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唐巣神父の事件簿 リポート1『始まりの声』

 唐巣神父の事件簿
  リポート1『始まりの声』





厩舎の藁の中、白い卵にひびが入った。
何者かが生まれる時、それは闇の中から光ある場所へと這い出てくる狭間。生には早く、無には遠い。
内からの圧力に殻の強度が耐え切れず、隙間ない白い寝屋の壁に穴が空く。
闇に光刺す瞬間――
光を初めて浴びる雛鳥が、その目に外界を映す。そこに広がるもの。広がったもの。
それは――全ての生物が石になった光景だった。





フェイズ1 現場への到着、もしくはプロローグ





ひどい状況だった。
双眼鏡で覗いた先には、山間の小さい村。
そこには異常な数の蛇が這いずり回り、精緻に過ぎる人間の石像が生活の一場面を切り取ったように、至る所に立っている。
非常な光景。非常すぎる。
動く生物は、地を這う爬虫類以外は一つも見えない。
朝だと言うのに鳥の囀り一つ聞こえない。
さらに――


 ビュオッ



気付けば、朝日に輝く銀色の刀身が首の真横に、突き刺――


「だああああああああっ!」


忘れていたように、ずいぶんのんびりとしたタイミングで、悲鳴を上げた。


「なんだ、一体、殺す気かっ!?」

「双眼鏡を貸しなさい、神父唐巣からす

「それだけで首元に刃物を突きつけるなっ!」


活動的な修道服に、眼鏡をかけた金髪の少女。年齢は十代後半だが妙に落ち着き払っている。
そこまでは問題ないのだが、自分に向けた手には刃渡り七〇pを超える直剣。


「失敬な、悪魔祓いを行っただけです」

「――」


一応、切っ先の行方を見てみると――自分の(少し切れてる)首の横際に浮遊霊が居たらしい痕跡。
この霊がもう少し首寄りに飛んでいたら――考えるのはよそう。


「日本の山にはゴーストが多いですね」


何事も無かったかのように話しかけてくる。


「日本では古来から、山は異界とされているから――」



 ズバアッ



「今度はなんだあっ!」


ギラついた刃が、足元に突き込まれた。


「蛇です」


抑揚のない声で言う。
足元の草叢から蝮が、がさごそと逃げていった。


「――助けられた事には礼を言うが、その何の前触れもなく剣を振り回すのは――」



 ズガガガガガガガッ



「だーかーらー!」

「蛇です」


先程、逃げていった蝮に追撃を仕掛けようとする。


「いや、何もそこまで――」

「狡猾で卑劣な悪の化身――」


言葉に出来ないような重圧が、体をぴしぴしと打つ。
剣の輝き以上に眼鏡がギラついている。
獲物を狙う狩人の目だ。


「創世の記、楽園追放以来の人類の仇敵、蛇――」


聖書における有名な一説『楽園追放パラダイスロスト』。
イブが蛇に騙されて、アダムと一緒に禁じられた知恵の実を食べてしまい、楽園を追放される話である。
その一件で蛇は邪悪の象徴とされ、カトリックでは忌み嫌われている訳であるが――


「ぶちころしましょう」


とんでも無い事を口走っている。



 ガチャリ



と、懐から出したのは散弾銃――


「って、こら、よせ、もう居ないから、もう居ないからっ、な?」


飛び掛るように銃口を下げさせる。
眉一つ動かさない無表情が、激しく恐ろしい。


「ちっ」


舌打ちまでしている。
はっきり言って、蛇より彼女の方が怖い。
間違っても、彼女の前でキリスト、カトリックを冒涜する真似だけはさせられん。肝に命じて、心に刻む。


「双眼鏡を貸しなさい」

「まず剣と銃をしまってくれ――」


素直に双眼鏡を貸してしまう自分が憎い。
これで村の様子など見せた日には、どうなることか。


「くくくくくくくくく」


――笑っているよ。


「神の敵が、あんなに――くくくくくくくくく」


確かに、地獄のような光景ではあるが。


「本当に付いて来るのか?」

「行かねば、神の敵を殲滅出来ないでしょう、くくくくくくく」


――何か非常に、心配な笑い方をしている。
この子を連れて村に行くのか――
黒の神父服にコートを着た黒髪の男。GSゴーストスイーパー唐巣は、始まる前からやけに肩の辺りが重かった。
いっそ、この重みが霊障だったらすぐに解決だな。と、重くて深い深い溜息を吐いた――










フェイズ2 事件接触への過程、もしくは神父のぼやきと回想





神は常に私達を試しておられる。
とにかく、その日は何というか色々とあったと言うか、あり過ぎたと言うか、流されたと言うか――
試されるにしても、正直自分のキャパシティは遥かに超えてしまっていた様な気がする。


「神と子と精霊の御名において命ずる」

彼女その日は欧州ヨーロッパから帰ってきてから、数えて二日目。帰国早々、初めての仕事だった。
依頼内容は、曰くつきの教会の除霊。
成功したあかつきには土地も含めて建物を譲ってくれると言う破格の話だ。
日本で自分の教会を持とうとしていた私にとっては、正に願っても無い依頼だった。


「汝、理法を外れし罪の子等よ」


情けない話だが、私には金銭感覚が欠如しているらしく、もう三十路間近だと言うのに、ちっとも金が貯まっていない。
その上、手持ちは旅費と生活費で消えてしまっている。
そう言う事情もあって、この千載一遇の好機を逃すまいと、背水の陣で乗り込んだわけだ。
主は自らを助くるものを助く。人の子たる自分としては千載一遇のこの好機に、ただ人事を尽くすのみである。


「主の巷より――」


教会に巣食っていたのは、低級霊の集団だった。一体一体の力は強くはないが、寄り集まれば怨霊並の力になる。
今や誰も居ない神の家に救いを求めて集まってきたものらしく、その心中を察するに哀れである。
それ故、すぐにでも父の御許へと送り届けてやろうと祈祷書を開き文言を唱えようとしたのだが――
思わぬ邪魔が入った。


「しりぞ――」

 ぐううううううううううううううううううっ



腹の虫だった。
――もう四日も、食べてなかったものな――
膝から力は抜けるわ、目の前は急に暗くなるわで体に宿った霊力も、どこかへ霧散してしまう。
げに憎むべきは己の行いである。


「どあああああああああっ」


暴れだした悪霊に、危うくふき飛ばされそうになった。
我ながら情けなくて涙が出てくる。塩分が勿体無いので泣かないが。


「ちいっ」


手持ちには、破魔札も精霊石も神通棍もない。
ちくしょう、貧乏め。
水筒に入れておいた聖水を一気に撒く。



 ぎあああああああっ



自分の腹の音より悲鳴の方が小さかったような気がするが忘れてしまおう。
焼け石に水。数が多すぎて、全ては浄化出来ない。


「やっぱり、公園の水に祝福儀礼を施しただけじゃ駄目かっ」


ちくしょう、貧乏めっ!


