「ちょっとおつかい頼まれてくれる?」
数日前、美神さんが横島さんにそんな事を言っていました。
……その日から、横島さんは姿を消しました。
―――― 七夕SS 待ち人…… ――――
もう一週間近くになるでしょうか。
ピートさんやタイガーさんにも聞いてみたんですけど、ここ数日学校にも行ってないみたいなんです。
美神さんに聞いてみても厄珍堂におつかいを頼んだとしか……
流石に美神さんも心配して唐巣教会や妙神山、果ては香港、ザンス王国、ブラドー島にまで連絡してみたみたいなんですけど……。
「厄珍堂におつかい頼んだだけだから、ほとんど着の身着のままのはず……。
どこをほっつき歩いてるのよ、アイツは!」
シロちゃんが走り回って探してみても……。
「ダメでござる。途中でニオイが途切れてしまって……。
もう数日早く気づけばなんとかなったかもしれんでござるが……」
私たちに内緒で色々探してくれていたらしいタマモちゃんも……。
「ダメね。もしかしてもうこの近辺にはいないんじゃない?」
今日はせっかくの七夕なのに、私の心は曇ったままです……。
それは私だけじゃなく、シロちゃんも、タマモちゃんも、美神さんも。
みんな口には出さないけれど、心配と不安がない交ぜになったまま落ち着きなく……。
今私の手には1枚の短冊が握られています。
【横島さんが無事でいますように】と書かれた短冊が……。
もう、願うしかありません。
どうか、どうか無事でいて……!
「ただいまーーッス!」
そんな能天気で陽気な声が響いたのはちょうどそんな時でした。
……とりあえず皆安心して気が緩んだのか、いつもよりちょっぴりシバキ過ぎたり焦がし過ぎたり舐めまわし過ぎたとだけ言っておきます。
今私の目の前にはいつものメンバーが笑っています。
横島さんが失踪してたのは織姫さんのところに行ってたからだったそうなんです。
あの日、美神さんにおつかいを頼まれて厄珍堂に行った時、厄珍さんから織姫さまが代替わりしたことを聞いたんだそうです。
それで、
「前は急だったからおキヌちゃんだけにしかプレゼント出来なかったけど、
せっかくだから美神さんやシロタマにも……」
と思いついて、厄珍堂から織姫さまに連絡して直接取りにいったんですって。
だけど、完成には思った以上に時間がかかって……。
いつもならきゃーきゃーきゃーって喜んで跳ね回りたいくらいなんですけど……。
あんまり心配させないでくださいね、横島さん?
「かんにんやーしかたなかったんやー。
織姫さまに聞いたらそれだけ作るには七夕当日まで粘ってもギリギリだって……」
そう言って横島さんが差し出した大きな袋にはお洋服が詰まっていました。
美神さんには織姫さま風なお洋服を、シロちゃんには彦星さま風なお洋服を、そしてタマモちゃんには……。
横島さんはよっぽど疲れたのか、寝っころがってなんだか眠そうです。
美神さんは嬉しさとホッとしたのと呆れたのでため息ついています。
シロちゃんは横島さんが無事だったので安心してはしゃぎ回ってますし、タマモちゃんはなんだかマスクの下で複雑そうです。
……確かに珍しいかもしれませんけど、女の子に宇宙服風なお洋服って正直どうかと……。
「タマモなら珍しいものの方が好きかな、と思ってさ」
そういう問題じゃありませんよ、横島さん。
私ですか?
私はもらってません。
なんでも急な依頼だったので、途中で材料が足りなくなっちゃったそうなんです。
でも、いいんです。
私は他のみんなより一足早くもらってますし、何より……横島さんが無事に帰ってきたことが一番のプレゼントです。
不意に私の手に握り締められた短冊がクシャリと音を立てました。
やっぱり、短冊に願いを書くと叶うって言うのは本当だったんですね♪
―――― 完 ――――
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