「なぁタマモ、なんでお前はきつねうどんばっかり食べてるんだ?」
―――― 蕎麦に罪は無いけれど ――――
今はお昼時、ちょうどみんなで事務所でご飯を食べている時だった。
横島がそんなとんちんかんなことを言い出したのは。
ちなみに今日のお昼御飯は、私がリクエストしたきつねうどん。
全員が同じメニューで、別に私だけがきつねうどんを食べてるわけじゃない。
「なによ、横島。別にきつねうどんばっかり食べてるわけじゃないでしょ。今日はたまたまじゃない」
「そうね。タマモは特に好き嫌いもないわよ?」
ちょっと怒ったような声色になっちゃった。
食べ物の好き嫌いの事で怒るなんて、少し狭量だったかしらね?
でも美神さんの言うとおり、そんなに好き嫌いした覚えもないし……
「あ、そうじゃなくてですね。タマモってリクエストするメニューが決まってるじゃないっすか」
「そう言われればそうですね。大体『きつねうどん』か『いなりずし』か『あぶらげっぽいの』の三択ですね」
「だろ?おキヌちゃん。」
「拙者は漠然と肉がいいとか、具体的な料理名を言う事が多いでござるかな…?」
ああ、そういう事ね。
確かにバカ犬は、単に肉が食べたいと言う時もあれば、肉料理の名前を挙げるときもある。
美神さんは、豪華な料理は食べ慣れてるせいか、それとも単におキヌちゃんお料理が好きだからなのか、何でもいいということが多いし。
横島は逆に、貧乏だからか「事務所でご飯が食べられる」状況がうれしいみたいで、何でもいいと言って細かな指定はしないし。
そう考えると私のリクエストの仕方って珍しいのかもね。
「だとしても何か問題があるって言うの?」
その辺りは個人の好みの範囲だと思うんだけど。
「いや、問題とかじゃねーけどさー…。いなりずしやあぶらげっぽいのは置いとくとしても、なんできつねうどんにこだわるのかなってさ?」
「どーゆーこと?」
「お前の場合、きつねうどんの麺とか汁の味が好きってわけじゃないだろ?油揚げが好きだってのなら、どうしてきつねそばじゃダメなのかなぁと思ってさ」
「それは……」
そう言われると返答に困る。
確かに私はきつねうどんが好き。それは事実だ。
でもそれは、横島の言うとおり『油揚げ』が入っているから。
だから、麺の種類がうどんかそばか、つゆが濃い口か薄口かなんて正直どうでもいいはずなんだけど…。
自分でもよく分からない。
なんでなんだろう?特にそば関係で嫌な思いをしたってこともないはずなんだけど…
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―――ああ、そっか
唐突にわかっちゃった。
どうして自分は『きつねうどん』が好きなのか。
どうして『きつねそば』じゃダメなのか。
―――“思い出の味”だから、だったんだ
思えば…横島とおキヌちゃんに助けられた時も。
美神さん達親子に正体を見破られた時も。
シロと初めて出会ったときも。
私は『きつねうどん』を食べていた。
私の“思い出”はいつも『きつねうどん』と共にあった。
元々油揚げは好きだったけど、そこにいつの間にか“思い出”がプラスされてたんだ。
だから…私は無意識の内にきつねうどんを求めていたのかも。
だけど…そんなこと言えるわけ無いじゃない。
恥ずかしいったらありゃしない。顔が熱い。
―――なら、キツネの取る方法は1つよね?
だから、私は嘘を吐く。
「おキヌちゃんの作るきつねうどんが絶品だからよ。
…ってそもそもなんで私があんたにバカ正直に答えなきゃなんないわけ!?」
それは一握りの真実が含まれた嘘。
おキヌちゃんの料理がおいしいのは事実だしね。
騙すのは狐の専売特許だってこと、思い知らせてあげるわ。
……顔の赤さ、うまくごまかせてるかしら?
でも……多分、これからの“思い出”もきっと『きつねうどん』と共にあるんでしょうね。
そう…
―――蕎麦に罪は無いけれど
―――― 完 ――――
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