「っきああぁぁぁ」


残りの霊達が悲鳴とも叫びともつかぬモノを上げながら、一斉に私に向かってきた。
正面からぶつかるには分が悪すぎる。
しかしながら、下手に撤退は出来ない。最悪彼等を外に解き放ってしまう事になる。
踏みとどまって闘うしか選択肢が無いのだ。
四方から包み込むように、押し潰してくる。元より逃げ場など無かったらしい。


「神よ――」


間に合わないとは思ったが、再び退魔の祈りを――



 がっしゃああああああああああん



「何だぁぁぁぁ!」


そこで、いきなり後ろから何かが突っ込んできた。



 ギャリリリリィッ



教会の真横、ガラスを破って、そのまま悪霊にぶちかましを掛ける。
ぶつかった衝撃で大型のバイクが暴れるが、タイヤを横に滑らせながら無理やり止まった。
乗っていたのはフルカウルのヘルメットにライダースーツ、体格からして女性だと判断が付いた。


「ようやく見つけました、神父唐巣」


抑揚のない声。ヘルメット越しで声が篭っている。
バイクの横に固定してある鞘から剣を抜く。と――


「ちょっとまて、銃刀法違反っ!」

「はああああああっ」


こちらに斬りかかってきた。
咄嗟の事で動けずに、身を固めた次の瞬間。



 ぎゃああああああっ



私を襲おうと後ろに居た悪霊達の悲鳴。


「はっ」


気声と共に、その女性が次々と剣を振るい浄化していく。
とにかくチャンスだ。


「神と子と精霊の御名において命ずる、等しく罪ありし子らよ、静かに眠れっ!」


短時間だが集中して霊波を解き放つ。
数を減らしていたおかげで、残りの霊達も浄化しきる。神よ感謝します。
十字を切り終えて、向き直る。


「くくくくくくく」


笑っている。
うわあ。


「何故、後ずさりますか?」


しまった、気付かれた。


「少なくとも、日本ではライダースーツを着て刃物を振り回す人間を警戒する」

「では、これでは」


胸元のチャックをチーと下ろす。そこから出てきたのはロザリオ。


「何故、更に後ずさりますか」

「さっきよりもひどい予感が全身を駆け巡ったので」

「――まあ、いいでしょう」


そこでヘルメットを取る。洩れた陽に姿が輝く。巻き上がる埃の中でも色あせない短めの金髪が揺れた。
廃墟一歩手前の教会ではなく、その手に凶器を持っていなかったならば、美しいと言ってもよかったのだろう。
だが、どちらかと言えばその姿は不思議な恐怖の方が先に立つ。


教会バチカン特別審問官、アリエラ=バルレッタ。これよりあなたへの審問を開始いたします」


切れ長の鋭い目。
ひどく透明な印象を受ける佇まい。
それが、彼女アリエラとの出会いだった。











数年前、私は教会カトリックから破門された。
GSの仕事で異教の儀式を執り行った為だ。
教会は基本的に異教の力を認めていない。
故に、その際の私に対する処置は妥当であったし、決定に異存は無い。処分は覚悟の上でやったことだ。
とは言っても、神に仕えるのを止めた訳ではない。寧ろ教会から離れる事によって見えてきたものもある。
だからこそ、いまだに神父を名乗り、日本で自分の教会を持とうと考えた訳であるのだが――
その矢先に、まさかのカトリックからの復員審問。
ありがたいことではあるが、とまどいを隠せなかった。


「と言う訳で、今から長野に行きます」

「いや、文脈が明らかに繋がっていないのだが」


――まあ、とまどいを隠せなかったのは、もっと切羽詰まった事情に直面したからなのだが。


「長野に主の助けを待つ人々が居るのです、さあ」

「――それで何で私が後部座席にくくりつけられる?」


いつの間にか、ぐるぐる巻きにされている私。


「高速で飛ばせば、明日の朝には着くでしょう」

「訳が分からないし、君は銃刀法違反だし、ヘルメットがない上に二人乗りで道路交通法違反だし、そもそも拉致は刑法違反で――」

「大丈夫です、現世の法と神の法の行使では、神の法が優先されますから」

「意味が分からんし、ちっとも大丈夫じゃないっっ!」

「いざ、カマクラぁっ」

「長野だろぉぉぉ」


爆音と共に走り出すバイク。危うく後頭部から落ちそうになる私。
その後、夜通し走り続け、インターチェンジを間違えて危うく鎌倉方面に行く事一回。
邪魔な車を排除しようと懐の散弾銃を抜くのを止める事十三回。警察を振り切る事五回。
うち三回は高速道路上で、現在私の履いている靴は大部分が焦げている。
時速一八〇qのデッドヒートの際に見えた光は錯覚ではない。
目的地らしい所に到着した時には、命永らえた事に心底感謝した。あれは彼岸だ。
着いた先は、ある村の役場。既に連絡が入っていたのか、深夜にも関わらず明かりがついていた。そこに入ると――


「鳥をっ、ニワトリをあげますからっっっっ!」

「ぎゃああああ」


視界を全て覆う、大量の羽毛の固まり共に襲われた。


「国産です、国産。いやですか。ならアメリカ産でも、フランス産でも、南米産でもぉぉぉぉぉぉ!」

「いや、気道を塞いでっ、苦し――」

「話し合いは順調に行っているようですね」


恐ろしく現状の把握能力に乏しい台詞が聞こえた。


「なんでしたら卵も、卵もつけますっ、二〇〇sくらいっ!」

「交渉が上手ですね、報酬が増えましたよ」

「誰でもいいから状況の説明をしてくれぇぇぇぇぇ!」


その後、暗中模索、一進一退、紆余曲折を経て依頼主の村長とようやく会話が出来、
そこでようやくアリエラの言う「神の法の行使」がGSの仕事である事を理解した。
教会は、ヨーロッパに於ける私のここ数年間のGS活動を評価して、審問を決定したらしい。
それに当たって、持ち込まれた悪魔祓いを割り振ることで一つの試験、見極めとした。
詳しくは無論教えてくれないが、その仕事での私の怪異への対処の仕方によって判断するようだ。
私が無理矢理に連れてこられたのは、どうもそういう理由らしい。
今回の依頼者は自治体で、報酬は現金と村の名産物の現物支給。
(卵に関しては丁重に辞退させて頂いた。どう考えても食べ終える前に腐ってしまう)
私に断る理由も、権利も無い。了承した。
すると、再び簀巻きにされてバイクに括りつけられて、ピリオドの向こう側を垣間見ながら、深夜の道をひた走る。
私の唐突で慌しい一日は、唐突で慌しいままバイクの上で、そうやって終わった訳だが――
現在、依頼現場が見える場所。


「くくくくくくくくくく」


横にいる彼女を見ると――
今日の前途も果てしなく、不安である。










フェイズ3 状況確認と行動、もしくはいきなりピンチ





 人間達だ。
 二人。どれだけ追い払っても、再びやってくる。
 偵察の蝮の目によれば、かなり手練のGSらしい。
 ここに来る連中は、この村の事を何一つとして理解していないようだ。
 安易に村に入ったならば、また石像が増えるだけなのだと気付かないのだろうか?
 意をかよわせた蛇に警戒網を張らせる。
 引っかかれば直に私に情報が入る。
 忙しいが、無視する訳にもいかない。
 一歩たりとて、この村に入れる訳にはいかないのだから。





