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ジーク&ワルキューレ出向大作戦10『CROWD(2)』




「やあ、ジークさん。お久しぶりやなぁ!」

「鬼道さんじゃないですか! 日本に無事に帰ってこれたんですね!」

顔合わせた途端、男達は固い握手を交わす。
同じ不幸(ワルキューレによる人身売買)を体験した者同士、何か通じるものがあるのだろう。

「あ、これ理事長から。お土産に持っていけって。」

「わあ、インスタントコーヒーの詰め合わせじゃないですか!」

鬼道が持参した紙袋を手渡し、受け取ったジークが喜びの声を上げる。
哀しいかな、インスタントコーヒーを喜んで受け取る姿には、もはや誇りある魔族士官の面影はなかった。

「それにしても、随分と鍛えられたみたいですね。
霊力も身体能力も、以前とは比べ物にならないじゃないですか。」

「……そりゃあな。あんだけ無理な労働を強いられれば、イヤでも鍛えられるよ……」

どんよりと暗い影を背負う鬼道の姿から、過酷な日々を感じ取り目頭を押さえるジーク。
だが鬼道はジークの姿をまじまじと眺めると首をかしげた。

「ジークさんは……えらい弱々しくなってないか? 前に会った時はもっと、こう……」

上手く表現出来ず、言葉が続かない鬼道だったが、言いたい事は理解できた。

「ん、まあ。その辺は置いといて。今日はいったいどうしたんですか?
まさか、そのコーヒーを届けに来てくれただけって事はないでしょう。」

「そりゃあ、もちろん。ただ向こうでの話やから、ジークさんに言うても仕方ないかもしれんけど、一応な。」

向こうアメリカで何かあったんですか?」

「まあ考えすぎやと思うんやけど――――」

話を始めようとした鬼道を、慌ててジークがさえぎる。

「ああ、すみません。立ち話もなんですし、奥へどうぞ。
せっかくもらった事ですし、このコーヒーを頂きましょうか。」

コーヒーの詰め合わせを渡され、べスパがお湯を沸かすべくキッチンへと姿を消した。
その後姿を見送ってから、鬼道がこっそりとジークに耳打ちする。

「……えらいキレイな秘書さんやね。
けど、とんでもない大きさの霊力も持ってるみたいやし、魔族と思ってええんかな?」

「はは、心配しなくても彼女は僕と同様、危険な魔族じゃないですよ。
でも一つだけ訂正しとくと、彼女は秘書じゃなくて僕の護衛官なんですけどね。」

どういう事かと鬼道が尋ねようとしたが、色々あるんですよとジークは苦笑いを浮かべるだけだった。












「ああ、もう! またコイン無くなっちゃったじゃない!
これって何時になったら当たりが出るのよッ!」

コインゲームの筐体に座り、少女が悪態をついている。
流し入れたコインが狙い通りの箇所を通れば、スロットが回転する仕組みになっており、そこで大当たりを出せば大量のコインを獲得出来るというものだ。
ただ、この手のゲームで当たりを出すには、かなりの投資が必要になる。
既にこの時点で3回以上、両替しては全部飲まれ、両替しては全部飲まれを繰り返していた。

仕方無しにもう一度両替機へと向かい、数千円分をコインへと両替する。
コインゲームで埋め尽くされた店内はガヤガヤと騒音が鳴り響いている。
鋭敏な感覚を持つ彼女だが、すでにこの騒音には慣れていた。毎日遊び歩いているのは伊達では無いという事だろう。
山盛りのコインを抱え、元の台に戻ろうとしたが、今まで自分が座っていた席は別の人間に取られてしまっていた。

「ちょっと、そこは私の――――って、あれ、アンタは確か……」

文句でも言おうとしたのだが、そこにいたのは整った容貌の金髪の少年。
スーツを着ているため、多少年上に見えなくも無いが、顔だけ見ればそこらの高校生とあまり変わらない。
だがその正体は、700歳を超える古い吸血鬼。
妖狐と吸血鬼という、強大な霊力をその内に秘める二人だったが、向かい合うその場所――騒がしいゲームセンター ――はあまりに場違いだった。













