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もう恋なんてしない、と彼女はいった 続編@夢璃杏

このお話は、展開予想掲示板にある赤蛇様作「もう恋なんてしない、と彼女はいった」の三次創作(続編的位置づけ)となっております。
そのため、このお話を読まれる前に赤蛇様の作品を読まれた方がより楽しめるかと存じます…



「極楽へ…逝かせてやる!」
『ギャァァッ!』

雑多な造りのラブホテルの一室。
俺…横島忠夫は今月に入って10件目となる悪霊の退治が今終わったところだ。
10件…普通に考えれば、全く普通の数字なのだが

「また、同じタイプか…ぞっとしないな…」

そう、今月10件目の『同じタイプの悪霊』なのだ。


GS美神SS「もう恋なんてしない、と彼女はいった 続編 〜謝罪と贖罪〜」


妻の令子が現役を引退して早半年。
何とか俺の事務所も軌道に乗った、そんなある日の一本の電話だった。

「横島君、折り入って頼みたい事があるんだが…」
「ん、西条か。珍しいな」

西条輝彦。オカルトGメンでも指折りの実力者であり、トップクラスの権力者でもある。
そして、令子に恋をしていた男。

俺は恨まれこそしても、頼られるとは思えなかった。

「今回の事件の最重要容疑者候補の中に、キミの知人が入っているのだよ」

いや、頼ったのではなく
ダシにでも使おうという事なのだろう。



「…西条か? 俺だ」

悪霊の退治を終え、西条に電話をかける。
男と等話したくは無いが、仕事だから仕方が…

『あ、西条警視ですね。少々お待…「いやいや、キミで良いよ」…はい?』

うん、仕方が無いよな。

それから仕事そっち退けで口説き落とし、携帯メールアドレスと電話番号を聞き終え
さらに、今夜のデートの誘いのOKを貰った所でようやく気付いたのだろう、西条が怒鳴る勢いで話しかけてきた。

『まったくキミと言う奴は…少しは高校時代の事でも思い出したらどうだね?』
「高校の時の俺なら、もっと積極的だったと思うけどな…」

『何人落とせば気が済むんだね』という西条の自嘲的な呟きが聞こえるが、俺としては女性に対する礼儀と思っているからな。止めようとは思っていない。

「…で?」
「あぁ、『同じ』だ」

同じ、というのは同系列の悪霊だけを指しているわけではない。
現場となるラブホテルの内装、血臭、性臭…そして、獣臭。

今までの全ての場所にあった同じ匂いだ。

『ふむ、では『許可』しよう。』
「俺は除霊屋なんだけどな…」
『除霊屋がジゴロ紛いの事をしないでくれないかね…キミの電話が掛かってくるたびに、キミに好意を持つ部下が増えて困っているんだよ』

『口説き落とせなくて困ってるんだろう?』と周りに聞こえないように囁けば、無言が返ってくる。
やはり図星か。

西条への電話を切って、ゆっくりと一つため息。

「ったく、除霊屋に『許可』なんて出すなっての」

許可…国家権力であるオカルトGメンの許可とは、『殺傷許可』の事。
つまり、『いかなる理由で殺傷したのであっても、全て無罪』となるわけだ。

平たく言えば、『あいつら』を俺に殺せ…そう言っているだよな。



俺の事務所から程近い場所にある安アパートのとある部屋の前。
ここに、『あいつら』が居るはず。

「うーっす」
「ちょっと横島、アンタの家じゃないんだから問答無用で家に入ってこないでくれる?」

無用心にも鍵のかけてないドアを開けリビングに行けば、夕飯時だったのだろうか
タマモがきつねうどんを食べていた。

「ん、一人か?」
「え、あぁ…シロね。もうちょっとしたら帰って…って、なに…んんっ!?」

丁度良かった。そう内心樮笑みながらタマモの唇を奪う。
タマモと肉体関係は無いのだが、タマモの抵抗しようとするそぶりは見られない。
抵抗する気力が無いのか、それとも…

「っはぁ…もう、お腹すいてるなら戸棚に…や、やだっ…やめ…やだぁっ!」

流石に抱き上げれば、俺が何をしたいのか理解出来たのだろう
だが、口ばかりの抵抗。身体は、俺の腕から落ちぬ様に俺に抱きついていた。

優しくソファに降ろし、覆いかぶさる。

熱いタマモの吐息
ゆっくりと身体に触れながら、タマモの匂いを胸に吸い込んだ。


「もう、気付いた…で、ござるか…先生」
「隠すんなら、もう少し上手に隠せよ、シロ」

安らかに眠るタマモの頭を優しく撫で、ゆっくりと起き上がりシロの方を向く。

眼は赤く充血しており、口元には血がこびり付いている。
泣き顔なのに、涙も流れない。もう、涙すらも枯れ果てたのだろうか。

「何か、言い残す事は」
「せ、拙者…せん…っせ…なら…っされ…」

俯き、嗚咽まじりの呟き。殆ど言葉にすらなっていない。

ゆっくりと近付く

そっと、触れる

小刻みに震えていたシロの身体が大きく震え、弾かれたように顔を上げる。

血に…濡れた…顔

涙の代わりに、瞳から血が流れていた。

「辛かったな。 それも、もう終わりだ」
「う…うあぁぁぁぁぁぁぁっっっ」

これが、最後の抱擁か。
優しく抱き締める胸の中で、まるで生まれたての赤子の様にシロが啼いていた…



『首尾は?』
「デリート。十分だろう」

小さなリュックを肩に掛け、西条に電話する。ただ、一言だけの電話。

ため息が小さく零れる。
少しだけ、白い吐息。もう、冬も近い…か。





それから、1年後

「横島さーん、そろそろ朝ごはんが…って、タマモちゃんっ朝から抜け駆けはだめですーっ!!」
「ん…んく…ん、けぷ…おはよ、キヌ。今日は結構濃いわ」

「美神どのー、朝でござるよーっ」
「だぁぁっ、私はもう『横島令子』だと何度言わせ…「でも、美神どのは美神どのではござらぬか、キヌどのの美味しい朝食が出来たでござるよー」」

キヌに引き摺られるようにタマモが部屋を出て行く視線の端で、シロと令子の掛け合いが見える。

経過は、順調…か。


デリート。つまりは記憶の抹消。
キヌ、シロ、タマモの記憶を文珠で操作させて貰った。
どうやら、俺と令子が結婚したのが事の発端らしい。

お陰で、『それまで』の記憶を消した途端俺達の家に住み着いて
日々俺のを取り合いしていると言う訳だ。
一月程度は観察対象として見なければならなかった分楽なのが…

「ちーちーうーえー、ちょーしょくさめるでごじゃるよー」
「こらタロー、お父さんに乗り掛かったらだめでしょ。…ごめんなさい、お父さん。でも早くしないと皆待ってますよ」
「おう、ありがとな、蛍。それとタロー」

令子の子の蛍を皮切りに
シロの双子タローとジロー
タマモの三つ子葛花と夜蘰に珠美
…それと何故か幽霊であるはずのキヌの子の冬夜

「子供、増えたなぁ…」

しみじみと呟き立ち上がろうとしたその時…俺の携帯が…

『あ、あの…オカルトGメンの橘です。先月から…来ないんです…どうしたら…』
「あぁ、今月に入って10件目か…ぞっとしないな」

西条の部下の娘が泣くのを優しく宥めながら、そう小さく呟いた…
投稿を許可してくれました赤蛇様に多大なる感謝を…

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