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幽霊だからできること

「そんじゃ、おつかれさまでした〜〜」

「はい、おつかれさま。寄り道しないで帰るのよ?」

「そんな金なんてありませんよ〜」

「何言ってんの。きっちり晩御飯、三杯もおかわりしてたじゃない」

「金がないからココで食べてくんじゃないスかぁ〜……」

「だったらアンタのそのセクハラ癖を止めなさい! それが直れば少しは考えてやってもいいんだけどね」

「うう……堪忍や〜。若さゆえの過ちなんや〜」

「アンタの場合は、過ち以前に犯罪なのよ! まったく……おキヌちゃんからも何か言ってやってよ」

『まあまあ。美神さんもそれくらいで……横島さん、明日も食べてって下さいね?』

「うう。おキヌちゃんはホンマにエェ子やなぁ〜」

「もう……おキヌちゃんってば、ホントに横島クンに甘いんだから……」


 いつもの三人による、いつものやりとり。

 ホントに横島さんてば、懲りないんですよねぇ〜。

 いっつも飛び掛っては、美神さんにシバかれるんですから……

 他の男の人が、あんな風に飛び掛ったりするのを見たことがないんですけどねぇ。

 でも以前、美神さんに聞いてみたら 『男なんて一皮剥けば、みんなあんなもんよ』 って言ってました。

 つまり、横島さんて隠し事が出来ない人ってことでしょうか?

 でも、美神さんに言わせると 『ただのバカよ』 だそうですけど。

 ん〜〜……私にはよく分かりませんねぇ。


 だって私も『バカ』ですから。





 幽霊だからできること
 〜 ふわふわ、ぴちゃん 〜 【by サスケ様の絵より】





 いつもと同じ、いつも通りのやり取りの後、
私は浮遊霊のみなさんが集まる集会に参加しました。

 そこには近所の浮遊霊や、時には守護霊として身内の方に憑いている霊も居ましたけど、
その霊が言うには 『なぁに、たまにはハメを外さしてもらってもバチは当たらんよ』 だそうです。

 そう言えば、あの不良さんに憑いていた守護霊のおじいさん。今頃どうしてるかなぁ?

 一度だけ、あの不良さんの身体を借りたことがありましたけど……

 生きた身体を動かすのは、長年幽霊でいた私にはとても新鮮な体験でした。

 そして、横島さんに偶然出会って……

 横島さんってホントに凄いです。

 顔も声も違うはずなのに、ほとんど一目で私だって分かっちゃったんですから。

 できれば……もう一度、生きた身体で横島さんに会ってみたいです……

 そしたらまた……私だって分かってくれるかなぁ?

 ……うん。分かってくれますよね? だって横島さんなんですし♪

 そうすれば、横島さんと一緒に街を歩く事ができますし、
一緒にお買い物とか……あ! 映画というのをもう一度ちゃんと観たいですねぇ。

 だって、この前はいきなり映画の中に引きずり込まれちゃいましたから、
今度はちゃんとした形で観てみたいです。


 え? ……横島さんと……二人で?

 えっと、もしかしてそれって“でぇと”って言うんでしょうか? 若い恋人同士でする?

 キャーッキャーッ! 私ってば! 私ってば!!



 ……急にブツブツ言って、ピョンピョン飛び跳ねちゃった私を、
周りの方々がちょっと引いた様子で見てました……


 バツが悪くなった私は、言い訳もそこそこに集会場所を後にしちゃいました……


 うぅ……恥ずかしいですぅ……



『どうしたんだい? おキヌちゃん』

『あ、石神様。いえ、なんでもないんです。
ちょっと考え事してただけですから』

 どうやらいつの間にか、石神様の居る公園にまで来てしまってたようです。

『そうかい? なんだか落ち込んでたようにも見えたけどねぇ』

 この石神様。以前は無害な浮遊霊まで追い払ってましたけど、
私が“ぷろれす”で勝って以来は、土地の守り神としてちゃんと役目を果たしておられます。

 それに、見た目は怖そうですけど、姉御肌で面倒見がいい所もあるんです。

 ですから最近は、浮遊霊の相談役みたいなこともしておられるそうです。

 だからでしょうねぇ……私の様子が変だと一目で見抜かれたのは……


『……そうかい、生きた身体をねぇ……』

『はい……私って三百年も幽霊やってましたから、物も持てますし、
幽霊を見る事が出来ない普通の人にも姿を見せる事が出来るんです。
でも、やっぱり生きた身体も欲しいなぁなんて……
贅沢ですよね? 生き返りたくても、できなくて苦しんでる霊が大勢居るのに……』

『まあね……でも、ほら。生きた身体じゃできないこともいっぱいあるさね。
幽霊の身だからこそ出来ることってあるんじゃないかい?
例えば……ほら、あそこを見てごらん?』

 石神様がそう言って指差した先を見てみると……

『池……ですか?』

 そこには、この公園の池がありました。

 でも、池がどうしたと言うのでしょうか?