「偶然でくわした、って顔じゃないわね。私に何か用?」

あの後、新たに両替したコインで、タマモは大当たりを引き出していた。
結果的に投資額よりも遥かに多い枚数のコインを獲得でき、上機嫌で満面の笑みを浮かべている。
とはいえ、所詮はゲームセンターのコインゲーム。
次回に持ち越せるだけで、金銭に交換する事はできない。

「ちょっと、大事な話があってね。」

手持ちの金を全部使い果たし、さっさと家路につこうとしていたタマモだったが、正直この後の予定も無く暇だった。
なので、お茶でもどうかというピートの誘いを素直に受ける事にしたのだ。
無論、勘定がピート持ちである事は言うまでも無い。
そんなこんなで、今二人はオープンカフェのテーブルで向かい合っていた。

春の陽気が漂う昼下がり。
タマモは小さく伸びをしつつ、あくびをかみ殺している。

「『好きです。付き合って下さい』とか?」

身にまとう自然と男を惹き付ける魅力は、かつて傾国の妖怪と呼ばれていただけはある。
だが悪戯っぽく笑う狐の少女に、ピートは肩をすくめるだけだった。
全盛期の頃ならともかく、今の子狐の妖力では同じく人外のピートをたぶらかせる程の力は発揮できない。

「悪いけどそういう話じゃないんだ。
単刀直入に言うよ――――」

そこで言葉を区切り、じっとタマモを見つめる。
何時に無く真剣な表情のピートに、タマモも興味を惹かれたのだろう。
茶化すでもなく、次の言葉を待つ。

「――――オカルトGメンに入らないかい?」

タマモが口元を押さえ、あくびをかみ殺した。
至極真剣に告げられた言葉なのだが、言われたタマモの方はつまらない冗談でも聞いたかのように冷めた表情を浮かべている。

「どんな面白い話かと思ったら……期待外れも良いとこね。
そういう事ならシロにでも声かけてやったら?
正義の味方って聞けば、あいつならシッポ振って喜ぶかもねー。」

ごちそうさまーと手を振り、タマモが席を立とうとする。
だがその手をピートが掴み、少々無理に席に座らせた。
彼にしては珍しい強引な態度に、タマモもやれやれと首を振る。
どうやらもう少し相手をしなければならないようだ。

「シロくんと僕達には決定的な違いがある。
だから、僕は君に声を掛けたんだ。」

「まあ、シロは猪突猛進だからね。私たちとは違うわね。」

「そういう話じゃないんだ。もっと根本的な違いだよ。」

首をかしげるタマモに、ピートは続ける。

「寿命さ。僕と君は不老の種族だけど、人狼はそうじゃない。
彼らは長寿だけど、老いて天寿をまっとうできる種族なんだ。
でも、僕達は違う。」

人狼は妖の性質より獣の性質が強いのか、長寿ではあれど寿命が存在した。
妖の性質が強く、不老の種族である吸血鬼や妖狐とは違う。

「確かにそうかもね。
でもわからない。それが私を誘う理由になるとは思えない。」

ピートは真摯な眼差しでタマモを見つめる。
少し間を置き、口を開いた。

「――――輪廻転生。すべての魂はいずれこの世に戻ってくるんだ。
君は、いつか僕達の大切なヒトがこの世に戻るまで、今の平穏を守りたいと思わないのかい。
神界にも魔界にも属さず、不老の存在である僕達だけがそれをできるんだよ?」

ピートは至って真剣なのだが、タマモは思わず吹き出していた。
ひとしきり笑った後、目尻に浮かぶ涙を拭き取りながら答えを返す。

「アンタってホントお人好しなのね。悪いけど、私はそこまでこの世界に思い入れが無いの。
まあ、確かに今の環境は居心地良いけど、皆が死んじゃった後の事まで考える気は無いのよ。」

「それは、本気で言ってるのかい?」

ピートの問いに、タマモはうんざりしたようにため息をつく。
このやり取りもいい加減飽きてきた。
こんな退屈な話を聞かされるとわかっていれば、最初から誘いを受けなかったのだが。

「もちろん。当然じゃない。
私に言わせれば、人間なんてつまらない連中なんだから。
美神さん達にしても、一緒にいたら面白いから傍にいるだけ。
わざわざ私が、人間のために苦労して働いてやる義理なんて無いわよ。」

