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愛子塾へようこそ!



「“愛子塾”へようこそ!」

「なんだよ!? 急に!」

「ウフフ〜、横島君? これも青春なのよ!」

「いや、だから訳分かんねぇよ!?」



 愛子塾へようこそ!
〜 愛子のそれから 〜



「う〜〜〜〜ん……」

「なに唸ってるんだ? 愛子」

 私は九十九神にして“青春”妖怪の愛子。

 こらこら、そこ! 『机妖怪でいいんじゃね?』 とか言わない!!

 青春こそが私の 『生きる理由』 でありアイデンティティ(存在意義)なんだからね!?

 ぜぇぜぇ……あ、そうだった。

 私(わたくし)、只今絶賛悩み中なんです……




◆◆◆




「へ? 卒業後の身の振り方?」

「そ。私達もう三年生でしょ? 来年には卒業なんだし……」

「いや、待て待て。愛子……お前、学校妖怪なんだろ?
それがなんで卒業なんだ? また一年からやり直すか、ずっと同じ学年に留まるかすればいいんじゃ……
そういや、三年に進級するときも俺達と一緒だったな……それも不思議なんだが、なんでだ?」

「う゛……そ、それは“青春”のためよ!
一緒に学んだクラスメイトと進級して、卒業式も迎えて……ね? 青春でしょ!?」

「いや、お前のいつものフレーズをそう強調されてもなぁ……まあ、お前らしいっちゃらしいが……」

「もう! いいからそういうことなのよ!!」

 うう……いくらなんでも 『横島君と一緒に卒業したいから』 なんて言えるわけないでしょ!

 まったくもう……この 『鈍感男』 は……

 はぁ……おキヌちゃんも苦労するわよねぇ〜。

 それに、小鳩ちゃんもまだ諦めていないみたいだし、
シロちゃんは相変わらずだし、タマモちゃんもなんだかんだで気に掛けてるみたいだし、
あの美神さんだって分かったもんじゃないし……

 ……はぁ〜……考えたら頭痛くなってきちゃったわ……



 ……分かってる、分かってるのよ……

 彼にはそれだけの魅力があるってことは。

 今も私の言葉に 「はぁ?」 って感じでアホ面晒してるけどね……

 でも、上手くは言えないけど、それだけ彼女達を引き付ける“何か”があるのは事実。

 だからこそ、以前のバレンタインの時に、チョコを彼の靴箱に入れたんだし……

 その時は、ちょっとほろ苦い青春というものを味わってみたかっただけだけどね。

 今ならはっきりと言えるわ。

 私は横島君のことが好きなんだって。

 もちろん、男性としてって意味もあるけど、
それ以上に彼と彼の友人達の織り成す空気……空間かしら?
とにかく、その雰囲気がとても好きなの。

 さっき挙げた彼女達以外にも、ピート君とかタイガー君、そして美神さん関係のGS達……

 みんな自然に横島君を中心に集まってくる……

 フフ……不思議よねぇ〜。

 何故か彼を真ん中に、色んな物語が始まるんですもの。

 本来なら、私なんて彼等から除霊される側の妖怪のはずなのに、
いつの間にか自然とその物語の中に居られるんだから……

 だからこそ、もっと彼の傍(そば)で彼等の空気を感じていたいって思ってしまう……

 でも、彼の言う通り、所詮私は“学校の妖怪”でしかないの。

 机を担いで学校から 『出る』 ことはできても 『離れる』 ことはできない……

 さっきも言ったけど、青春こそが私のアイデンティティ(存在意義)なんですもの。

 それを感じさせてくれる学校から 『離れる』 ということは、『私の存在』 の否定になってしまう。


 彼の傍に居たい……


 でも、私は学校からは……


 まったく……二律背反(アンビバレンツ)とはこのことよね。

 なんとか学校を卒業しつつも、学校を感じさせる“場所”に居られて、
なおかつ横島君とも一緒に居られる方法は……


「なあ、愛子……」

「なによ? 横島君」

 まったく、貴方の所為でこっちが悩んでるっていうのに……

「いや、すまないけど、また“アレ”を頼みたいんだが……」

「またぁ? まったく、宿題とか課題とかちゃんと家で済ませなさいよ!
大体、三年に進級するときだって、私やピート君に散々手を焼かせたんじゃない!」

「そう言うなよ。ここんとこ連日の除霊で忙しくてさぁ……」

「もう、しょうがないわねぇ〜……いいわよ。ほら、入って」

「悪りぃな愛子。今度なんか奢るからさ」

「期待しないで待ってるわ」

 そう、時々横島君が頼む“アレ”とは、机の中の空間を利用しての勉強会。

 私の本体である机の中の空間は、一種の亜空間になってるから、
ここで過ごした時間は私が意識しない限り、ほとんど外では時間が経たないの。

 ……どういう理屈でそうなるかなんて、私にも分からないけどね……

 まぁとにかく、時間に追われてるときなんか凄く重宝されてるのよ。

 ……こういう時だけだけどね……



 ……ん?