長野県某村。
山間部の小村で、主に畜産が村の主産業となっている。
観光資源らしい建物は存在しないが、村の中央を流れている清流は川釣りの穴場らしい。
最近は過疎化撲滅と若者の雇用対策で、世界各国の品種を掛け合わせてブランド地鶏を作っているそうだ。
そういった努力には、ただただ頭が下がる。
そんな村で突如として異変が起きる。
ある朝、村の農家の一家族全員が、飼っている家畜もろとも石になっているのが発見された。
異変は時を置かず拡大。翌日、翌々日と犠牲者は増加して行った。
老若男女を問わず、野良猫、雀、魚、牛、鶏、果ては虫まで石像へと変えられた。
怪異から一週間。被害は加速度的に増える一方で、村でGSを雇う事が決定した頃、追い討ちをかけるように今度は蛇の異常発生。
住人を村の外に追い立てるように次々と蛇が襲い掛かってくる有様で、動けるものは急遽全て村外へと脱出した。
被害は現時点において、村より外には広がっていないらしいが、予断を許さない状況である事は間違いない。
何名かのGSが依頼を受けて村へと入ったが、帰ってきたものは一人もいない。
原因は不明。
村人の目撃情報で唯一、この事態への手掛かりと成り得そうなものは――


「女性を見た、か」


村長や避難してきた村人達から聞いた話の中で、共通していて引っかかった。
何人かが村の者ではない女性の人影を見ている。狭い村なので、住人は互いに顔見知りなので間違いないらしい。
最も古い目撃例は最初の事件から三日目。夜間の見回りをしていた駐在さんが、石化被害者の家から出て来る女性の姿を目撃。
不審に思い、追い掛けたが途中で見失った。
最も新しいものでは蛇が発生した後、村から避難する農家の主婦が朝方、大量の蛇の中に佇む女性を見ている。
現在朝の七時。
最初の事件から二週間。
先程から村の中を観察しているが――


「姿は無いようだな――」


霊気を探知する『見鬼君』も距離が遠すぎるのと、山に近いせいで雑霊や妖気が多く、対象が絞れないらしい。
どう関わっているのかは解らないが、謎の一つだ。
今の内に探索を開始した方が無難か――
この状態の村で一晩過ごすのは流石に無謀だ。
出来得るならば、今日の日没までには原因を特定したい。
蛇は昼行性なので夜間に襲われる心配はないだろうが、石化の謎をまだ解いていない。
女性の正体も含めて、夜は危険な要素が多すぎる。


「下りるぞ」

「くくくくく」


――まだ笑っている。
双眼鏡を鞄に戻し、道なり、国道沿いに村へと向かう。
あてが無い以上、事件現場を直接見る以外解決の糸口は無い。
地図の上では、そろそろ村に入る場所だ。道路と山しか無かった所にようやく民家がちらほらと現れ始める。
ゆっくりと――



 ガサアッ



いきなりかっ!
辺りの草叢、民家の縁の下、側溝の蓋の間。ありとあらゆる所から湧いて出るように蛇が噴き出した。


「アリエラ――」

「はっ」


もう剣を抜いている。
私も出遅れる訳にはいかないが、いかんせん相手は蛇である。
魑魅魍魎の類なら、塩と御札でなんとかなるが生物となるとそうもいかない。
かなり大き目の青大将が数十匹単位で、わらわらと出てくる。合間には、柄からして縞蛇も混ざっている。
霊圧で吹き飛ばしても死なせる訳ではない。
戦ったとしてもきりがあるまい。
ここは、強行突破あるのみだ。


「バイクで突っ切れるか?」

「ええ、根絶やしにしましょう」


相変わらず会話が成り立っていない。


「ここで時間をかけても仕方がないだろ」

「つまり、一瞬で殲滅しろと」


誰かうまく通訳してくれ。


「明らかにこれは待ち伏せだ。誰かが裏で操っている可能性が高い、司令官を探すんだ」

「目前の悪を見逃せとでも?」


ああもう、どう言えばいい。


「日本にこう言う教訓がある、『蛇は頭を潰せ』」


生命力の強い蛇は、胴を切られても噛み付いてくる事からの言葉だが、転じて組織に戦いを挑む時にも使われる。


「良い言葉です、やりましょう」


――すこし付き合い方が分かった。
傍らのバイクに跨ると、アクセルをふかす。
いくらなんでも、そのまま突っ込んでも抜けられそうにないが、どうする気だ。


「『我を守護せし、主の御使いたる天の同胞』」


――霊気が集まる。
何らかの呪文をアリエラが唱える。


「『共に握るは破邪の剣、共に纏うは鋼の衣』」


 短いが力強い言葉の列。
 アリエラの周囲が光り輝いて行く。


「『接続コネクト力天使ヴァーチューズ』っ」


目を疑った。
彼女の背中に光る羽が生まれ、半透明の甲冑が装着されていく。
風と威風が体を打つ。


「つかまりなさい」


 思わず固まっていた体を緩めて、慌てて後部座席にとりつこうと――


「飛びますよ」

「どっだああああああっ!」



 ガオッ



バイクごと宙に浮いて更に加速。
目前に確かに一対の羽を生やした背中がある。
その飛行能力は伊達ではない。幻覚でもない。
聖人には守護天使が付いているとは言うが――
『特別審問官』の肩書きも、この力を持っているならば納得がいく。彼女は『聖女』なのだ。
それにしても、ここまでの力を引き出せるのか――


「――やってみるものですね、見直しました」

「えっ、何だ」


風と慣性で後ろに引っ張られながら――


「頭の登場です」


前を見る。
三十m以上の蛇が、鎌首をもたげて顎を開いて――


「どこから出てきたぁぁーーー」


どう考えても、思い出してみても、逆さに降っても、村の中には見当たらなかったし、
隠れられそうな空間なぞ地下鉄でもない限り無理だ。と言うか、食われるっ?


「潰しますよ」

「つっこむ気か?!」


右手の剣。力天使の影響か、輝きを増していく。
その光輝は範囲を広げ、バイクをも包みこんで霊圧が高密度化する。
その様は槍か、砲弾。もしくは――
それ自体が一個の武器であった古代の戦車チャリオット
突撃チャージ
それ以上に・・これを的確に表す言葉は思いつかない。
浮遊霊や低級霊なら触れただけで消し飛ぶ。


「はあああああっ」


衝撃に備え、掴まった後部座席を握りなおす。と――
着地点の蛇はそのまま、顎を開いたまま待ち受けている。
一体、何を――
空中に浮かんでいた時間は、十秒にも満たないだろうが――
その光景はひどくゆっくりと見えた。



 カアッ



直撃。
蛇に、ではない。
蛇の放ったビームのような光芒が私達に、だ。


「くうっ」


落ちる。
ちいっ!
瞬間、手を離して受身。
私が乗っていたのでは、アリエラがバランスをとれない。



 ダンッ



間髪置かず、衝撃が肩から背中に走る。
――っ
転がる。一度、二度、三度――
息を吸い込み、吐く。
うつ伏せの状態で足腰。立てる。
顔を上げる。蛇のバリケードは突破している。
アリエラは?
目線だけで探す。今は首を動かしたくない。
バイクの上にいた。
慣性を、天使の力でねじ伏せたらしい。
無事は確認した。
が、天使の輝きは薄い。光り輝く羽も消え失せている。
あれ程の霊力を無効化したのか――
人が扱いうる霊力の質、量共にアリエラの放った以上のものを私は知らない。それを上まわる出力を相手は持っていると言うのか。


