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思うことと想うこと

ここは、都内のとあるマンションの玄関口。
一見するとただのマンションだが、実はここには世界のパワーバランスを崩しかねないとてつもない兵器が3体もいる。
俺は次第に高まっていく鼓動をなんとか鎮めながら、玄関から中へ、静かに足を踏み出した。この先にどんなことが待っていようと、俺は行かなくちゃならない。それが俺に願いを託してくれた友との約束だから。



「はぁ〜、朧さん、いいよなぁやっぱ。今日はどういう路線でアピールしようかなぁ」


賢木修二 23歳 いまだに心は青春真っ盛りだった。



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        思うことと想うこと
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「よう、おまたせ。」

俺は、意気揚々と目的の家の扉を開けた。俺と同じ、同期入局の若き天才、皆本光一の家だ。
皆本は昨日から約1週間、自衛隊の訓練研修に行ってしまった。あいつもバベルのプライベートジムで身体は作りこんでるが、現場運用主任としてそれだけでは足りないと、定期的に自衛隊に引っ張られている。レベル7を預かるってのはそれだけ大変なことなんだから、まず肉体的にタフにならなくてはダメだっ・・・・てことらしい。
まあ、やりすぎって気がしないでもないが、皆本には真面目に仕事に取り組んでもらうとして、俺は俺で、その間彼女への好感度をグッと上げさせてもらうぜ。

そう。今回はあの朧さんと一緒にチルドレンの3人の世話係を担当するんだ。公的に仕事を休めるうえ、朧さんと一緒に過ごせるんだ。こんなチャンスはなかなか無い。チルドレンって言ったって所詮は子供。やっぱり夜は大人の時間だ。

昼間はやさしいお兄さん路線で

「え? 賢木先生って、本当は意外と子供に優しいのね」

なーんて、さりげなく子供好きをアピールしてみてから、
夜は夜で

「いつも軽い言葉を吐くけど、本当はロマンチストなのね・・・・」

なんてなんて言っちまってさ! それで2人は夜景をバックに唇が触れ合って・・・・・



「・・・・・いらっしゃい」

どわっ! 誰かの声が聞こえて我に返った。目線をちょっと下にずらすと、紫穂ちゃんがジト目でこっちを見ている。ヤバ、読まれたかな? まだ触られてないと思うけど。

「センセイ、目が血走ってたわよ」

「え?あー、いやいや、ちょっとさっきまでオペやってたからさ、目が疲れてんだよ。そう。」

あーぶねぇ、あぶねぇ、顔に出てたか。今日は優しいお兄さん路線で行くんだ。もっと心を落ち着けていこう。いつものペース、いつものペース・・・・

「あ、今日は柏木さん、来ないわよ」

「え゛!?」

なっ・・・なに────!!
今度こそ俺は驚きが顔に出まくっていた。

「バベル内で何かトラブルがあったって。その事後処理に追われてるらしいわよ」

「げっ! それじゃあ今日の作戦が!・・・」

俺が今朝から組み立てていた完璧な作戦が、音を立ててガラガラと崩れだす。うまくいけば、一夜のアバンチュールも夢じゃなかったのに

「ふふっ、残念だったわね。」

見ると、彼女が嬉しそうな目でこっちを見ている。
ったく、かわいくねぇガキだ。将来ろくな大人にならねぇぞ。



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その後、夕飯を作ろうかと思ってた時に、朧さんが顔を出してきて、ラッキー!・・・・と思ったのもつかの間、終始あの3人に奪われて(特に薫ちゃんだ)、夕食が終わったら彼女はとっととバベルに戻ってしまった。
いったい何しに来たんだ俺は!
あの3人も、飯食ったら、騒いで風呂入ってすぐに寝ちまったし。ホント、ガキだなあいつらは。


・・・・そう、ガキなんだ。今はまるでそこらにいるのと変わらない普通の子供だ。あいつらを初めて見たあの頃から比べるとウソみたいだ。
幼児の頃から能力が強かった彼女たち。そのくらいの子は、まだ理性が弱く本能のままに動く傾向にある。そんな状態で超能力を使われれば、まわりに多大な被害が出るのは当然だ。だからまわりの大人たちは、あの子達を怖がらせないよう腫れ物に触れるように扱ってきたが、内心は疎ましく思っていた。
サイコメトリー能力なんかなくても子供は敏感だ。そんな大人たちの気持ちは目を見ればなんとなくわかる。あの子達は信じられるものがだんだん自分たちだけになっていったんだ。厭世的な、物事がどうでもいいような目をしていた。
俺が小学生くらいの時には、まだ能力を自覚していなかったから普通に学校に行って友達も何人かいたが、彼女らの周りは生まれたときから色眼鏡で見る大人ばかりだ。あんな風になるのも無理はないと思った。気持ちをわかっていながら、何もできない自分が歯がゆかった。