「……わかったよ。」

タマモが席を立ったが、今度は止めようとしない。
そのまま立ち去っていくタマモの背中を、ピートは何も言わずただ見送るだけだった。











美神除霊事務所。
そう掲げられた看板をタマモが見上げている。
赤煉瓦の外壁は趣深く、内装にしても戦前に建てられたとは思えないほど、美しく手入れがされている。
それも全て、この建物を維持している人工幽霊に膨大な霊力が注がれているおかげだろう。
一流のGSが三人。人外が三人。
建物の維持程度ならお釣りがくるというものだ。

「……別に私がいなくなっても変わんないわよね。」

建物を見上げながら、誰に言うでもなく呟く。
かなり無駄使いをしている自覚はあったが、給料はそれを大きく上回っていた。
気付けば、懐にはそれなりの資金が貯まっていた。

こう言ってはなんだが、美神は基本的に金に汚い。
なので、以前不安にかられて聞いてみた事があった。
こんなに給料を出すなんて、何か企んでいるのか、と。
だがそっけない態度で、「働きに見合った分しか渡してない」とその場は流されてしまった。

後でおキヌがこっそり教えてくれた。
「美神さんは皆を家族だと思ってるんだよ。」
だから、美神は自分達の関係において金勘定は入れていないのだと。
そうかもしれない。きっとそうなのだろう。

(ま、別にどうでも良いけど。)

自分の考えを打ち消すように髪をかきあげる。
やれやれと肩をすくめ、タマモは事務所へ入っていった。













「タマモ! 携帯持ってるんなら出なさいよ!」

部屋に入ったタマモを出迎えたのは美神の怒声であった。
事務所の空気も、普段より緊張感が漂っている。

「ああ、ごめん。気付かなかったわ。」

しれっとした顔でタマモが受け流す。
タマモの携帯はマナーモードではなく、一切反応がないサイレントモードに設定してある。
着信に気付く事は、まず無かった。

「タマモちゃん、シロちゃんは一緒じゃないの?
まだ散歩に行ったまま帰ってないの。連絡も取れないし……」

怒る美神を横島とルシオラがなだめつつ、おキヌが心配そうな表情でタマモに問いかける。
シロは散歩に行く時は携帯を持って行かないのだ。

「ええい、そもそもアンタが目を離すから……!」

「グエッ、み、美神さん…ギブギブッ……!」

美神の怒りの矛先は横島へ向けられ、絞め上げられた横島が白目を剥きかけている。
どうやら、シロは横島との散歩中にいなくなってしまったらしい。
だが、今はまだ夕暮れ時だ。シロの能力なら道に迷っても楽に戻って来る筈。
ここまで大騒ぎするような状況とは思えなかった。

「別にそんなの騒ぐ事じゃないでしょ。
それとも、何かあったの?」

一人場の流れについていけず、タマモがつまらなさそうに口を尖らせる。

「わからないわよ! それを皆で調査しようって話をしてたの!!」

「調査って事は、何かの依頼が来たわけ?
そんなの、別にシロ抜きでも良いじゃない。」

「良くない!」

先ほどから、美神は苛立ちを隠そうともしていなかった。
理由がわからないタマモとしては、理不尽に責められているみたいで面白くない。

「まあまあ、美神さんも落ち着いて。
タマモちゃんは何も聞いてないんだから、怒ったって仕方ないでしょ。」

「う……それはそうだけど。」

ルシオラになだめられ、美神も少し冷静になったようだ。
横島に指示し、先ほど皆で開いていたファイルを持ってこさせる。

「ほい、タマモ。これはシロと俺達が最初に出会った時の事件のファイルだ。
もしかしたら、お前はシロから聞いてるかも知れないけど、一応目を通しとけ。」

タマモが受け取った分厚いファイルには、『フェンリル事件』というラベルが貼られていた。














「それで、何を慌ててるのよ?
とっくに終わった事件なんて、今更どうでも良いじゃない。」

辻斬りから端を発した一連の事件は、犯人の犬飼ポチが異次元に隔離された事で全てが終わったのだ。
少なくとも、資料を読んだ限りではそうなっていた。

「それがね、もしかしたら現世に戻って来たのかもしれないんだって。」

先ほど聞かされた話を、ルシオラが簡潔に話してやる。
昨夜、西条が貨物船の中で遭遇した、謎の存在。
一瞬で一流の剣術家である西条の背後を取り、たやすく意識を刈り取った。
相手が並々ならぬ腕を持つであろう事は、想像に難くない。
しかし、だからと言って、それと犬飼を結びつけるのはあまりに飛躍しすぎた発想だ。