退けっ!」


聞きはしないだろう、彼女の性格では。それでも言わざるを得ない。
あの娘が動き出すより早く、先手を打つしかない。
まだ足に力が入らない。
この役立たずが。
倒れ込むようにバイクとアリエラに寄りかかる。


「――邪魔です」


抑揚の無い声。
取り乱してはいない。
よし。
その鎧ごと後ろに引き倒す。


「っ!」


アクセルを吹かして、進行方向を一気に村の中心部へと向けた。
大量の蛇が、こちらに向かってくる。
予想以上にアリエラが華奢であったのが助かった。横に捕まえたまま走り出す。
とにかく距離をとるしかない。機動力ではこちらの方が上の筈だ。





 逃がした。
 あれ程の出力を誇るとは、さすがに予想外だ。
 待ち伏せに割り振ったせいで、手薄になっている村の中に意を飛ばす。
 無数の目を通して探す。
 見つけ出さなくてはならない。
 何としても――
 必ず。





身を隠す場所。
バイクは目立ち過ぎる。
どこかに置いていくしかない。
考えろ。
蛇の入って来られない所。屋内。
魔物の入れない聖域。寺。神社。
うろ覚えの地図を頭に描く。
自分達が入ってきたのは、村の東側。中央には北東から西に流れる川。
舗装された道路を走っている限り痕跡は残らない筈だ。十分以上走ったあたりで川に出た。
柵越しに下を覗くと川原には石がごろついている。
あれは――祠か。
人が二人隠れるには十分だろう。
堤防沿いの草叢の中なら橋の上からは死角になる。バイクを隠蔽するにも調度いい。
停車。


「休憩するぞ」

「――」


表情は無い。
疲れているのか、何も感じていないのか、落ち込んでいるのか――
ふと、アリエラの手が伸びてきた。



 ぎりぎりぎり



胸倉に手。
怒っていたようだ。
うわ、爪先が浮いた。


「敵前逃亡は銃殺――」


懐から散弾銃。


「待て、落ち着け」

「冷静です」

「なら、聞け。どうやって大蛇を倒す気だった?」

「手段は関係ありません、逃亡した事が問題なのです」

「質問に答えてない、倒す方策は?」

「ありません」


言い淀む事なく答える。


「なら、今は体を休めておけ」

「あなたなら倒せるのですか」

「無理だな――」


引鉄に指がかかっている。


「――今は、まだ」

「どうする気です」

「相手が何者か、何が目的か、それが解れば状況は変わるかもしれん」

「根拠は」

「『主は自らを助くるものを助く』」


手が、離れた。


「今は、あなたに預けます」


そのまま私の方へ体が倒れこんできた。


「やれやれ」


気を失ったか。
あれ程の霊気を一気に失えば仕様もあるまい。
無茶をする――










フェイズ4 調査と推理、もしくは苦労性の奮闘





幸いな事に綺麗な水は大量にある。
源流が近くにあるのだろう。見事な清流だ。釣りの穴場と言うのも頷ける。
外国に行ったから解るが、日本ほど安全な自然水が豊富な国も無い。
手当てにしても、食事にしても水は必要になる。最大の心配事は解決した。
アリエラを祠の中に運び込んで横にする。下には私のコートを敷いた。
板敷きに直接寝かせるのは逆に体力を消耗させる。
ヨーロッパに居た時分には、これに包まって寝た事も多々あるので防寒性は実証済みだ。
コートから取り出した、水筒や応急手当一式を広げる。
まずは、彼女の状態――熱は無い。呼吸も通常。脈を看ても異常はない。
見たところ外傷も無い。記憶の限り、致命的な打撃を受けた事もない。
精神的なものだろう。少し、ほっとした。
次は表のバイクを隠しに外に出る。わざわざ堤防の階段を無理矢理に下ろして来たのだし。
遠目から見て気付かれないよう、背の高い草の中に隠す。素人ながら、そこらの草をかけて保護色による隠蔽もしておいた。
やらないよりはマシだろう。

一通り終えたら祠に戻った。
アリエラが目を覚ますまでやる事もない。今のうちに自分の手当を済ませる。
打撲くらいならいいんだが――
触診。――よし、肋骨は折れてない。
あの速度で落ちて捻挫、脱臼、骨折がなかったのは運がいい。すり傷を水で洗い、ガーゼを充てる。
――ふう。テープで貼り、道具を片付ける。
壁にもたれる。
そこで、ようやく気が抜けた。
肩のあたりの強張りが解けるのが分かる。
つかれた――いくらか茫としながら、今度は辺りの見張り。
蛇が近付いてくる様子はない。
後ろは川、正面は川原。蛇が来ればすぐに見える。
昼前の水辺は、嘘のようにのどかだ。
とても怪異が起こっている村とも思えない。
――こんな時じゃなかったら、釣り糸を垂らして太公望といきたいものだが――
そう言えば、昼飯はどうしよう? ――火を熾せば煙が出るしな。
――ポケットに何か――何もないか――ポケットを叩いてもビスケットは増えない。
元から入ってないからだ――――――思考に緊張感がまるでないな。自分。
まぁ、あまり張り詰めすぎても持たない。集中力をゆるめるなら今のうちだろう。
何事もなく時が過ぎ行く。
言い換えれば、ひどく手持ち無沙汰な訳だが――
何気なく、周りのものを観察してみる。
――ここの御神体は鏡か。
人の目に晒されるのは失礼の極みであろうから、早々に目を逸らした。
村の人々が、マメに掃除しているのか中は予想より綺麗だ。造りもしっかりしていて、風も入らない。
川の傍、橋の近くとなれば水神を祀っているのだろう。山川で水害が多いのは水の取得と表裏一体。仕様もない――



 ズダンッ



重い踏み込みの音。
共に、首筋を狙って貫手で突き込んでくる。


「起きたか」


寝起き早々、わんぱくと言うか何というか――
予想はしていたので驚きはしないが、気分のいいものでは更々ない。


「――ここは、どこです」


 アリエラの人差し指と中指が、私の頚動脈と気管すれすれで止まっている。


「神殿と言った所かな」

「――異教の崇めるものなど、神ではありません」


言うと思ったよ。
創造神とキリスト以外に権威はなく、それ以外に神と名乗る存在全ては悪魔か堕天使であり、それらを崇める者は例外なく邪教とする。
キリスト教の古くからある考え方だ。


