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俺の居場所2(後編)

「まさか・・・横島クンは宇宙のタマゴの中に吸い込まれちゃったってことなの!?」
美神は気を失った横島をソファに寝かせた。
「まあ、そういうことなのねー。」
「そういうことって・・・。ヒャクメ様。横島さんはちゃんと戻ってこれるんですか?」
泣きそうなおキヌはヒャクメに詰め寄る。
「わ、私からはなんとも・・・。とりあえず視たかぎり体に異常はないから・・・。」
とまどうヒャクメ。べスパのほうを見るが彼女はずっとタマゴを見ている。
まだ何か言おうとするおキヌを美神は押しとどめた。
「こっちは大事なパートナーが倒れて困ってんのよ!!どういうことなのかハッキリ説明してちょうだい!!小竜姫やワルキューレはなにしてんのよ!?」
ものすごい剣幕でヒャクメに怒鳴り散らす美神。
「キャ――!!美神さんっ、暴力はダメなのね―――!!」
胸倉をつかまれ、あうあうするヒャクメ。
「み、美神さん落ち着いて・・・!!」
必死に美神を止めようとするおキヌ。
「ま、お、落ち着いてっ。ゆっくり説明するから―――!!・・・あ、そんなもの出したらダメなのね―――!!」
「うっさい!!はよ、横島を連れ戻せ―――!!」
「美神さん―――!神様だから―――!!」


「ポチ・・・いやヨコシマは・・・。」

3人の動きが止まる。

べスパはタマゴから目を離さずに続けた。
「ヨコシマは、ルシオラと・・・姉さんと、会っているんだよ。」
そうしてうれしそうで、少し悲しみを含んだ目でタマゴをなでた。










俺の居場所2(後編)


















「う・・・。おれは・・・。」
横島は真っ暗な空間に横たわっていた。辺りには何も見えない。
「ここはどこだ・・・?」
辺りを見回し立ち上がる。
「そうだ・・・、俺、おキヌちゃんが持ってきたタマゴを見てたら急に意識が遠のいて・・・。何も見えないな。とりあえず、文珠であかりでも・・・。」
文珠を出そうとしたとき、遠くのほうから何か光るものが飛んできた。
横島の肩の上に止まったそれは・・・蛍だった。

「ヨ・・・ヨコシ・・・マ・・・。」
「!!」
蛍から、もうしばらく聞いていない懐かしい声が聞こえた。
「おまえ・・・もしかして・・・?!」
震える手で蛍をそっと触る。

その瞬間、辺りをまばゆいばかりの光が包みこんだ。
「う、うわ!!ル、ルシオラ!?」
あまりのまぶしさに、横島は顔を押えながら後ずさりする。




光がおさまって、横島が顔を上げると、そこにはルシオラが立っていた。
「ヨコシマ・・・。」
「ル・・・ルシオラ・・・。」
横島はルシオラのそばに駆け寄り、抱きしめた。
「なんでお前が生き返ったのか分からないけど・・・・・・・俺はもう・・・お前を離さない・・・!!」
抱きしめる腕に力が入る。
ルシオラはしばらくじっとしていた。
「私・・・本当に死んじゃったのね・・・。」
ふいに横島の胸の中でルシオラは呟いた。
「え?」
横島は腕を放し、ルシオラを見つめる。
「おぼえてないのか?」
ルシオラは悲しそうな瞳で見つめ返し、首を横に振った。
「私はルシオラであって、ルシオラではないの。」
「ど、どういうことだ?」











美神・横島除霊事務所は夕暮れをむかえていた。
美神、おキヌ、ヒャクメ、べスパはそれぞれタマゴを置いたテーブルを囲む形で座っている。
「つまり・・・。無限の可能性を持つ宇宙のタマゴの中のどこかには、ルシオラが死なずに済んだ世界があって、その世界のルシオラが横島クンといまタマゴの中で会っている・・・ということね。」
「名前はフェリハと言って少し違うんだけど、魂としては同じなのね。」
「でも、どうしてその人はこの世界の横島さんに会いにきたんですか?」
「それはね―――」
ヒャクメが口を開きかけたとき、天井に異次元空間が開き小竜姫とワルキューレが出てきた。
「小竜姫!!ワルキューレ!!遅いわよ!!今、横島クンが大変なことに…!!」
美神が2人に駆け寄る。
「ごめんなさい。思ったより時間がかかってしまって・・・。」
「まったく・・・。」
ワルキューレはタマゴをみると眉に一瞬、皺をよせた。










