろした。
ぼふ、と重い音を立てる。
「おお、さすがに綺麗やなー。俺の部屋でこんなことしたら物凄い埃がたつのに」
絨毯の敷かれた床や棚には塵一つ落ちていない。
意地の悪い姑よろしく窓の桟に指を這わせてみるが、
その指先にも汚れや埃はつかなかった。
『美神オーナーの高い霊力でメンテナンスしてますからね。
埃くらいなら溜まらないように出来ますし、
換気もしっかりしてますからカビが生えるようなこともありません』
「うぅむ、こりゃまた至れり尽せりだなあ。しかし……」
呟いて横島は室内を見まわす。
「俺のところより広い部屋が四つに天井裏が一つか……」
他にも一階にはガレージと倉庫があり、
二階に台所、三階には風呂場などがある。
「ここの居住権の取得って俺も協力したんだよなー」
『はあ』
「女所帯だからさー、住まわせろとは言わんが
一部屋分の賃料くらい月々の給料に上乗せしてくれても
罰は当たらんと思わんか?」
『……』
結構本気で呟く横島に、呆れたように沈黙する人工幽霊一号。
「豊島区で最寄の駅から徒歩十分弱、
十畳のワンルーム、風呂トイレは共用か……
悪くない物件だよな。いくらくらいだろ」
『築年数がありますし、アパートではありませんから一概には言えませんが……
相場から言えば最低でも月五万くらいにはなりそうですね』
最近インターネットを導入した人工幽霊一号が
検索してみた結果を苦笑混じりに伝えてくる。
「お前のセキュリティは住むにはともかく、
事務所として貸すならプラス要素だよなあ。
そう考えれば相場より安くなることはないだろ。
むぅ、それだけ時給に上乗せされてたら……相当楽に高校生活を送れたよーな」
『あの頃の横島さんが美神オーナー相手に
そんな交渉ができたとも思えませんが……』
「……そういやそうか。というか今でも無理だよなー、そんなこと……ん?」
人工幽霊一号のもっともな指摘に横島が苦笑していると、
コンコンッっとリズムよくドアがノックされた。
「はいはい……おう、シロか。なんだ?」
慌てて駆け寄り、ドアを開けるとそこには人狼の少女、シロが立っている。
「先生、着替えや身の回りの品を取りに行かないのでござるか?」
「ん? ああ、そういえば」
確かに今手元には替えのTシャツとタオルが何枚かあるだけなので、
そういったものを取ってくる必要はあった。
と、そこまで考えた所でシロの上目遣いの瞳がきらきらと輝いていることに気付く。
横島のアパートまで電車で二駅。
行って帰って一時間少々といったところで散歩には手頃な距離だ。
が、どうせシロのことだから
一度散歩に出れば行って帰って終わり、とはいかないだろう。
まだ疲れの抜けきっていない身体に鞭打っては
無理をして今晩ここに泊めてもらう意味が薄れてしまう。
「……もう日付変わりそうだしな。明日にするよ」
「ええ〜」
がっくりと落胆するシロ。
あまりにあからさまなその様子に横島は苦笑して、思わず譲歩してしまった。
「わかったわかった、明日の朝、暑くなる前に行こう。な?」
「うう……きっとでござるよ?」
「ああ、わかった。きっとだ」
どちらにしても着替えなどは取りに帰らざるをえないのでそう言ってやると
シロも機嫌を直し、おやすみなさい、と挨拶をして部屋を出ていった。
やれやれとまだシーツも敷いていない敷き布団に横になる。
長いこと干されていないのでさすがにふかふかとは言えないが、
自宅の磨り減った煎餅布団よりは余程に柔らかい。
ずぶずぶと沈み込むような感覚に
そのまま眠ってしまいそうになった横島だったが、
その耳に再びドアがノックされる音が響き、我に返った。
「ふわあぁぁ……まだなにかあったか、シロ」
無理矢理布団から身体を引き剥がし、怪訝な顔でドアを開ける。
すると、
「あら、もう寝てた? ごめんなさい」
そこにいたのは美智恵だった。
「あ、隊長。いえ、大丈夫ですよ。なにか?」
「ええ、ちょっとお話ししたいんだけど、いいかしら」
「はあ……それじゃ」
美智恵も女性である。
部屋に二人きり、というのははばかられた横島はそのまま廊下に出た。
その配慮にやや複雑な顔をする美智恵だったが、
気を取りなおして話を始めた。
「横島君。わかってるわね?」
「へ?」
「こんな機会は滅多にないわ。男ならどーんと覚悟を決めなさい」
「は?」
「令子ね、今のままじゃ何時まで経っても変わらないと思うの」
戸惑う横島にそう言ってにやりと笑った美智恵は、わざとらしく後ろを向く。
その際、手からなにかがかちゃり、と音を立てて落ちた。
「……(よそみ)」
「……」
それは一つの鍵だった。
その鍵に取りつけられているプラスチックのプレートには黒いマジックで『302 令子』と書かれている。
「……何の真似ですか?」
沈黙に耐えきれなくなった横島が冷や汗を浮かべつつ聞く。
「……誰かが個人的に暴走して間違っちゃえば……」
「こわいぞ、あんたっ?!」
わくわくと期待を込めた視線を送ってくる美智恵に強烈な既視感を感じつつ、
横島は思わず大声を上げてしまった。
「いいじゃない、私もそろそろ孫の顔が見たいのよっ!
