「いらっしゃい、いらっしゃい〜!
今日のお勧めは秋刀魚だよ〜!!」
「ねぇ、もうちょっと安くならないの!?」
「奥さん!それは海老です!」
夕暮れ時の商店街。
そこでは夕食のおかずの買い物に来ている主婦たちと、店員たちの闘いが繰り広げられていた。
ザッザッザッザッザ……
そんな商店街の中を、スーツを着た男が歩いていく。
何故か男の反対側を歩く通行人たちは、例外無く通り過ぎた男を振り返って見ていた。
無理もないであろう、『ピンク色』の髪で、口元を包帯でぐるぐる巻きにした『2メートル』はあろうかという大男が、
メモでもしているのか、『チラシの裏』を眺めながら人ごみの中を歩いているのだから…。
クローニンが往く!!
『さてと…今日は何にするか。
そうか、おかずの前に頼まれた物を買わないとな』
コレミツはそう考えると、ポケットの中から1枚のチラシを取り出した。
チラシをめくると、さまざまな筆跡のメモが書かれている。
どうやら欲しい物を1人1人書いたようだ。
『え〜っと…少佐が換えのYシャツ、澪がお菓子一杯、真木が資○堂のシャンプー&リンス…』
パンドラメンバーが欲しい物を書いたメモを読んでいくにつれて、コレミツの手はぷるぷると震えていった。
『ひまわりの種…モガちゃん人形…快眠アロマ…ヘアブリーチ剤…タバコ10カートン…』
グシャグシャグシャグシャッ…シパァーン!!!
『たかが夕飯の買い物にそんな物頼むなぁ!!!』
顔を真っ赤にして、グシャグシャに丸めたチラシを地面に叩きつけるコレミツ。
『…はぁはぁ…』
肩で息をしつつ、コレミツは叩きつけたチラシを拾い上げる。
『………はぁ…』
チラシを広げ、溜め息をつきながらコレミツは商店街を歩いて行くのであった…。
ひゅっ…
ぽちゃんっ…
小石が川に投げられ、水面に波紋が広がっていく。
投げた犯人はピンク頭の大男、コレミツであった。
『………』
川岸の手ごろなサイズの石を椅子代わりに座り、広がる波紋を見つめるコレミツ。
その隣にはビニール袋に包まれた今晩のおかずと、パンドラの面々に頼まれた物が置かれている。
意外に律儀な男である。
ひゅんっ…
ぱしゃんぱしゃんぱしゃん…
またも無言で石を投げるコレミツ。
円盤状の石は数度水面を弾き、勢いが弱くなったところで沈む。
『………最近、出番が減って来たな…』
ぽつりと、心の中でコレミツは呟いた。
『この間も、出はしたけど吹き出しすらなかったしな…』
九具津ですらセリフがあったのに…と、溜め息をつく。
『運転手役も真木に取られたしな…。
やっぱりスーツ姿が被ってるからか…。
ここらでイメチェンをするべきなのか…。
そう言えば、この間大鎌に肉体派コンビを組まないかって誘われたっけ…』
段々と、危なげな方向に思考が向いていることに気付いていないようだ。
「…あきら〜こっちこっち〜〜…」
「お〜…よしよし、ほれ」
「わ〜いっ♪」
どこからか、少年と少女の声が聞こえてきた。
『大体少佐は、手当たり次第に子供とか動物とか拾ってくるんだから…。
世話するこっちの身にもなってくれって言うんだ…』
が、コレミツには聞こえていない様子。
「あのー…」
『…ん?』
背後から聞こえてくる少年の声に振り向くコレミツ。
そこには、買い物袋を持った高校生くらいの少年と、その後ろでちくわを美味しそうに食べている少女の姿があった。
傭兵上がりなのに簡単に背後を取られるとは、そこまで思考に集中していたのか。
「先ほど商店街で買い物してた方ですよね?」
『あ、ああ…』
コクコクと頭を上下させるコレミツ。
一応、一般人相手にはESPは使わないことにしているらしい。
「八百屋のオバちゃんから預かってきました。
店の前に落ちていたらしいですよ」
そう言って、皮製の財布をコレミツに手渡す少年。
『あ…』
どうやら落としたことすらも気付いていなかったらしい。
「えっと…合ってますよね?」
『あ、ああ。
すまない、恩に着る』
さらさらと、手帳にそう書いて少年に見せるコレミツ。
「よかった、間違っていたかと」
ほっと胸を撫で下ろす少年。
「じゃ、俺はこの辺で。
今度からは気を付けて下さいね〜」
そう言って少年は少女のもとへ走って行った。
『ああ、ありがとう…』
コレミツは少年へ手を振って見送った。
「明〜おなか空いた〜」
「今ちくわ喰ったばっかだろう」
「あれはあの人見つけたご褒美でしょ。
ご褒美は別腹だよ」
「どんな理由だっ!!」
『…あの少年も苦労してそうだな…』
かすかに聞こえてきた2人の会話を聞いて呟くコレミツ。
『…俺もそろそろ帰るか…。
澪たちが腹を空かせて待ってるからな…』
そう言ってコレミツは立ち上がり、腹を空かせているであろうパンドラメンバーのもとへと帰って行くのであった。
(了)
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