だが、もう一つ――むしろこちらの根拠が主な理由だが――懸念材料があった。
その出来事の直前から痛み始めた西条の古傷。
急に痛みだしたそれは、いまだに治まっていないのだという。
霊能力者の彼らにとって、『虫の報せ』や『直感』というものは軽視して良いものではない。
あの事件で犬飼に刻まれた傷が痛む……となると、何らかの形で犬飼が関与している可能性はある。
とは言え、現在何が起こっているか不明なので、とりあえず調査しようという話になった。

だが、そこで問題が発生した。シロの行方不明である。
犬飼はシロの仇敵。もしも犬飼が絡んでいると知れば、冷静に行動できるとは思えない。
なので、しっかりと手綱を引き締めておかなければならなかった。
連絡が取れなくなってからまだ半日程度しか経過していないが、相手が相手だけに楽観的に考える事はできない。

シロは強くなった。
あの事件の時と比べれば雲泥の差だ。
だが、それでもなお、犬飼と正面からやりあって勝てるかどうかはわからない。
相手の実力が未知数なのは、実際に一度正面から戦いを挑んだ美神が誰よりも知っていた。
もしも、何らかの理由でシロが犬飼の存在に気付き、一人で突っ走ってしまったら――――
先程から美神が荒れているのはこれが原因だった。

「はいはい、わかったわよ。シロは私が見つけてくるわ。
匂いを辿ればすぐに見つかるだろうし。」

話を聞き終わると、タマモはさっさと部屋を出てしまった。

「おい、待てって! 一人じゃ危ないから。」

慌てて横島がその後を追う。
それを見送るルシオラも、心配そうな表情で美神に尋ねる。

「良いの? 美神さん。」

「横島君が一緒なら大丈夫でしょ。逃げる事に関しては超一流だし。」

信頼されてるのかされてないのか。
微妙に判断に迷う美神の評価に、ルシオラとおキヌが苦笑いを浮かべていた。








「おーい、待てってば。こういう時に一人で出歩くのは死亡フラグと言ってだなぁ――――」

事務所を出ると、タマモは自分の直感に従って歩き始めた。
良くわからない心配の言葉をかけながら、横島がその後に続く。

「何事も、皆で行動するのが一番なんだぞー。
あらゆる死亡フラグを乗り越えてきた、この俺が言うんだから間違い無しだ。」

最初は無視していたタマモだったが、延々と後ろから話しかけられ、とうとう我慢できなくなったようだ。
ピタリと足を止め、横島の方へと向き直る。

「別について来なくて良いわよ。シロを見つけたらさっさと事務所に帰るし。
それに危険がどうこう言うなら、自爆装置に足が付いたようなアンタと一緒に行動する方がよっぽど危ないっての。」

的確なツッコミが横島の胸を貫いた。
イベント発生率で言うなら、横島が世界一なのは周知の事実だ。
犬も歩けば棒に当たる。横島が歩けば事件(不幸な)に当たる。
いや、むしろ歩かなくても事件(もちろん不幸な)の方からやってくる勢いだ。
その確率はどこぞの少年探偵にも負けないだろう。

「そ、それは否定せんが、お前一人で行動して何かあったらどうするんだよ。
皆に心配かけるような事はやめようぜ。な?」

――――心配をかける。
これにはタマモの方がカチンときた。
思わず声を荒らげてしまう。

「何それ? 『心配かける』?
それって人を子供扱いしてるって事?」

「いや、別にそういう訳じゃ――――」

「だったらほっといて!
私は心配して欲しいなんて頼んで無いわよ!」

キッとタマモが横島を睨みつけた。
横島は落ち着かせようとしたが、突然影が差したため上に視線を向ける。
その瞬間――――

「のわぁぁぁぁ!!」

ズシンという低い音と共に、地面が振動した。
横島が突然上空から降ってきた、巨大なタヌキの信楽焼きに踏み潰されている。
這い出ようともがく横島を尻目に、タマモはさっさとその場を後にしてしまった。

