<<SIDE:キヌ>>
今日のお仕事は、私と横島さんのふたりだけ。
新宿にある、近々取り壊される予定の、古くて小さな劇場で……そこに居座って、取り壊し作業の邪魔をする悪霊の皆さんの除霊です。
いえ、そのはずでした。
なのに……
胸の先っちょがようやく隠せる……それくらいの面積しかない小さな三角の布着れがふたつ、ひもでつながってるだけのブラ。
ぱんつは、前はふつうだけど、後ろはもう完全にひもで……おしりが全部見えちゃうの。
水着じゃなくて、ステージ衣装だそうですが……
横島さんがいっぱい持ってる、本とかビデオとかでよく見かけるのとそっくり……しかも、なんだかサイズが小さい。
私が着ても ぱつんぱつん……
な、何で……なんで私こんなかっこしてるんでしょうか?
どーしてこんなの着ちゃってるの?
……はうぅ……は、はずかしいよぅ……
あ、あの……よ、横島さん? ほ、ほんとにこんな事で皆さんおとなしく成仏してくれるんですか!?
「あぁ……この劇場が取り壊される前に 『最期に素晴しい”ショー”がみたい』……
それが、皆の望みなんだ。それさえ叶えば、おとなしく成仏してくれるってさ」
悪霊さんたちと事前に交渉をしてくれた横島さんが――力ずくでの無理やりな除霊は、あまり好きじゃないんです……なんて、私がそんな事言っちゃったからでしょーか?――言うには、ここに取り憑いてる皆さんはこの劇場の常連さんたち……
いえ、正確にはそんな皆さんの残留思念が、長年この劇場に溜まった陰の……とゆーか『淫』の気と結合して生まれた、特殊な存在なんだそうで。
だ、だってここ、劇場って言っても、映画とか演劇とかのじゃなくって、そ、その……ぁの……す、すす、すとりっぷって……お、女の人がハダカになって、ぇ、ええ、えっちな踊りとか、もっとスゴいのとかして見せちゃう、夜のオトナの劇場ですから……
ともかく、それで、皆さんこの思い出の場所が消えてなくなる前に、最後の”ショー”が見たいって……
でも……でも……
な、なんで……なんで私が踊り子さんなんですかぁ!?
こんなカッコ……恥ずかしすぎますよぅ……
「大丈夫、すっごく良く似合ってるから! 日焼けのあとかも色っぽいし……うんうん、とっても可愛いヨ!」
なーんて、横島さんたら私のこと……しかも、なんだか物凄く良い笑顔で。
えへへ♪……そ、そうですかねー?
……って、い、いえ、そーじゃなくて!
その、こーゆーのって、あの、ぷ、プロの方とかいらっしゃるんでしょう?
わ、私みたいなちんちくりんの素人さんがステージに立つより、そーゆー方に頼んだ方が……
「うん、それは大丈夫。ここ『素人さん大歓迎♪』だってさ。
プロの踊り子さんには無い初々しい羞恥の仕草と、ぎこちない動きで踊る姿が、なんとも言えず素晴しいとか……
だからおキヌちゃん……安心してレッツダンス!!」
い、いえ……だからですね!?
あの、そーゆーことじゃなくてですねぇ?
「あのね、おキヌちゃん……こいつ等さ、オレと同じなんだ……」
……へ?
よ、横島さん、いきなりナニを……
「女にモテない……彼女もいない……
そんな連中が通い詰めて、一時の夢に酔い痴れながら自分自身を慰めていた……女を知らないチェリー君たちに夢と希望を与えてくれた……
ここはね、そんな哀しくも素晴しい場所なんだよ……」
あ、あのー……どーしたんですか? そんな、いきなりシリアスになられても……
なんかヘンですよ? いつもよりずっとヘンですよ?
おなかでも壊しちゃったんですか?
「そんな夢の劇場に有終の美をプレゼントしたい……それだけがこいつ等の願いなんだ。
そんなこいつ等の事、オレは他人とは思えない!
いや、こいつ等はオレなんだ!!
だから、おキヌちゃん……頼むヨ!
ここは皆の……いや、このオレのためだと思って!!」
ひ、ひぃっ!?
よ、よこしまさん!?
