その日夜。珍しく残業も無く帰宅出来た僕は、疲れからの睡魔に襲われた。
僕の仕事……ザ・チルドレンのお守り。彼女達の相手をするのは、本当に本当に本ッ当〜に……エネルギーを消費するのだ。
おまけに僕の家は現在彼女等の“第二の自宅”と化していて……それはつまり、勤務時間外であっても彼女等からは逃れられないとゆー事で。
今日も今日とて帰宅後も、散々振り回してくれた。
もう着替えをする気力すら無く、僕はベッドに寝転がる。
そしてうとうと舟をこぎ、眠りに入るその瞬間……
「きゃッ!?」
「ゴふッ!?」
腹に突然の衝撃。
仰向けになった僕のカラダの上に跨っているのは
「皆本はん」
「あ、葵か?」
用意した (とゆーかさせられた) 彼女等用の別室で就寝してる筈の超度7のテレポーター、野上葵である。
お得意の瞬間移動で跳んで来たその先が、寝転がった僕のカラダの真上だったとゆー事らしい。
そして彼女は、僕の事を確認するやとんでも無い台詞を口にした。
「皆本はん!ウチの胸揉んで!!」
「は?」
「はよう!」
「や、ま、待て! 落ち着け葵!! 話が見えない」
何とか葵を落ち着かせ、事の経緯をたずねてみれば、それは実に下らない事で。
僕は思わずガックリと脱力してしまうのだった。
【皆本さんの災難】
<<SIDE:皆本>>
発端は本日行われた検査。
定期的な身体検査……超度7の超能力者である彼女等への検査に取られる時間は、時として任務のそれを上回る。
そして、その検査で出されたとある数値を目にした葵は、トンでも無いショックを受けたらしい。
それは
「薫のヤツ……前の検査ん時より2cm以上もおっぱい大きゅうなっとんねん……
でもな? ウチのは胸は寂しいまんま、ぜぇ〜んぜん育ってへんのや……」
「あ〜……そ、そうなのか?」
「おかしーやないか!? 何でいきなり薫だけ、いきなりンなに育っとんねん!!
なぁんでこんなに差ぁ出んのや!?」
「いや、それ位は個人差じゃあないかなぁと……
大体2cmなんて、そんなに差があるわけじゃないだろ?」
「アホな事言うたらあかん!
たかが数cmされど数cm……女って生きモンはなぁ……そのほんの数センチを得るために、血の小便がでるよーな努力するんやで!?」
「そ、そーなのか?」
でもなぁ……そりゃー確かに数値上じゃあ差はあるかもしれない。
でも、薫も葵もどっちもどっち……見た目はつるぺたな幼児体系にしか見えないのだが……
勿論、思っただけでそれを口に出して言うだなんて愚を犯したりはしない。
それは兎も角、葵である。
この興奮ぶりからすると……
あぁ……なんだ、凄くいやな予感が……
「でな? 恥を忍んで、ウチ薫に聞いたんや。『なんで急にそんな膨らんでんねん?』って……
そしたら薫のヤツ……なんて応えたと思う?」
「ぃ、いや。 サッパリ」
「『あ〜アレだなきっと。“あの時”だな、あたし皆本に押し倒された挙句に胸“揉んで”貰ったからだな〜♪ きっとあの時あたしのカラダは“オトナ”に目覚めちゃったんだな♪』
なーんてほざきよってん!!」
「………」
あぁやっぱり……元凶はあいつか。
薫のヤツが、またいらん事を言ったのか。
因みに、薫が言う“あの時”とは、暴走するサイコキネシスを止めるため、薫が自らの心臓を止め脳への酸素供給を絶ち、僕が必死になって蘇生作業をした時の“あの時”の事なんだろーな。(単行本2巻 第1話参照)
「皆本はん、ずるいやんか! 薫ばっかりヒイキして!!」
「や、別に贔屓なんて……ってかどーすればアレをそう思えるんだ?」
「薫のみたくウチの胸も揉んでおっきくしてや!」
「マテ! ドコをどーすればそんな結論に達する!?
それに断じて揉んでなんか無いぞ! アレは心臓マッサージだ!!」
「関係ないわ! それで薫のおっぱいがでかくなったんは事実や!!」
「……や、あのなー……それは無いと思うぞ?