「ここが魔を寄せ付けない聖地である事は、事実なんだがね」

「――」


ひどく険悪な気を向けられている――ような気がした。
何しろ表情が変わらないので判断が難しい。


「神学の話はさて置き、もう少し寝ていた方がいい。本調子じゃないだろ」

「どれくらい時間がたちましたか」

「気を失ってから、二時間だな」


日も随分高くなった。


「十分な休息です」

「駄目だ、寝ていろ」


突き出された手を取って、そのまま後ろに倒しこむ。


「私の動きにさえ対処できないんだぞ?」

「――了解しました」


不承不承。理屈の上で納得させられるなら、こちらの言うことを聞いてくれるだけ楽だ。


「その代わりと言ったらなんだが、私が村へ偵察に出る」

「――」


返事はない。


「出来るだけ交戦はせずに帰ってくる。日が沈むまでに戻ってこなかったら、悪いが一人で行動してくれ」


そうは、なりたくないが。


「夜になれば蛇の目も昼間よりは利かなくなる。
 村人の話では夜は蛇の動きも沈静化するらしいから、もう少し休みやすい場所に移る」


空家は村中にある。


「いいな?」

「異議はありません」


許可は下りた。


「それじゃ、飯にするか」


朝飯をまだ食べていない。と言うより昨日から何も食べてない。何とかして食材を手に入れなくては。


「――予想より神経が太いのですね」


呆れているのかどうかも分からない、アリエラらしい抑揚のない声だった。


二人のGSの探索を開始して半日は経過している。
乗り物は見つけたが、まさか祠に隠れているとは、気がまわらなかった。
もぬけの殻。周囲を囲み、逃げ道を塞ぐくらい造作もない事であったのに――
村の家屋に入られるのは厄介だ。
警戒すべきものが増えてしまう。
日が沈めば見通しは悪化する。
至極、忌々しい――


アリエラを抱えて適当な家を見つけて中に隠れると、陽が稜線に差し掛かっていた。


「もう大分、回復しました」


それは重畳。


「なので、早く下ろしなさい」


軽いので肩にかついできたのが、お気に召さなかったようだ。あたり前か。


今日は、ここで一晩過ごす事になるだろう。二階建ての、上の一室。
外が覗ける部屋に腰を落ち着けた。子供部屋らしく、ベッドもあったので調度いい。
明かりは点けられないが、そんな事に文句を付ける状況では無論、ない。
体を伸ばす。人心地。


「それで、収穫はあったのですか」


ベッドに腰掛けているアリエラ。


「――決定的なものは無かったよ」


蛇という小さなものを警戒しての探索は、慎重にも慎重を重ねた。おかげで大した範囲は調べられなかったが――
見てきたものを全て話す。
石像だらけの村。建造物の破壊は起きていない事。
霊的に異常な箇所も見当たらなかった事。
あとは――


「例の女性を見つけた」


村人の話にあった女性。
探索中、物陰からかなり遠くに見つけた。目撃証言の通り、蛇を従えているような様子だった。


「恐らく、人ではないだろう」


纏う空気が普通ではなかった。


「それでも、首謀者かどうか、何者かは不明のままだが――」


戦闘をしかけるにも力不足で、追跡するにも距離がありすぎた。すぐに見失ってしまった事を伝える。
結局、解明には至らない情報ばかりだ。


「残念ながら、見て取れたのはこれだけだ――」

「――そうですか」


我が事ながら、不甲斐ない。


「君は、どう思う?」


この現象を説明する類例があるか否か。
黙って聞いていたアリエラの意見は、何かあるだろうか?


「現在の所、重要そうなキーワードは、石化、蛇、女性です」


既に考えがあったのか、返答が早い。


「そうなれば導き出されるのは、ゴルゴンです」

「――むう」


ギリシャ神話の怪物。
その目で見られた者は誰であろうと石に変え、頭髪から無数の蛇を生み出す。そして、女性だ。
確かに彼女の言う条件に合致する。


「しかし、イタリアの怪物が日本にまでくるかな?」

「最も有名なゴルゴン三姉妹の次女の名はエウリュアレ、『遠くに飛ぶ女』です。
 黄金の翼を持つ以上、無いとは言えないでしょう。それに――」


言葉を切り、虚空を睨む。


「未確認ではありますが、三姉妹ゴルゴンの末女メドーサがアジアで暗中飛躍していると言う情報もあります。
 最悪の場合、この事件も何らかの大掛かりな作戦かもしれません」

「――」


だとしても説明出来ない事は多い。
まず目的が不明。この一帯に霊的に重要な施設も、場所も無かった筈だ。橋頭堡にしてもここである理由がない。
更に言えば、あれだけの大蛇を生み出せるものだろうか?
もう一つ。石化の邪眼と言う必殺の武器を持っていて、何故我々は・・・・・・・石になっていないのか。
相手にもされていないのか、それとも邪眼の発動条件は伝えられているものより厳しいのか。
厳しいとしたら、村人達はどうやって石化されたのか。
仮説は立てられるが、証拠はない。推論を立てるロジックさえ構築できない。
もどかしさ。焦燥感。


「断定された訳ではありませんが、最悪の事態は常に想定すべきです」

「――そうだな」


もうすぐ陽が沈む。


「明日だ――」


仕切り直すには長い時間だ。





 月の光があるとは言え、闇は濃い。
 夜間に動き得るのが己だけと言うのが、もどかしい。
 だが、視界が利かない所に下手に送り出して、仕留められていったとすれば状況は悪くなる一方だ。
 向こうも夜間は動くまい。
 虱潰しにあたっていく。
 早く、こんなことは終わらせなければ――





深夜。
アリエラに叩き起こされた。


「ふぐっ――もう交代か」

「ええ」


今の所、異常はないようだ。
非常時と言う事で、家の戸棚にあったカップ麺を夕食にすると、交代で見張りに立ちながら仮眠を取る事にした。
昼間に寝ていたアリエラが先で、私が後だ。


「お疲れさま」


窓に張り付き、目を凝らす。
頼りは外灯と月光のみ――
朝まで見張り。がんばろう。


「――神父唐巣」

「うん?」


振り向くと、影。立ったままアリエラがこちらを見ていた。


「どうした」

「少し良いでしょうか」

「そりゃ、構わないが」


暗くて表情までは読み取れない。


「うまく言えないのですが――あなたの私への接し方は、今迄出会った人達と違うような気がするのです」


確かにうまく言えていない。


「私と組んだ同僚は全員、私との関係に『やりにくさ』を感じ、もてあましていたようでした」


だろうなぁ。


「貴兄の対応には、それがないように思えます」


 私も、もてあましてはいるんだが――


「何故でしょうか」


質問の意図がさっぱり分からない――
が、しかしまあアリエラが、そう感じた理由は幸いにして、すぐに思い当たった。


「多分――その理由は、私が君より扱いにくい人間と組んだことがあるからだよ」


耐性が出来たと言うか、免疫がついたと言うか。


「どういう事です?」

「簡単に言えば、その時の相手と比べれば君はまだ、ましだ」


少し言葉が悪かったかな――


「どんな人です?」


怒る前に興味が湧いたらしい。


「一口で言うのは難しいが――駆け出しのGSで、出会った時からこっちの常識を木っ端微塵に砕いてくれたよ」


お陰で大概の事には動じなくなった。


「組んだのは短かったが、天才と言うか天災と言うか――行動的で大胆。
 理性的で、直感的で、感情的でもある――とにかく私の人生を見事なまでに変えてくれた、筆舌に尽くしがたい凄まじい相手だったな」


