何か少しの切っ掛けで人は大きく変わることができる。
ただ、今までの私はその少しを踏み出す勇気を持っていなかった。
だけど、今日の私は違う。
ほんの少しの勇気が私―――氷室キヌの背中を押していた。
夏の太陽の下。
開放的になった男女は恋に落ちてゆく。
身も心も薄着になった私の姿は、彼の目にはどう映っているのだろう。
―――――― 【夏企画】Strange Fruit U ――――――
男の人の視線を意識するようになったのはいつの頃からだったろう。
幽霊の頃には考えもしなかった、男の人が自分の胸やお尻に向ける視線。
すれ違う中学生やサラリーマンが、チラリと胸に向ける視線に私は気づいている。
今日の服装はピンクのキャミソールと白のショートパンツ。
キャミソールから覗いた肌が、そんなに人目を引くとは私自身思っても見なかった。
ちょっと大胆すぎたかな・・・・・・
ね、どう思います? さっきから私の胸ばかり見ている横島さん!
フェイントを入れてとばした視線に、慌てたように顔を逸らす横島さん。
ふふ、耳まで真っ赤にして可愛い・・・
私はそんなことくらいじゃ怒りませんよ。
他の女の人にそんな視線向けたら怒るけど。
どうです? 私の胸、魅力的ですか?
これでも日々成長してるんですよ。
美神さんなんか、すぐに抜いちゃいます。
きっと、たぶん、いつかは・・・・・・
うーっ、いけない。一瞬、弱気になってしまった。
私は如何にも暑さに参っている振りをして、キャミソールの胸元を摘みパタパタと動かす。
そこには私の勇気の源があった。
「ふう、暑いですね。 横島さん」
「え、あ、そう、そうだね」
わざと遠くを見るふりをして胸元を仰ぐ。
目は横目でしっかりと横島さんの方を確認。
凄い真剣な顔で私の胸元を見てる。怖いぐらい・・・
そのくせ私が少しでも顔を向けようとすると慌てて視線を反らせて。
ふふ、横島さん。意外と意気地無しなんですね。
安心してください。私、そんな横島さんも好きですよ。
美神さんには遠慮しない所は嫌いだけど。
いいですか? これで分かったでしょう?
私も女の子なんですよ。ちゃんと体のある生身の・・・・・・。
「アレ、横島さん、顔が赤いですよ? 風邪ですか?」
「いや、大丈夫、なんでもない。元気過ぎちゃって困るくらい・・・・・・」
「良かった。まだまだ買い物しますから元気いっぱいでいてくれないと・・・・・・ほら、まだこれだけしか買い物してないんですよ!」
私はかがみ込むように、横島さんに持って貰っている買い物袋を覗き込む。
もちろん見るためではなく見せる為に。
私は今日の買い物を彼との勝負だと思っていた。
「明日、シロちゃんとタマモちゃんが人狼の里から帰ってきますからね。腕によりをかけてご馳走作ってあげなくっちゃ」
「ははは、美味しそうなサクランボだね。流石、おキヌちゃん」
「もう、ナニ言ってるんですか、料理しないフルーツなんて誉められても嬉しくなんかないですよ!」
私は拗ねたようにポカポカと横島さんを叩く。
もちろん片足の膝をピョコンと曲げるのは忘れない。
ふふふ、知ってます?
これ、ポカポカパンチって言うんですよ。
作戦・戦法・戦略・効率等、一切の謀を捨て去った純粋な感情のみ。
恐らくは、多分、人類最古の最終兵器・・・・・・
どうです横島さん。早く参ったして下さい。
「おキヌちゃんっ!」
突然私の腕を掴んだ横島さん。
彼は苦労して私の胸元から目を逸らしている。
もの凄い葛藤があるのかな? 首と目の筋肉が痙攣している。
私はただ黙って横島さんの言葉を待った。
「本当にゴメン!」
「キャッ、横島さん何を!」
私にかけられた言葉は手短な謝罪だった。
横島さんは混乱する私の手を引くと、早足に近くの婦人服店に飛び込んでいく。
そして、いつもの私が着ているようなノースリーブのワンピースを選び取ると、目を合わせようともせず差しだしたのだった。
「服、着替えてくれないかな・・・・・・プレゼントするから」
気まずそうな彼の言葉に、心臓が締め付けられる。
今日の服装、好きじゃなかったの? ひょっとして私の空回り?
