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みっしょん いんぽっしぶる(後編)

「おほほほほ、今日は皆さん楽しんでいってくださいね。」

都内某所にある白亜の大邸宅。その中の大ホールを利用したパーティー会場。ここでは女性だけを集めたパーティーが開かれていた。会場の中央には、小説家であり美容家としても有名な、現代における美のカリスマ“鈴木その美”がいた。彼女を中心に、結婚披露宴で使いそうな大きな円形のテーブルが6台。その上に、ビュッフェ形式で食べ物と食器が並べられ、会場に配置されている。
会場にいる女性たちは、鈴木その美のファンとして、パーティを楽しむと同時に、美の秘訣を教えてもらおうと集まってきていた。
背が高い女性、低い女性、全身花柄の華やかなドレスに身を包んだ女性、露出度が高いドレスの女性、やせた女性、太った女性、とにかく様々なタイプの女性達が混在していた。

その会場の片隅には、全身を黒いドレスにつつんだ長身の美女が立っていた。
黒髪のロングヘアに、控えめながらも自己を際立たせるようなメイク、かわいらしさよりも、自立した大人の色気を持つ、日本的な美人だ。

「ふ〜〜・・・・やっぱり場違いだよホント。なんか息苦しいし。」

会場に潜入した長身の美女・・・皆本は、あたりを見回しながら、早くもくじけそうになっていた。




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         みっしょん いんぽっしぶる (後編) 
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(1時間前 バベル特殊装甲車内)


「やだぁぁーー!ダメダメぇ!! いっちゃやだ〜〜〜〜〜!!!」

目的のパーティー会場に到着したので、外に出ようと皆本が立ち上がったとき、薫が声を上げてしがみついてきた。

「いいかげん離してくれ、薫。作戦がスタートできないじゃないか。」

なぜか今回だけはひたすらだだをこねる薫。皆本は必死に薫を引き剥がそうと試みていた。

「ダメだよ行っちゃあ!!」

真剣な眼差しで皆本を見上げる薫。その必死な形相を見て、皆本は動きを止めた。

「行っちゃったら・・・・・・あぶないよ・・・・」

「????」(なんだ? 任務なんだから、ある程度の危険はいつものことじゃないか?)

「そんな、人がいっぱいのところに行ったら・・・・」

ふっと、薫の顔に影が差す。なにかあるんだろうか。いやなことでも思い出したのか。
皆本は、薫の必死な想いを読み取ろうと耳を傾けた。

「尻触られたり、背中なでられたり、乳揉まれたりするじゃないかーーーー!!
 そんなのダメダメダメだぁぁぁーー!! あたしのヒカルちゃんがぁぁぁーー!!!」

「ぶっ!!」

皆本は思わずズっこけそうになった。何をいいだすんだこいつは!

「だれがヒカルちゃんだっ!! そんなことするのはおまえだけだ!!」

つまり、皆本が綺麗になったために、セクハラの危険があるから表に出したくないようだ。
たしかに、同性から見ても美しく仕上がった皆本の女装。しかし皆本自身はあまり気乗りしていないため、その外見には最初から違和感を感じていた。だから、薫の言うセクハラなど、最初から考えてもいなかった。

「・・・・でも、女同士って、ふざけあって体触ったりするわよ? そういうのは気をつけないとダメなんじゃない?」

先ほどの興奮状態から少し冷めた紫穂が皆本に注意を促す。まだ顔の赤みは取れていない。

「せやな。特に目立つ女にはなんらかのアクションかけてくるわ。」

葵も、携帯カメラでの撮影をやめて言った。こちらもまだ顔が赤い。ちなみにメモリはMAXだ。

「うーん、まあなるべく部屋の隅っこでおとなしくしてるよ。」

たしかに目立つことは避けたい。自分は潜入捜査を行うのだ。パーティーを楽しみつつ、怪しい箇所を調べなければならない。特に180cmという身長は、男でも高い部類だ。目立つ行動は命取りになる。皆本は、葵の言葉を“自分の身長”という意味で解釈していた。
だが、葵の言いたいことは、

「そんなに綺麗やったら、周りの女が嫉妬するで。女同士の嫉妬は怖いからな〜」

ということらしい。

「あ・・・はは・・・そ、そうか・・・」

皆本は引きつった笑いを浮かべた。



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「これは、この前完成したばかりの試作品です。声帯の辺りに貼り付けると、声帯を通る空気の振動数を変えて、声質を変化させることができます。外観は特殊メイクの技術を使っていますので、間近で見てもまずわかりません。」

外見は女でも、今のままでは声を出すとわかってしまうので、ボイスチェンジャーか何かで発声を変える必要がある。柏木は説明をしながら、いわゆる貼り付け型ボイスチェンジャーを皆本の喉に貼った。さすが大人の彼女は、なんでもない顔をしていたが、内心はおだやかではなかった。