「ちょ、ちょっと待てって!
もう邪魔しないから、せめてこの術は解いてくれぇぇ!!」

霊力を物質として加工する、タマモの得意とする術法である。
精神を騙す幻術と違い、この術は肉体的なダメージを与える事ができる。
とは言え、見た目ほどの重量が無い所から考えて、タマモも本気で横島を傷つけようとした訳ではないようだ。
だが、立ち去る際に周囲に幻術も仕掛けていったらしく、道行く通行人は誰も横島の存在に気付かない。

文珠を使えば楽に抜けれるのだろうが、流石にこんな場面で使うのは惜しい。
助けを呼ぼうにも携帯を使える状態でもなく、大声を出しても事務所まで届く距離でもない。
身体をよじり、どうにかタヌキの信楽焼きから抜け出そうとしていると、一人の通行人が立ち止まり横島の顔を覗き込んだ。

「あれ、横島さんじゃないですか。
こんな所で何をやっているんですか?」

「おお、ジーク!
ナイスタイミング!!」

褐色の肌の青年は、横島を押し潰している信楽焼きに気付くと、感嘆の声を上げた。

「これは霊力を加工した置物ですか。
いやぁ、見事な物ですね。触った質感まで本物そっくりじゃないですか。」

「感心してないで手ェ貸してくれ!」

大部分の霊力を失ったジークは、もはや人間なみの腕力しか持ち合わせていない。
結局、30分ほど頑張った後、横島はようやく解放されたのだった。














「……これは、いよいよ嫌な感じがしてきたわね。」

ジークから話を聞いた美神は、深刻な表情で眉をひそめた。
結局鬼道たち賞金稼ぎの一行は、獲物を先に仕留めていた相手を突き止める事が出来なかった。
新しい霊力の痕跡を発見し、それを辿ったのだが、その痕跡はとある港で途切れてしまっていた。
魔族の精鋭で構成された賞金稼ぎ達も、船で移動した相手を追う事はできない。

推測するに、アメリカで狩りをしていた何者かが、日本へ向かう船に密航――登録されていた正規の乗員は全て確認済み――した。
そしてその船を偶然、西条達オカルトGメンが包囲した。
船内を探索していた西条はその密航者と出くわし、意識を奪われた。

「僕としては先にオカルトGメンの皆さんに伝えようと思ったんですが、皆さん外出されているみたいだったので……
何かの役に立てば、と思って美神さん達に連絡に来たんです。」

「西条さんとピートにはさっき会ったけど、ママもいなかったの?」

「はい、美智恵さんは関西方面で暴れている妖怪の対応に出ているみたいです。
なんでも、かなり凶暴な三匹の妖怪らしく、それが最近関東方面に移動して来ているとかなんとか。」

好戦的かつ残虐な気性らしく、関西の方では随分な数の死人が出ているらしい。
最近ニュースで報道していたのを聞いた覚えがある。
美智恵が自ら出向くほどの相手。
となると、かなりの力を持つ存在の筈だ。
だが、自分達が動くような事にはならないだろう。
美智恵自身が出向いた時点で、自分達に出番が回ってくる可能性は限りなくゼロに近いのだから。

「そっちはママに任せとくとして、問題は密航者の存在ね。
密航者が犬飼だとすると……アメリカと犬飼に何の関係があるのかしら?」

「たしかに、おかしな感じがしますねぇ。」

美神の疑問におキヌも頷いている。
以前に出くわした犬飼――というか人狼一族――は和装の妖怪だった。
日本の土地に根差した土着の妖怪なのだから当然といえば当然だが、それが他国から舞い戻るというのはおかしな話だ。

「あ、そうだ。役に立つかと思ってこれを持ってきたんです。」

そう言いながらジークが取り出したのは一冊のファイル。
開いてみると、全世界で確認された、宇宙処理装置で生き返ったと思われる妖魔がリストアップされている。
しばらく皆でそれを眺めていたのだが、突如横島が声を上げた。

「美、美神さん、これッ!!」

横島が指示す一枚の写真には、高層ビルの間に浮かぶ満月を背景に、鞘に納められた日本刀らしきものを携えた一匹の人狼が写っていた。











書いても書いても終わらない〜♪ 終わらない〜♪

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