ほんの少し勇気を出した精一杯のお洒落。
それを否定された私は、急に足下が崩れ落ちたような感覚に襲われる。
やだ、鼻の奥がツンとして来ちゃった。
このままじゃ、私、泣いちゃう。
「あ、あの、変でした・・・? この・・・・・・」
どうしよう。声が出ない。
だけど、今にも泣き出しそうな私にかけられたのは、とても照れくさそうな微笑みと優しい声だった。
「その逆。すっげー可愛くて似合ってる」
「え? じゃあ、どうして・・・・・・」
「もう俺は十分見たし、他のヤツには見せたくないんだ。ダメかな?」
―――この男、
陥落したっ!
もうっ! 心配しちゃったじゃないですか!
他の男には見せたく無いって。
それって凄く独占欲強くないですか。
意外と我が儘なんですね。忠夫さんは・・・・・・
「2回目ですね。服プレゼントして貰うの・・・・・・」
私はクスリと笑うと、忠夫さんが差しだしたワンピースを受け取り試着室へと入っていく。
その中で私が見せた喜びの舞は、とても彼には見せられない。
「ふふ、似合いますか?」
ワンピースの裾をつまみ、その場でくるりと一回転。
そんな私の胸元を凝視した忠夫さんは、ホッとしたような、残念そうな、何とも言えない表情を浮かべていた。
他の人に見せたくないんでしょ! 我慢してくださいね。
実は私も、すれ違う人の視線は恥ずかしかったんです。
勇気を出したのは忠夫さんに見て貰うため。
肉を斬らせて骨を断つ。サムライの心ここに有りです。
「ああ、とっても・・・・・・じゃあ、会計済ませてあるから、行こうか」
差し出された右手に高まる鼓動。
私はお店の袋に今まで着ていた服を入れると、左手で忠夫さんの手にそっと触れる。
さっきの荒々しさとは違う力強さが私の手を包んだ。
忠夫さんの手って、こんなに大きかったんだ・・・・・・
優しく力強い手に引っ張られ、私は忠夫さんの後をついていく。
もう、少し歩くの速すぎませんか?
買い物をどんどん済ませて事務所に帰ろうとしちゃって。
安心してください、さっきみたいな姿、これからは他の男の人に見せたりしませんよ。
もちろん、アレ以上は忠夫さんでもダメです。
アレ以上は忠夫さんが勇気を出してくれないと・・・・・・
もっと私が勇気を出せるように。
私は、早く帰ろうとする忠夫さんに、少しだけ抵抗を試みる。
「あ、危ないよ! おキヌちゃん」
「大丈夫ですよ。ずっと手をつないでいてくれれば・・・・・・」
ビルの植え込みの段差に足をかけ、平均台のように登っていく私に忠夫さんは驚いたように歩く速度を緩める。
どうです? これなら速く歩けないでしょ。
それに他の人に胸元を覗かれる心配も無いし・・・・・・
地上50センチ位の段差を、私はゆっくりと歩いていく。
私の思惑が分かったのか、忠夫さんは呆れたように笑うと私のペースに合わせてくれた。
「あ・・・・・・」
「どうしました?」
私の隣りに並んだ忠夫さんが、何かに気づいたような声を出す。
どうしたんだろう? ノースリーブの袖口からまだ見えちゃってるのかな・・・・・・
見せてもいいかと思ってたけど、こうなると少し恥ずかしいな。
じっと凝視するような目に、忠夫さんの目の高さにある左脇がムズムズする。
でも、タダタダになら見せてもいいかな・・・って、今日のキヌキヌはちょっとだけ大胆になっちゃいます。
「な、なんか良いものでも見えましたか?」
「あ、いや、ワンピースの首の所、値札付けっぱなしで出てきちゃった」
「イヤだ。恥ずかしいっ!!」
