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いつか回帰できるまで 第十二話 最後の切り札

「うぅぅぅ、ひ、酷いのね」

 時空震で遠く吹き飛ばされ、地面と抱擁を交わしていた神族情報員はさめざめと全身の目で涙を流す。
 全身砂埃まみれになり、薄汚れた様は哀愁を誘うこと請け合いだった。

「なんだかみんなして私のことを忘れているような気がするのね」

 一人で愚痴をこぼすものの、それを聞いてくれるものはどこにも居ない。

「おや? ヒャクメじゃないか」

 張りのある青年の声が呼びかけていた。
 ヒャクメが振り返った先には土偶の頭を脇に抱える青年魔軍士官の姿があった。
 その隣には黒マントに身を包んだ老齢の錬金術師も居る。

「あぁ、ジークさんっ、カオスさんもっ」

 どこまでも広がる荒野でようやく仲間を発見した歓喜に打ち震えていた。

「なんじゃ、お主もここにおったのか」

「でも、どうやってここに」

「うむ、ちょうど結界が展開したときに境界線にいてのぉ」

 ヒャクメの問いかけにカオスが答える。

「なんつーかアレじゃの」

 カオスが顎に手を当ててしみじみと呟く。

「ワシら、単に書いてる人間に忘れられてた集団じゃなかったんじゃのぉ」

「「まてーいっ!!」」

 ヒャクメとジークと土偶羅が冷や汗流しまくって声を上げていた。
 その声には『聞き捨てならん』というか、非常に切迫したというか悲壮感さえ漂っていたりする。

「そういうメタな発言をしないでくださいっ!! ただでさえ少ない出番が」

「僕なんて魔軍のタイガーなんてあだ名がつけられそうになってるんですよ! イメージが定着しちゃうじゃないですかぁっ!!」

「ワシなんぞ首しかないし割れる危険まであるんじゃぞぉぉっ!!」

「そ、そらすまんかったのぉ」

 三者三様にすごまれてカオスが数歩後退る。

 ゴォッ!!

 不意に空間の向こうで轟音が響き渡っていた。

「あ、あれはっ」

 遠目にヒャクメが指差す。そこには小竜姫・ワルキューレ・べスパ・パピリオが巨獣と合間見える戦場だった。
 ワルキューレが巨獣の霊力攻撃に弾き飛ばされるのが見えた。

「っ!! 姉上っ」

 ジークが思わず駆け出しそうになった瞬間だった。

 ヒャクメは「視た」。

「ス、ストーップッ!!」

 ビターンッ

「ぶぅっ!!」

「わ、割れるぅぅぅうぅっ!!」

 ヒャクメのタックルを受けて盛大に地面とキスをするジークに脇と土偶の首。

「ちょ、ヒャクメ一体何を!?」

 砂まみれの顔を振り回して抗議の声を上げる。

「ちょっと貸してくださいっ」

 そんなジークに構わず、ヒャクメは土偶羅の頭部を奪い取っていた。
 ジッと土偶羅を見るその目は『心眼』を発動している。

「な、なんじゃ?」

 ヒャクメに凝視されて土偶羅はダラダラと冷や汗を流していた。

「これはっ」

「な、何だどうしたんだ」

 起き上がったジークもそのただならぬ様子に思わず伺いを立てていた。

「シークレットプロテクトです」

 真剣な眼差しを変えずヒャクメは結論を出した。

「馬鹿なっ、土偶羅は魔軍で運用するため情報は全て確認しているはずだぞ」

 魔軍情報仕官がヒャクメの出した結論に思わず反駁する。

「機密に抵触しなければ存在その物がステルスされてるんです。つまり機密情報にアクセスするとかいった外部刺激で……そっかっ、今、外部から機密情報のアクセスがあったと勘違いして」

 己の言に何かを思い至ったのか、ヒャクメは目玉付きの鞄を開く。神族情報員用の情報端末が現れた。
 何本かのコードを引っぱり出して土偶羅にペタペタ張り付けていく。

「な、何をする気じゃ〜」

「今なら、プロテクトが見えるっ。解除できます」

 ヒャクメが必死にコンソールを叩き始めていた。

「今、外部刺激? ということは、まさかっ」

 ジークもヒャクメが言わんとしている事に思い至る。
 思わず死闘を繰り広げる巨獣へ振り返っていた。

「はい、多分あいつに関する情報ですっ。ジークさんカオスさんフォローお願いします」

「分かった」

 ジークは真剣な眼差しでぐっと頷きヒャクメの傍らでインターフェースを凝視し始めた。

「くっくっく、魔族の情報プロテクトか、こりゃぁ破り甲斐があるのぉ〜」

 居並ぶカオスはマッドな笑みを浮かべながら、心底楽しそうだった。





〜 いつか回帰できるまで 第十二話 最後の切り札 〜





 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ

 空間が震える。
 道真の影が消えると共に閉ざされた世界が、その歪さを許容しきれなくなっているかのようだ。
 身震いする大気の中で、GS達は新たなる緊張の中に居た。