日本で活躍しているとは聞いているが、どこでどうしているのか。


「そうですか――」

「何かまだ、腑に落ちない様子だが」

「他にも、何かあなたの行動から感じた事のない思念を感じるのです」


何か私が普通で無いように聞こえる。


「生まれつき守護天使に護られていた事で、畏怖や尊敬の念を受けた事はあります。
 物心ついた時から教会の中枢に居た事で、疎外感や嫉妬、拒絶を受けたこともあります。
 使命の為に共に行動する、同僚との連帯感も知っています」


ひどく説明的なのと客観的なのが彼女らしい。


「貴兄の対応は、そのどれとも違います」

「うーん」


――そう言われても、自分でも意識して接した訳でなし。


「君は、それをどう思う?」

「貴兄とは意見の相違も多いですし、私には理解し難い行動を取る事もありますが――悪いものとは感じません」


どうやら私は彼女にとって始めてのタイプらしい。


「だからこそ質問をしました」


自分の知らないものに接した時、人は学習する。
――アリエラの抱いた感情を想像は出来る。
予想も出来るが、たぶんこれは私が言うべき事ではない。合っている保障もない。


「悪いものじゃないなら放っておいてもいいんじゃないかな」


無責任な台詞だが、これ以上の言葉は私にはない。
アリエラは残念そうに俯く。
余程、自分の中に不安要素があるのが嫌いらしい。
おそらく教会と言う、謂わば思考の無菌室で育ったことが、彼女を悩ませているのだろう。
思春期らしいと言えば、思春期らしい悩みである。


「――いつか解る心情でしょうか」

「ゆっくり探せばいい」


誰でも自分と向き合って成長するのだから。


「了解しました」


そう言って、ベッドで横になった。
この若さで、教会の特別審問官の役目を持ち、かつ守護天使の力を行使し得る者。
――
――
少し――沈黙を寂しいと感じたのは、彼女と親しくなった証だろうか。





村の地図を見ながら、まずは最初の事件が起きた家へと向かう。村の真ん中を流れる川を挟んで西側、中央寄り。
まさか、そこに黒幕が隠れているとは思わないが、元々の予定ではそこから調べるつもりだった。
話では解らなかった事も、何か出てくるかもしれない。
何事もなく夜が明けて話し合った結果、二手に別れた。戦力の分散は危険だが、何分、調べる範囲が広い。
時間と集合場所を決め、証拠を探す。
アリエラは川の東側。私は川の西側。
危険が生じたら発炎筒を上げる事になっている。
草叢の中、排水溝、下を警戒しつつ道を急ぐ。昨日もそう歩いているが――
転々と落ちている、羽ばたいたままで道端に転がる雀。
――
薄暗がりの中で出会うのが、石像だけと言うのも気が滅入る――
吠えたままの格好の飼い犬。
止めたはずの煙草が恋しい。
蛇は隠れて様子を伺っているのか、まだ一匹も見ていない。それが余計に不気味に感じる。
目的地を探す。


「――ここか」


鬱陶しい沈黙を破りたかったのか、思わず独りごちた。
養鶏農家。
敷地はかなり広い。村おこしの地鶏の為に、走り回る場所を確保しているらしい。規模は牧場くらいにある。
出来るだけ感情を入れずに分析を開始する。
自分でも気付かぬうちに十字を切っていた。
――そうでもしなければ、ここは辛すぎる。
錯覚だとは思うが、ひどく口の中が苦い。
主の加護のあらんことを――
――敷地の外から観察を始める。柵があり中に入れない。
 まず奥に見えたのは、この家の主人らしい人物の石像。
鶏の厩舎の前に立っている。着ている服の様子だと仕事をしに外に出てきた所を石化されたようだ。
近くに、その人の奥さんらしい人もいるのも見つけた。目立った外傷はない。
ここからでは詳しいことは解らないが、何らかの魔法具で傷つけられた事による石化では無いようだ。
昨日も調べたが、誰かに傷つけられたような痕はない。
村の人々をこれだけの短い期間で襲った以上、確率は低いと思ったが、可能性の一つは消えた。
やはり、あの大蛇が関係しているのか――
次は母屋。玄関は閉まっていたが、農村部の大らかさなのか雨戸を外すと、すんなり入れた。
非常事態と言う事で、再び大目に見てもらおう。
――あとできちんとおわびいたします。
中に入ると、玄関で外に出ようとしている少年が一人。
両親の手伝いだろう、野良着を着ている。少し奥には年配の女性。少年の祖母だ。
聞いた話では、この家の住人はこれで全員と言うことになる。
――屋内に荒らされた形跡はない。
事件当日は母屋の鍵は開いていたらしい。今から仕事に出て行く所であったろうから当然か。
状況から推測して石にされた順番としては、まず外の二人。
次に中の二人の順だろう。逆と言うのは流石に考えにくい。無理に押し入った形跡がないのがそれを物語る。
警察が一通り調べたのだろうが、科学的なものには一切形跡は残っていなかったらしい。
動機は、やはり不明。
彼等が取り立てて狙われる理由も見当たらない。
敷地の内部、外へと出る。
石像は二人以外ない。まだ鶏は外に出ていなかったようだ。
――厩舎周辺に場所を移す。家の主人は、このすぐ側に立っている。
厩舎の鍵を開けたところらしい。手は厩舎の閂に掛かっている。近付いて見ても際立った特徴は無い。
厩舎の中を覗いてみると、鶏達も石になっていた。


「?」


――ふと、思考に何かが引っかかる。
室内で悉く石になっている鶏。
何だ?
じっと動かず、心の引っかかりを手繰り寄せる。
慎重に考えろ。
今、何に引っかかった?
ここに何かがある筈だ。
――何故、石にした存在は厩舎の中まで入ってきたのか?
偶然かもしれない。視線のみで石像を作り出すと言うなら、物の弾みと言う事もあるだろう。
違う。引っかかったのはこれではない。もっと根本的な事を忘れている。
数式の結果だけを与えられると、過程は往々にして忘れ去られる。結果を遡れ。過程。原因――
――どこから来たのか?
――そうだ。そこから考えなくてはおかしい。
ゴルゴンが日本へ来たと言うなら、何故長野まで何の痕跡もなく現れる事ができたのか?
能力を隠して日本に来たとして、それほどの隠蔽を施していたなら、この無差別な凶行と合致しない。
とても理性ある行動とも思えない。村の中心部の家が最初にやられたのだ。外部から進入したとしたら外側から事件が起こる筈。
家畜さえも石に変える以上、村のここまで来るまでに、何がしかの痕跡が残るのが道理だ。
現状は、まるでその瞬間この村に、石化能力を持った化物が生まれたとしか思えない。
しかし、日本でそんな怪物が生まれたと言う前例はない。
新種?
それにしても新たな魔物が生まれる為には、何らかの兆候や普段とは違った現象が起こるのが常だ。考えにくい。
――何だ、何が足りない?
そこに、しゅるしゅると一匹の蝮。
危険を感じる前に暗がりへと消えていった。
――
――――
っ!
急かす心を押さえ込む。
厩舎の中、目的のものを探す。二週間前のものだが、ある筈だ。なければおかしい。
寝床の藁をひっくり返す。足りない条件、証拠は三つ。


