【男性の衣服に吉】
「なんですか?この御神籤。弓さんと一文字さんは? 」
「私は【ご奉仕される喜びに大吉】ですわ」
「【虎!今回も出番はなし!吉】だって……」
学校からの帰り道にお茶をしたその足で、ふと立ち寄った商店街の販促イベント。
そのイベントで催されていた『出張!なんでも鑑○団 in おみくじ』
なる怪しげなイベントに参加してしまった3人は、その鑑定内容に激しく疑問を感じていた。
「……ところで弓さんと一文字さんは―――その……うまくいっているんですか? 」
「そういう氷室さんこそどうなんですの? 」
「そうそう!あたしらなんかより、おキヌちゃんこそどうなのさ? 」
「わっ私ですか?うまくもなにもモゴモゴ……」
そう……彼とは何も進展していない。
一度は告白もした―――でもあやふやにされてそのまま―――。
『はぁ……』
弓と一文字と別れたおキヌは事務所への道すがら、先ほどのコトを思い出してため息をついた。
彼が私を嫌っていないことは知っている。
そして事務所の皆のことを嫌っていないことも知っている。
嫌っていないのでは無い。むしろ好意を持ってくれている事も知っている。
でも誰かを選んだりしない彼の優しさ―――。
自分も皆の事が好き。それはまるでひとつの家族のよう。
姉がいて、手のかかる妹達がいて―――。
自分にとっての家族。私は彼にいったいどんな役割を願っているのだろう?
答えはとっくに知っている。でもその答えを出すのが怖い。
違う。答えを出すのが怖いんじゃない。ホントは一歩目を踏み込む勇気が足りないだけ……
「あっ。雨……」
突然降りだした雨に打たれ、おキヌは事務所への帰路を急いだ。
「ただいま」
濡れたおキヌが事務所に駆け込む。しかしおキヌの帰りを迎える者は誰もいなかった。
『そうか……今日は私以外の皆はお仕事だったんだ。』
すっかり濡れたスカートの裾を軽く絞ると、おキヌはそのまま浴室へと向かった。
雨ですっかり冷えた体をシャワーが温かく包んでくれる。
ふと想う―――300年。
長い年月で冷えきった自分を―――家族が、そして横島が暖かく包んでくれた事。
今こうして家族として共にいれる温もり。
取り戻した自らの肉体に感じるアタタカサ―――。
浴室を出たとき、慌てた為着替えを用意していないことに気がついた。
ふと先ほどの御神籤を思い出す。
【男性の衣服に吉】
浴室の棚には洗濯済みの衣服が綺麗にたたまれて置かれていた。
当然ここは乙女の園。女性メンバーの衣服はすぐさま各人の部屋へと運ばれるのだが、
仕事の都合で、たまにここで洗濯する事がある横島の衣服はそのままに置かれていた。
「これも一歩目を踏み出す勇気ですよね……」
少しのためらいの後、おキヌは洗い立ての横島のYシャツに手を伸ばした。
誰もいない開放感と、普段はお仕事したり食事をしたり―――
普段では絶対にこんな格好でここにいるはずは無い非日常。
シャンプーの残り香が残る濡れ髪もそのままに、おキヌは事務所の椅子に座っていたた。
その甘い緊張感が火照っった体をアツクさせ、風呂上りも手伝って顔を上気させていた。
「ちはーっ!」
突然聞こえたその声におキヌは戦慄を覚えた。
『○×※ω▼?!……そんな……今日は皆お仕事で帰りは遅いはずでわっ!』
慌てて自室に逃げ込もうとするが間に合わない。
「美神さん!何で今日は急に仕事キャンセルになったんスか?
っておキヌちゃんその格好………………」
そこにはYシャツのみを身に纏った濡れ髪のおキヌが……
せめてもの乙女の恥じらい。横島に背を向けうつむき加減で立ち尽くしていた。
お風呂上りの温かさと冷や汗とが交じり合い、Yシャツは濡れた背中にピッタリ張り付いている。
「?!っておキヌちゃん……もしかして……モシカシテ……
そんなご奉仕を美神さんから要求されってってブベラっ!」
「違います!」
手元にあった美神の神通棍でフルパワーの攻撃を思わず……
「って!はーん。横島さはーん!違うんでうけど、そう!違うんです!!」
涙目となったおキヌが瀕死?となった横島を思わず抱き寄せる……
「おっおキヌちゃんコレはコレは?もしかしてっホントにさそっ……」
思わず横島を抱き寄せたものの、今の自分のあられもない姿を思い出し再び横島に背を向ける。
『一歩目を踏み出す勇気が欲しかっただけなのに……』
おキヌは黙って美神の事務机の引き出しを開け、ストックしていた文珠を取り出した。
そしてにっこりと微笑みながら、何かしらの文字を込めた文珠を横島に投げつけた―――
【完】
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