「べスパっ、小竜姫様っ」

 横島は倒れ付す二人に呼びかけるが、かすかにしか反応が無い。

「あんにゃろ、シャレにならない強さじゃないの」

 毒づく美神の背中に冷たい汗が滲んでいた。
 その視線の先には強力な2体の魔族と相対しながら、なお余裕を感じさせる巨獣が居る。

「ワルキューレに、あともう一人踏ん張ってくれてるけど」

「あ、あれパピリオっす。うわっ危ねっ!!」

 巨獣の攻撃をからくもかわすパピリオに思わず見ている横島がヒートアップする。

「善戦してるけど、もう時間の問題ね」

 美神が冷徹に答えを出す。

 さして素早くない鈍重な動き、だが、ワルキューレとパピリオの攻撃はことごとくクリーンヒットしているというのに微動だにしない。
 たまに気が向いたように発する霊気のブレスや振り回す尾は必殺の威力を秘めてワルキューレ達に襲いかかっていた。

「ど、どーするんすかっ」

「そんなの決まってるでしょっ、小竜姫やべスパがやられちゃうような相手に通用するっていったら同期合体くらいでしょ、横島クン準備っ」

 美神の発言に、一同が静まり返っていた。
 まるで葬式のようにしめやかな雰囲気に、思わず美神は眉根を寄せる。

「何よ?」

「あの、同期合体はNGなんです」

「は?」

「ヒャクメの見立てなんすけど、かくかくしかじかで」

 横島の説明に美神の表情がだんだん険しいものになっていく。

「って、今ならワルキューレとパピリオが相手してるんだから」

「それなんすけど」

 ゴガッ

 近くを穿つ轟音が衝撃とともにGS達を襲う。

「ぐぁっ!!」

「いててっ」

「な、何よこれっ」

 できたばかりのクレーターから飛び散った土砂に各々が声を上げる。

「ちょっとタイミングよすぎない?」

 冷や汗をタラーと流して美神がつぶやく。

「あいつ、こっちの動きを見てるんです。美神さん戻ってくる前は小竜姫様投げつけてくれやがりました」

「なるほどね。直撃がないってのがまだしも救いってわけか。横島クンが良くも悪くも足枷になってることね」

 道真の目的が横島の肉体である以上、肉体を不用意に傷つけるような攻撃はしてこない。

 小竜姫・ワルキューレ・べスパ・パピリオ、いずれも人界で望みうる最大戦力といっていいくらいだろう。
 だが、彼女らの攻撃を意に介していない事から、巨獣の防御力は想像を上回る凄まじいものなのだろう。

 しかして、巨獣は明らかに全力で戦っていない。ともすれば遊んでいるとさえ言える。

「明らかに戦力をセーブしてるわね」

 巨獣にとって脅威になるだろう同期合体には警戒を怠っていない。
 それは小竜姫を叩きつけたり、牽制の攻撃を仕掛けたことから明白である。

「万が一がある攻撃はさせないってことか、それも横島君をこの場で確保しながら、舐めてくれるじゃない」

「おや? アレは何でござろう?」

 シロが手のひらで傘を作りながら遠目でなにかを発見していた。

「ん? あら、アレって」

「ヒャクメ? それにジークにカオスの爺さんも」

 荒野のど真ん中でコンソールに集まる人だかり。
 土偶の首を取り囲む、全身目のアクセサリーつきの女性に、紫色の肌を持つ軍人青年、黒マントの爺様というかなりアレな風景である。