ついさっきまで暗闇だった空間は、フェリハによって照らされほんのり明るくなっていた。

「君は俺達とは違う世界からきたのか・・・。」
フェリハは頷く。
「私たちの世界では・・・アシュタルト様もトグロ様もペルアもみんな南極で死んだの。でも、ヨコシマの世界のアシュタロス様が私の世界の美神さんを殺して、代わりにこっちの美神さんを連れて来たの。・・・同じようで違う世界だから、私の世界の美神さんの魂の結晶はアシュタルト様には必要なものでも、アシュタロス様には使えないものっだったようね。」
「だから、わざわざ美神さんを連れて行って、油断させて魂を抜き取ろうとしたんだな。」
「アシュタロス様が去った後、私の世界ではアシュタルト様が作っていた宇宙のタマゴが暴走を始めて・・・それを止めるために・・・ヨコシマが・・・!!」
フェリハはうつむいた。床に涙がこぼれ落ちていく。
「そっか・・・。辛かったな。」
横島は再びフェリハの肩を引き寄せ、優しく抱きしめた。
横島はフェリハが落ち着くのを待って、尋ねた。
「それで、どうしてお前が俺に・・・その、会いに来てくれたんだ?」
フェリハは顔をあげた。
涙をぬぐうと横島を見つめる。
「お前、一瞬だけ私の世界に来たことがあるでしょ?」
「え、えっと・・・。美神さんの魂に会った時か。確か、船の上だったか・・・。」
「そう。どうやらあそこの出入り口の空間だけ、アシュタロス様が死んで、コスモプロセッサが破壊された後も残っていたようなの。・・・たぶん、こっちのタマゴの暴走のせいね。そこにルシオラの思念のようなものが残っていたの。私とルシオラは同じ存在だから、私はすぐに彼女の思念を読み取れたわ。」
「ルシオラは・・・なんて言ってたのか?」
フェリハは少し目を伏せた。
「『自分はもうヨコシマに会えないから、この空間が閉まらないうちに1度でいいからあってあげてほしい』・・・と。私も・・・・・・またヨコシマに・・・会いたかったし・・・。」
フェリハは再びうつむく。
「フェリハ・・・。ありが・・・うわっ!」

急に地面が揺れだした。横島はバランスをとれずにひざをつく。
「な、なんだ?!」
雷のような音とともに、あたりの空間が急速に閉まろうとしていた。

フェリハは横島の腕をとり、立ち上がるように促した。
「・・・もうすぐこの空間も閉まるわ。」
フェリハは横島の腕から離れた。
「会えてよかったわ、ヨコシマ。はやく自分の世界に戻って。永久に時空のはざまに閉じ込められる危険性もあるわ。」
立ち去ろうとするフェリハの腕を横島がつかむ。
「ま、待ってくれ!俺は、お前に・・・!!」
フェリハは横島に近づくと、横島の唇に指をそえた。
「ダメよ。はやく帰って・・・!!」
「でも、俺―――「私は、ルシオラじゃないのよ!!」」
横島の言葉を、フェリハは強い口調で遮った。さきほどの涙の跡でフェリハの眼は赤い。
「私はルシオラじゃないし、お前も・・・私の愛したヨコシマじゃない。わかってる。でも、私だってもっと・・・ずっとお前のそばにいたいって思う。でも・・・ダメなの。それはどちらの世界も破壊してしまうし、なにより・・・私たちのためにはならない・・・。」
「フェリハ・・・。」
フェリハは横島の目を見つめる。
「でもね・・・せめてもう一度だけ・・・夢でいいからお前に会いたかった。」
涙が頬をつたい、暗闇の中に落ちていく。
「夢じゃない・・・!!俺は・・・ここにいる!」
横島はフェリハをつよく抱きしめた。
「・・・そうよね。私もお前も・・・今ここに生きているわ。だからこんなに辛いのね・・・。」
「フェリハ・・・。」
横島の腕の中でフェリハはしゃべり続ける。
「だからこそ、私は生きなきゃいけないの・・・。私が幸せにならないと・・・じゃないと、『俺が命をかけて守ったんだから、いつまでもウジウジすんな』ってヨコシマに怒られちゃうわ・・・。」