 時間に追われる学生……受験生?

 時間を気にせず、勉強が出来る……場所?



 そうよ! これだわ!! これよ!!!

「お、おい……どうしたんだ? 急に」

 差し向かいで机を並べて勉強を見ていた私が、急に立ち上がったもんだから、
横島君が怪訝そうな顔でこっちを見てるけど、こっちはそれどころじゃないのよ!

 そうよ! なんで今まで気が付かなかったのかしら!!


 あ、でも、それだと横島君と……いえ、それならそれで……

「おい……愛子?」

 そうして貰えれば、一緒に居る理由には……うん、いけるわね……

「おーい。愛子? 愛子さ〜〜ん?」

 そうなると、当然費用も……ああ、月謝って手があったわね……

「おい、こら。返事しろってば! 愛子!?」

 ……そうすると、やっぱり看板というか、名前が要るわね……
と、なると……挨拶の言葉も当然コレに決まりよね!

「おい! いい加減に……」

「“愛子塾”へようこそ!」

「なんだよ!? 急に!」

「ウフフ〜、横島君? これも青春なのよ!」

「いや、だから訳分かんねぇよ!?」




◆◆◆




「しっかし驚いたよなぁ〜。ホントに実現させちまうとは……」

「ウフフ〜。当然でしょ? なんたって青春の為なんだから!」


 あれから数年。

 横島君もめでたく独立して、自分の事務所を持てるようになったし。

 私の方も、あれから紆余曲折色々と……ええ、本っ当に! 色々とあったけど……

 この度、晴れて“愛子塾”を開くことができたの。

 場所は勿論、横島君の事務所の隣。

 ワンルームマンションほどの大きさの部屋に、私の机がポツンとあるだけだけど、
そこが私と塾生達の学び舎なの。

 最初はみんな戸惑うことが多くて苦労もしたけど、
運営もようやく軌道に乗って、今日も新たな塾生達を迎えるの。

 高校の模試から、大学受験までを網羅する愛子塾は、
時間に追われる高校生や、大学受験生達からも大好評!

 まったく時間を気にせずに済むから、帰宅時間が深夜になるなんてことはないの。

 そのお蔭で塾生の保護者、父兄からも「子供を夜遅くまで外出させずに済む」と感謝されてるし、
塾生も余った時間を大いに有効活用できて、これまた大感謝!

 え? 大学受験の塾講師まで出来るのかって?

 チッチッチッ……この学校妖怪の愛子様を舐めてもらってちゃ困るわね。

 伊達に横島君の学校に来るまで、あっちこっちの学校を渡り歩いてた訳じゃないのよ!

 当然、進学校の特進クラスの教材、教科書も全て揃っているわ。

 それに、毎年の教科書も六道夫人の好意で寄付してもらってるしね(なんか後が怖いけど……)。

 そしてこれも当然だけど、その中身も全て勉強して私の頭の中に入っているんだから!


「……誰に向かって力説してるんだ? お前は」

「うるさいわね! それよりも、横島君? 貴方が私の“保護妖怪担当GS”なんだから、
新しく入ってくる塾生にピシっとした所を見せなきゃダメよ?」

「ハイハイ……まったく、普段はうちの事務所で事務員を。
塾生が来たら、塾講師にして塾の経営者をやってるんだから、上手く考えたもんだよ」

 いいじゃないの、別に……

 これこそが、“学校を卒業しつつも、学校を感じさせる“場所”に居られて、
なおかつ横島君とも一緒に居られる方法”なんだから、しょうがないでしょ?

 大体、私以外にも 『保護妖怪』 が大勢居る人が何言ってるのよ。

 タマモちゃんにシロちゃん、猫又の親子に……グーラーだっけ?

 ホント、美人の妖怪ばっかりじゃない!

 いい加減、そういう所を治さないと“奥さん”に逃げられちゃうわよ?

「う゛……それを言うなよ……」

 あらいけない、いつの間にか声に出しちゃってたわ。

 横島君の癖、うつっちゃったかしら?

「あ、ホラ。アレじゃないか? 新しい塾生って」

「あ、ホント。早速迎えてあげなくちゃね♪」






「「 “愛子塾”へようこそ!」」


短編第二弾、愛子のお話しです。
よく他のSSでは独立した横島の所で働いてるのを見かけますが、
『学校妖怪として青春を第一義と考える愛子の存在意義に反してないか?』
と、こんな印象を受けたので、『両立させたお話し』を考えてみました。
やはり“青春”あってこその愛子だと思いますんで……(´∀`;)
少々無茶じゃね? とか、別にそのまま事務員でもいいんじゃね? とか、
色々と突っ込みを受けそうですが……(ノ∀`)

尚、今回はいしゅたる様に誤字脱字チェックを依頼しました。
いしゅたる様、ありがとうございました。

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