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【夏企画】例えばこんな夏休み


休みの日ってのは遊ぶ為にあるもんだ。
しかも『夏休み』とくりゃこれはもー、限界突破でぶっ倒れるまで遊んで遊んで遊ばなきゃ!

だからあたしはガマン出来ない。
『一日中家でゴロゴロと』―――こんな貴重な休みの日を、出かけもせずただそんな事の為に使おうとする、皆本のやろーが。
なんて時間のムダ使いだよ! 信じらんねー!! 
到底許せる事じゃない。



「うぉらぁッ皆本ーッ! 朝だぞー起きろーッ!!」

「グ……う、うるさいぞ薫……疲れてるんだ。静かにしてくれ……」



久しぶりの休みの日――皆本はきっと心行くまで朝寝坊してやろーなんて考えてたにちがいない。
ベッドに潜り込んだまま、いくらあたしが怒鳴ってもちっとも出てきやがらねー。



「っかぁ〜! なんだよその態度は!? 折角あたしみたいな美少女が枕元まで起こしに来てやってるのに……ナニが不満だってんだよ!」

「どーゆー理屈だソレは!
 と、とにかく、僕はまだ眠いんだよ……なんだ、まだ6時前じゃないか……
 おとなしく寝かせてくれ」



タオルケットを頭までかぶって、更に抵抗する皆本。
フン! そんな事したってムダだっつーの。
でも……どーやら口で言っても解んねぇみてーだなぁ?



「テメェ皆本……人が下出にでてやってりゃ調子こきやがって……いー度胸だな、オイ?」

「な、ちょッ……マテ! 落ち着け薫!」

「問答無用! こーなりゃ実力行使あるのみだぁッ!!」



――ずずんっ 

……なぁ、皆本……夏休みなんだよ?
あたしたち、初めて『夏休み』ってやつをすごすんだよ?

こんな時くれー率先して 『君たち、どっか遊びに行こうか』 とかいって、あたし達かっこよく誘ってさ? 一緒に夏の思い出を、なーんて……そんくれーの甲斐性みせてくれてもいーじゃんよ!?
だからお前はダメなんだよっ!!












【例えばこんな夏休み】











<<SIDE:明石 薫(午前5時45分 皆本宅の寝室で)>>



「今日休みなんだろ? どっか連れてけよ!」

「絶対にイヤだ」



あたしの“お願い”を、即座にすげなくきっぱりと却下する皆本。

因みに、今皆本は、あっちこっちズタボロのよれよれ。何か人身事故にでも巻き込まれたみてーな悲惨な事になっている。
何でかってーと……ま、何だ……その……ホラ、いつものアレだよ。
あたし、ベッドから皆本引きずりだそーと思って……んでもって、ちっとばっかし”チカラ”の加減を間違えちゃってさ……?
ま、まぁいっか。 そ、そんなんいつものことだしな。
とりあえずソレはこっち置いといて今は……



「えー? そんなー……皆でおでかけしよーやー?」

「皆本さん、どうしてダメなの?」



破壊音を聞きつけてやってきた葵も紫穂も不満たらたら。
ま、とーぜんだよなー。
夏休みになったら、みんなで皆本にたかってやろ……じゃねーや、皆本と一緒にどっか遊びにいこーって思って、ずっと楽しみにしてたんだもんな。



「あのなー……君達いいか? 僕は今日オフなんだ……」

「だからさ! みんなで遊びに行こうって……」

「いや、薫……そうじゃなくてだな……
 現在夏休み真っ最中の君たちとちがって、僕にとってはこのクソ忙しい最中久々に……本ッッ当ぉぉ〜に久しぶりに取れた貴重〜な休みの日なんだよ?
 そんな日に出かけるだなんて……ナニが哀しくてそんなわざわざ疲れに行くようなマネしなきゃいけないんだい?」

「……皆本はん……その発想なんかオッサンくさいで〜?」

「う……べ、別に良いだろ葵? 最近……君らが夏休み入ってからは特に忙しかったし、疲れてるのはホントなんだから。
 だからな、今日はゆったりまったり過すって……一日中家から出ないって、そう決めていたんだよ」

「皆本さん……どうしてもダメなの?」

「お、脅したって無駄だぞ、紫穂?
 脅迫には屈しないからな! 
 例え壁にめり込む羽目になろーが、浴槽に放り込まれようが……絶ッッッ対に今日はどこにも行かない!!」



――ばふっ

いくらか腰が引けながらも、きっぱりとそう宣言してから、もっかいベッドに入る皆本。
どーやら決意はかてーみたいだ。
ちっと大人気ない気もすっけど……でも皆本がソコまで言うなんてなぁ。
そんな疲れ溜まってたんかぁ……や、まさかあたし等の所為って事はないよな? うん。

さて、と……コイツってば意外ににガンコな所があるからなぁ。
いつもみてーに“サイキックなんちゃら”で脅すぐらいじゃだめだろーなぁ。
でも



「ふふん♪ 甘い! 甘いな皆本!」



別に脅迫なんかしなくたっていーのだ。
こんな時一体どーしたらいーのか、あたし等はよ〜く知っている。



「葵! 紫穂! アレやるぞ、準備はいいか?」

「ん、おっけーや♪」

「薫ちゃん、いつでもいーわよ♪」



――びッくぅぅ! 

