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クローニンが往く!その2



コンコン…


「どうぞ、空いてるよ」

 自分の執行室のドアをノックした人物へ、皆本は声をかけた。

「ちわ〜っす。
 俺1人呼び出すなんて、どうかしましたか?」

 そう言いながら、明が室内に入って来る。

「うん、実はね…」

 ぽつりぽつりと、皆本は明に話し始めた。




―――数分後


「…皆本さん!!」

「わかってくれたか明くん!!」

「えぇ!もちろんですよ!!!」


がしぃっ!


 皆本の執行室の中では、2人の漢が力強く手を握り合っていた…。






                    クローニンが往く!その2






がやがやがやがや…


「安いよ安いよ〜!今日はブリが安いよ〜!!」

「いらっしゃい!奥さん、今日も綺麗だね〜!!」

「はいよっ!お釣り100万両!!」

 店員たちの威勢のいい声が、商店街中に響き渡っている。


「と言うわけでやってきました、下町ぶらり旅…じゃなくて、俺の地元の商店街です」

 皆本に紹介しながら明が言う。

「へぇ〜、活気があるね〜。
 それにみんな人の良さそうな人ばかりだね」

 商店街を眺めながら皆本が言った。

「そうでしょう?
 常連になればおまけもしてくれますし、金が無いときはツケも効かせてくれるんですよ…」

 バベルから食費が支給される以前のことを思い出しているのか、どこか遠くを見ながら明が言う。

「明くん…」

「っと、昔のことは置いといて、買い物済ませましょうか。
 魚とか肉とかは後回しにして、まずは野菜ですね」

「うん、わかった」

 そう言って八百屋へ足を向ける明。
 皆本もその後に続いて行った。




「いらっしゃい明ちゃん」

「ちわっす」

 八百屋の前で接客していたオバちゃんが、明に声を掛けて来た。

「今日は初音ちゃんと一緒じゃないんだねぇ。
 おや…こちらのお兄さんは?」

 明の背後に居る皆本に気付き、目を光らせるオバちゃん。

「俺の上司で、皆本さんです」

「へぇ…イケメンだねぇ…」

「ど、どうも…」

 オバちゃんの熱い視線に戸惑いながら、皆本は挨拶をする。

「ああ、そうだ明ちゃん、『ヤマダさん』が探してたよ。
 ついさっきだから、まだその辺りに居るんじゃないかねぇ」

「あ、そうなんすか。
 すいません皆本さん、先にそっちを片付けていいですか?」

「ああ、いいよ」

「じゃ、ちょっと探して来ますね…」

 そう言って、明は人込みの中へ消えて行った。






―――数分後


「お待たせしました皆本さん。
 『ヤマダさん』の方も似た内容だったので、一緒に…って事でいいですか?」

「ああ、大丈夫だよ」

 八百八の前で待っていた皆本は、戻って来た明に言った。

「『ヤマダさん』、良いそうですよ」

 背後に居るのであろう、『ヤマダさん』なる人物へ声を掛ける明。




『いやぁ、突然すいません、ご迷惑を……』

「いえいえ、こちらこ……」




 皆本と、『ヤマダさん』と呼ばれた『ピンク色の髪をしてスーツを着ている、包帯を口元に巻いた大男』は、
 お互いに気付いた瞬間に固まってしまった。


「…明くん、ちょっと彼を借りるよ…」

「え?」

 皆本は明にそう言うと、『ヤマダさん』…もとい『ヤマダ・コレミツ』を連れて八百八から離れていった。






「…ここで何をしてるんだ君は…!!」

 こそこそと、出来るだけ人に(特に明に)聞かれないようにしながら言う皆本。

『夕飯の買い物だ』

「…明くんを狙ってるとか、パンドラに引き込もうとか考えてるんじゃないだろうな…」

 疑いの眼差しで、コレミツを見る皆本。

『ち、違う!彼にはパンドラに居ると言うことは話していない!』

「…それならいいが…。
 なんだってここまで買い物に来るんだ?宅配とか使えば買い物は出来るんじゃないのか?」

 秘密組織なんだから普通に買い物に来るなよ…と、思いつつ皆本は言う。

『…恥ずかしい話だが…今月はピンチなんだ…。
 少佐が稼いだ金を後先考えずに使ってしまってな…年末年始だって言うのに…。
 確かに今まで宅配を使ってたんだが、アレだと大量に頼まない限りは高くつくし…』

