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真夏の夜長の夢

障子より臨む麗らかな月の夜。

浴衣と呼ばれる服を身に纏う私の膝を枕に眠る、同じく浴衣に身を包んだ横島に
気だるい暑さよ去れと、私はゆっくりと団扇を仰ぐ。
これが、人間の…日本の夏の姿だと…そうヨコシマに教えてもらった、そのままに。


「涼しい、ヨコシマ?」

そんな私の言葉にも反応することなく、まるで死んだ様に眠り続ける。

…死んでいるわけではない。
私の意識がある時に、ヨコシマの意識が無いだけだ。

私の瞳に、彼の元気な姿はもう映らない。
彼の瞳に、私の笑みは…もう、映らない。

でも、こうするしかなかった
こうするほか…なかった


「ルシオラ…」

ヨコシマの…私を呼ぶ声に、要らぬ涙が頬を伝う
深き眠りの中ですら、私を探してくれるのかと…


「心配しないで、ヨコシマ…私は傍にいるわ。ずっと…」

優しく彼の頬を撫で、飛び切りの笑みを浮かべる。
ヨコシマに見て貰いたくて必死に練習した笑み。

もう、見せることは出来ないけれど
それでも、彼に向けれるこの嬉しさは言葉に出来ようもない。


…そろそろ夜が明ける。
彼が眼を覚ませば、この夢の世界も終わりを告げるだろう。
あと1分…ううん、あと1秒でいいから

そんな願いも浮かぶ事がある。

でも、それは叶わぬ望み。
叶えては…ならぬ望みなのだ。


「ヨコシマ…今、貴方は幸せ? 私は幸せよ。貴方に出会えた事、貴方と過ごせた事…」

ゆっくりと眼を瞑れば、まるで昨日の事の様に昔の事が思い浮かんでくる。

彼は、悔やんでいる。
私を救えなかったこと…それは全て自分が悪いのだと、そう思っているのだ。


そうじゃない。
いや、例えそうであったとしても…私が彼を恨むなんて微塵も無いのだ。

私はヨコシマが好き。
彼の幸せが、私の幸せ。

「私は…ヨコシマの命が救えて…幸せだった…貴方と一つになれて、凄く嬉しかった」

世界が…白む…消える…
私も眠りに付く…

「ねぇ、聞いて…」

朦朧とした意識の中、願う。伝う。

「私の事を忘れろなんていわない。ううん、ずっと覚えていてくれると嬉しい。でも…」

時間がない…聞こえて無いかもしれない…でも…

「私に…縛られないで…お願いだから…」


涙が止まらない。
でも、私は伝う涙を拭う事無く

意識の途切れるまで、願い続けるのだ。

Y様のルシ横の絵に絆されて、即興で書いてみました。
ほのぼの〜な感じが出ていれば…等といいつつ凄いシリアスですねぇ…

何でだろう?
それだけ、Y様の絵が幻想的だと感じた所為かもしれないですー。

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