6152

叱ってくれる人

<SIDE:薫>



「薫!!」

「あたしは悪くないモンね!」



そう、わりーのはおとなしく捕まりやがらねー犯人の方なのであって、あたしは絶対に悪くない!  
……筈だ。



「アレはやりすぎだ! 犯人だって重傷なんだぞ!?」

「だ、だって! あーでもしなきゃ逃げられてたじゃんかよ!?」



あのやろー、テレポーターだったんだぜ? 
そりゃー葵にくらべりゃレベルは低かったけど……いくらあたしでも下手すりゃ逃げられてたかも、だ。
だからその野郎をとっ捕まえる為に、そいつの逃込んだボロ屋をペチャンコにしたのは、やりすぎなんかじゃあ全然ない。
あたしはちっとも悪くない! ……よな? 

そ、そりゃあさ? 少しだけ……ほんの少ぉ〜しだけやり過ぎちゃったかもしんないけどさ? 
でもでも! あたしはあたしなりに、いっぱいいっぱい頑張ったんだよ!? 
なのに……なのに皆本のやつ……

―――『薫! なんて事するんだ!!』

『よくやったな』って、『頑張ったな』って、褒めてくんなかったんだ。
あのあったかい手で、なでなでしてくんなかったんだ。

それどころか耳痛くなるくれー、大っきな声でぎゃんぎゃん怒鳴りやがってさ。
なんだよ……



「だからってやっていい事と悪い事があるだろう……それが解らない君じゃないよな?」

「な、何だよ!? あたしがぜ〜んぶ悪いってのか!?」

「そんな事は言ってない。でも、間違いなく君にも非は―――悪い所はあったんだ。
 解るよな?」

「わかんねー! んなのわかんねぇーよ!!」

「もしアレが無人の廃屋で無ければどれだけの被害が出たと思う? 
 もし犯人が死んでしまっていたら? 
 運がよかっただけなんだよ、今回は。
 ……なぁ薫……君が犯人を捕まえようと頑張ったのはちゃんと解ってる。
 うん、良く頑張ったよ君は。
 でも今回のはダメだ。やり過ぎだ」

「うるせーばぁか! 皆本なんかキライだぁ!」

「はぁ……」



ちくしょう……んなことぁ言われなくたってさ……ホントはあたしだってわかってんだよ。
アレは駄目だった。やりすぎだった。
下手すりゃあたしは……あの犯人を死なせちまってたかも知れないんだ。
暴走しちまってた……あっつくなって、周りの事なんか全然見えてなかったんだ。

でも



「なぁ、薫……」

「やだ! 聞こえない! あたしは絶対に悪くない!!」

「……いい加減に……」

「わるくない! わるくないもん!!」



あたしは……それを認められない。
頭ではちゃんとわかってるくせに、感情がそれを認めないんだ。

あ〜ぁ……我ながらほんっとバカだよな?
つまんねぇ意地はって、ムチャクチャ言って、皆本の事困らせてさ?

でも、どーしても駄目なんだよ。



「……」

「あ、あたしは……わるくない……もん……」



皆本の顔見れなくて、俯いたまんまぼそぼそと……
こんなの、全然あたしらしくねぇ。

あ〜……クソ……
ホント自分でもやんなっちまう……なんつーバカで幼稚なクソガキなんだ、あたしってば。

皆本……呆れてんだろうな。



「薫……」

「……」

「薫っ!!」

「……!!」



その時の皆本の怒鳴り声は、いつもと全然雰囲気が違った。

びくんっ
カラダが震えた。背中がぞわぞわ寒くなって……



「…………」

「ぁ……あの……」

「…………」

「み、皆本…?」



おそるおそる見上げた皆本の顔……ものすげぇ怖かった。
冷たくって厳しい視線が、あたしの事を刺すみてぇーに……
優しさも無い。あったかさも無い。情けねーとこも、以外にかっこいーとこも……
あたしのよーく知ってる、”いつもの皆本”は何処にも居ない。

……あぁ……皆本、本気だ。
悪いことしたって……そいつを認めないあたしの事、本気になって怒ってる。

マジでぞっとした。
ぎゅうっ……って、お腹痛くなる……まるで見えない手のひらに、中をわしづかみにされたみたい。
なんだか足がヘンになってる。地面が、ぐにゃぐにゃになったみたいに揺れて落ち着かない。
……違う、あたしの方だ。かくかくヒザが笑って、足からチカラがぬけちゃったんだ。



「…………」

「ぁ、ぁ……あの……その……」



しゃべれない……うまく、言葉が出てこない。
つまんねー意地だとか、そーゆーの全部どっかに吹っ飛んで、頭ん中真っ白になって……

怖かった。
あたしは、ただただ怖かった。

本気で怒ってる皆本の事が。



「ぁ……ぅぁ……や、ぅ……だから……だから」



……やだ。
こんなのやだよ……



「………」

「……わ……解った……あたしが……悪かったよ……」



気まずい沈黙……どころじゃない、つぶれちまいそうなプレッシャー。
もっとも、それを感じてるのはあたしだけなんだろうけどさ。

あたしは、たまらず折れちまった。

こんなの、ガマンなんかできるわけねーじゃん! 
本当にいやだし、怖かったし……もう他に、どうしょうもないじゃんよ? 