「まったく、皆本さまさまだな。俺には真似できないぜ。・・・あいつ絶対、就職先間違えてるな。」

今もなお訓練施設で身体をいじめられている同僚を想像しながら、俺はこれまでのことを思い出していた。
かくいう俺も、あいつに生き方を変えられた人間の1人だ。相手の心がわかるからこそいつも荒れてた俺の心を沈めてくれたのもあいつだ。多分あいつの信念と頑固さと真っ直ぐさが人を変えるんだろうな。

あいつこそ超能力者だよ、マジで。



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よし、片付けも終わったし、俺も帰るか。
朧さんとは十分に会話できなかったし・・・・って、ホント何してんだろ、俺。
かわりに今日は、この前買った好美ちゃんのDVDでも見て癒されるかな。
はぁ、好美ちゃん・・・・・今度薫ちゃんの付き添いとかなにかで会えないかなぁ。

そんなことをとめどなく考えながら家を出ようと玄関まで出たとき、後ろで“ガチャリ”とドアが開く音がした。
なんだ、紫穂ちゃんか。

「あれ、起こしちゃったか? ごめんな。俺はもう帰るから。」

「・・・うん、わかったわ・・・それじゃあね・・・」

眠そうな目をしながら返事をしてきた。こうして見ると、ただのかわいい子供だよな。

「・・・・あ、センセイ」

「ん?」

外に出ようとした俺を、紫穂ちゃんが引き止めた。なんだ、いったい?

「秘書課の子と医療研究課の子は共通の友達がいるから、早いうちにどちらかにしないとバレるわよ。」

「だぁぁ!!さっさと寝ろ!!」

前言撤回! やっぱりカワイクねぇ!!
皆本のやつ、よくあんなのと一緒に暮らせるな。やっぱ変態だ、あいつは。
心の中で毒づきながら、俺は皆本の家を出た。







* * * * * *

翌日のバベル内は、上を下への大騒ぎだった。
昨日の報告と残った雑務のため、本部に顔を出した俺は、その場面にでくわした。オペレーターもエスパーも、皆がざわついて、走り回ってる。なにがあったんだ?

「おぉ!賢木くん!ちょうど良いところに来てくれた」

その声に振り向くと、局長が俺のほうに小走りで来た。相変わらず、とても50越えたオッサンとは思えないガタイしてるよ。

「なにかあったんすか?」

「チ・・・・チルドレンが! あの3人がいなくなったんだよ!!」

「な!」

あの3人が、消えた?
一瞬、頭が真っ白になった。

「え、衛星とリミッターの追跡は!?」

「それがダメなんだよ。衛星も含めたナビゲーションシステム全般が、昨日やられてしまって、まだ完全に復旧していないんだ」

そうか、朧さんが昨日言ってたトラブルってのはそのことか。それなのに、途中とはいえよく抜け出してくれたよ。俺は心の中で朧さんに感謝した。

・・・・でも待てよ?
仮にもここは政府の特務機関だ。安全対策は3重に確保している。システムが1つダメになったからといって全く機能しなくなるわけじゃない。予備のシステムでも十分機能できる。そのシステム全てを破壊するなんてことは相当に面倒なことだ。おそらく内部にもぐって、少しずつ侵食していったんだろう。
・・・・・ってことは!