それにはこの状況は絶好の機会……」
腰の引けた横島に身も蓋もないことを言い募ろうとした美智恵だったが、
「いい加減にしてよ、ママッ!!」
「れ、令子、聞いてたの?!」
美神の私室の前で大声でそんなやり取りをしておいて
聞いていたのかもないものだが、
自室から飛び出してきた長女に突っ込まれて美智恵はたじたじとなる。
が、美智恵もすぐに態勢を立て直し、母娘は言い争いをはじめた。
「令子がいつまでも煮え切らないから
こうやってお膳立てしてあげたんじゃないの!」
「相手くらい自分でどうにかするわよ、余計なことしないで!」
「そんなこと言って、まるで男っ気なんてないじゃないの!
二十歳も過ぎて嫌だ嫌だで逃げ回って、婚期逃したらどうするのよ!」
「そんなのママには関係ないでしょ!
大体今は晩婚が普通なのよ、二十歳過ぎたくらいで騒がないでよ!」
「時代なんて関係ないわよ!
男は若くてピチピチしてる女のほうが好きに決まってるんだから!」
「婚前交渉を娘に勧める親がどこにいる!
早けりゃいいってもんじゃないでしょ!」
「自慢じゃないけど私が横島君の頃には、
もーあんたお腹にいたんだからねっ!!」
「あんたはホクちゃんの母親かっ?! ホントに自慢にならんわっ!!」
「……」
ネコ科の人類も真っ青な、あまりに露骨なやり取りに
居たたまれなくなった横島は思わず視線を逸らす。
と、床の上に転がった美神の私室の鍵が目に入った。
とりあえず美神にそれを渡してこの騒ぎを収めてしまおうと
日和った横島はそれに手を伸ばす。
しかし。
「なにを……してるのかしら?」
「……あぅ」
その途端に、ごりっと頭になにか硬いものが押し付けられた。
凄まじい殺気が頭の上から押し寄せてくる。
「……横島君。その鍵を床に置いてゆっくり手を上げなさい。
妙な気は起こさないように。この銃の引き金は軽いからね」
「は、はひ……」
元々美智恵に返そうと拾い上げただけなのだが、
彼女の剣幕に押され、思わず鍵を放り出して両手を上げてしまう。
「よろしい」
銃口を横島に向けたまま、鍵を拾い上げる美神。
後ろで美智恵がまだ何か言っているが、まるで聞いていないようだった。
そのまま鍵をズボンのポケットにねじ込むと、
「それじゃお休み、横島君。
明日の朝日を拝みたかったらおかしな事考えないようにね?」
美神はこめかみに青筋を立てながらにっこりと微笑んでそう言い、
美智恵の肩を掴んで彼女の私室のある二階に降りていった。
その姿を呆然と見送った横島だったが、
美神の姿が見えなくなると我に返り、
「……うーん、もったいなかったよーな、ほっとしたよーな」
苦笑しながらそんなことを呟いて部屋に戻る。
Gパンも脱がずに布団に倒れ込んだ。
「……なんかどっと疲れた。もー寝る」
そのまま周囲に手を這わせ、毛布と枕を引き寄せる。
もぞもぞと頭の下に枕を入れ、毛布をかぶった。
『さっきあれだけ寝たのにもう眠れるんですか?』
