ブゥゥゥゥン……
機械的な振動音が室内に響いている。
その部屋は小学校の体育館ほどの大きさで、100人ほどの様々な人々がそこに居た。
スーツ姿の若い男性、制服姿の女子高生、サッカークラブのユニフォームを着た小学生など、性別はおろか職業、年齢もバラバラである。
共通点と言えば、みんながみんな腕に半透明の腕輪を装着し、虚ろな瞳で座っていること。
そして…
「…壮観だな、いくら超度が低いとは言え、これだけのエスパーが並んでるってのは」
特殊部隊員であろうか、迷彩服を着込み、肩からサブマシンガンをさげた男が呟く。
そう共通点とは、全員が何らかの能力を持った
超能力者だと言うことだった。
絶チルラノベ補完計画
カツカツと、男は足音を立てながら室内を見回っていく。
ガリッガリガリガリッ…
突然、入り口近くに備え付けられた大型のコンピュータが音を立て始めた。
それと同じくして、今まで穏やかな表情で座っていた人々の表情が変わった。
ハァハァと息切れを起こし、苦悶の表情とは行かないまでも、強制的に運動させられているような表情を浮かべている。
「『
MEDUSA』が起動したか、計画通りだな」
ニヤリと、笑みを浮かべる男。
「これでバベルは崩壊することになる。
そう言えば、バベルの特務エスパーもこの中に居たんだったな…」
そう呟くと、男は部屋の奥の方へと歩いて行く。
部屋の一番奥に、他の人たちとは離された形でベッドが置かれていた。
ベッドの上には中学生くらいの少年と少女が眠っている。
「特務エスパーって言っても、ガキはガキだな。
あっさり捕まった上に、自分たちの力がバベルを破壊する為に使われるとはな」
クックックッ…と、意地の悪い笑いをしながら2人の顔を覗き込む。
眠っている明と初音は、他の人よりも苦しそうにしている。
特務エスパーということで、他の人たちよりも多く能力を吸われているようだ。
「どんな夢を見てるか知らないが、今だけでもいい夢を見ておけ。
次に目が覚めたときには地獄が待ってるんだからな…はっはっはっ『ビキッ…』…は?」
男の笑い声を掻き消すかのように、何かにひびが入るような音が聞こえた。
「なんだ今の音は!?」
キョロキョロと、回りを見渡しながら叫ぶ男。
しかし、回りには何も無い。
「一体…」
バキィッ!!
次に聞こえて来たのは、何かが壊れるような音。
しかし、今ので何処から聞こえて来たのかがはっきりとわかった。
それは男のすぐ隣りから聞こえて来たのだ。
「こ、こいつか!?」
破壊音が聞こえたベッドを覗き込む男。
よく見ると、少女の腕に付いていた腕輪が真っ二つに破壊されていた。
「な、何故だっ!?」
次の瞬間、少女の顔に少しずつ毛のような物が生えて来た。
「な……」
男の顔が恐怖の表情で固まる。
男が目をそらせずに居ると、その少女の姿が段々と巨大なケモノへと変わって行く。
『グルルルルルルル……』
のそり…と、巨大なケモノは起き上がり、床へと降り立った。
巨大なケモノ…暴走した初音は目の前に居る男をギロリと睨みつける。
「バ、バケモノめっ!」
男はそう叫ぶと、肩からさげていたサブマシンガンを初音へ向ける。
そして標準を合わせ、トリガーに手をかけようとした瞬間…。
『ガァァァァァ!!!』
初音は叫びとともに男へとタックルを喰らわせた。
「ぐはっ…!」
男はトリガーを引くことも無く、壁に叩きつけられて気絶してしまった。
『グルルルルル……』
気絶した男を放って、初音は室内を見回しながらゆっくりと歩いていく。
「どうしたっ!?」
「何だ今の音は!?」
「な、なんだアレはっ!」
先ほどの男と同じ格好をした者たちが、異変に気付いてやって来た。
「ちぃっ!エスパーが逃げ出したか!」
「クソッバケモノめっ!!
最悪殺しても構わんっ!撃て!撃てぇぇぇ!!」
ECMを使えないこの部屋では、暴走した初音をまともな方法で止めることは不可能と判断したのであろう。
男たちはサブマシンガンを構え、初音に照準を合わせると、一斉に発砲した。
タパラタタタタタッ!
