「少佐は?」
「ひとりで沖に…」
「また単独行動かよ……まったく、あのジジィは―― 若作りしてても、ホントはいい加減いい年なんだから、ひとりでポックリいったりしたらどうするんだよ?」
「……聞こえてるんだよ、
感応能力で!」
とりあえず、相変わらずけなしているのか心配しているのかが判然としない葉については後でシメる事にしておいたが、兵部には今はそのような些事に構っている暇は無かった。
『オ前ニシチャ珍シイ心ガケジャナイカ、キョースケ』
「お前に言われたくないよ、げっ歯類」
いつものように、軽口による口喧嘩。
しかしいつもと違うのは、双方ともにあまりに早く舌鋒を収めるというところ。
「……そろそろ、かな?」
宙を駆けていた兵部が呟き、その懐から取り出したのは、一輪の白百合だった。
【群青の海に】
愛するもののため、戦っていたはずだった。
信じるもののために、生命を燃やしていたはずだった。
そして何より、それが正しいことだと思っていた。
だが、裏切られた。
愛していたものは、自分を道具として扱った。
信じていたものは、自分を化け物として切り捨てた。
正しいと思っていたものは、否定され、踏み躙られた。
だから、憎んだ。
世界を敵に回した。
愛するもの、信じるもの、そして正義を自らの手で創ろうと、世界を駆けて同じ孤独を持つ者を集め、束ねた。
それこそが、自分と同じ運命を辿り、そして逝ったあの
仲間達に手向ける花束であるかのように。
『ナァ?ソレダケデイイノカ?』
「いいんだよ、これで」
返しながら白百合を投げ―――― 兵部と桃太郎は目を瞑った。
「少佐には…」
「夏はそういう季節なのね」
「戦後はまだ終わってないんだなぁ…」
聞こえてくる思念に、苦笑する。
「―― ああ、そうだね。終わっちゃいないんだよ……少なくとも、僕にとっては」
あの戦争が遠い過去のものである、と認識出来る彼らが羨ましくもある。
終わらせるには、世界を終わらせるか、それとも“自ら”を終わらせるか―― その“答え”は見えない。
願わくば、彼らに新しい世界を与え、過去へと手向ける大輪の花束と為せる事を想い―― 今はただ、過去へと思いを馳せるのみ。
過去へと捧げた一輪の花は、群青の波間に漂い―――― やがて波に洗われ、沈んでいった。
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