あたしたちの声を聞いて、ベッドの中の皆本はびくんっ!と身体をカタくした。
ふふん、今更おせーってーの!
あたし等のお願い、はいはいって素直にきーてくんない皆本が全部悪いんだかんな。



「ま、まてお前等! 一体何……をぐッ!?」

「いーからいーから♪皆本は黙ってな♪
 じゃ、お邪魔しま〜す♪」



――ぎしッ みしみしぃっ

慌ててベッドからばっくれよーとする皆本を、あたしは“チカラ”で押さえつけた。
身動きひとつ出来ねーよーにな。
んで、もそもそと皆本の横に潜り込んだあたしは、身体をむぎゅっと皆本に密着させて……よっしゃあ!! コレで準備オッケェェッ!!
……って、おぉ♪ コイツ以外にたくましーなぁ♪



「か、薫……おま……」

「だいじょうーぶだって皆本、痛くしないからさ♪
 じゃ……葵!紫穂!」

「はい、皆本さん、薫ちゃん、笑って〜♪」



――ぱしゃぱしゃぱしゃっ

んで、葵と紫穂がふたりそろって、ベッドの中のあたしらを携帯のカメラで撮影開始。



「お、オイ……」

「ベッドの上……そっと身体を絡ませながら、朝を迎えた男と女……
 くぅ〜ッ……完ッ璧だ! 
 今のあたしと皆本は、一晩ベッドを共にした仲にしかみえないよな? 一線越えちゃったよーにしかみえないよな? な?」

「や、無理。んな色気有る関係にゃ全然見えへんから」

「せーぜー『仲の良い兄妹』くらいよねー……むしろ微笑ましい感じ?」

「うるさいぞ! そこ!!」



……まぁ、コレばっかしは葵たちの言うことが正しくて……
後から画像見て、抱き合うあたしと皆本の、そのあまりに色気もへったくれもねー姿に、ちょっとだけヘコんだのはココだけの秘密だ。

それはともかく、皆本のヤツ、ここでよーやくあたし達が何考えてんのかわかったらしい。
じたばた暴れて逃げようとすっけど……もちろんそんなのはムダなあがきってやつだ。
みすみすエモノを逃がすよーなマネ、このあたしがするわきゃねーだろ?



「んじゃ、ここでイッパツ……母ちゃん&姉ちゃん直伝のすっげーやつを!」

「薫ちゃーん……そんな事しても無駄よ、無駄無駄。
 色っぽくなんか無いから。全然、まったく、これっぽっちも」

「な、なんだとぉッ!? く……よ、よぉし……だったら」

「脱ぐのもあかん! あ、コラ皆本はん剥ぐのもダメや!!」

「な、なんだよぉ……素っ裸同士の方が“説得力”があんだろー?」

「「絶対にダメ!!」」

「ちぇ〜」



なんだよ〜?
ふたりとも、やけにツッコミが厳しいな?

あ……そっか!
葵も紫穂も、あたしと皆本がいちゃいちゃしてんのが面白くないってか!?
よぉし……そんならも〜っと見せ付けてやるぜ!
人前ってのは燃えるからな!!
うしししし……

でも、それがまずかった。



「い、い……いい加減にせんかぁぁッ! お前等ぁぁぁぁぁッ!!」

「おわっ!?」



――ぶぅんッ!

し、しまったぁーーっ! ……と、思った時にゃーもー手遅れだった。。
皆本のやつ、怒鳴りながらあたしをベッドから放り出したんだ。
ちっくしょー、油断した。葵たちとのやりとりに気ぃとられて、ついつい”チカラ”をゆるめちまった。
んで、そのスキを逃さず皆本は、脱出に成功っつーわけだ。

んだよ皆本のヤツ……せっかく、いろいろとさーびすしてやろーと思ってたのによぉ……
ふん。ま、いいや。目的はすでに達成したかんな。



「おーまーえーらー!」

「あ、ほらほらよく撮れてるで♪」



葵に突きつけられた携帯の画面に映ってる、皆本とあたしが、仲睦まじく添い寝している――よーにみえなくもない――マル秘画像。
まぁ、どんなにひーき目に見ても“ソレ以上”のコトをシている様にはどーしても見えないってゆーのがちょっぴり悔しいトコだけどな。
あ、後であたしの携帯にも送ってもらわなきゃ。



