ここは天下の秘湯…ではなく国内最高峰の霊能力修行場の妙神山である。
とは言っても今日は、いやここ最近は修行者も訪れておらず、見かけどおりの寂れた銭湯と化していた。
妙神山修行場は険しい山の奥にあるため、修行者以外が立ち入る事はまず無い。
その数少ない修行者でさえ、入り口の鬼門の試練でふるいにかけられるため、見事突破して中に入れる者は極僅かなのだ。
美神、横島、雪之丞とこの頃は鬼門の試練を易々と突破してくる者が続いたため軽く見られがちだが、一般的なGSにとっては「鬼」である鬼門は、十分以上に高く厚い壁なのである。。
決して美少女ぞろいでサービス満点が売りの銭湯ではないのだ。
そんな訳で最近の小竜姫達はヒマを持て余していた。
細々とした雑務や鍛錬は行っていたものの、肝心の修行者が来ないのでは退屈な事に変わりはない。
あくまで修行の場であるため、娯楽と言えば誰かと話でもするか、TVを見るか、猿神所有のゲームくらいしか無い。
もっとも、今日はちょうどヒャクメが訪ねてきたので、小竜姫とパピリオはお茶でも飲みながら女三人で優雅な午後を過ごす事にした。
まさかそのちょっとしたお喋りが元で、とある真相に辿りつくとは夢にも思わずに……
―――― とある真相 ――――
女三人集まれば姦しい、とはよく言ったものだ。
ヒマを持て余していた小竜姫とパピリオのところに、ヒャクメが加われば話が盛り上がらないはずがない。
次から次へと変わる話題に、瞬く間に時は過ぎていった。
しゃべる話題も尽きかけ、流れが一段落した頃。
それは、ふと自分とヒャクメの胸部を見比べて、ため息をこぼした小竜姫の愚痴から始まった。
「ふぅ、もう少し大きくなりませんかねぇ。
どうして妙神山に赴任してきた頃から変わらないんでしょう」
「どうしたのね。小竜姫がそんな風に愚痴言うなんて珍しい」
「最近人界で私の不名誉な呼び名が流行っているらしいんです。『小隆起』やら『小乳姫』やらと」
「不名誉も何もズバリ正解じゃないでちゅか」
ヒャクメは親友に配慮して特に何も言わなかったが、パピリオはお構いなしだった。
「パピリオは黙っていなさい。確かに私ももう少しくらい欲しいと最近思い始めて……
戦闘する分には今のままの方が邪魔にならなくていいのですが」
「武の道一辺倒だった小竜姫が色気づいてきたものなのね〜。好きな人でも出来たのね?」
「なっ!?そそそそんなことはどうでもいいんですっ!」
ちょっとした冗談に面白いくらい動揺してくれる。ヒャクメにとって小竜姫は実にからかい甲斐の
ある友人だった。
「う〜ん……、残念ながらこれから成長する可能性は低いと思うのね」
「諦めるでちゅ、小竜姫。若さ溢れる私と違ってもう成長が止まってるでちゅよ」
ヒャクメが小竜姫に残念なお知らせを告げると、「俺達の成長はこれからだ!」と言わんばかりにパピリオが誇らしげにのたまう。
「余裕ぶってるけど、妙神山にいる限りパピリオにとっても他人事じゃないのね〜」
すると、ヒャクメから少々引っかかる発言がとび出してきた。
「どういうことです?まさか妙神山では私もパピリオも成長が止まるとでも?」」
「そうでちゅ。小竜姫はともかく私は発展途上でちゅ。未来があるでちゅよ」
「ある意味そのまさかなのね。2人ともここの入り口の看板のことをよーく思い出してみるのね」
妙神山入り口にある看板とは、鬼門達の頭上に掲げられた……
【この門をくぐる者 汝 一切の望みを捨てよ】「「…………」」
2人の顔色が見る見る悪くなり、イヤな沈黙が流れる。
「い、いやでも表の看板は心構えというか、覚悟を問うためのもので……」
小竜姫は慌てて言いつくろうも、動揺の色は隠せていない。
確かに人界の道場では、代々の教えや覚悟を説くための掛け軸や看板を掲げているところが少なくない。
だが……
「ちょっと前に美神さん達から淀川ランプの悪霊と戦った時の話を聞いたことがあるのね」
「え、ヒャクメいきなりなにを……?」
「いいから最後まで聞くのね。
その時戦った淀川ランプと言うのは生前は著名な日本文学者であり作家だったらしいんだけど、悪 霊化……というよりほとんど魔物化した後は、言霊を操って魔力を込めた文章を書くことで、半径 50メートル以内なら何でも彼の書いた文章の通りになったそうなのね」
「「そ、それじゃあまさか……!」」
小竜姫もパピリオも、ヒャクメが何を言いたいか分かりつつあった。
言葉という道具はそれ自体が一つの「呪」であり、神秘なのだ。
それに淀川ランプは魔力を込め、文章を書くことで言霊を操っていた。
だが、込められるのは何も魔力だけではない。神通力もまた然りだ。
そして神通力の込められた言葉で文章が書かれたら……?
しかし頭では分かっても、そうそう納得できるものではない。
むしろ理解したくもないし、その先を聞きたくもない。
だが、ヒャクメは止まらない。
「いくら悪霊化したとはいえ、生前はただの人間だった淀川ランプでさえそれほどの力を発揮したのね。となれば……」
「「となれば……?」」
「神族である小竜姫が書いたなら? そして無意識のうちに神通力を込めてしまっていたら……?
そりゃあ“こうかはばつぐんだ!”なのね〜」
この一言が決め手となり、顔面蒼白となった2人は完全に沈黙して固まってしまった。
後日、【この門をくぐる者 汝 一切の望み 願望 願いが叶う】という看板を掲げたものの、斉天大聖老師の「怪しげな宗教みたいだからやめろ」の一言の前に泣く泣く取り外す2人の姿が目撃されたとか。
―――― とある真相 完 ――――
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