「まさか、普通の人々!!」

「あぁ、おそらくは。システムの破壊も、全てこのためだろう」

ちっ! やられたな。予測もつかなかったってことは、予知システムもアウトか。全て向こうのペースで事を運ばれてるな。

「局長! 最後にあいつらを確認した場所に連れて行ってください! 足取りを追います!」

「もとよりそのつもりだヨ。早く行こう!」

俺たちは地下駐車場へ走った。どんなに巧妙にさらったとしても、サイコメトラーからは逃れられないぜ。必ず連れ帰ってやる。

ったく、世話係が聞いて呆れるな。またあいつに怒られる。






* * * * * *

(PM1:25 区立 六條院小学校)

俺達の乗ったバベル特殊装甲車は小学校の校門から50mほど離れた場所で止まった。

「彼女たちを最後に確認したのがこのあたりだヨ」

局長が苦虫を噛み潰したような顔で言った。彼女たちをさらわれてしまった自責の念にかられているのだろう。
校門から続いてる塀の曲がり角。大通りまで40m程度の一方通行。なるほど、絶妙な死角だ。俺は装甲車を飛び出し、すぐさまサイコメトリーを始めた。

「サイコメトラー 賢木修二 解禁!」

リミッターを解除し、道路面、壁面、電柱と、とにかく考えられるところをくまなく読んでいく。
レベル6をなめるなよ。必ず捉えてやる。

俺がしらみつぶしに読んでいき、ちょうど3本目の電柱に触った時、そこに留まっていた思考が流れ込んできた。
これは・・・・紫穂ちゃんか?
ご丁寧にさらわれた状況を残していってくれてる。さすがだな。俺が来ることを読んでたか。

「局長!さらっていったのは、予想通り[普通の人々]! 強力なECMで彼女たちの能力を封じてる。恐らく軍用の最新型です!」

「ぬぬぬぬ、やつら自衛隊にまで潜り込んでいたのか!」

局長は、ぶつけようの無い怒りに肩を震わせた。無理もない。俺だって胸がムカつく。エスパーといってもあの子たちはまだ小学生だ。痛めつけるだの、始末するだの、絶対ダメだ。

「行きましょう!案内します!」

超能力を封じられた彼女たちはただの子供だ。早くしないと手遅れになる。

「クソッ!無事でいろよ!」







* * * * * *

装甲車を走らせて着いたところは、とある埠頭の一角だった。ここは数年前の港湾地域の再開発のときに、予算削減と計画変更の憂き目にあい、開発が頓挫してしまった場所だ。
俺達が装甲車から降りると、後ろから自衛隊からの応援と思われるトラックや軽装甲機動車が何台もやってきた。
そのうちの一台が俺の目の前で止まった。中から出てきたのは・・・・

「み、皆本!」

「賢木、状況はどうなってる?」

「お前、演習場から飛んできたのか!?」

「ああ。こんな時に訓練もなにもないだろう」

そりゃそうだ。こいつにしてみれば、訓練なんかより彼女たちが最優先だ。チルドレンはただの仕事の対象じゃない。こいつにとったら、もう家族みたいなもんだからな。

「相手はテロ集団[普通の人々]。軍用のECMでチルドレンを拘束中。目的はわからないが、さっき辺りを読んだかぎりは、まだあの倉庫の中にいるはずだ。」

そう言いながら、俺は200mほど先の倉庫を指差した。

「そうか。やっぱり・・・・」

「!! おまえ、何か知ってるのか!?」

驚いた。こいつの推理力と洞察力にはいつも感心するが、まさか既に事件の全体をつかんでるのか?

「いや、これは演習場で今朝聞いた話なんだが、開発中の新型ECMのプロトタイプが、移送中に車ごと消えたらしいんだ。さっきまで自衛隊でも大騒ぎしていたところでね。その上、バベルのシステムダウン。とても偶然とは思えなかったんだ。」

そういうことか。考えてみれば、バベルと自衛隊は決して無関係じゃない。重要な情報はすぐに伝達しないと、双方とも命取りになりかねないからな。

「それに、隊員達から良くない噂も耳にした」

「噂?」

「政府の中にもエスパーに対して快く思っていない人間がいる。そういう人たちが[普通の人々]に資金面からなにからいろいろな面で協力しているって話だ。」

「ふーん・・・・って、おい! まさかこれも!?」

「あまり考えたくはないけどな。」

なんだよおい、だんだん話がキナくさくなってきたぞ。

「まあいい、とにかく急ごう! 時間が経つほど彼女たちが危ない!」

「ああ、行こう!」

もし政府の人間が噛んでるとなったら、またややこしい話になってくるな。まったく、こういうハードな事件は皆本だけにしてくれよ。俺は女の子を相手するのだけで精一杯なんだから。
そんなことを考えつつも、頭の中は3人のことで一杯だった。
装備を整えつつ、俺達は目的の倉庫に接近していった。