「んなッ!? そ、その画像をどーするつもり……」

「ん〜そうねぇ……折角こんなにキレイに撮れたんだから……局長さんにでも見せようかしら♪」



――びっきぃぃッ

そして、トドメとばかりの紫穂のセリフに、皆本は音たててカタまった。
ん、いー反応だ♪

そーだよなぁ。
こんなん、局長にだきゃー見られるわけにゃいかねーよな?
他の人ならまだしも……“あの”局長の目に、こいつ――あたしと皆本の添い寝の画像――が、どんな風にうつるかなんて……そんなん言うまでも無い事だ。
後は、葵と紫穂が口裏あわせて、あたしが 『あたし、汚れちゃった……』なーんつってウソ泣きの一つでもして見せれば……げへへへ♪
皆本が何を言ったトコで、あのひと皆本のゆー事なんか、ぜってー聞きゃしねーだろーしな。

……と、ゆーコトはだ……



「わ……解った……僕の負けだ。
 ……ドコに行きたいんだ?」



皆本、がっくりと敗北宣言。
ま、そーするっきゃねぇよな?
でもなぁ……それだけじゃあまだ足りないんだよなぁ♪



「あっれぇ〜? なんだよ皆本ぉ……なぁんかスッゲェいやいやって感じだなオイ?」

「別にイヤやっやたらえーんやで?」

「私達も、そんなムリに……なんていわないから♪」

「んなっ!?」



決定的瞬間を納めた、携帯の画面をちらつかせながら、ねちねちと皆本を責めるあたし達。
え、なに? 言ってるコトが最初とは逆?
ンな事ぁ気にしちゃダメだ。



「きちょ〜なお休みなんだもんなぁ?」

「せやせや……ゆーっくり休んどったらええわ♪」

「それに悪いわ? そんな私たちのワガママで、皆本さんをふりまわすなんて♪」

「お、お前等〜〜!」



あたし達が何か言うたび、赤くなったり青くなったり……コロコロ顔色を変える皆本。
うっはぁ、おもしれー♪
皆本のヤツってば、ほんとーにいぢり甲斐があるんだよなぁ♪



「わかった、わかったよ!
 ……お願いだから、今日一日君達のお供をさせてくれ!
 オネガイシマス!」



ぃよぉしっ! ミッションコンプリート!!
あたし達の完全勝利だ♪



「ん〜、どーしよっかなぁ?」

「皆本はんがそこまでいうんやったら……なぁ♪」

「ほかならぬ 『皆本さんのお願い』 だもん……断れないわよねぇ♪」

「……ぅぅぅ、あ、アリガトウゴザイマス」



そう、これは脅迫でもなんでもなくて、あくまでも、あくまでも『皆本からのお願い』なのだ♪
皆本のほうから、あたし等のお供をさせてくれってお願いしてきたんだから……ま、しゃーねーよな?
ここは、つきあってあげなきゃな〜♪



「まずは映画な?
 『南海の頂上決戦!いかレスラーvs.えびボクサー!!』
 これ、前から観たかったんだよ〜」

「で、終ったらどっかでお昼食べてプール行ってやな……」

「お夕飯もどこかお外でたべましょうね♪」

「ぁ、ぁぁぁ……僕の……僕の休みが……」



今日一日これからのプランに、目の幅の涙を流しながら、失意体前屈状態(orz)の皆本。
しかしもちろんこんにゃろーには、『No!』と言える権利なんか無いのだ!

それにしても……なんだよ? 
辛気臭ぇ顔しやがってぇ……せっかくみんなでお出かけなんだぞ?



「おい皆本ぉ……もっと喜んだらどーよ?」

「せや、こぉんな美少女3人をエスコートできるんやで?」

「幸せモノよねー? 皆本さんは♪」

「……はぁ……もーいいよ……」



あ、カチンときた。
なんだよそのつれない態度は!?

そんなんだと例の画像、局長以外の知り合い全員の携帯にまわしてやっかんな!?

























あ、でも姉ちゃんと母ちゃんには絶対に見せるぞ?

『あたし、皆本に女にしてもらったぜ♪』

なーんつってな♪





おしまい
夏休み……『どこか遊びに連れてって!』とおねだりする子供たちと、それを『ダメ!』と却下する親(保護者)たちとの間で繰り広げられる攻防戦は、子供のいる家庭ではどこでも一度は見る事の出来る夏の風物詩ではないかと思います。
子供達にとっては天国といってもいい夏休み……ですが、大人たちにとってはそーではないんですよね。

休日が、遊ぶ為の物でなく休む為の物になったのは、いつごろからだったかなぁ…? とかそんなこと思いながら書きました。
因みに、劇中で「初めての夏休み……」といってるのは、薫嬢たちはこれまで学校に通った経験が無いみたいですから……
バベルでの夏休みはあったかもしれませんが、学校でのそれは初めてじゃないかと。

こんなんですが、突っ込み・ご指摘など、いただけたら幸いです。

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