「少年漫画の主人公は寝るのが上手いと
青い猫型ロボットの昔から決まってるんだよ……お休み」
そう言って目を閉じるとあっという間に横島は規則正しい寝息を立て始めた。
眠るのが上手いというより、
身体のほうの疲労がまだ抜けきっていなかったのだろう。
『……おやすみなさい』
そう静かに囁くと人工幽霊一号は部屋の明りを消す。
真っ暗になった部屋に空調の微かな唸りだけが響き続けた。
「……眠れ、ない」
ベッドに横たわったキヌがぼそり、と呟いた。
先ほどの除霊作業でそれなりに疲れてはいる。
この状態ならいつもなら皆の食事の片付けを済ませ、風呂に入れば
後は泥のように眠ってしまうのが常であるのに、
今日に限っては明りを消し、瞼を閉じても、
眠りの神は一向に彼女の元を訪れない。
コチコチと壁にかかった時計が立てる音が妙に大きく感じられる。
どくどくと激しく流れる血液が酷く熱い気がしてじっと目を閉じていられない。
「……ああ、もうっ」
我慢できなくなったキヌはかかっていた薄手の毛布を跳ね除けて起きあがった。
ベッドの脇に揃えてあったスリッパに足をつっかけ、自室の出口付近まで歩くと、
ドアの横のスイッチを入れ、明りをつける。
ぼんやりと天井を見上げて、ほう、と一つ溜息をついた。
「……横島さん、あそこにいるのよね」
そう言って頬を赤く染める。
キヌの借りている二階の部屋は横島にあてがわれた執務室の丁度真下だった。
「だ、だれか横島さんのところに行ったり……してるのかしら……」
この建物は壁は厚いので声などは聞こえてこないが、
なにせい古い建物なので防音の処置などは施されておらず、
そのため時折天井からいつもは聞こえない、人が歩き回る微かな気配や
ドアを開け閉めする音は聞こえたりするものだから、
その度にキヌは落ち着かなくなってしまい、眠れないのだ。
「その……よ、夜這い……とか……〜〜〜っ!」
自分で言っておいて耳まで赤くなる。
ベッドに突っ伏して枕に顔を押し付けた。
頭の中には週刊誌やらなんやらから取得した
非常に偏った情報がぐるぐると渦巻いている。
「み、美神さんはそんなこと……
ああ、でも結構ノリと勢いで突っ走っちゃう人だし……
シロちゃんはあの通りだし、
タマモちゃんだって満更でもなさそうな素振り見せることあるし……
だ、大体隊長さんがこんなこと言い出したのだってその……」
情報のソースが女性週刊誌等なので少々突飛な妄想もOKである。
横島の方から夜這いにくる、という可能性をあまり考えていないのは
日頃セクハラの対象になっていないために危機感が薄いからだろうか。
一番危ない立場にある少女がベッドの上で枕に顔を押し付け、
ジタバタと横島の貞操の危機を案じるという、なにやら滑稽な情景が展開される。
と、唐突に揺れていた足が止まり、枕に埋められた顔があげられた。
「ああ、もういっそ私が先に……ってきゃーきゃーっ?