* * * * * *

「3・・・2・・・1・・・・突入!!!!」

バベルの誇る局長直属の特殊部隊、通称Aチームと、自衛隊の合同部隊が、ヤツらが潜伏している倉庫へ一斉に突入した。俺たちも彼らの後ろに続いて突入していく。

突然のことに敵は狼狽したが、すぐに撃ち合いになった。
おーおー、あんなに重火器類持っててどこが普通なんだか。
戦闘は彼らに任せて、俺は彼女達を探すため、陰に隠れながらあたりを見回した。
あの子たちは・・・・・・いた! ECMのそばで縛られてる。
なるほど。先にECMを破壊しようとしたら彼女たちが無事に済まないって算段か。まあ当然の処置だ。

「皆本!」

「ああ、わかってる!」

皆本は、瞬時に俺の考えてることを理解し、行動に移した。

「ECCM発動!」

途端にその場の空気が変わる。エスパーだけに感じる、なんとなくうねりのある空気が、通常の状態に戻る。

「薫!今だ!」

皆本が叫ぶと同時に薫ちゃんが、2人を連れて飛び上がる。俺たちのところまで一足飛びに来ると、その力ですぐさまECMを破壊した。


・・・・後は彼女たちの独壇場だった。捕らわれてウップンの溜まった薫ちゃんのストレスが、ヤツらにモロに降りかかった。
そして、ものの2〜3分で、辺り一面は死々累々と化し、敵さんの屍の山が築かれていった。
・・・いや、だれも死んでないか。
全く、これだけやって誰一人殺してないってんだから、ある意味すごい技術だよな。

そして、事態が収拾すると、3人が皆本に駆け寄っていった。

ヤレヤレ、なんとか無事に片が付いたか。
俺がホッと一息つくと、紫穂ちゃんがこっちへ歩いてきた。

「ありがと。ちゃんと読んでくれたのね」

「まーな。おかげで早く来れた。」

「・・・・賢木センセイは、女の子のアリバイ工作で手一杯で、今日は来ないと思ってたわ。」

このやろ! 無事になった途端にそういうことほざくか!
俺は憎まれ口をたたく彼女に、何か言い返そうと、顔を向けた。

そのとき、彼女の肩口を通して、向こうに倒れている男が見えた。その手が、ゆっくりと動いている。手近にある銃を取った。銃口が・・・・・こっちを向いてる!!

ヤバい!!
思うより先に体が反応していた。相手に背を向け、彼女をかばうように抱きしめた。背中から、パン!という破裂音に似た音が聞こえた。

うっ!!・・・痛ぇな、やっぱり

「!!!・・・・ちょっ、な、何!?」

紫穂ちゃんが混乱してる。無理もないな。俺みたいなのに突然抱きつかれたら。

「ちょっ・・・・先生、やめて!どうしちゃったの!? とうとうその道に目覚めちゃったの!?」

不穏当な発言をするなよ。皆本じゃあるまいし。俺はいたってノーマル志向だ。

「ちょっと、離して、先生! 賢木先生! せん・・・」

お、やっと気づいてくれたか。だから俺はノーマルだって。

「これ、どうしたの!?今やられたの!?」

なんとか急所は避けたみたいだが、左肩のあたりがジンジンと痛い。気がつくと、傷口から流れ出た血が腕を伝って彼女の頬を濡らしていた。やばいな。女の子の顔を汚しちまった。また皆本に怒られる。

「いや・・・血は派手に出てるけど見た目ほど大したことない。」

「たいしたことないって!・・・・でも!」

「いいから! それよりどこかケガしてないか?」

「わ・・・わたしは大丈夫だけど・・・」

「そうか、そりゃ良かった。」

ふー・・・身体を張った甲斐があったな。大人だろうが、子供だろうが、女に傷つけちゃあ俺の名がすたる。

「賢木!!」

銃声に気づいた皆本と、薫ちゃん、葵ちゃんがこっちに走ってくる。撃ったやつは・・・・あ、もう拘束されてら。さすが特殊部隊、仕事が早い。

「センセイ・・・・どうして・・・」

「ん?」

紫穂ちゃんは困惑した表情で、俺を見つめていた。よせよ、だからそういう趣味はないって。

(なんでそんなに身体を張るの? 私のこと・・・嫌いなんでしょ?)