だんだんと揺れが激しくなってきた。

「・・・もう行かなきゃ。ごめんね。ヨコシマ、ルシオラからもらった命、大事にしてちょうだい。」
フェリハは横島から身を離した。
横島はまだ名残惜しそうな顔をしていた。しかし、フェリハの顔を見ると小さなため息をつき、右手を差し出した。
「フェリハ・・・俺、まだ心の整理がつかないんだけど・・・、会えてよかったよ。」
「そうね。」
フェリハはほほ笑み、横島と握手した。
「お前も元気で・・・な。」
「ヨコシマ・・・ありがとう。」
2人は暗闇の中に消えていった。






「・・・でも、どうして私にタマゴを預けたんでしょう?」
おキヌの声が響く。
事務所の外はすでに街頭の明かりがつき、空には満月が輝いていた。
「こっちの世界になるべく干渉しないようにするために、横島との直接の接触を避けたかったようだ。」
「どういうことよ?」
ワルキューレの遠回りな返答に、美神はいらだちを隠せない。
「さっきからチマチマチマチマなんなのよ!?横島クンの意識は一向に戻らないし・・・!!どういうつもりなの!?」
テーブルを叩く美神を小竜姫が押しとどめる。
「お、落ち着いて美神さん・・・。実は、このことはまだ一部の魔族、神族の幹部しか知らないんです。」
美神を椅子に座らせると、小竜姫は続けた。
「アシュタロスの事件からまだそんなに時間も経っていないし、魔族の中にはまだアシュタロス派の者も残っています。そんな者たちに、まだ稼働中の宇宙のタマゴがあると知られたらどうなるか・・・。」
小竜姫の言葉をワルキューレが引き継ぐ。
「横島は魔界でもそれなりに知られた男だ。もし、直接タマゴがやつの手に渡ればすぐに魔界に知れ渡ってしまう。」
「だからICPOに・・・?」
「おそらくは・・・な。しかし、日本のICPO事務所はこの建物の隣だから避けたかった。よって、異国にいるおキヌを探していたんだろう。」
「そこまでして横島さんに会いたかったんですね・・・。」
うつむくおキヌと対照的に美神はまだイライラしている様子だった。
「・・・で?いつ横島クンは帰ってくるの??」


パキン

ガラスが割れるような音がした。

タマゴを見守る彼女たちの後ろで、ソファに寝かされていた横島が起き上がる。
「ふぁ・・・。」
「よ、横島クン!?」美神が駆け寄る。
「横島さん!大丈夫ですか!?」おキヌもその後ろからやってくる。
「あ・・・美神さん、おキヌちゃん・・・。そっか、戻ってきたんだ、俺・・・。」
横島はゆっくりと立ち上がり、ぺこっと頭を下げた。
「みんな心配掛けてごめん。もう大丈夫っす。」
「もう・・・あんたはいつも心配ばっかり掛けさせるんだから・・・。」
安堵する美神とおキヌのうしろから、べスパが声をかけた。
「ヨコシマ・・・。その、姉さんは・・・。」
横島はべスパのほうを向き、
「べスパ。俺が会ったのは、ほかの世界から来た女性だよ。」
と言ってニカッと笑った。
べスパは面食らった顔をしたが、すぐに笑った。
「そうか。」











なあ、ルシオラ。
フェリハは俺に命を大事にするように言ったけど、彼女は元の世界で無事に暮らしてるのかな。
俺、ずっとお前を死なせちまったこと後悔してたけど、後悔してばっかで大事なことを忘れてたよ。
フェリハが教えてくれたんだ。

俺は今ここに生きてるって。
生きてるんだから後悔もするし、絶望も味わう。でもそれは俺が生きてるって証拠なんだよな。お前が俺を助けてくれたから、俺が今生きてるから・・・俺は後悔できるんだ。
だからこれからもうんと後悔する。苦しむし、悩む。



でもそれ以上に幸せになってやるから。だから安心してくれ。
んで、いつかまた会おう。
今度こそ、お前を幸せにしてやるからな。
遅くなりなした…。
じつは、3日かけて書いたものを間違って消してしまい・・・・・・・。

あはは。ちゃんと投稿するまでデータは消さないように。
前半と後半のバランスがものすごく悪いですが、ご勘弁を。
読んでくださってありがとうございました。


※背景色、変更しました。確かにあれは目が痛い…。どうもすみません。

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