 遠い目をしつつ言うコレミツ。

『…それに…最近、澪が味にうるさくなってな…。
 私のレシピは数が少ないから飽きてしまってるんだ。
 以前ここに来たときに彼と知り合って、彼が料理に詳しいってことを聞いていたから、
 ついでに料理を教えてもらえれば…と思って来ただけだ…』

「……コレミツくん…わかる、すごくわかるよ…」

 皆本が、頷きながら言った。

「実は僕も、明くんに食費のかからない料理を教えて貰うつもりで一緒に買い物に来てたんだ…。
 僕の家も今月は苦しくてね…うちに居るあの3人がお年玉を強奪して行ったし…」

 涙を流しながら言う皆本。
 それを聞くコレミツの目からも涙が流れている。

『皆本…』

「コレミツくん…」

 がしぃっ!と、2人の漢は涙を流しながら手を握り合った…。
 敵同士ながらも同じ苦労を持つ者として、友情が芽生えたようだ。


「…あの〜…2人とも…周りの人が…」

 明の声に皆本とコレミツが周りを見回すと、不審者を見るような視線を2人は浴びていた。
 大人の男2人が、涙を流しながら握手しあってるのを見れば当たり前である。


「あ……」

『………』


ひゅおぉぉぉぉ〜〜〜…


 固まる2人の手前に、西部劇によく出てくる枯草の塊が、風によって通り過ぎていくのであった…。

「ご、ごほん…。
 あ、明くん…話を進めてもらっていいかな…」

『………(コクコク)』

 咳払いをして明を促す皆本と、顔を赤らめつつそれに同意するコレミツ。

「は、はぁ…」

 そんな2人に呆れながら明は続ける。

「と、とりあえず…お2人は食費がピンチと言うことで…。
 時期も時期ですし、俺だったら食費も余りかからない鍋物をお奨めします」

 八百八の店内に並んでいる野菜を物色しながら明が言う。

「ただ、鍋物のみだと飽きがくるので、別のメニューと交互に出すのがベストですね…」

 鍋物に飽きた初音にかじられでもしたのか、どこか遠くを見ながら明は言った。

「そこで、もう1つのメニューとしてカレーをお奨めします。
 俺の経験上ですが、この組み合わせでなら2週間は耐えしのげますね。
 とは言っても、鍋物もカレーも同じのを交互に出したら駄目です。
 例えば…『つみれ鍋』、『ポークカレー』、『キムチ鍋』、『シーフードカレー』…などの色んな種類で作るのがいいでしょう。
 鍋なら白菜や長ネギやニラ、カレーならタマネギやジャガイモをまとめ買いしておけば安くなりますし…。
 あとは肉を食べるんであれば、豚肉を中心にしておけば大丈夫でしょう」

「ふむふむ…なるほどねぇ…」

『…さすがだ…』

 明の言葉に2人は感心している。


ばっしぃ〜ん!!