 作業に没頭するその様はあからさまに浮いている。

「って、こんな時に何やってんだよっ」

「あ、横島さん」

 ジークがかすかに振り返るがすぐディスプレイに目を戻していた。

「今、もう一息なんです」

「何が?」

 要領を得ない回答に重ねて問いかける。

「わしゃ、もう待ち疲れたんじゃが」

 コードが大量に刺さった土偶の生首がぼやいていた。

「もうちょい待って……」

「はぅっ!!」

 土偶羅の目が単色に変わり一切の反応が消える。

 カチャッ ピージジッ ジジジジジ

 コンソールには「Accept」の文字が浮かび上がり、猛烈な勢いでデータが流れ始めていた。

「これは?」

「多分あいつに関する情報ですっ!! 今ロックを解除できました。少しだけ時間をくださいっ!! って、あ……」

 振り返るヒャクメが答えながら不意に周囲の様子をいぶかしんでいた。

「結界が」

 ゴォォォォォォォォ……

 静かに震える空間の壁、彼女が見る先はこの空間を閉じていた結界だった。

「これは、外界と隔絶していた壁が崩壊し始めています」

「道真はこっちで片づけといたわっ」

 美神が追いついてきていた。

「え? あぁっ、み、美神さんっ!?」

 ジークが目を丸くする。それはカオスも土偶羅も同様であった。

「なんとっお前さんも無事じゃったのか!?」

「メ、メフィストか生きとったんかぃっ」

「良かった。成功したんですね」

 驚愕が続く中、唯一奇策を知っているヒャクメだけが素直に帰還を歓迎していた。

「美神……さん?」

 小竜姫がかすかに薄目を開いていた。

「あっ気が付いたの?」

「無事、だったんですね」

 泥や傷にまみれた武神はかすかに薄目を開き瞳を潤ませていた。

「ちょ、ちょっと大げさよっ」

 焦る美神が頬を少し赤らめながらワタワタしているときだった。

 ゴゥンッ!!