なに? なにを考えてるの、私ってばぁぁぁっ?!」
一瞬、少年漫画の枠を大幅に飛び越えた発言をしようとして我に返る。
さすがに自分の言おうとしたことのきわどさに気が付いたキヌは
頬どころか首まで真っ赤にしてベッドの上を転がりまわった。
ただ、問題はそこはかなり大きめとはいえ
一人で寝るためのベッドの上だったことである。
当然。
「きゃーきゃーっ、……って、わああっ?!」
ベッドの端から30センチほど下の
絨毯の敷かれた部屋の床にすべり落ちてしまった。
生き返ってからというもの、江戸時代とは桁違いに良い栄養状態に
最近みっしりと肉の厚くなってきたお尻が重たい音を立てる。
「あいたたたた……何をしてるのかしら、私」
怪我や事故を防ぐためにこんなことになっているのに、
ベッドから落ちて怪我をしたでは本末転倒である。
したたか腰を打ったキヌはようやく頭を冷やした。
「はやく寝よ……はっ?!」
疲れたようにそう呟いたキヌは明りを消そうと
のろのろとドアの脇のスイッチまで歩いていく。
がしかし、そこへ手を伸ばしたところで再び天井から
みしり、と人が動く気配がした。
「あうあう……な、なんでもないでしょ。
まだ十二時過ぎだもの、横島さんだって起きて……おきて……あうぅ」
まだ頭に先ほどの妄想が残っていたらしく、それを聞いたキヌは
スイッチに指を添えたまま、ぶしゅぅ、と頭から湯気を立てて固まってしまう。
しばらくその姿勢のまま逡巡していたが、
「うぅ……えいっ!」
意を決したようにばちん、とスイッチを切った。
ばたばたとベッドの方に駆けていき、飛び込むと頭から毛布をかぶる。
「気にしない、気にしない、もう寝るの、寝るの、寝なきゃ……」
真っ暗な室内でぶつぶつと呪文でも唱えるようにつぶやき続けるキヌだったが、
かえって眼は冴える一方だった。、
何処かで微かにでも物音がするたびにびくり、と身を硬くする。
真っ暗な部屋の中でそんなことを繰り返しながら、
キヌの夜は妙に緩慢に過ぎていく。
三階の浴室。
ざあざあとシャワーのお湯が流れる音が響いている。
もうもうとたち込める湯気の中、
ややぼんやりとした表情で美神がシャワーを浴びていた。
「……はっ? なんでまたお風呂に入ってるの、私?!」
かつて横島に誘っているのかと勘繰られたほど頻繁にシャワーに入る美神だが、
夕食後に一度入っているのに二時間もしないうちにもう一度、というのは
さすがに入りすぎ、という気がする。
先ほど母美智恵を二階の彼女の部屋に押し込むと、
三階に帰ってきた勢いで思わず入ってしまったのだ。
「うう、さっきの今でシャワーなんか浴びてたら
それこそ誘ってるみたいじゃないの。なにしてるのよ、私は」
少々頭に血が上っている自分を自覚する。
「ああもう、ママが余計なことばかりするからっ!」
そう言ってシャワーの青いハンドルを回した。
降り注ぐお湯の温度がすうっと下がっていき、ほてった身体が引き締まる。
「ふう……」
頭も大分冷やされたところで美神はシャワーを止めた。
掛けてあったタオルを手に取ると濡れた髪を拭き、頭の上で手早くまとめる。
その間も凝脂の上の水滴は弾かれるようにつるつると伝い落ちていった。
「この肌のどこが歳だっていうのよ……!」
こめかみに青筋立てながらもう一枚バスタオルを手に取り、身体を拭いていく。
身体を覆うようにバスタオルを巻きつけ、体重計のスイッチを入れる。
先ほど入った時も測ったのだが、つい癖でそれに乗った。
「よし、増減なし。曲がり角なんてまだまだ先だっての」
満足げに呟くと備え付けてあるタンスに手を伸ばす。
引出しを開けて中に詰め込まれた下着の山の中から一枚取り出した。
「……ん?」
片足を通そうと上げたところで美神は少し考え込んでしまった。
広げてみるとその下着はごく普通の白いもので、普段用。
布も厚く腰周りを全体的に覆うタイプでやや野暮ったい。
それをしばらくじっと見つめていた美神だったが、
「……こ、こっちにしよ」
何を思ったのか、ちょっとだけ上等で布の面積の少ない黒い下着と取り替える。
「べ、別に期待してるとかそういうことじゃないのよ?