でも、その程度じゃ皆本は、あたしを許しちゃくれなかった。



「それで?」

「ぇ? ぁ……だから……あの……」

「まず先に言うべきことがあるだろう?」

「……ご……ごめんなさい……」

「それは、僕に言う事じゃない」

「ぅ、うん……解ってる……けど……ぅ……」



ちくしょう……

鼻がつーんとしてきやがった……情けねぇ……なんて惨めなんだ。
クソ……駄目だ……泣くなよあたし……ここで泣いちまったら、マジかっこ悪すぎる。

でも、そんなあたしに皆本は……



「……薫。今回の事で迷惑かけてしまった人達に、ちゃんと『ごめんなさい』って、謝りにいけるか?」

「…………」

「もちろん、僕もついてってあげるから……どうだ?」

「……うん。
 いく……行くよ……ちゃんと……謝る……」



いつもしてくれるみたいにして、わしわしと頭をなでてくれて



「うん……やっぱり、薫はいいこだな」

「……ぁ……」



あったかくて優しい声で“いいこだな”って言ってくれた。

……正直、びっくりした。
だって皆本、マジで怒ってて……
だから、ゲンコの一発くらいはって、覚悟してたんだもん。

それが



「み、みなもと……?」

「やれば出来るじゃないか、薫」

「……ぁ、え? あの……その……」

「ちゃんと謝りに行くって言えた。
 いいこだな」



びくびくしながら顔を上げると……皆本はにっこり笑ってた。
もう怒ってなかった。

そう、あの冷たくて怖い皆本は、もういなくなってたんだ。
いつもの皆本に戻ってたんだ! 

あぁ……

あたしは、こころの底から安心した。
胸がほっとして、落ち着かない感じがなくなって……くそぉ……このタイミングは反則だよな。

あ……ダメだ。
涙とまんねぇ。ついでに鼻水も。
ぼろぼろ、ぼろぼろ、今まで我慢できてたぶん、後から後からこぼれてきやがる。

きっとあたしの今の顔……笑えるくれーぐっちゃぐちゃだ。
こんなぶっさいくな泣き顔なんて皆本だけには見られたくない。
参った……せっかくいつもの皆本になってくれたのに
今度は恥しくって、アイツの顔が見られない……



「全く……いつもこんな素直なら、僕も苦労せずに済むんだけどな」

「な、何だよぉ……それじゃあたしがいつもは手に負えないどーしょーもないワルガキみたいじゃんか!?」

「いや、事実そうだろう? まさか自覚なかったのか?」

「う〜……」



だからあたしはせーいっぱい“いつもの強気なあたし”を演じた。
……皆本にみられないよーに、顔をぷいってそらしたまんまな。
皆本との、このなんでもないやりとり、なんだか嬉しくてたまらない。


そう……そうなんだよな……
皆本がさ、あたしのした事に本気になって怒ったり、厳しく叱ったりすんのはさ……
あたしの事、真剣に思ってくれてるからなんだよな。

悪いことしたら、ちゃんと叱ってくれる人がいる。
そんな人が、いつも側に居てくれる。
そいつが、どんなに幸せなことなのかって、教えてくれたのは皆本だもんな。

だからあたしは好きなんだ。
皆本のこと、大好きなんだ。



「さ、それじゃいこうか」

「ぅぅ〜……」



……で、でもさ? それでもさ?
このあたしが、やられっぱなしってのは悔しいじゃん。
泣かされるまでしたってのにさ。

だから



「……てえぃッ!」

「痛ッ! な、何するんだ薫!?」

「へーんだ!」



照れ隠しと、それとほんの少しでもいいから、なんか仕返ししてやりたくって
あたしは皆本のむこうずねを、思っきり蹴飛ばしてやったんだ。


へへ……少しはすっとしたかな。






終わり
いざと言う時は、ガツンとやってくれる皆本さんとか、何だかんだ言いながら、皆本さんにめろめろな薫嬢とか
そーゆーのが書きたかったんです。

『怒る』と『叱る』が書き分けられたか、少し自信が無かったり……
こんなお話ですが、突っ込み・ご指摘など、いただけたら幸いです。

[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]