目がすわって……鼻息もなんか荒くって……
な、なんかすごく怖いですよ!?
「何にも心配はいらないヨ! 『ステージ上の踊り子さんには触れない』……それがここのルールだから!!
さぁ! さぁ!! さぁ!!! レッツダンシング!!!!」
ひ、ひぃーーんっ!?
ちょ、そ、そんな事いきなりいわれても……
――ぱちぱちぱちぱち
って、ぁ、あれ!?
ここって……わ、私いつの間にステージの上に!?
あ、な、なんで? どーしてぇ!?
「よっ! まってましたぁぁぁぁあああッ!!」
……って、ちょ、ちょっと横島さん、いつのまに観客席に!?
しかも最前列のかぶりつき……
って、や、やだ!?
あ、か、身体が勝手に……
「ちがうよおキヌちゃん、もっと激しく腰ふって!!
表情ももっとこー、えっちでやらしくて切なげに!!」
ステージの上に生えたポールに、寄りかかるみたいにして。
前に後ろに 右に左に ゆらり ゆらり お尻を振って。
そんな、恥ずかしい私に向かって、観客席を埋め尽くした悪霊の皆さんの視線が集中して 『ひゅーひゅー♪』 って大喜び。
横島さんなんて、もうすんごい顔して……
あ、い、いや……
み、みないでくださーい!
ひ、ひぃ〜ん!
こんなの……は、恥ずかしいですぅ〜!
――ばきぃっ!
「……って横島ぁぁぁーーっ!! キサマおキヌちゃんになんてマネさせとるかぁぁーーっ!?」
「おぶふぅっ!?」
はひーん! び、びがびざぁ〜ん!
こわかった、こわかったですぅ〜!!
「いやな予感がして駆けつけてみれば……よしよし……もー大丈夫だからねー」
泣きじゃくる私をぎゅーって抱いて、頭をやさしくいいこいいこ……
そう、劇場のドアを蹴破って飛び込んできた美神さんが、私を助けてくれました。
飛び込んできた勢いのまま、神通棍に体重乗せて横島さんの頭を”ざっくり”と……あれ、絶対脳までいってる……
でも、おかげで私は自由になって。
はぁぁ……よかった。
助かったぁ……
「ほんと、辛かったでしょうねおキヌちゃん……悪いのは全部このバカだから……
……このバカ! このバカ!! このバカがぁぁぁぁぁッ!!」
「ちょ、美神さん!? コレは洒落に……ま、マジで、刺さ……」
「えぇい黙れ! この煩悩魔神がぁっ!!」
「ぎにゃーーーっ!?」
美神さんが神通棍でぐりぐり〜ってやるたびに、横島さんから血がぶびゅーっ!
わぁ♪ なんだか噴水みたい……って、み、美神さん? 美神さはーん!?
それ、死にます!
いくら横島さんでも死んじゃいますからぁぁっ!?
「死ねぇぇぇぇぇぇっ!!」
「ぎゃぼわーーーっ!?」
……って殺る気まんまんだーーっ!?
は、はわわーー!?
よ、横島さん!? 横島さはーーんっ!!?
結局、あの劇場にとり憑いてた皆さんは、いつか海で退治した”コンプレックスさん”と似たよーなオバケだったそーです。
あの時はハイレグの水着だったけど、今回は、あ、あんな恥ずかしい衣装で……横島さんがあんなヘンになったのも、あの時みたいに同調して、あっさり洗脳されちゃったからだそうで……
あ、因みに除霊のほうは、無事に終えることが出来ました。
いえ、あの……美神さんと横島さんとの”惨劇ショー”に、悪霊さん達すっかり震え上がって……あんな目に合うくらいならって、自主的に成仏してくれたんです。
一件落着、めでたしめでたしの筈なんですけど……
うー、なんだか納得いきません。
だって、私あんな大変な目に合ったんですよ?
あんな、はだかんぼよりも恥ずかしいかっこで……ぁ、ぁぁ、あんな……
はぅぅ……お、思い出しちゃいましたぁ……
んもうっ! 横島さんのばかばかっ! ふけつっ!!
絶対にゆるしてあげないんだから!
うぅぅ〜っ……男の人って一皮剥けば、みんな”あんな”なんでしょーか?
おしまい
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