 ぶれていく結界の境界線に呼応するかのように大きな音が響き渡る。

 結界からではない。別の方向からの大きな音だ。

「あっ」

 声を上げたのは誰だろうか? その先にあるのは紛れもなく件の巨獣であった。
 その足下が急停止の痕跡を示すように地面にめり込んでいる。

 その周囲で警戒を崩さないワルキューレとパピリオも、訝しげに巨獣を見守っていた。

「な、何だ?」

 ただならぬそのように一同が一斉に注目してしまう。

【結界崩壊 マスターのロストと判断】

 無機質な意思が空間を伝播していた。

「な、なんだ?」

 全員が思わず巨獣を見上げていた。

「もしかして止まっちゃったりして、いや、してくれるとすっげぇ助かるよなぁ」

 横島が茶化そうとしていた。

【コード66ヲ採択】

「へ?」

 なんともいえない空気が空間を満たす。

【ジェノサイドモードニ移行スル】

「はい?」

 とてつもなく不穏なことを述べる巨獣に思わずその場の全員が言葉を失っていた。

「な、なんだとぉぉぉぉぉっ!!」

 思わず全員が声を上げていた。

 ピー

 電子音が無情に響く。

「えぇえぇぇえぇぇぇぇっ!!」

 美神達の背後から、GS達の声すら引き裂くヒャクメの悲鳴が上がった。
 ただでさえ逆立っている髪型がほとんど直立してしまっていた。

「んなっ」

 美神は思わずつんのめりそうになりつつも振り返る

「ちょっと解析できたのっ?」

「……」

 無言のままこっくりと青ざめたヒャクメがうなずき、そのままジークと揃ってドヨーンっと佇んでいた。

「な、何が分かったのよ」

 無言の圧力にさしもの美神も後ずさる。

「「魔体」」

 呆然とハモッて呟くヒャクメとジークにただならぬものを感じてしまう。

「へ?」

「究極の魔体の」

「って、今更っ!? んな情報あっても意味無いでしょうがっ」

 思わず美神がキレていた。
 確かに50年以上前に倒した敵の話を今されて何の益があるというのだろう。

 だがしかし、ヒャクメは軽くぷるぷると頭を振って、かの魔獣を指さすと。

「プロトタイプ、です」

「……」

「……」

「……」

 一斉に、かつてアシュタロスとの戦いに参加していた全員が沈黙する。

 嫁姑島から現れた全長180mを超えるアシュタロスの分身、三日で地球は壊滅するだろうと思わせる圧倒的戦力が走馬灯のように一同の脳裏をよぎっていた。

「アレが?」

 恐る恐る問いかける美神に青ざめたヒャクメはこっくりとうなずく。

「ちょっと待て〜っ!! そんな反則な奴でてくるのアリなの〜っ!!」

「弱点はっ、弱点は無いんですかっ!?」

 さすがのひのめも問い詰める声がほとんど悲鳴に近い。

「えっと、弱点と思える場所は腹部です。比較的装甲が薄い……」

「じゃ、そこを狙えばっ」

 美神の声にヒャクメがフッと遠い目をする。

「その比較的薄い装甲を貫通する攻撃ができるなら」

 コンソールに写る巨獣の断面図見つめながらヒャクメがさめざめとつぶやいていた。
 そこに表示されている数字の桁数は絶望的に長い。

「そーいや、あいつ小竜姫様の渾身の一撃食らってケロッとしてたよな」

 横島が顔に縦線浮かべながら口の端を引きつらせる。

「んなもん、どんな攻撃も通るかぁぁあぁぁぁぁぁっ!!」

 美神が抗議の絶叫をあげる。
 人界最強クラスである竜神の一撃さえパキッと受け付けない相手では当然の反応である。

「基本の思考プログラムは単純で攻撃しか考えていません。防御無しですね。装甲に自信があるんでしょう」

 完全に意気消沈した様子で、肩を落としている。

「そうよっ、平安のアシュタロスの時みたく数百年後に吹っ飛ばすとかっ!! 今なら出口なし時空の狭間片道切符の特典付よっ」

 美神の提案にヒャクメは悲しそうに首を振った。

「それなんですが」

 揺れる結界の壁をジッと見上げていた。

「結界が崩壊しかけてますから、神魔族の感知結界が動き始めてます。時空震抑制の発動にタイムラグはありますけど、移動時間は2,3秒後でその場に復帰」

「意味がなぁぁぁぁいっ!!」

 美神が頭を抱える。

「ふむワシにももっぺん見せてくれんか?」

 カオスがヒャクメの端末をのぞき込んでいた。

「ふーむ、こりゃアクセスコードがないと命令できんな。しかし、色々な命令があるモンじゃのぉ」

「感心してる場合かぁぁぁっ!!」

「ちょっと待て2,3秒のズレがあるって事は逆天号の時に隊長がやった戦法は使えないか?」

 横島がグッドアイデアとばかりに発言していた。
 相手を数秒後に時間移動させて自らの攻撃を食らわせるという、すなわち矛盾の応用である。

「アレの攻撃力が防御力を上回っていれば可能だったんですが」

 ヒャクメはおいたわしい空気をまとったまま却下していた。

「どこまで硬いんじゃぁあぁぁぁっ!!」

 横島が絶叫していた。

 そもそもやられなければ負けない。という発想でいけば防御力の強化は基本である。
 攻撃力よりも防御力、それがプロトタイプたる所以なのだろう。

 ゴォッ!!

「ぐふぅっ!!」

 すさまじい轟音と共に漆黒の戦乙女が巨獣の尾にはじき飛ばされた。

「ワルキューレッ」

「姉上っ!!」

「やばいっ、後パピリオだけじゃねぇかっ」

「おのれっ!! 私が出るっ」

「ジークっ!?」

「この状況でジッとしていられるほど!! 臆病者ではないぞっ!!」

 一気に飛び出していく。

「ったく、何の対策も無く行ったらやられるだけじゃない」

 かつて考えなしに究極の魔体へ突撃を挑んだはずの人物が愚痴をこぼす。

 一人で明らかに分の悪いパピリオを援護するようにジークが巨獣に殴りかかる。
 巨獣の攻撃は明らかに容赦がなくなり、霊気のブレスも間断なく吐き出されていた。
 誰が見ても二体の魔族が倒されるのは明白だ。