なにかのアクシデントで見られないとも限らないもの、
みっともない格好をしないってだけなんだから……あ、でも」
それをはこうとしたところで待てしばし、と再び固まる。
「……こんなのはいてたらなんか私が期待してるみたいに思われないかしら」
確かに広げてみるとその下着は少々扇情的に過ぎて、
あらぬ誤解を招きそうな気がする。
「も、もっとこう落ち着いた感じのは……」
そうしてタンスを描きまわす。
取り出したものは今度は地味に過ぎる気がした。
「む、う……」
続けていくつか取り上げてみるが、
どれも帯に短し襷に長し、でどうもしっくり来ない。
冷静になって考えれば、派手に過ぎず、といって地味過ぎず、
劣情は刺激しないが色気に欠けることもない、などという
矛盾のカタマリのような下着などあるはずもないわけで、
どれを選んでも何か違う、と感じるのは当たり前なのだが。
やはりどこか動揺していたのだろう、美神はそれに思い至らず、
延々浴室で下着を選び続ける羽目に陥った。
それも、
「ふぇっくしゅんっ!」
湯上りのバスタオル一枚の姿で。
「……この単細胞は」
明日は朝から先生と散歩でござる、と上機嫌で戻ってきたと思ったら
ベッドに飛び込みあっさり眠ってしまったシロを
半眼で見下ろしながらタマモは唸った。
自分たちの部屋の下に横島がいる。
そんなとんでもない状況になっている夜に
さっさと眠ってしまうなどどういう神経をしているのだろう、と。
「そりゃあアイツがここに夜這いに来るとは思わないけどさ。でも……」
横島の日頃の言動を見ていれば彼女やシロが
まだ彼の守備範囲を外れていることはわかる。
だから、その点はタマモは心配していなかった。
だが。
「美神さんやおキヌちゃんはバッチリ範囲内じゃないの。
そっちをあのケダモノが我慢できるとは……ちょっと考えにくいわよね」
タマモにしてみれば誰と横島がくっつこうがかまわない。
美神とは互いになにか強固な縁があるようだし、
キヌは本気で彼を好いているようだ。
シロは肉親への親愛と混同している節がないでもないが、
閉鎖されて一ヶ村丸ごと大家族みたいな人狼の里で育てばそんなものかも知れぬ。
とにかく、三人が三人ともそれなりに似合いの連れ合いになるだろう。
あるいはそこに自分を擬することにもそれほど抵抗はない。
少々スケベで頼りないが性根は悪い男ではなし、
妖物である彼女を保護できるGSと言う社会的地位も一応持っていて、
霊能力も生きる力もこの時代の人間としてはかなり強い部類、というのは
よく考えてみればそうそう転がっている物件ではない。
他の三人から奪い合ってまで手に入れたいとは思わないが、
向こうから求められれば応えることに吝かではない。
ただ、そういう結論がでることになった場合、
その後に事務所に起こるであろう事態をタマモは恐れていた。
すなわち、美神除霊事務所の現状の崩壊である。
美神にせよ、キヌにせよ、また、シロにしたところで、
横島が誰かを選んだ場合、
それを――一抹の寂しさを感じつつも――祝福しこそすれ、
それをどうにかしようなどとは考えないだろう。
しかし、今と同じ人間関係を続けていくことは不可能だ。
例えば横島が美神を選んだとして、この事務所で暮らす
――美神はこのあたりに部屋を借りることができないらしい――ことになったなら、
キヌもシロも今まで通りこの事務所に留まることはしたがらないだろう。
保護されているタマモと違い、
二人はこの事務所にいなければいけないわけではないからだ。
キヌもシロも郷里に帰るか、他の事務所に移籍するか、
そこまで行かなくてもどこか近場にでも部屋を探して
ここを出ることを考えるだろう。
たとえなんらかの手段でそれを阻止したところで
どこか気まずい空気になることは避けられない。
また、横島がキヌやシロを選べば、二人は彼の元へ行ってしまう。
なんだかんだで面倒見のいい美神はそれを止めるどころか、
二人で暮らす場所くらいは提供してしまいかねない。
事務所を辞める訳ではないから通っては来るが、