私は忠夫さんの手を振りほどくと大慌てで襟足の値札を取ろうとする。
本当に恥ずかしい。勝手に盛り上がってタダタダなんて・・・・・・
消えてしまいたいほどの自己嫌悪に、なかなか値札を掴めない私。
自分の立っている場所も忘れ、不用意な一歩を踏み出した私は段差から足を踏み外してしまう。
「キャッ!」
「危ないっ! おキヌちゃん!!」
段差から落ちた私を受け止め、忠夫さんも大きくバランスを崩す。
地面に倒れ込む私たち、でも忠夫さんは身を挺して私が地面に倒れるのを防いでくれた。
「イタたた・・・おキヌちゃん、大丈・・・・・・」
「はい、忠夫さんが守ってくれましたから。イヤだ、私ったら横島さんのこと忠夫さんなんて・・・・・・」
つい口にしちゃった忠夫さんという言葉。
でも仕方ないですよね。身を挺して守ってくれたことが本当に嬉しかったんですから。
私を受け止めるため地面にぶつけちゃった後頭部。御陰で私にはかすり傷ひとつありません。
忠夫さんの上に馬乗りになっちゃったけど、重くないですよね? 忠夫さんと呼んだことと合わせて・・・・・・
私はチラリと忠夫さんの顔色を窺う。忠夫さんは私の言葉など耳に入っていない様だった。
忠夫さんは凍り付いたように一点を見つめていた。
「忠夫さん?」
私は首を傾げながら、石になったように動かない忠夫さんの視線を辿り始める。
彼の視線の先には、忠夫さんのお腹の上に尻餅をついたような私の姿。
そして大胆にめくれているスカート。モロに見えちゃってるパンツ。
「キャッ!」
私は慌てて飛び退くと、ぺたりと地面にへたり込みスカートを抑えつける。
ど、ど、どうしよう。至近距離で思いっきりパンツ見られちゃった。
それも妄想に浸っている間中しっかりと・・・・・・
こんなお約束な展開、テレ東ならばオリジナルストーリーに変えられ・・・って、ちがーうっ!!
ナニ訳の分からないコト考えているのよ私はっ!
いい、氷室キヌ。落ち着くの。そう、落ち着いて・・・・・・
そこまでの覚悟はしてなかったけど、もともと今日の下着はそのつもりで買ったヤツじゃないの。
見せることを意識した可愛らしい勝負下着。油断したパンツを見られなかった事をラッキーと思わなくちゃ。
そう、何事もポジティブシンキング。勇気を持つのよおキヌ。
流れはこっちに来ている。これを期に一気にたたみ掛けるしかないわ。
毎日密かに練習している萌えポーズ。
軽く握った拳で口元を隠し、小動物の様に目を潤ませじっと見上げる上目遣い。
そして体は、ぺたりとハの字に崩れた女座りから始まり、頼りなげな腰、俯いた首筋、小さくしょげかえる肩。
都合27箇所の関節を利用し萌えを加速させる。
そこで震えるような声で「見ましたね・・・・・・」と呟けば、忠夫さんは慌ててフォローを入れてくるだろう。
いや、それで本当に忠夫さんを落とせるのだろうか?
本当にそれが今の私に出来る最大の萌えなのか?
買い物袋の中。偶然割れずにいた卵が目に入る。
いや、偶然ではない。卵はその身を守るために、強靱な殻を願ったのよ。
この頭上に生い茂る木・・・その葉を食べたい!
そう願い、キリンは首を伸ばした。
象は鼻を伸ばした。
そう、生き延びるためなのよっ!
トラの縞模様ッ・・・・・・
昆虫の擬態ッ・・・・・・
コブラの毒ッ・・・・・・
どれも生き残らんが為なのよ!
彼ら生物たちの生に対する執念ッッ
それによってもたらされる進化の大きさッッ
それに比べたら、萌えの為の肉体改造などなんて慎ましいものなの・・・・・・できるッ!