「あった!」


卵の殻。
石になった蛇。
ならば、あと一つ。
地図。
引っ張り出す手間がまどろっこしい。
駄目だ、載ってない。
記憶を頼りに戻るか?
時計を見る。
正午には時間がある。
発炎筒で報せた方が――
厩舎から出た瞬間、青い空に白い線が一筋見えた。
煙。


「早まるなよ、アリエラ」


彼女の言う最悪の事態が脳裏に走る。
下手をすれば彼女の命は、ない。










フェイズ5 事件の解明と解決、もしくは思い込みと優しさ





圧されている。
予想以上の霊圧。
同時波状攻撃。
ゴルゴン級の魔物となれば、かなりの出力を想定していたが、守護天使の力を以てしても遥かに力負けしている。
祝福儀礼を施した銀の剣も鱗に弾かれた。
猟銃の散弾程度では目くらましにもならない。



 シューーーッ



異音を撒き散らして、こちらを睨みつける蛇。
口腔を開けた。
来る。



 カッ



高密度の霊波。レーザーと同じく収束されて威力が跳ね上がっている。探索中、先手を取られ強襲されたが――
先程食らった時には、装甲の一部が吹き飛ばされた。
双翼を使い、急制動、急旋回。
風が鳴り、体を打つ。
地上には多数の蛇。川辺で足場が悪い。障害物が多い。地上戦では不利。
一撃でも直撃を食らえば致命打。
――なめるな、外道が。





 蛇。女性。石化。
 そこに足りなかった要素。
 農家に、・・・・そこから現れた異常。
 残っていた殻。
 石になった蛇。
 村おこしの為に集めた世界各地の鶏。
 川沿いの祠。
 この村の地勢。
 総合して見れば、答えが導き出される。





神の刃たれ。
唯一撃の鉄火たれ。


「はぁぁぁぁぁぁぁっ」


肉体の限界速度を超えて加速を続けたせいで、関節が破壊され始めた。
戦闘能力の低下は免れない。
脆弱な体め。



 ガッ



かわす為に速度を上げると、接触した際の衝撃も増大する。
斬り付けた指、手首、肩に至るまで鋭い痺れ。神経に強制的に流れる痛覚のノイズが、行動の邪魔をする。
精神の支配が、体の全てまで届いていない。
長期戦に持ち込まれたら、確実に行き止まりデッドエンドだ。
しかし手持ちの武器では鱗を切り裂く有効打は与えられない。
ならば、狙う場所は一つ。
対応を間違えれば、己の命も消え失せる。
だが他に選べる方策も無い。


「ひゅっ」


呼気を吐き、体から余計な力を追い出す。力天使ヴァーチャーの翼の出力を更に上げて的を絞らせない。
接触出来るのは一瞬。


「はあっ」


何発目かの霊波を横にやり過ごし――
上空から重力を加えて、体を落とす。
狙うは、目。



 ガキイッ



読まれた。
僅かに外され――
瞼一枚、貫通出来ないのか。



 ガウン



耳ではなく体幹に衝撃音。勢いそのままに地面に叩きつけられた。


「ごふっ」


視界がぶれた。
肺は潰れて――いない。
体が動かない。
目線は横。

疑問。
あまりにも突発的すぎて、そこに思考が回らない。
何だ、蛇が数匹石に――
思考の空白。
それが運命を分けた。
暗闇が辺りを包む。これは――


大蛇の口内。






そこに辿り着いたのは。
アリエラが巨大な口に呑まれた瞬間。
全力で走ったが――
どうやら、・・・・・間に合ったようだ。
幸いか最悪か、斃さねばならぬ相手も居る。
撒き散らかすように、生物が石化している。
一時の余裕も無い。


「クキャアアアアッ」


叫び声。
まずい。
大蛇の体さえ石化が進んでいる。
腹部。固まり始めた。





 その雛鳥は水を求めて川に居た。
 蛇が邪魔だった。
 生まれ落ちた瞬間に理解した。
 生きるもの全ては敵なのだと。
 己が見たものは全て石になるのだと。
 その雛鳥は、最も大きい邪魔者に視線を向けた。





口の中、意識はまだある。
脱出できるか?
内部の粘膜なら切り裂いて――


『我の知り得るものを全て伝える――』


頭の中に直接言葉――嫌、情報が流れ込んだ。





私がやるべき事はただ一つ。
どこだ。
川辺の草木の中。
探し出せ。
気付かれる前に仕留めなくては勝ち目はない。
相手の霊力は、まだ強くはない。
早く。
視線だけで石へと変えられる相手だぞ――
――視線。
石へと変わりつつある蛇の大きな目の先。


「神と子と精霊の御名において命ずる」


アリエラをかばった。ならば、その目は敵を捉えていた。ならば――そこに、その先に・・あれは居る。
標となった目までもが石へと変わる。
貴女あなたに、感謝を。
見付けた。急げ――後ろを向けているうちに。


「汝、祝福されぬ悲しき者よ――」


――いかん。
相手の体が動いた。
こちらを――向く。





『この地に安寧を――』


言葉であれば、百万言を費やしたであろう情報。時間にすれば数時間の手間を刹那の間に手に入れた。
信じるか?
異教の者の言葉を。
蛇の化身であるものの言葉を。
口内まで石に変わる。
外が見えた。
怪物が見える。こちらには気付いていな――
神父唐巣が、魔眼と対峙して――
そこは確実な死地。
思考は消え失せ、体が動いた。





 ズダンッ


恐ろしく磨き上げられた銀の刀身が、私の姿を塞ぐように突き刺さる。
刹那。
魔眼の視線が遮断された。
射線の元は――
蛇の口の中。
アリエラっ。


「主の巷より立ち去れっ!」



 バシュゥゥゥゥゥ



「クキャアアアアッッッッ!!」


一閃。
断末魔の叫びが遠くまで響く。
まだ鶏冠の出来ない鶏。
見るよりも速く。
事件の元凶を仕留め切った。










「結局、この事件は何者によって引き起こされたのですか」


術者の魔力が消え、石化が解けた口の中から出てきたアリエラが開口一番、そう聞いてきた。


「コカトリスだよ」


アリエラに解説する。
西洋の怪物でゴルゴン、バジリスク同様、その視線には石化能力がある。
特筆すべきはその誕生の仕方。コカトリスは・・・・・・雄鶏が生んだ卵を、蛇が温め孵化させる事で誕生する。
今回の事件では、その稀有なケースが当て嵌まってしまった訳だ。
中世、欧州の一部では鶏舎を頻繁に掃除して雄鶏が卵を生まないよう監視する文化があった。
日本の鶏からコカトリスの発生した事がない故に、その習慣がない。
今回の事件は村おこしの為に、外来の鶏を運び込んだ事によって生まれた、一種の外来生物による生態系汚染と言っていいだろう。
事件は、まず農家の厩舎で外来の雄鶏が卵を生んだ事から始まる。
次に、偶然に蛇が卵を孵した。まあ正確に言えば、状況を察するに蛇が卵を食べに厩舎に忍び込んで『接触』した、と言った所か。
その瞬間、コカトリスの雛が生まれ落ち、初めて見た生物である鶏と蛇を共に石に変え、現世に解き放たれた。
翌朝、厩舎の鍵を開けた農家の家族が石に変わり、外に出る。
体は日に日に成長し、行動範囲を広げたコカトリスによって加速度的に被害が増大していった。
そして――この地に祀られた、神が動いた。