その……女性の胸が“揉めば大きくなる“だなんて、科学的根拠のまるで無い、根も葉もないガセ――」
「やってみな解らんやろ!! だからホラ、皆本はん!! ウチの胸もこー……ぐわしっ! と…」
「ま……や、ヤメロ! 脱ぐなぁ!!」
ぶちぶちッ と、上着のボタンを引きちぎり、シャツを捲りブラにまで手をかける葵。
勿論、僕の上に跨ったままだ。
……洒落にならんぞコレはぁッ!?
心中で絶叫しながら静止しようと必死の僕だが、彼女は耳を貸す事無く
「さ、皆本はん遠慮せんとむぎゅ〜っと……」
「だからやらんと……」
「あ……でもウチはじめてやから……その……さ、最初はソフトにお願いな?」
「だあぁッ!! いーかげんにしろぉッ! んなコト出来るわけないだろーがッ!!」
あまりの葵の暴走振りに、流石の僕もぶち切れる。
僕の嗜好はあくまでノーマル、幼女愛好の趣味等ない!
……が、葵の方もそれでは止まらず……
「……皆本はん……どーしてもウチの胸は揉めんと?」
「当たり前だ!」
「薫のは揉んだのに?」
「だーかーらー! アレは違うと言っとろーが!!」
「ほほぅ〜。 せやったら……ウチにも考えがあるで?」
「……な、何だよ?」
ぐぁしっ!! とカラダに抱き着く葵、そして
「このまま、局長んトコまで跳んだる!」
「んなッ!?」
「んで、皆本はんにえっちな事されたって泣いたる!!」
「マテェッ!?」
チルドレンの娘等には、駄々甘の局長の事、例え葵のその言葉がまるっきりの出鱈目でも、信じるに決ってるではないか。
何より半裸の葵に抱きつかれたこの姿勢では弁明する余地など皆無。
僕は1○歳の幼女に手を出した変態の烙印を押された挙句に、言い逃れの機会すら与えられぬまま、僻地へと左遷されるだろう。
いや、跳ばされるくらいならまだマシだ。
もしかしたらチルドレンに不貞を働いた不埒者として秘密裏に“処理”されてしまう、その可能性も十分にある。
ってかあの局長ならやる。絶対にやる。
「さぁ……どないする? 皆本はん」
「あ、ぁぁぁぁ……」
「何だったら柏木さんトコまで行ってもでもえーんやで?」
「や……ちょ……落ち着け葵!」
い、一体どーすればいーとゆーのか!?
葵の眼は真剣だ。 言う事を効かなければホントに跳ぶぞ! とそー言ってる。
勿論そんな事になれば、僕は局長に殺される。
かといって、言われたとおりに……その、彼女の胸を触るなど、できる筈が無いじゃないか!!
あぁ……ホントどーしたら……
なんで……なんで急にこんな……
こんな、今後の人生を一変させちまうよーな、選択を迫られにゃいかんのだ!
僕なんか悪い事したか!?
あぁ神様!
そんなに僕の事キライですか!?
<<SIDE:薫>>
「『あぁ神様! そんなに僕の事キライですか!?』
……って、皆本さん思ってる」
「げひゃひゃひゃひゃ! 皆本の奴まぢ困ってんなぁ♪」
寝室でどたばたやってる皆本と葵――それを覗くあたしと紫穂。
飛び出す頃合を計ってるのだ。
こーゆーのはタイミングが大事だからな♪
つまりどーゆー事かといえば、これは軽ぅい“ドッキリ“なのだ。
葵のあれは全部ウソ、演技だ……随分と真剣ちゅーか熱が入ってる気もするけどな。
他愛の無い、かぁーいーコドモのイタズラ、ちょっとしたオチャメだよな?
因みに、この様子はばっちりと録画中。
いや別にこの映像ネタにして皆本の事脅迫してやろーとか、これっぽっちも考えてナイヨ?
「考えてるのね? 薫ちゃん、強請る気満々なのね?」
「え、やー……だってさぁ……何か勿体無いじゃん?
つーか、紫穂だって……」
「……それよりも、皆本さんどーするつもりかしら?
……まさかホントに葵ちゃんを……」
「やー、そりゃーねーって!
皆本のやつにんな度胸なんざねーよ♪」
……なんて言っては見たけど、ホントはあたしも少し不安。
今の葵随分と迫力あるから……皆本のヤツ押し切られちゃうんじゃないだろーかって。
ってか、葵のヤツさぁ、このまま勢いで皆本とナニとか、よからぬ事考えてんじゃねーだろーな?
皆本と“そーゆー関係”になるのはあたしが最初なんだからな!?
おしまい
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