こう? 違うッ!
こう? 違うッ!
こう!!? これよ・・・・・・
ドロドロに緩めた体。
口元に持っていく拳は握らない、開かない、人類が最初に形造る手のかたち。
そして関節は、チェーンの様に夥しく連結した鞭のイメージ・・・・・・これだわ。
フフッ・・・・・・自分で震えている。
パンツを見た忠夫さんにツッコミを入れる。
そんな美神さんならごく日常な行為の前に、私は震えている。
確かに手にしたキャミソールから覗く胸元の手応え。
それを、全身で・・・・・・全力で・・・・・・
「見ま・・・・・・へ?」
全力で叩き込もうとした萌えの一撃。
しかし、私の目の前からは忠夫さんは姿を消していた。
「ご、ごめんなさいっ! で、でも、俺、よく見えてないから・・・・・・・あ、突然、激しく急用を思い出しちゃったから先に帰ってるね!!」
遙か遠くから聞こえてくる忠夫さんの叫び声。
相当慌てているのだろう。忠夫さんは何度も電柱にぶつかって・・・・・・あ、車とぶつかった。
「もう、照れ屋さんなんだから。タダタダは」
そのまま何も無かったかのように走り出したタダタダを見て、私はクスクスと笑っていた。
悪戯を見つかった子供のような反応。よっぽど私の顔が見れなかったんですね。
美神さんの下着では起こらない反応に、私の自尊心は多いに満足していた。
でも、折角勇気を出そうとしたのに、キヌキヌちょっと残念・・・・・・
まあ、いいか・・・今着けている勝負下着が、タダタダに相当のインパクトを与えたって分かりましたから。
こーなったらもー、明日からキヌキヌ毎日これと同じ下着つけちゃいます。
でも、キヌキヌからは見せませんからね。今のはあくまでも事故、事故なんですよ!
今度はタダタダが勇気を出さなくっちゃ・・・・・・ね?
私は軽やかなスキップで、タダタダとは反対側に走り出す。
今着けている下着と同じものを買い占める為に・・・・・・
究極の勝負下着が私の勇気の源だった。
「厄珍さんっ! この前買った究極の勝負下着。在庫全部いただきますッ!!」
勢いよく走り込んできたおキヌに、厄珍は色々な意味でいやらしい笑みを浮かべていた。
彼は数日前、たまたま立ち寄ったおキヌに、最近入荷したばかりの究極の勝負下着を紹介している。
最初は多いに抵抗があったものの、高名な魔法使いが作成したという究極の勝負下着の、成人雑誌もかくやという威力の触れ込みにおキヌはついつい乗せられてしまっていた。
「ありゃ、そんなに気に入ったアルか・・・・・・サイズは確か」
「サイズは関係ありませんッ。シロちゃんのサイズから、美神さんのサイズまで全部下さい。あ、別に、独り占めしようって訳じゃないですよ! えーっと、プレゼント。そう、プレゼントです! だからみんなには・・・・・・」
「大丈夫。令子ちゃんたちには内緒にしておくアル。 プレゼントは中身を知らない方がドキドキするアルからネ」
「そ、そうなんですよ。やっぱり中身を知るのは最後の最後じゃなくちゃ!」
思わぬ理解を示した厄珍に、おキヌは小さくガッツポーズをとる。
これでライバルが同じ戦力を手にすることは無くなっていた。
「しかし、そういう考えの子に気に入って貰えるとは意外アルな。まあ、在庫がはけて私は嬉しいアルが」
「え、でも、厄珍さんが言ったとおり凄い効き目でしたよ・・・・・・って紹介した友だちが言ってました」
「あー、それじゃ、その友だちもコレを造った魔法使いと同じセンスってことアル」
ガサゴソと在庫を捜しながら口にした厄珍の一言におキヌは首を傾げる。
その魔法使いの名がアルファベット二文字と知っていたら、彼女は究極の勝負下着には手を出さなかったことだろう。
「全く、意中の相手には見えない下着なんて・・・・・・ヤツはテレ東並に分かっていないアル」
「はい? い、今、何て言いました?」
信じられない厄珍の一言におキヌの表情が凍り付く。
彼女はただ究極の勝負下着としか効能を説明されていなかった。
だからこそ見せブラのつもりで、勇気を出して胸元のゆるいキャミソールを着ていたのだった。
「ありゃ、この前言っていなかったアルか? この前渡したブラとパンツのセット、他の人には単なる可愛らしい下着だけど、身につけている者の意中の相手には見えない・・・・・・つまり中身が丸見えってことネ。そうか、すごい効き目だったアルか」
「ま、丸見えって・・・・・・」
棒立ちになったおキヌにニヤリと笑いかけると、厄珍は再び在庫確認のためおキヌに背を向けガサゴソとやり始める。
あまりのショックにふらついたおキヌの手に、ひんやりとした感触が触れる。
【厄珍堂謹製 バールのようなもの+5(特殊能力:防御力無視)】
おキヌはフラフラと魅入られたように、伝説の魔剣クラスのソレに手を伸ばしていった。
エピローグ
『えー。昨日、バールのようなもので襲撃された古物店前からのレポートでした。それではスタジオに・・・』
プツン!