「さ、さあ、これで大丈夫ですね。ちょっと声を出してみてください(ドキドキドキ)」




「・・・・・あ、あ〜〜、あ〜〜・・・えーと、どうですか?」

「「「!!!!!!!」」」

まさに女性の声。美しい外見と相まって、本物の女にしか思えない。薫、葵、紫穂、3人の頭のヒューズがまたしてもトんだ。

「やっぱりだめだぁぁぁぁ!!! いくなぁぁぁ$%”=Πξ!!!!」
「あんたぁぁぁー!! いややぁぁーー!! 行かんといてぇぇぇ!!」
「だめぇ!! 死んじゃいやぁぁ!!! 死ぬ前に全部読ませてぇぇぇ!!!」

「っっっだぁぁぁぁーーー!! とっとと離れろぉー!!」

再びしがみついてきた3人。彼女らを引き剥がして、無事外に出るのに、さらに30分を要した。



「・・・・・・・・」

柏木は、そんな皆本を終始ジーーーーっと見つめていた。









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(1時間後 パーティー会場)


パーティーも中盤を迎え、だいぶ場もなごんできた。今なら会場を出ていっても目立たない。そう思った皆本は、誰もこちらを見ていないことを確認しつつ、スっと会場から廊下に出た。

(さっきの会場から少し離れた部屋だったな・・・・)

普段の予知なら、場所と時間まで正確に特定できるのだが、今回はなぜか屋敷の中というところまでしかわからなかった。高レベルエスパー同士は、能力が同じ場合、干渉しあって思った通りの結果を得られない場合が多い。今回の場合、ガードしているというエスパーが予知能力者、もしくはそれを含んだ複合能力者である可能性が高い。ガードをするからには、おそらく複合能力者だろう。

皆本は部屋を一つ一つチェックしはじめた。まず聞き耳をたててからドアを少し開けて中をのぞき見る。片っ端から行うと見つかる可能性が高くなる。だから、予知が効かないなりに怪しいと思われる部屋は事前に確認していた。

3つ目の部屋に差し掛かったとき、中からかすかに話し声が聞こえてきた。聞き耳をたてて様子を伺う

「・・・・・こいつは上物だな。キロ500くらいか?」
「あぁ、そんなとこだ。さすがアンタのとこは話が早い」
「こっちも商売だからな、客がとれそうな商品はケチケチしねぇよ」
「じゃあそういうことで・・・・・」

ビンゴ。突き止めた。
後はチルドレンを呼んで、場を抑えるだけだ。

その時、任務の途中にも関わらず、皆本はフッと気を抜いた。それが命取りだった。

「ちょっと、そこのお嬢さん」
「!!」
















「・・・・・・・!」

先ほどまでダベっていた薫が、ふと中空を見上げた。目の焦点が合わず、ぼんやりとしている。何かを聞いているような、感じ取っているような。

「どしたん?薫?」

「・・・・・皆本が・・・呼んでる・・・」

それは気のせいか、虫の知らせか、とにかく薫の耳には皆本の声が聞こえた気がした。

「いこう! 葵! 紫穂!」

皆本があぶない。理由は特にない。直感的にそう感じた。それはエスパーとしての感覚ではなく、
薫自身が持っている特性なのかもしれなかった。





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作戦は、薫、葵、紫穂の3人が部屋の中にテレポートしてから5分とかからずに終了した。
テレポート後、その場にいた男たちを、薫は壁に叩きつけ、葵は床に埋め込ませ、紫穂はゴムスタン弾で滅多打ちにした。ガードのエスパーは、あくまで取引の危険回避としての予知能力をもっていただけで、戦闘力はほとんどなかった。こうなれば、レベル7の彼女たちに敵はいない。まさにあっという間の出来事だった。


「皆本!大丈夫か! 皆本!」

皆本は手足を拘束されて部屋の隅に放置されていた。
彼を助けようと、薫は皆本のもとへ駆け寄った。彼は意識を失っていた。

「皆本! おい、しっかりしろよ! 皆本! みなも・・・・・」

呼びかけながら、皆本の現在の状態を見た薫。
両手と両足が縄で縛られている。尋問の後か、ドレスのそこかしこが破れて、生肌が見える。気を失った顔は、まるであどけない少女の寝顔のようだ。

「・・・・・・・・・・ゴクッ・・・・」

そんな状態の皆本を見つめていた薫の顔が、次第に紅潮してきた。いつも口うるさい皆本が、無防備な姿をさらして今目の前に横たわっている。
これは・・・・チャンス・・・か?