『グルゥゥゥゥ…ガァァアァァァァァァア!!』
一足飛びで弾丸をかわし、初音は咆哮とともに男たちへと襲い掛かって行った。
「…あの声は初音ちゃんかっ!」
『うきふね』の船倉へ潜入していた賢木たちの耳に、初音の咆哮が聞こえて来た。
「場所は…このまま真っ直ぐだな…。
敵が何人か居るから注意してくれよ…」
サイコメトリーで初音の居る場所を割り出し、背後のグリシャムたちへ言って走り出す賢木。
グリシャムたちは無言で頷き、慎重に賢木の後をつけて行った。
「……こ、これは……」
部屋へと到着した賢木たち。
「これが『
MEDUSA』か…」
入口近くに備え付けてあったコンピュータを操作してデータを確認するグリシャム。
「そうだ、明や初音ちゃんはっ!?敵の姿も無いし…!」
まさかまた連れ攫われたのか…と、明と初音の姿を探す面々。
「あっ…あれは…!?」
遠隔透視能力を発動させていたケンが、何かを見つけたのか声を上げた。
「見つけたのか!?」
「あそこに…」
近づいて来た賢木に判るよう、ケンは部屋の奥を指差した。
「ひ…人を喰ってるネー!?」
「なにぃっ!?」
ケンの言葉に賢木は奥へと走り出す。
奥へ進んでいくと、確かに何かを
咀嚼するような音が聞こえて来た。
ごり…がり…ごくん…
ぼり…ばり…ごくん…
「………」
そ〜っと、音を立てないように進む賢木の目に、こちらに背を向けて床に顔を付ける姿で何かを喰う狼形態の初音の姿が見えた。
その付近には、倒れる迷彩服の男たちの姿が…。
「まさか…本当に…」
ごくりと、喉を鳴らす賢木。
その音に気付いたのか、初音が賢木のほうをゆっくりと向いてきた…。
「………あれ?賢木先生?」
空腹から脱出したのか、初音は暴走状態から回復していた。
「良かった、暴走から戻ってるな…じゃなくて!
初音ちゃん、何喰べてたかちょっと見せてくれっ!」
初音の横を通り抜け、倒れている4人の男を見る賢木。
「……息はある…よかった、こいつらを喰ってたわけじゃないんだな…」
気絶して伸びているだけの4人を確認し、賢木は安堵した。
「じゃあ一体何を喰ってたんだ………って……これか…」
賢木は男たちの上に散らばった包装紙を見つけて肩を落とした。
男たちの上に散らばった包装紙には、『
戦闘糧食』と書かれている。
「こいつらが携帯してた奴か…」
「それ、あんまり美味しくなかった」
「そりゃ携帯食だからなぁ…。
最近のはうまいって聞いたんだけどなぁ…」
「…君たち、かなり余裕だね…」
後ろからやって来たグリシャムが、2人へ声を掛けて来る。
「あっ!明は!?」
「そうだ、明は一緒じゃないのか初音ちゃん!?」
今ごろ気付いたのか、突如として慌てだす2人。
「…その少年ならそこのベッドに居るよ。
『
MEDUSA』を停止したから、もう少しで目が覚めるだろう。
掛かっている催眠は私が解くから安心するといい」
安心させるように、初音へ言うグリシャム。
「うん。
ありがとうじーちゃん」
「じ…まぁ、好きに呼んでくれたまえ…。
ケン、メアリー、船内の残った敵を征圧してきたまえ。
人質を全員確保したから好きなだけ暴れてくるといい」
「OKネ!」
「リョーカイ!行くヨメアリー!」
そう言って2人は船内へと走り出して行った。
「とりあえず一安心だな〜。
あとは皆本たちだな…しっかりやってりゃいいけど…」
疲れが出たのか、床へ座り込む賢木。
「にしても、予想通りって言うか何て言うか、やっぱり初音ちゃんは暴走してたなぁ…。
強制的に能力を使わせるって言うから、そんなことになってんじゃないかと思ったけど…。
ま、おかげであっさりと人質を解放出来たし、かえって都合が良かっ………」
賢木の呟きが途中で止まる。
「………まさか、狙われるであろう皆本と2人を組ませたのは……」
賢木の頭の中で1つの答えが導き出される。
「…これも、シナリオのうちですか?蕾見管理官…?」
何処かで見ているであろう女性へ、賢木はそう問い掛けるのであった…。
(了)
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