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切れぬ思いと途切れぬ絆

「私は悪くないっ」

歯を食い縛り、この事務所の主たる美神を睨みつける。

最初は、大した話ではなかったはずだ。
でも、気付けば剣呑とした雰囲気になって
引くに引けない状況になって…

この時に、横島が居れば
アイツがいれば少しは…ううん、絶対にこんな雰囲気にはならなかったはず…

アイツは…私を置いて何処かへと行ってしまったんだから。


GS美神短編「切れぬ思いと途切れぬ絆」


ドアを開ければ雨が降っていた。
一瞬足が止まる
何故? 答えは簡単だった

人と関わりすぎた所為だ…


私は目を少し瞑りながら雨の道へと飛び出す。
耳に雨音に紛れた足音が聞こえてくる…多分シロだ。

あのバカ犬…

でもこの雨なら不規則に走れば追う事もままならないはず。
そう思い、道路だけでなく家や電線の上まで走り
気付けば何処かの森の中に入っていた。


『ぞくり』と身体が震える。
美神の事務所に居候する前までは野宿してて、雨に濡れても然程気にしなかったのに
雨に濡れて引っ付いてくる服を恨めしく感じてしまう。

「こんなものっ!」

『これ、アンタに似合うんじゃない?』そう言って美神が買ってくれた服を破りながら脱ぎ捨てる。

なんで…

何で雨は冷たい筈なのに

私の頬はこんなに熱いのだろう…


幻術で服を作り、身に纏う。
…いや、纏った『ふり』だ。

雨は幻術の服をすり抜けて私の身体を濡らしていく。

そう、これが『昔の私』だ。

ただ、少し前に戻っただけなのに…
こんなに…


「あっ…」

お腹が小さく『ぐぅ』と空腹を告げてくる。
せめて、キヌの食事を食べて出てくれば良かった等と考える頭を振り
近くに見える木の実を毟り、私は口に放り込んだ。

「不味い…」

加工していない物がこんなにも不味かっただろうか
いや、この森は都会から近いところにある。
恐らくその所為で汚染されてるのだろう…多分だけど。

不味くても、空腹には勝てない。
手の届く範囲にある木の実を片っ端から口に放り込み、目を思い切り瞑って
滅茶苦茶に噛み砕き、一気に飲み干した。

こんなに不味い食事なんて、美神の家にいる時は考える事すらなかった。
ううん、今食べた木の実は料理なんてレベルじゃない。
ただ、栄養を補給しただけ。


お腹が脹れれば余裕が出てくる。
余裕は何処へと向かう?

それは・・・

「う…うぁぁ…ひっく…ひっく…うぁぁぁぁぁんっっ」

寂しさ、寒さ、辛さ
何故自分はこんな所にいるんだ

自分で勝手に出ているけど、この理不尽な思いは
涙となり
嗚咽となって私の身体から出ていた。

『おーどうした?』

幻覚が身を襲う。

暖かい部屋
暖かい手

横島の…手…

「全く何やってんだ、こんなとこで」

幻覚じゃない。
雨に紛れて聞こえる、確かな横島の声。

涙に濡れてぼやける視界に見える横島の姿。

私は無我夢中で横島に抱きつき、大声で泣いた。

泣いて
泣いて

そのまま、意識を失うまで…


「う…うぁ…ん…」

ぼぅっとした意識がゆっくりと覚醒してくる

暖かい温もり
窓に当たる雨の音

横島の匂い…

これはきっと夢
一人になって寂しさに潰されそうになった私が作り出した幻想

でも、今だけ…この今だけはこの夢に溺れたかった
この温もりを感じて居たかった…

横島の胸元に鼻先を擦り付ければ
横島の腕が私の身体を優しく抱き締めてくれる。

まるで、麻薬の様に私の頭を支配していく。

「タマモ、もう勝手に出ていったりすんなよ? 皆心配するんだからな」
「うん」
「俺だって心配したんだぞ、妙神山から帰ってきたら皆が『タマモが出ていったー!?』って叫んでるし」
「うん…」

『ごめんなさい』と、小さく呟いて横島に抱きつく。
流れる涙が、横島のシャツに染み込んでいく。

寝たくない
寝たくないのに、意識が遠のいていく。

この、暖かい温もりに包まれて…



「うらぁぁっ 起きるでござるよ、女狐ー!」
「うきゃぁぁぁっ!?」

シロの叫びと共に、敷き毛布こと剥ぎ取られて
私の身体が宙を舞う。

「全く、何時だと思っているでござるか。 もう8時でござるよっ!」

ベッドの反対側に落ちた私は、顔半分だけ覗かせて『おはよう』と小さく言うと

「うん、おはようでござる!」

爽やかな笑みと共にシロの挨拶が返ってきた。


まだ…夢が続いているのだろうか…


階段を下りれば美神とキヌの姿。
『おはよう』と恐る恐る言えば、笑みながら二人が返事してくれる。

夢でもいい…言いたかった

「あの…ごめん…なさい…」

俯きながら言う私の頭を撫でながら、『いいのよ』と美神の優しい声。
私はつられる様に美神に笑みを返…

「うきゃぁぁぁっ!?」

返そうとした瞬間、子気味良い音と共に背中を思い切り叩かれた。

「いったぁぁ…何すんのよ、馬鹿犬!」

あまりの痛みに少し涙を零しながらシロに噛み付く。
『それでこそタマモでござる』と頷くシロが恨めしい。

でも、夢見な頭がやっと覚めてくれた。

これは、現実なんだと教えてくれた…

と、いうことは…昨日…私は…

「おはよーッス! よぉタマモ、バッチリ寝たか?」
「燃えろぉぉぉぉっ!!!」

能天気な笑顔と共に入って来た横島に、特大の狐火を放ってやる
『なんでぇぇっ!?』と燃えていく横島を見てる私の顔は恐らく真っ赤になっていると思う

だって、私は昨日…

「まったく、一晩中『横島ぁ…横島ぁ…』って言いながら抱きついて寝てたのを思い出して恥しいからって…先生を燃やすことは無いでござろう?」
「い、い…言うなぁぁぁっっっ!!!」

肩を『ぽん』と叩くシロのニヤ付いた顔に、私はさらに顔を紅くしながら思い切り叫んだ。

どんな事があっても切れぬ、皆への思い
どんなに嫌っても途切れぬ…絆…

私の家は、ここなんだ。
でも…これだけは…

「タマモ、先生に夜這いしたいなら後数年は待つでござるよ?」
「ちっがぁぁうっっ!!」

これだけは、本当に違うんだからっ!
某タマモ総帥様より電波を無理矢理(?)食らわされて書き上げた一品でございます。
ゆめりあんとしては珍しくシリアス調です…
どうなんでしょうね…好き嫌いはいけないですが
EROを抜いた私の作品など、お湯の入ってない味噌汁の様な物だっと一部に囁かれてまして…あはは…
楽しんで頂けたのであれば幸いなのですよ。

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