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俺の居場所2(前編)

真夜中のロンドン。
私とピートさんはICPOの仕事帰りでした。



                 俺の居場所2(前編)





「もう遅いですから、アパートまで送りますよ。」
事務所から出ようとするおキヌの後ろをピートが追いかけてくる。
「え?いいですよー。」
おキヌがICPOに就職してもうすぐ1年がたつ。そろそろ仕事にも慣れてきたころだが、今夜は事務仕事に追われてしまった。
時刻は真夜中12時をさそうとしている。
「ピートさんに残業の手伝いをしてもらわなかったら、きっと朝まで仕事残ってましたし。本当に、ありがとうございました。これ以上迷惑をかけるわけにもいきませんし・・・。それに、家はここからそんなに遠くないので大丈夫ですよ。」
おキヌはペコリ、と頭をさげる。
「迷惑なんかじゃありませんよ。助け合うのはぜんぜん悪いことなんかじゃありません。それに僕は・・・」
ピートは突然辺りを見回した。ヴァンパイアの能力が何かを感じたようだ。
おキヌは不安そうにピートを見つめる。
「ピ、ピートさ 「静かに!」」
おキヌの言葉を遮り、すこしはなれた街路樹の上に立つ‘モノ’を睨む。
「だれだ!」
おキヌをかばいながら、ピートは‘モノ’に向かって叫ぶ。

ガサガサガサ・・・

風が吹いたかと思うと、木の上にいた‘モノ’は2人の目の前に立っていた。

「な・・・!?」
明らかに戦闘態勢にはいっていたピートは、ヴァンパイアの能力でも反応しきれなかったことに驚いた。
(こいつ・・・できる!おキヌさんを逃がさなくては・・・)
「おキヌさん逃げてください!その隙に僕が食い止めます!」
「そんなこと・・・!!」
「いいから早く!!」
‘モノ’との距離を少しずつとりながら、ピートはおキヌに小声で話す。

「・・・。安心して。別に、戦いに来たわけじゃないの・・・。」
‘モノ’の声が聞こえた。
その声に、2人は驚く。
「私の名前はフェリハ・・・。分かってると思うけど・・・魔族よ。」
‘モノ’が少しずつ近づいてくる。その姿が、だんだんと人の形を成していく。
「・・・あなた達の友人・・・・・・ヨ、ヨコシマに・・・これを・・・これを渡してちょうだい。」
足元に何かを置くと立ち去ろうとする。
「ま、まって・・・!!」
おキヌが駆け寄ろうとしたとき、月の光で一瞬、フェリハの姿が照らされた。
その姿に、おキヌの足が止まる。
「あなたは・・・」

ガサガサガサ・・・

風の音と共に、フェリハは消えた。










「・・・で。その姿が・・・」
美神はチラッと横島を見る。横島は下を向いて話を聞いていたが、顔を上げ、おキヌを見つめる。
「その魔族が・・・ルシオラに、似ていたんだな。」
おキヌは横島の目を見て、しっかりと頷いた。
「夜でしたし・・・しっかりとは見れていません。でも顔も声も本当にそっくりで・・・。」
「そうか・・・。」
横島はまた下を向いた。
美神は腕組みをしながら椅子にもたれかかる。
「まー、ここで悩んでも仕方ないわ。小竜姫にも連絡したから、本人かどうかはすぐわかるはずよ。それに・・・。」
美神はテーブルに置かれたものを睨む。
フェリハが置いていったもの・・・それは宇宙のタマゴ。
今はICPO特製のケースの中に入っている。
「こんなものがまだ残っていたなんてね。誰も触ってないわよね?南極時のべスパの話じゃ、吸い込まれるらしいから・・・。」
「はい。西条さんのところで厳重に保管された後、私が直接、このケースに入れて持って来ましたから。」
コンコンとケースをたたく美神。
「じゃ、だいじょうぶね。・・・それにしても、こんなときにママも西条さんも出張だなんて・・・。」
「そのフェリハという魔族が世界各地で目撃されているんです。・・・なにか目的でもあるんでしょうか?」
おキヌは心配そうにタマゴを見る。
「今の私達じゃ、どうしようもないわ。小竜姫やICPOからの連絡を待ちましょう・・・って横島クン!?ひさしぶりにおキヌちゃんに会えたのに、いつまでもそんな顔してんじゃないわよ!」
「・・・・・・。」横島は動かない。
おキヌが横島をさする。
「横島さん?気分でも悪いんですか?」

ガタン

横島の体が地面へと倒れる。
「よ、横島さん!?」
「ちょっと、何寝ぼけてんのよ!?」
横島に駆け寄る2人。
美神が横島を抱えると、横島の目から涙がこぼれた。
どこか打ったかもしれないとヒーリングをしようとしたおキヌがそれに気付き、手を止める。
「美神さん・・・。横島さん泣いてますよ。それに気絶してます。」
「え!?どこか強く打ったのかしら。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」





「起きろー横島ー!!」
横島をすごい勢いで揺さぶる美神。
「美神さん!!はやく救急車を・・・!!」
あわてて電話をしようとするおキヌ。

その時。天井に空間が開いたかと思うと、ヒャクメとべスパが現れた。
「救急車は呼ばなくてもだいじょうぶなのねー。」
あまりにも唐突な展開に、おキヌは受話器を落とす。
「ヒャ、ヒャクメ様!?」
まだ横島の胸倉をつかんでいた美神のもとへ、ベスパが向かう。
「安心しな。別に、ポチは怪我してるわけじゃないんだ。」
「へ?ど、どういうことなの?」
あっけにとられる美神。
「原因は・・・これなのねー。」
ヒャクメがテーブルの上から宇宙のタマゴを持ち上げる。
特製ケースに入ったタマゴ。

ただ、さきほどとは違い・・・そのケースには大きな穴が開いていた。



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また性懲りもなく書きました。
意味もなく、前編と後編に分けてみたり・・・。そんな長い話でもないくせに。
もしよければ、後編も見てくださいね。(早いうちに書きます)

前作「俺の居場所」ともどもよろしくお願いします。
読んでくださって本当にありがとうございます。

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