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初夏

さてどうしようかと、横島は思案していた。
周囲から見れば、別に変わった光景でも無かったろう。
あえて注釈をつけるのなら、一見して冴えない男に美人と称して良い女の子 −それもとびきりの− が寄り添って歩んでいる、くらいだった。
それを『くらい』で済ませていると彼女の姉が聞けば、きっと猛烈に抗議を行うのだろうが、幸いにしてこの場には横島とおキヌの二人きり。
空はどこまでも蒼く高くて、だけど太陽は意気揚々と地上を照らしていて、森の緑は青々と生い茂って、この季節特有の爽やかさと気怠さがあたりを包んでいた。
久しぶりの大蛇村での夏は熱く、そして消え入るように静かだった。



−初夏−



別に横島は何かを狙って、この服を買った訳ではない。
ただGSとしてきちんと稼げるようになってから、なにかれと世話になった人たちにお礼をしていく中で、思いつきでおキヌに告げた一言が形になっただけのこと。
横島がしたことは、おキヌを街に連れ出し買い物に付き合っただけだったが。
でも、だから、余計に。
おキヌが麦わら帽子をかぶるのも、空と森と涼しげな白のワンピースがとても良く黒髪に映えていても不自然な事は無くて、ただそのせいか軽い言葉をかけようとしてもどうしても出てこない。
横島はおキヌを見やり、あきらめた態で言う機会を逃してしまえばそれまでだと思うよう努めていた。
時折森をかける強めの風が木立を揺らして、草の香りを運んで通り過ぎた。
一瞬止まった森の音はすぐに揺り返して、賑やかに騒がしく息づかいを伝えようと懸命だ。
横島はそのざわめきが自分を追い立てている様に想え落ち着かず、うっすら汗ばんだ鼻の頭を幾度もかいた。

さて、どうしたもんかね

何度目か指折り数える気も無くし、さりとてまた逡巡しふらふらと、でも歩幅は土をかみしめる様に小さくゆっくりとしたものだった。
しびれを切らした風が、またおキヌと横島の間を足早に通り抜けていく。
横島の頬を撫でたその風は平等に二人の間を駆け抜けていて、自然おキヌが麦わら帽子とワンピースの裾を押さえる形になった。
 

「なんですか、横島さん?」

振り返ったおキヌを、横島が見つめ返す。
黒髪を白のリボンでしばっているのに今気づいたのも、情けないと言えば情けない話だ。

「あーいや……。何でもない、よ」  

やっぱり言葉は出てこなくて、でも今はそれでいいやと思い直した。
夏を謳歌する森の開く先を目指して歩いて、この散歩をもう少し楽しめればいいや、と。

「うん。何でもないよ」

「変な横島さん」

おキヌの言葉もまた、空と森に吸い込まれて消えていった。
だけども、確かに。
二人こうして歩いているのだから、やっぱりそれでいいのだと、そう想っていた。
はっかい。さんのすばらしーイラストに、掌編ですがSSを書かせていただきました。光栄の至りでございます。
なんで横島がおキヌの帰郷についてきてるの、という背景からもんもんと想像が広がるわけですが、そこは読者様の心の中だけに…(マテ

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