美神事務所の応接。
カップ麺片手の美神が、ワイドショーを映し出していたTVのスイッチを止めた。
「あんだけ阿漕に稼いでたら恨みも買うかもしれないけど、物騒な話よね・・・・・・って、聞いてる?」
話しかけた相手が乗ってこなかった事に、美神は若干不機嫌そうな顔をする。
彼女の目の前では心ここにあらず状態の横島が、モソモソと伸びかかった麺を啜っている所だった。
暖簾に腕押し、糠に釘。
昨日からウンともスンとも言わなくなった横島に、美神は苛ついたようにリモコンをフォークに持ち替えカップ麺を啜り始めた。
珍しく無口な横島に調子の狂わされっぱなしの美神は、これまた珍しいことに彼との会話の切っ掛けを捜し苦労している。
それだけの変調を美神は横島から感じ取っていたのだった。
「ただいまでござるーっ!」
玄関先から聞こえてきたのは帰還を伝えるシロの元気な声。
予定されていたよりも早いシロとタマモの帰宅に、美神は心底ホッとしたような顔を浮かべていた。
「お帰りなさい。人狼の里はどうだった?」
「こっちより過ごしやすい気候で助かったわ・・・・・・場所が高い所にあるせいかもう秋を感じられたし」
帰宅して早々東京の暑さにへばったのか、タマモはクーラーのリモコンに手を伸ばす。
いつもタマモが室温を変えようとするたび起こるやり取りがないことに気付き、シロは辺りをキョロキョロと見回した。
「あれ? おキヌ殿は不在でござるか?」
おキヌという言葉に横島の箸がピタリと止まる。
美神はその変化に気付かなかった。
「なんか、急に田舎に帰っちゃってね。今年は帰らないって言ってたのに・・・・・・アンタたち何かしらない?」
「いや、知らないわよ。暑い東京が嫌になったんじゃないの」
「しかし、残念でござるな。折角おキヌどのに料理して貰おうと、一足早い秋の味覚を土産にしたのに・・・・・・仕方ない。コレはそのままでもいける故、先生、一つどうでござるか?」
「ヒィッ!」
目の前に差し出された人狼の里からの土産に横島は小さな悲鳴をあげていた。
「見なかったーぁっ! 俺は何にも見なかったーぁっ!!」
いつぞやの唐巣神父のような叫びをあげ、パニックに陥った横島はそのまま事務所を駆け出していく。
残された三人はただ呆然とその姿を見送っていた。
「な、なんでござるか? 今のは・・・・・・」
「さあ・・・・・・」
シロの唖然とした発言に、美神も彼女の手にした土産をまじまじと見つめる。
彼女が手にした土産―――程よく熟しパックリ割れたアケビの姿に、美神はただ不思議そうに首を捻るのであった。
―――――― 【夏企画】Strange Fruit U ――――――
終
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