「どわぁっ!?」

 背中への衝撃に明が仰け反る。

「さっすが明ちゃん!主夫の鑑だねぇ!!」

 明の後ろから、オバちゃんの声がかかる。
 どうやら犯人はオバちゃんのようだ。

「限りあるお金の中で、愛する者に出来るだけ美味しい物を食べてもらいたい…。
 いい心がけじゃないかい!あたしゃ感動したよ!!!」

 バンバンと、皆本やコレミツの背中も叩きながらオバちゃんが言う。

「よぉし!今日はサービスするよ!なんでも好きなの持っていきな!!」

 オバちゃんが景気良く叫んだ。

「本当ですか!?」

「そ、それは助かります!」

『申し訳ない…』

 感謝の意を上げる3人。

「じゃあ…今日は俺も鍋にするんで、長ネギと白菜を」

 明が言う。

「あいよ!
 そう言えば明ちゃん、この間あげた長ネギ…全部つかったんだね?」

 ニヤリと、妖しい含みを持たせた笑顔を明へ向けるオバちゃん。

「…ぜ、全部は使ってませんよ!?3,4本だけで…はっ!」

 つい出てしまった言葉を隠すべく、口を抑えるがもう遅い。

「へぇ〜…確か次の日には全快して買い物に来てたよねぇ…?…ってことは…」

「わぁぁぁぁぁぁ!!!」

 続きを言おうとするオバちゃんの口を抑えようとする明。

「あっはっは!いいじゃないかい、仲がいいってのは!」

「?」

『?』

 オバちゃんと明の会話に、疑問符を上げる皆本とコレミツ。
 その時…


ヴルヴルヴルヴル…ヴルヴルヴルヴル…


「ん?携帯が…」

 皆本の携帯が、着信を知らせた。


「はい、皆本…」

『お、皆本か〜?』

 電話の相手は薫であった。

「薫?どうした?」

『実はさ〜、局長が夕飯おごってくれるって言うからさ〜…。
 今日の夕飯いらないよ』

『すまんな〜皆本はん〜』

『ごめんなさいね〜』

『たまにはゆっくりするといいヨ。はっはっは』


ぶちっ…つーつーつー…


「…………」

「み、皆本さん…?」

 通話終了音が鳴り続ける携帯を見続ける皆本に明が言う。


ヴルヴルヴルヴル…ヴルヴルヴルヴル…


『…メールか…』

 ほぼ同時に、コレミツの携帯にもメールが送られてきた。


『やっほーコレミツ♪げんきぃ?
 ねぇ聞いて聞いて♪
 今日ね、少佐がご飯奢ってくれるんだって!
 しかも2人っきりで!!
 だから夕ご飯いらないよ〜♪そんじゃね〜!!』


『…………』

「ヤ、ヤマダさん…?」

 皆本と同じように、携帯のディスプレイを見続けるコレミツに明が言う。




「…コレミツくん…君もかい?」

『…ああ…お前もか…』


「『……(こくん)』」


 2人は互いに頷きあい…。




「『…この店にある野菜全部下さい!!!代金は全部バベル(パンドラ)にツケで!!!』」




 共に叫んだ。


「い、いいのかい!?」


「『もちろん!!!』」


「じゃ、じゃあちょっと待ってておくれよ…」

 2人の言葉に、オバちゃんが商品を詰め込み始める。


「み、皆本さん…?」


「ふ…ふふふふふ…。
 使い切るまでずっと野菜鍋のみだ…ふふふふふ…」


 明の声は皆本に届いていないようで、なにやらブツブツ呟いている…。


「ヤ、ヤマダさん…?」


『…野菜カレー…野菜カレー…辛さ10倍の野菜カレー…少佐も一緒に…』


 コレミツも同様であった…。




「明〜」

 明が2人の間をおろおろしていると、後ろから初音がやって来た。

「お腹空いた〜、早く帰ろう?」

「あ、あぁ…」

 2人をどうしよう…と、思う明。


「…初音くん」

 初音の登場に正気(?)に戻ったのか、皆本が初音に声をかけた。

「あれ、皆本さん…なんですか?」

 皆本に気付いたらしい初音が聞く。

「…明くんの作るゴハンは好きかい?」

「うん、明の作るゴハンおいしいし」

「…そうか…明くん、初音くん…お幸せに…」

 明と初音にそう声をかけると、皆本は野菜の入ったダンボールを担いで自宅へと向かって行った。


『…幸せにな…』

 コレミツも明と初音に声をかけ、ダンボールを担いで去って行った。


「…?
 なにかあったの?」

「…いや、なんでもない…帰るとするか…」

 夕日が沈み行く空の下、明は初音の手を引きながら家路へと着くのであった…。



(了)
おばんでございます、烏羽です。

と言うわけで、『クローニンが往く!』の続編です。
何故か続きました(ぇ

実際には最初にこっちを書いている途中で、前回のネタが出てきたので『その2』扱いになったのですが…良くあることですね、多分(ぇ

3人に増えた苦労人たちに安らぎと、『出番』があることを祈りつつ失礼致します。
それでは…。

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