サイコメトリーで彼女の思考が流れてくる。
俺が紫穂ちゃんを嫌いだって? ったく、やっぱガキだな。全然わかってねぇ。

(好きだろうと、嫌いだろうと、人が人を助けるために動くのは当然だろ? だってそれが人間なんだから。)

(・・・・・・・)

(それに・・・・・俺は嫌いだなんて一言も言った覚えはないし、思ってもいない)

(!?)

(ちょっとムカっとくるのは確かだけどな。でも助けてやりたいと思っているのは本当だ。お前らのことを大事に思っているのは、何も皆本だけじゃないってことさ。)

(・・・・・・・)

紫穂ちゃんが、納得言ったような、いかないような顔でうつむいた。
やっぱまだわかんねぇかな、この微妙な心の機微ていうのは。

「賢木!大丈夫か?」

皆本が俺のそばまで駆け寄ってきた。ああ、心配そうな顔してるな。

「ああ、肩に当たっただけだ。幸い骨も動脈もやられてない。」

「そうか、良かった・・・」

心底安心した顔の皆本。ホントにこいつは自ら苦労を背負い込むタイプだよなぁ。

「・・・・あ・・・」

皆本とは反対側から声が聞こえてきた。紫穂ちゃんか。何か言いたそうな顔をしてるな。

「・・・あ・・・あの・・・・ありがとう・・・本当に、助かったわ・・・」

彼女は、頬をほんの少〜しピンク色に染めて、照れくさそうにお礼を言った。
なるほど、営業スマイルじゃなくて、本心からお礼を言おうとするとそうなるのか。
日頃ああいう態度を取るのは、自分の心を相手に出すのが怖い、ただ臆病なだけだってことは、俺もなんとなくわかっていた。なんせ同じ能力の持ち主だからな。特に彼女は女の子なんだから、男の俺よりも色々あるんだろう。

「ああ、お互い、無事でよかったな。」








* * * * * *


「そうか、やっぱり、あの事故は内部の犯行か」

ここはバベル本部のカフェテリア。俺は先ほど頼んだコーヒーを飲みながら、皆本から事件の顛末を聞いていた。

「1ヶ月前に、防衛省からバベルに出向してきた人間が、いろいろと手引きしていたらしい。システムダウンも自分のアクセス権が高レベルなのを利用して、いろんなところにセキュリティホールを開けていたみたいだ。おかげで復旧が大変だよ。」

「エスパーがムカつくからって、そこまでやるかね。結局そういうやつらの裏にあるのは、最終的に金だろ?」

「たぶんね。それも、人が間違いを犯すには十分な額じゃないかな。」

「最後にはそういう話になるのか。もうそこまでいったらエスパーもノーマルもねぇな。」

人間の汚い部分ってのはどうにもなくならないよなぁ。
「はぁ〜」と、ため息をつくと、向こうのドアから声が聞こえてきた。薫ちゃんたちだ。

「おい、おむかえだぞ」

「ああ。それじゃあな」

皆本は席を立ち、彼女らの元へ行った。今日の夕飯がどうとか話しながらドアの向こうに歩いていく。
やっぱ、お前はそういうお世話係が似合ってるよ。
俺が、同僚の主夫を目で見送っていると、その傍らにいた紫穂ちゃんが去り際に俺の顔を見て、
少し微笑んで、そして、去っていった。

なんだよ、カワイイとこあるじゃんか。
なんとなく彼女の心が近づいたような、そんな気がした。なんだか悪い気はしなかった。

もっと良い女になったらメシでも誘うかな。
そんなことをぼんやり考えた、平日午後の昼下がりだった。
いつでも青春真っ盛りw 賢木修二くんの視点で書いてみました。
女好きだけど、どこか憎めなくて、でも何かと頼れる人物って、どこかのマンガの主人公みたいで、わたしは結構好きです。

で、紫穂と賢木は、なんとなく敬遠しあってるけど、近親憎悪というか、似ているからこそお互いのイヤな部分を知っていて、だから壁をつくっているのかなと、そんな風に思っています。
(イヤ、ほんと、うまく言えなくてスイマセン)
だから今回は、薫、葵は声を出さず、あくまで賢木と紫穂に焦点を当ててみました。
なんとなく、そんな2人の雰囲気をわかってくれると幸いです。

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