「パピリオちゃんっ!!」

 満身創痍のパピリオを見て絹香が悲鳴のような声を上げていた。

「ジリ貧ね。……待てよ。時間移動にはタイムラグがあるなら」

 美神が顎に手を当てて、思案顔になる。
 ふと横島の方を向き直っていた。

「ねぇ、横島クンは文珠あと何個ある?」

「え? あ、えっと、二文字入る奴が一個と普通のが一個です」

「よしっ、足りるわ。小竜姫とワルキューレは?」

「え、あ、そっちに」

 指さすと既にそっちに向かってサッサと歩いていた。

「ワルキューレ、小竜姫」

「美神令子か、やはり生きていたか嬉しいぞ」

 ワルキューレが傷の苦痛に耐えながら声を絞り出していた。

「悪いけど、再会の挨拶は後よ」

 美神はせっぱ詰まった様子を隠さず詰め寄っていた。

「二人ともアシュタロスの時に借りたアレ、もういっぺん貸してっ」

「何……?」

 ひのめと絹香に支えられた戦乙女が訝しげに問い直す。

「竜の牙とニーベルンゲンの指輪、ですか?」

 幾分呼吸の落ち着いてきた小竜姫も聞き返している。

「いいからっ、とにかくあいつをどうにかしてやるには必要なのよ」

「そうか」

 美神の声にニッとワルキューレは苦笑する。

「全く相変わらずだなお前という人間は」

「わかりました。私たちではもうどうにもできそうもありませんからね」

 要求するアイテムを各々が取り出し手渡していた。
 美神はそれらを確認し握りしめ肩越しに自らの丁稚に向き直る。

「こっちに普通の文珠ちょうだいっ!! 横島クン、白黒文珠でアレいくわよっ!!」

「え?」

「同期合体よっ」

「え? でも」

 一瞬戸惑う。
 言うまでも無く同期合体は禁じ手状態のはず、それは美神にも説明済みだ。

「いいからっ、私を信じなさいっ」

 だが、美神は構わず自信に満ちた顔で横島の決意を促した。

「あ、はいっ美神さんっ」

 文珠を一つ投げ渡し、横島は白黒文珠にかつて込めたことのある文字を込め直していた。

「全員こっから離れてっ!! 今からあいつの攻撃が来るからっ!! もたもたして巻き添えくっても知らないわよっ」

「ちょ、ちょっと美神さんそれはっ」

 ヒャクメをはじめとして他のメンバーが止めるいとまもあらばこそ、美神と横島は既に実行レベルまで体制を整えている。

「ヒャクメ殿、御免っ」

 シロがヒャクメの肩を掴んで一気に美神達から距離を取った。

「大丈夫でござるっ」

 しかし、銀髪を揺らし犬塚シロは力強く言った。

「へ?」

「美神殿は、必ず勝算があるでござるよっ」

「そーね、美神が負けるとわかってる勝負やるわけ無いし」

 隣にいるナインテールを揺らす相棒が相槌を打っていた。
 その困ったような苦笑は一片たりと美神達を疑っていない。

「じゃ、いきますよっ!!」

「おっけーっ!!」

 横島のかけ声に美神が応える。手にある文珠がまばゆい光を放った。

「合体っ!!」

−グオォォォォォォッ

 すかさず巨獣の眼光が横島達を睨み付け、かの術がすばやく発動していた。
 横島たちを闇の顎が食らいつこうとする。

「もう見え見えなのよっ! ワンパターンも大概にしときなさいよっ!!」

 瞬間、閃光が走る。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

 空間が鳴動していた。

「なっ、地震!?」

 誰かが思わず声を漏らす。

「ち、違います。これは」

 ヒャクメから否定の声が飛ぶ。

「時空震です」

「なにぃぃぃっ」

 バシュゥッ

 美神達の居た場所に稲光に似た強烈な輝きが閃く。

 闇の顎が美神と横島を飲み込み……後には何もなくなる。

「あ、あぁっ」

 その様に絹香の顔は青ざめていた。

 バシュゥゥゥゥッ!!

 しかして、それは一瞬の事。

「「なっ!!」」

 その場の全員が話が目を疑う。

「はぁあぁあぁぁぁぁぁっ!!!」

 カッ!! ゴゥッ!!

 虚空から膨大なエネルギーの奔流が満ちだしている。
 その中心にいるのは人影だ。

「オッケー、横島クン。バッチリよっ!! ニーベルンゲンの指輪と竜の牙を一つの武器にっ」

「はいっ」

 美神の全身が輝く、両肩には丸い水晶のような物がありそこには横島の顔が映っている。
 そして、彼女を中心に圧倒的霊力が吹き荒れた。

「さぁ、さんざん舐めたコトしてくれたわね。もう堪忍袋も限界よっ!! このゴーストスイーパー美神令子が」

 その手には強靱な霊力の槍が出現していた。

「極楽に……逝かせてあげるわっ!!」

 ザンッ

 力強く大地を蹴り出す。



「一体何をやったんだ?」

 呆然とワルキューレがつぶやく。

「美神さんの時間移動です」

 ヒャクメが呆然としたままでその問いに答える。

「時空震抑制が発動する2,3秒のタイムラグを利用して転移攻撃をかわしたんですよ」



「貫けぇぇぇぇぇっ!!」

 全身全霊の一撃が一条の光となり魔獣の腹部に突き刺さった。
こんばんわ。長岐栄です♪
『いつか回帰できるまで』第十二話をお届けにあがりました〜♪

いよいよ巨獣バトル編です。
三人については忘れていたわけではなく、こういうことやってたという事です。
決して忘れていた訳d(ry

では、恒例のレス返しをば

>とーりさん
早速のレスありがとうございました♪
後一息っ、目一杯がんばっていきますよ♪
ふっふっふ、栄さんがおキヌちゃんのラブなエピソード作ったら砂糖細工になるのは自明の理っw

>akiさん
おぉっありがとうございますっ
このエピソードはどこに入れるかかなり迷ったのですよ(^^;
いい感じにまとめられて喜んでいます。
今回の遺産との戦いはいかがでしたか?

さて、いよいよ大詰めです。
さぁ、13話にはどうなってしまうのか乞うご期待っ!!



でわでわ、次回十三話をお待ちくださいませ♪

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