「ハァ、私はいつになったら大きくなれるでちゅかね……
食事だって三度三度きっちりと蜂蜜を食べているのに……」
パピリオは自分の胸を見下ろして小さくため息をついていた。
以前は成長することなど出来ないと思っていた。1年しか寿命のないことを知っていたから。
でも今は寿命の制限も解除され、成長できる体になったはずなのである。
「ハァ……」
もう一度小さくため息をついたその時、懐かしい気配が近づくのを感じていた。
その瞬間に今まであった憂いの表情は喜びの表情にとって変わり、その気配に向けて走り出していた。
その懐かしい気配とは横島の気配だった。亡き姉の霊基構造を与えられているから近づいてくればすぐわかる。
「おっす、左右の鬼門。元気にしてたか?」
鬼門に挨拶している声が聞こえる。もうこんなに近くまできている、こうなると心のリミッターなど効かなくなっている。
「おお、横島ではないか。今小竜姫様をお呼びするからしばし「右の! 歯を食いしばれ!」うおっ!?」
右の鬼門が横島に挨拶を返しているときに左の鬼門がパピリオの気配に気がついて何か言っている。
後は力任せに門を開け、抱きついて再会の喜びを分かち合うだけだ。
「ヨコシマー!!」
「ぅぼぁっ!」
再会の喜びを分かち合うはずだった……なのに、何でヨコシマは伸びているのだろう?
パピリオがそう疑問に思ったときには大の字に寝ている横島の頭の上を数匹の蛍が舞っていた。
「パピリオ、あなたはいつもいつも……」
小竜姫にお小言を言われるのはいつものことだった。
「まぁまぁ、小竜姫様。パピリオはまだお子様なんですから、喜びを素直に表現しただけなんですよ」
横島は苦笑を浮かべながら、小竜姫を宥めている。
パピリオは自分を庇ってくれる横島の言葉はうれしかった。
だが、その言葉の一部分「お子様」という部分に何か引っかかるものを感じていた。
先ほど考え込んでいた、いつになったら大きくなれるのかという悩みのこともあるのだ。
だから素直に喜ぶことは出来ず、半分すねた表情で上目遣い気味にしか横島の顔を見ることが出来ないでいた。
「そーゆーことですから今日は俺に免じて許してやってください、小竜姫様」
そう言いながら横島はパピリオの方に視線を向け、パピリオの表情に気がついた。
「ん、どうした?」
「ヨコシマから見ても、私はまだお子ちゃまなんでちゅね?」
「ん〜、そうだなぁ……まだまだお子様だなぁ。お前は蝶の魔族だからまだイモ虫みたいなもんか?」
「イモ虫でちゅか……」
「それはそれでかわいいけどなっ。まぁ、あいつの妹だし大きくなったらすんげぇ美人になることは間違いなしだ」
パピリオにはヨコシマの最後の言葉は届いていないようで、何かを考え込んでいるようだった。
ただ、イモ虫と言われたことはあまりショックではなかった。自分は蝶の化身であることは承知している。
お子様にしか見えないということはそう言う事なんだと理解できていた。
そこまで理解できていたパピリオの頭にハッと浮かぶ考えがあった。
「イモ虫、そうか私はまだイモ虫なんでちゅね!?」
パピリオにとって天啓というべき閃きだった。
自分はまだお子様、つまり幼虫である。であれば、食事が蜂蜜では成長する栄養としては足りないはずである。
これで、先ほどまでの悩みも解決できるだろう。
「小竜姫! 今日から私の食事は葉っぱモノでちゅ。キャベツでちゅ、にんじんでちゅ、セロリでちゅ、みかんの葉っぱでちゅ!」
ここまですれば悩みは解消といっていいだろう。蛹になってその殻を破って生まれ変わる自分の姿を思い浮かべるパピリオの表情は夢見る少女のごとくきらきらと輝いていた。
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