そこに流れる空気はどこかよそよそしくなるだろう。
どちらにしろ、この居心地のいい空間は変質を免れない。
千年前からタマモがその能力の全てをもって求め続けた平穏な生活。
その理想にこの事務所の現在は
いままで彼女が過ごしてきた中で最も近いものだ。
それが、ようやく手に入ったこの平穏な生活が崩れてしまう。
それはタマモの望むところではなかった。
いずれはそういう選択と変化を迫られるとしても、
もう少し段階を踏んで、心の準備を済ませてからにして欲しい。
「……よし」
居場所は自分で確保するものだ、
そう結論付けたタマモは意を決したように立ち上がり、
太平楽ないびきをかいているシロを残して屋根裏部屋を抜け出した。
ぺたり、ぺたり、ぺたり。
今夜は人工幽霊一号が横島につきっきりなので
明りがつけっぱなしになっている廊下に
忍び歩くタマモの裸足の足音が微かに響く。
横島がいる部屋は美神の私室の隣なので、下手に物音を立てれば
飛び出してきて大騒ぎになりかねない。
そこでスリッパを履かずに三階に下りてきたのだ。
掃除の行き届いた廊下のフローリングがひんやりと心地よい。
階段を降りたところでタマモは周囲を見まわした。
「ふ、ふふ……帰命頂来、美神さんももう寝てるみたいね」
しん、と静まり返った三階の廊下の様子にタマモは北叟笑み、
足音を殺して横島がいるはずの執務室に近づいていく。
横島が幻覚系の術に無防備なのは最初に出会った時にわかっている。
そっと執務室に入り込み、有無を言わさずまた術をかけてしまえば
今夜一晩部屋でおとなしくさせておくことも可能なはずだ。
「問題は明日からだけど……ま、それは明日考えればいいわ」
タマモの幻覚はいわゆる昔話の狢が使う化かしのようなものなので
覚めた時に化かされた、と気付かれてしまう。
今夜は上手くいっても明日も上手くかかってくれるかはわからない。
が、そのあたりは最後に眠るシチュエーションでも用意してやれば
気付かれずに済むかもしれない、と気楽に考える。
どちらにしろ、今夜を無事にやり過ごさなければ明日はないのだ。
「それじゃ……いい夢見せてあげるわよ、横し……っ?!」
ニィ、と笑って執務室のドアノブに手をのばしたそのとき、
ガチャリ、と奥の浴室のドアが開く。
ぎょっとしてそちらに視線を向けると、
中から出てきたのはいつも着ているようなものより
やや薄手の寝巻きを着込んだ美神だった。
随分前にシャワーの音が止んでいたので
もう私室に戻ったものとばかり思っていたのだが、
どうやら今まで着るものを選んでいたらしい。
「……」
「……」
目が合う。
二人はそのままの姿でぎしり、と固まった。
ややあって美神はぎこちなく表情を変える。
「なにを……してるのかしら? タマモ」
「え、ええと……」
本人は笑みを浮かべているつもりだろうが、
端から見れば獲物を前にした狼のような美神の表情に
タマモはドアに伸ばしていた手を引っ込めた。
「いい夢見せてあげるってあんた、結構大人だったのね……」
「え、あ、いやそれは」
思いっきり勘違いしている美神にやっと気付き狼狽するタマモ。
なんでそこだけきっちり聞いているのだ、と歯噛みしつつ、
どう説明すればいいか考えて口篭もっていると、美神はなにやら一人決めして
「うん、まあいいのよ。
あんたがそういう気持ちでいたってのはちょっと意外だったけど。
ただね、うん、そのもうちょっと自分を大切にした方がいいんじゃないかなあ」
「いやあの」
「いや、いいのよそれは。うん。誰を好きになったってそれは。
いつも興味無いって顔してたから全然気が付かなかったけど」
「で、ですから、ね」
「うぅん、それにしてもタマモが、ねえ。伝説の『傾国』までひきつけるとは
アレのもののけに好かれやすい体質も筋金いりだってことかしら」
そう勝手に一人決めしてうんうんと頷く美神にタマモの神経が逆撫でられる。
「違うって! 美神さんたちと一緒にしないでよ!」
「な、なによそれ」
「その寝巻き! いつもの色気の無いのと全然違うじゃない!