薫は、そーっと、皆本の身体に手を伸ばす。
と、後ろからガシっと肩をつかまれた。

「あかんでぇ、薫。独り占めはあかん。」
「そうよ。ちゃんと平等にわけないと。」

ハアハアと、2人の息遣いが荒い。今の皆本を見た時からとっくに臨戦態勢だったようだ。

「やっぱり、眠れるお姫さんは、キスで起こさんとな」
「フフフフ、皆本さんとキス・・・・・ウフフフフフ」
「ちゅーで起こして、それから悶える皆本を・・・・くくくくく」

3人がジリジリと皆本に迫る。興奮して、心臓がバクバクいってる。薫の手がワキワキと動いて、今にも皆本の身体をいじり倒そうと迫ってくる。目は焦点を失って、皆本以外の何も見えていない。彼の貞操はもはや風前の灯火だった。




「ん・・・・・う・・・ん・・・・・・」

皆本の目がうっすらと開いた。意識を取り戻したようだ。
(僕は・・・・そうか・・・後ろから殴られて、拘束されたのか・・・・)
瞬時に自分の状態を把握した皆本。今の状況を確認しようと、目を見開いて正面を見る。


目の前には薫の顔がドアップで迫っていた。

「うおわぁぁぁぁぁ!! ななな・・・なんだおまえぇぇ!!!」

その声でハっとなり、薫は皆本と目が合った。少し驚いたようなような表情をしていた薫だったが、
すぐに目を“とろ〜ん”とさせて迫ってくる。

「大丈夫、心配しないで。そのままでいいから。怖いことなんてなんにもないよ・・・・」

「おまえが怖いわぁぁ!!」

皆本は薫からなんとか逃れようとひたすらもがいたが、思いのほかガッチリと拘束されていて、なかなか解けない。薫がいるなら、葵と紫穂もいるのでは? そう思い、あたりを見回す・・・
・・・・いた。皆本の身体をなでまわしている。

(ヤバイ! このままじゃ、ヤられる!!)

皆本が本気で貞操の危機を感じた、そのとき・・・


「大丈夫ですか、皆本さん?」

後から到着した柏木が、倒れている皆本を覗き込んでいた。

「柏木さん・・・・」

助かった! 皆本は胸をなでおろした。

「ダメよ、あなたたちも。早く皆本さんを解放してあげないと。」

柏木のその言葉に、それまで戦闘態勢だった3人は、一気に興を削がれた。
「ちぇー」と言いつつ、薫は皆本の拘束を解いていき、皆本はフラフラと立ち上がった。

「ありがとうございます。助かりました、柏木さ・・・・・」

皆本はお礼を言って、柏木の目を見た。 が、その目はさきほどの薫と同じ色をしていた。

「・・・いいえ、実際に助けたのは彼女たちですから。お礼は彼女たちに言ってください。」

「・・・え? ああ、はい」

だがそれも一瞬のことだった。
おそらく見間違えだろうと思い、皆本は3人に顔を向けた。
先ほどは、意識を回復した直後にあんな状態だったから驚いたのだが、作戦が失敗しそうになったところを救出してくれたのは彼女たちだ。先ほどのやり取りはともかく、まずはお礼を言わないといけない。

「ありがとう、君たち。助かったよ。」

「まったく、気をつけろよな。あたしたちがいなかったら、今頃もっとひどいことになってたんだぞ」
「そうそう。今の皆本はんはカワイコちゃんやから」
「全裸にされててもおかしくなかったわよ」

「は・・・はは・・・・・そ、そうだな・・・・あ、ありがと・・・」




こうして、作戦は無事終了した。















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「なあ、これなんかどう?」
「うーん、ちょっとハデすぎなんちゃう?」
「あら、だったらこっちの方がいいわよ」

皆本家のリビングで、薫・葵・紫穂の3人が、なにやら雑誌を読みながら話し合っている。
キッチンから出てきた皆本は、真剣に話し合っている3人を見て、なんだろう?と思い、声をかけた。

「なにしてるんだ?」

振り返った3人は、満面の笑みを浮かべて

「いや〜、皆本の次の衣装をさ、選んでんだ」
「どんなのが似合うかな〜と思ってな」
「案外、ゴスロリとか似合うかも」

皆本は、その場でズっこけた。どうやら、今度の任務で入ってはいけないスイッチが入ってしまったらしい。

「「「ウッフッフッフッフッフ・・・・・」」」

チルドレンの3人は不気味な笑みを浮かべた。
皆本は、あのとき女装を承諾したことを、いまさらながら激しく後悔していた。
皆本ヒカルちゃん(w の後編です。
絶チル本編も、やっぱり皆本クンはお姫様の役割だと思っています。
薫が主人公として、お姫様の皆本クンを大事に思っているという形。
まぁ、愛しいからこそイタズラしたいし、頭のヒューズも簡単にトぶんでしょう(w

女装のままバベルに戻っていたら、女性だけでなく男性もひきつけるでしょう。
彼は天性のヒロインですね。

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