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破壊神父ゴジョー・誕生編


 末法の世、彼岸の国。
 その男は―― 北で生まれた。



「ちょっと待ちたまえ―― どこかで見たような出だしだと思ったら、パクリかねっ!!そんな不善を神が許すと思うのかねっ?!」
 あ、あのー。いきなりナレーションに突っ込まないでいただけませんでしょうか。

「大体なんだねこれはっ!死後に記憶をAIチップに転写した上に、クローンボディにそのチップを埋め込んで世を救済するだのという試みなど、神に―― いや、あらゆる生命に対しての冒涜だよ。
 戒律を破り、悪魔祓いを続けていた私が神の御元にいけるとは思ってはいなかったけれども、そのような試みの道具に使われる気など毛頭ないっ!!」

 どーやら、技師の奴がチップに記憶を転写する際に思考パターンをいじるのを忘れていたようだ。
 ち……まったく、手を抜きやがって。


 深く、強い憤りとともに、『G』と記された培養ポッドを抜け出た『彼』はエレベータに飛び乗り、【上昇】と記されたボタンを押す。
 微かなGがもたらす圧迫感。
 軽快な音が、箱が地上に到達したことを告げ―― 圧迫感が消える。

 そして、開いた扉の先には―― 無尽の荒野が広がっていた。

『海面上昇とそれを抑える試みの失敗……そして、住む場所を求めた者達が引き起こした戦争―― その結果が、これです』
 エレベーターホールに横付けされていたキャデラックから声が響く。

『予知能力者(プレコグ)の予知があっても、この未来は避けることは出来ませんでしたが、予知は同時にこの世界を救うことが出来る可能性を秘めた、極めて優れた霊能と人格を兼ね揃えた存在を導き出しました。
 それこそが――『唐巣和宏』―― あなたです。この世界には、あなたが生きていた頃と比べると数千分の一に過ぎませんが、救いを求める人々は大勢います。その人々を見捨てることが、あなたには出来ますか?』

 キャデラックから流れ出る声が、唐巣の意識を揺るがす。

 死してなお生命を冒涜する試みの歯車になる―― それは彼の正義が許さない。

 だからといって苦しむ人々を見捨てることもまた、出来ることではない。

 逡巡が、機械仕掛けとなった唐巣の魂を揺さぶる。

 逡巡を見て取ったのだろう……キャデラックが唐巣に声を掛ける。
『とはいえ―― 強制は出来ません。もしもあなたが望むならば、そのデータを消去して差し上げましょう。あなたは本来、無間地獄の永劫に囚われるべき人間ではありませんから、ね』

 だが、その声を……唐巣は聞いてはいなかった。

 鋭い眼光。微かにウエーブのかかった黒い髪。覇気に満ちた体躯。
 喪われたはずの『若さ』という名の力が、鏡のように磨き上げられたキャデラックに映り込んでいた。
 呪われた力には違いない。だが、神に仕えた身である以上、己の生命を絶つことでその呪われた力を封じることは出来ない。

 それに―― この『力』を使えばこそ、救える生命もある。

 “技の1号、力の2号、技と力のV3ヴイ・スリャアァッ!”―― その響きが、何故だか胸に去来する。

 ―― これも、私の業か? 
 自嘲の笑み―― そして、僅かばかりの決意とともに唐巣は言った。
「君のことは、なんと呼んだらいいんだい?」
「そうですね……私のことは……『O−HYO−I』とでも、お呼びください。あなたの新しい装束は、私のトランクに入っています」
「オヒョイかねっ!?」
 言いつつトランクに手を掛ける『唐巣』……しかし、彼はこのとき、知らなかった。

 彼が選ばれた最大の要因は、遺伝子レベルで刻み込まれた『後退する額』であったということを。

 ただ、彼のために用意された装束がやけに緑色を強調されていたこと―― そして、そのボディスーツの内側に刻印されていた「GOJOH」の五文字が、彼の脳裏に一抹の不安を刻み込むだけであった。

 【破壊神父ゴジョー・誕生編】――了――
 【救世編】へと続く……わけなどない。
 脈絡もない小ネタです。
 世間の流れに沿うならば、本来は雑談掲示板の『没以上、投稿未満』へと投稿すべきなのでしょうが、あえて本投稿へと踏み切ってみました。
 ……いや、ホントバチ当たる作品ばっかり書いてるなぁ、俺。

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