意識してるのがバレバレよっ!!」
「うっ?!」
言われてみれば今美神の着ている寝巻きは彼女がいつも使っている、
無地に長袖、裾の長いワンピースや、
縦縞の上下などの素っ気無いデザインのものとは違った。
ぱっと見た感じではそう派手なものではないが
よくよく観察すると布地が薄い上に、肩口や胸元が露出していて妙にあだっぽい。
事務所ではシンプルなデザインのものを好んで着ることが多い美神にしては
珍しいチョイスと言えた。
今晩に限ってそんなものを着ていることが、
今すぐそこに横島がいることと無関係であるはずもなく。
案の定、
「ば、馬鹿なこと言うんじゃないわよ!」
それを指摘された美神はわかりやすく動揺し、つい語調が荒くなってしまった。
そんなわかりやすさにタマモは余裕を取り戻し、へへん、と鼻で笑う。
「そうやってアプローチ待ってるだけだと進展しないですよぉ?」
「む、ぐ、が……あ、あんたねえっ!」
あっさり挑発に引っかかった美神が思わず大声をあげようとしたその時。
「二人とも……なにをしてるんです?」
「え」
「あ」
二人は後ろから響いてきた訝しげな声に遮られ、慌てて振り向く。
そこには二階に続く階段からひょっこりと顔を出したキヌの姿があった。
手にタオルと洗顔クリームを持っているが、
それが言い訳であるのは執務室の前で角突き合わせる美神とタマモを見る
疑惑に満ちた目で一目瞭然である。
一向に止まない物音にこらえきれなくなって様子を見に来たのだろう。
そのキヌの視線に耐えられなくなったのか、美神が上ずった声を上げる。
「ちっ違うのよおキヌちゃん! これはタマモがっ」
「ええっ?!」
確かに最初に執務室にやって来たのは彼女なのだが、
少々事実の誤認があるので納得のいかないタマモは抗議の声を上げるが、
「……タマモちゃん?」
「は、はひっ!」
どろりらどろりら、と効果音が聞こえてきそうな
異様に低められたキヌの声に思わず背筋が伸びる。
「そ、そうよ、タマモ! そういうのはその、駄目なんだからね!」
「……そういう美神さんも今日は随分色っぽい寝巻きですね?」
「うっ、そ、それは……」
「で、でもおキヌちゃんだって、その、こんな時間に何しに上がってきたのよ。
いつもはもう寝てる時間じゃない!」
矛先がそれたのを幸い、タマモが逆襲に転じた。
しかし、
「そういう日もあります」
「え、あ、そ、ソウデスカ」
あっさりと言いきられて二の句が継げない。
(こ、これは分が悪い……!)
キヌから発せられるプレッシャーに押された二人は目を見合わせて微かに頷く。
「わ、わかったわね、タマモ! 今日はもう遅いんだから部屋に戻って寝なさい!」
「は、はいっ!」
「私ももう寝るわ! おキヌちゃんもあんまり夜更かししちゃ駄目よ!
それじゃ、お休み!」
有無を言わせずそう言いきるとタマモの背を押し、自分も身を翻して私室に戻る。
「……」
その様子にキヌも浴室に向かって歩き出した。
(それにしても……タマモがあんな積極的に打って出るとは……
気がない振りに油断してたわっ!)
私室のドアを開けつつ美神はそう臍をかむ。
(美神さんがあんな寝巻きを着てるなんて……これは本気ですね!)
浴室のドアノブに手をかけつつキヌはそう警戒する。
(おキヌちゃんみたいな娘は思い込んだら厄介だわ……
これは実力をもってしてでも止めなくちゃ!)
ぺたぺたと天井裏への階段を上りつつタマモはそう決意する。
(((今夜は……)))
期せずして三人が揃って僅かに振りかえった。
(((寝るわけにはいかないっ!!)))