『幽霊の身だからこそ、水の上を歩くなんてことも出来るんだよ?
ほら、試しにやってごらん?』

『え? ……あ、ハイ!』

 私は言われた通りに池の上まで飛んでいきました。

 ……足先に意識を集中して……


 ピチャン!


 足先が触れた水面が音を起て、そして波紋が広がっていきます。

 ウフフ……結構面白そうですねぇ♪


 フワリと浮かんで、ピチャン フワリと浮かんで、ピチャン


 触れる度に広がっていく波紋が、私の足跡……


 それは私が今“そこ”に居る証……


『ほらほら! 浮かぶんじゃなくて、歩くんだろ?
ちゃんとやってみな!』

 エヘへ……怒られちゃいました。

 でも、ちゃんと歩くと言っても……

 あ! そうだ♪


 チョンチョン ピチャン! チョンチョン ピチャン!


『おやおや。 “ケンケンパ”かい? そりゃ』

『エヘへ♪ そうです。この間、ココの公園で子供達がやってました』

『ハハハ! ま、なんにせよ、ちったぁ元気が出てきたみたいだね』

 あ……石神様。私を元気付けるために?

『石神様……ありがとうございます』

『なぁに。この私に勝ったお前さんがいつまでもしょぼくれてちゃ、石神たる私の立場がないからねぇ。
それに、ほら、後ろを見てごらん?』

 そういえば私、池の中央から石神様に向かって来てたんでした。

 石神様の言う通りに後ろを振り返ってみます。


 そこには……



『うわあ〜……』



 私が通った水面が、波紋が重なり合ってユラユラと揺れていて、
街の灯りがソレに反射して煌めいています。

 そして上を見上げると、立ち並ぶビル……“摩天楼”って言うそうですけど……
その灯りに沿うように、夜空に向かって真っ直ぐに立ち上る光の河……

 あれは……星の河……

 それらがまるで、天空から降り注ぐ一本の光の河のようになって見えています。


 まるで空から舞い降りる、光の道……


『こりゃまた見事な“光の道”だねぇ。
街中で空の星がこんなにもはっきり見えるのは滅多にないんだけどね、
これもおキヌちゃんの人徳かねぇ?』

 私は上の空に 『そんなことないですよ』 と応えながら、その“光の道”に見惚れていました。

『な? 幽霊の身ってのも中々捨てたもんじゃないだろ?』

 ポン と、肩を叩かれてハッと気付いたときには、
石神様はもう、自分が祭られてる場所に戻っていく最中でした。

 私はその背中に向かって 深々と頭を下げて……

『石神様……ありがとうございました』

 私がお礼を言うと、石神様は振り返らずに片手をヒラヒラと振って去っていかれました。

 今の石神様の顔って……多分真っ赤じゃないんでしょうか?

 なんとなくですけど、そんな気がします。


 私はクスッと一つ笑いを零すと、再び振り返って“光の道”を辿るように飛び上がります。

 一瞬、この道を辿って行けば成仏できるかなぁ? と、そんな思いが頭に浮かびましたが、
直ぐに頭を振ってその考えを追い出しました。

『……会えなくなっちゃいますからね……』

 誰にともなく呟いた言葉……


 フワフワと飛びながら、あの人達の顔を思い浮かべます。


 やがて一つのビルの屋上に辿り着きます。

 そこには鳩さんたちがおやすみしてました。


 ウフフ。ちょっとお邪魔しますねぇ〜。





 私が死んじゃってから、もう三百年……


 でも、思い出すのは美神さん達に出会ってからのことばかり……


 昔のことで思い出すのは……


 誰に教わったのか……たぶん、私のお母さんだと思いますけど……


 あの子守唄だけ……


 起こしちゃった鳩さん達のために、私は歌い始めます。


 ……何故だか分かりませんが、歌いながら思い浮かべたのは……





 横島さんの隣を歩く “生きた” 私の姿でした♪





 END
今回、初の投稿になります、チョーやんと申します。
よろしくお願い致します。
これはサスケ様の絵 『ふわふわ、ぴちゃん』 から思いついたSSです。
生きた身体に憧れるおキヌちゃんを書いてみました。
一応は、原作の流れに沿った形にしてみましたが、
それでサスケ様の絵の印象が薄れてしまった気がします…(ノ∀`)
サスケ様、参考にする許可を頂きありがとうございました。
この場をお借りしてお礼申し上げます。

尚、誤字脱字チェックをB-1様にお願い致しました。
B-1様、ありがとうございました。

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