「今迄の非礼を謝罪いたします」


昨日見た女性が、そこに顕れている。
女神に向かって深々と頭を下げた。


「――御一人で、闘われる気だったのですか?」

「私には、この村を守る責任があります」


日本では古来より水を司るのは蛇神。そして蛇神は女神であることが少なくない。
目前の姫神こそ、蛇達を操っていた大蛇の化身だった。


「小さいながら、数百年来祀られて来た身です」


偶然にも私達が逃げ込んだ祠である。灯台もと暗し。よく見つからなかったものだ。
今思えば、疑問に思うべき所は何箇所もあった。最初の襲撃に居たのは毒の無い蛇だけ。
蝮に山楝蛇やまかがし、地もぐり。危険な毒蛇はいくらでもいたと言うのに、襲われる事は一度としてなかった。
それに、ゴルゴンなどと言うギリシャの化け物が生み出す蛇が、日本産と言うのもおかしい。
夜間に一人で歩いていたのを目撃されたのは、眷族の蛇が夜間では動きづらかった為に、ご自身で調べていたのだろう。
 神と言えど、相手の正体までは見抜けなかった。
蛇が村人を襲ったのも方法は少々乱暴だったが、それ以上の被害を防ぐ為の苦肉の策だったのだろう。畏れは時として有効な手段である。
が――


「もう少しだけ、私達を頼られてもよかったのでは?」

「――」


GSはその為にある。


「――始めに来た退魔師は、村ごと燃やす気でした」


――


「他にも何人か来ましたが、あなたの相棒も含めて私を問答無用で攻撃して来る者ばかり――」


はあ、と溜息を吐かれてしまった。


「しかも、全員呆気なく石へと変えられて」

「返す言葉もありません」

「――初めてですよ、あなたみたいな人は」


くすりと笑われた。


「あなた方を追い払おうとした事、私も謝罪いたします」

「勿体ないお言葉です」

「――蛇は我々に原罪を背負わせた」


沈黙を守っていた、アリエラが口を開く。


「けれど、良い蛇も居る。それは了解した」


頭を下げ、謝罪の意を表す。
――意外に素直なのかもしれない。


「伝えます、この村を守ったのは、あなたなのだと」

「有難く、その善意頂戴致します」


邪気の無い笑い。これも無邪気と呼ぶのか、人が見つめるには少し眩しく笑った。
敬うべきはヤハウェのみにあらず。
目の前の神にも敬意を表す。
伝統的なキリスト教観からすれば堕落かもしれないが、自分とアリエラの行動がそうではないことを切に祈る。
天におられる我等が父に――









ラストフェイズ 後日談、もしくはエピローグ





正に忙殺された。
村の人々が元に戻ったのを確かめた後、命からがら(平均時速二〇〇qの帰途過程に依りつつ)戻ってくると、村の責任者への報告。
蛇神様の事は特に詳しく報告した。報酬の手続きや報告書類は後で郵送する事になり、都市部へと再び激走。
冗談抜きで、警察を撒くために高速道路から飛んで帰ると、次々に事後処理に追われた。
一つ前の依頼代の教会の土地と建物の権利譲渡と、宗教法人の手続きに、住民登録、建物の掃除に鶏小屋造り。
早速に送られてきた大量の鶏の世話。隣人達への引越しの挨拶。
いつの世も、引越しと言うのは慌しいのか一通り落ち着くまでに三日しか経っていないのに、ひどく疲れた。
数えてみれば、日本に戻ってから僅かに一週間。今日もまたろくに寝ていない。


「ふう」


ようやく玄関先を箒で掃き終えて教会を見やる。
まだ朝日は出ていないが、心なしか輝いて見えた。
ここが私の新たな家だと思うと、疲労の中にも誇らしさがこみあげてくる。


「終わりましたか」


ちっとも手伝わない同居人が出てくる。


「――君は、いつまでここにいるんだ」


アリエラはまだ一緒にいた。


「審問が終わるまでです」

「それは、いつまで?」

「私が見定めるまでです」

「――」


何故だろう、その瞬間うすら寒いものを背筋に感じたのは。


「はぁ、まあ大概にね――」

「――以前から感じてはいましたが、あまり審問を気にしてはいないようですね」

「まあね」

「何故ですか」


ふむ。


「――君は、権威は何にあると思う?」

「神のみにあるものです」

「それなら、教会に認められなくても構わない訳だ」


権威を持つのは教会ではない。真に敬うべきは神であり、その全能なる父をすぐ傍に感じられるならば、それ以上の喜びはない。


「常に神は私達を見守っておられる――そういうことだよ」


審問に受かろうが、受かるまいが私にはあまり関係がないのだ。


「――少し、貴兄と言う人間が解った気がします」


彼女は、どういう決断を下すだろうか。
何だか楽しみなような、怖いような――


「ところで、料理を作ったのですが」

「へえ」


初めてである。恥ずかしながら私は料理が出来ないので、有難い限りだ。こころなしかアリエラの姿が優しく見える。


「どうぞ」


 わざわざ持ってきてくれたらしい。


「ゆでたまごです」


料理か?
いやまあ、作って貰ったものに文句をつける事ほど、ばちあたりな事はあるまい。


「いただきます」


塩を降って口に入れる。
鶏の卵は非常に栄養価も高く、腹持ちもよい。お金がない時は重宝する食材だ。


「今朝、雄鶏が生んだものです」

「ぶっ」

「いけませんよ、食べ物を粗末にしては」

「これ、コカトリスの卵かっ!」

「何事も思い込みは危険です、食べてみないと解らないでしょう」


 学習したらしい。


「――味見したのか?」

「今しています」


私は毒見か――


「と言う訳で、今から仕事に行きます」


 この突拍子の無さも、なんだか慣れた。悲しいことに。


「――はぁ」


早くもバイクの駆動音が聞こえる中、短いながら朝の礼拝。
怒涛の一週間。
「創世記」第一章にて神が世界を作り終えられた、最後の七日目は休日であったが――



 クォケコッコォーーー



鶏鳴。
どうやら私に休みは無いらしい。
庭の方から始まりを告げる声が聞こえる。


「行きますよ」


抑揚のない声を後ろに聞きつつ。
十字を切り、祈りを捧げる。
全ての者が健やかで過ごせますよう、神の愛を。



そうありますようにアーメン



リポート1 了


注意;
本作を書いたのは私、豪ではなく友人の友人です。
『こんなの書いてみたんだけど、色んな意見とか感想欲しい(意訳)』
『でも私、ネット環境無いアルヨー(意訳』と言われ
軽い話し合いの結果、こうして代理で投稿させて頂くことと成りました。


というわけで、代理投稿人の豪です。
如何でしたでしょうか?
まだ髪が在った頃の唐巣神父の活躍ぶり<オイ
本作の作者はレポート2を執筆中だそうで、私としても楽しみであったりします。

皆様の御意見、御感想お待ちしております。

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