<<SIDE:犬塚シロ>>
「あー……しんどいでござるなー、性悪ギツネ。
暑いでござるなー、腹黒ギツネ」
「あんた……前に私等とは鍛え方が違うとか何とか言ってなかった?」
『ヒトとして』当たり前のこと。
それを、イヤだと、うざったいと感じてしまう。
「涼しいのに越した事は無いでござる。
”えあこん”のある快適生活……知らなかった頃には戻れないでござるよ」
「堕落してんじゃないわよ」
「あ〜あ、誰かさんがえあこんに、狐火でこんがり焼きをいれたりしなければ……」
「ぅ……そ、それはちょっと寝ぼけて……わ、悪かったわよ……」
そんな時があるのは、拙者達の中にある 『野生』 ってヤツが、騒いでいる時なんだろう。
「全く、これからの季節、ジメジメと暑っ苦しくなるとゆーのに……」
「……仕方ないわ……ソレが日本の夏ってヤツよ」
いくらヒトの姿をしていようと。
ヒトの社会に溶け込んでいようと。
ヒトのふりをしようと。
牙を失くしたもどーぜんの、グータラな日々を送っていよーと。
拙者たちの本性が 『ケモノ』 であるとゆー事実。
それは、誰にも変えることが出来ない。
「あーもー! 汗が止まらんでござるよ!
ベタベタして気持ち悪い……着替えても着替えても着替えても着替えても……」
「こー暑くっちゃキリが無いわねぇ……
洗濯が追いつかないって、おキヌちゃんぼやいてたもんねぇ」
「もーお洋服イヤー! ずぼんイヤー! ぶらじゃーいやー! ぱんついやー!」
「下着のゴムの所とか……ムレちゃって痒くなんのよねー……」
理性の声に耳をそむけて。
本能の赴くまま、余す所無く、その本性をむき出しにして。
奥底からから尽きる事無く湧き上がってくる衝動に。
拙者の中にある野生に。
全てを委ねてみたくなる。
「もーいっそぜんぶぬぎたいござるー!
すっぽんぽんになりたいでござるー!!」
「アンタねぇ……まぁ、その気もちは解るけどさ?」
「きっとキモチイイでござるなぁ……
なんにもないすっぱだかで、思う存分に……」
「でしょうねぇ……」
この拙者を縛める、ありとあらゆる束縛から 解き放たれて。
自由で身軽で、お気軽な ”生まれた時のまんまの姿” で。
素肌いっぱい風を受けながら、思う存分、力尽きるまで どこまでもどこまでも駆けてゆきたい。
それってきっと、ヒト以外全ての動物が、持っているモノなんじゃないかって思う。
だけど
「でもさ、アンタそれって、他のニンゲンから見たら単なる痴女にしかみえないわよ?
ワイセツブツチンレツ何とかで、捕まってぶち込まれちゃうんだから」
「ぅぅ……クサイめしはイヤでござる……
け、けど、家の中でなら……」
「人工幽霊1号がいるでしょ。
変態妖精だって……あんにゃろどっから覗いてるか……」
「ぅ、そ、それは……」
それでもやっぱり。
今、拙者たちがいる所は、『ケモノ』の世界じゃないんだから。
ヒトの世界で、生きてるのだから。
「まぁ……いいじゃない。
夏は暑いもんなんだって……諦めましょ? どーにも出来ないんだからさ」
「って! えあこんをこわした張本人がナニをいけしゃあしゃあと!!」
「そ、それにほら?
そこいらのヤツに、アンタみたいな乙女の極上の柔肌、タダで見せるってのもアレでしょ?」
「ぅ……そ、それもそーでござるな。
……ハダカで本能のままに過ごすのは、先生と一緒の時だけに……きゃうーん♪」
「はぁ……言ってなさい バカイヌ」
野生の『ケモノ』 に戻るのは、拙者達以上に”ケダモノ”な、大好きな先生の前でだけ……ね♪
「いや、てゆーかさシロ……
お前、それオオカミに戻ってやれば問題ないんじゃね?」
「「……あっ……」」
おしまい
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