バチバチ、と三者三様に勘違いし、緊迫感を漂わせた視線が
三階の廊下の空中で激しく交差する。
その激しさに場の空気が音を立てて固まった。
じぃわ、じぃわ、じぃわ、じぃわ……
今日も強くなることを予感させる朝の日差し。
その中でまだ気温の上がりきらぬ今のうち、とばかりに鳴き出した蝉の声が
閉めきった窓を通しても微かに聞こえてくる。
「だーうー」
「ほらひのめ、あーん」
「むー、んーんー」
そんな中、執務室では美智恵がひのめに朝食を食べさせている。
お盆が近いということもあって、美智恵の奉職するICPO超常犯罪課日本支部、
通称オカルトGメンも多忙を極めており、
朝から出勤するべくかなり早い時間に起き出したのだが、
彼女が起きた時には既に執務室には誰も居なかった。
ガレージの前の事務所と歩道の間のスペースには
昨夜横島が使ったらしい布団が干してある。
どうやら日の出とともにシロに叩き起こされ、連れ出されたようだ。
(むー、シロちゃんがなにも気付かなかったということは
何も無かったってことかしら)
人狼であるシロの超感覚なら昨夜になにかあればすぐに気が付くだろう。
なんの騒ぎにもならずに散歩に行っているということに
目論見が外れたことを察して美智恵が少々落胆していると、
散歩から帰ってきたらしい横島とシロがドアを開けて入ってきた。
部屋の中に美智恵とひのめを見とめた二人は軽く頭を下げて挨拶をする。
「あ、おはようございます、隊長、ひのめちゃん」
「おはようございます、美智恵殿、ひのめ殿」
「あら、横島君、シロちゃん、おはよう。
昨夜はよく眠れたみたいね」
「やーまー、しーしー」
いつも遊んでくれる横島とシロの入室に気を取られるひのめを抱き上げつつ、
美智恵は二人の様子を観察した。
二人とも汗だくではあるが、シロは勿論、横島も大分回復したようで
かなりさっぱりとした表情をしており、血色もよくなっている。
どうやら彼の睡眠を妨害するような出来事は起こらなかったようだった。
「ええ、お蔭様で久しぶりにぐっすり眠れました」
そんな美智恵の落胆を敏感に察したのか、横島は苦笑しつつそう答える。
アテが外れた美智恵は少し眉をひそめたが、
(ま、いいわ。夜は昨日だけじゃないんだし)
こっそりとそう考えてすぐに気を取りなおす。
そして、今日はまだキヌが起きてきていないので
二人の分の朝食を用意しようと立ちあがろうとした時だった。
「……おはよう」
「……おふぁよほうござひまふぅ」
「……」
執務室のドアが緩慢に開き、
どんよりとした空気をまとわりつかせた美神とキヌ、そしてタマモが入ってくる。
昨日の彼とよく似た雰囲気の三人を見た横島は思わず目を丸くして聞いた。
「あ、あの、三人とも、どうしたんすか?」
「……なんでもないわよ」
「いえ、ちょっとよくねむれなくて」
「……」
三人とも酷く機嫌が悪いようで木で鼻を括ったような返答が返って来た。
「ええと……」
取り付く島の無いそんな様子に横島が口篭もっていると
目を据わらせた美神ががしっと肩を掴んで顔を近づけてきた。
「……横島君」
「は、はい?」
「今日はエアコン買いに行くわよ」
「へ?」
「札束積んでもあんたのところにエアコン付けさせるからねっ!
ついてきなさいっ!!」
「え? ええっ?」
目を血走らせてそう宣言すると、
何がおきているのかわからない横島の首根っこを引っ掴み、
そのままずるずると執務室を出ていってしまった。
キヌとタマモもそれに続き、ばたん、と執務室のドアが占められる。
「……あらら」
「ど、どういうことでござるか?」
後にはしまったー、と言う顔をしている美智恵と、きょとんとしているひのめ、
そして何が起きているのかわからないシロが残された。
窓からさし込む夏の日差しだけがじりじりと強くなっていく。
そこから見える真っ青に晴れ上がった空は
まだまだ暑い日々の続くことを暗示しているようだった。
エピローグ
横島のアパートにエアコンを無理矢理取り付けた数日後。
一雨来たためにかえって蒸し暑くなった気がする午後。
今日も今日とて除霊作業の準備に余念が無い美神除霊事務所に
電話のベルが鳴り響いた。
いつもはキヌが電話に出るのだが、その日はまだ横島が出社しておらず、
かわりに機材を運び込んでいたので近くにいない。
仕方なく執務室にいた美神が受話器を取った。
「はいはい、はい、美神所霊事務所……って横島クン?
何してるの、今日は午後一で大仕事があるって……
はあ? 風邪ひいたぁ?!」
慣れないエアコンに要領がわからなかったのか、
設定温度を下げすぎた挙句、つけっぱなしで寝てしまった。
喉をやられてがらがらの声でそう告げてくる横島に、
受話器を握り締める美神のコブシはぷるぷると震え、
こめかみのあたりに青筋がビキビキと盛りあがる。
そして、
「こ、の……、馬鹿っタレエエエッ!!」
事務所中に聞こえるような美神の怒声が響き渡った。
結局この時ひいた夏風邪が長引いた横島は、
その夏まるで戦力にならなかったそうである。
了
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