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【夏企画】ゴッデス・ビーチバレー!

(注):このSSは【夏企画】パイレーツ・オブ・ちるどれん!のB面的ストーリーです。
    ですが、向こうのSSを読んでなくても楽しめますので、気軽に読んでやってください。








 わ、私は……私は脱いでも凄いんです――!

 小竜姫は自分の言葉に深くため息をついていた。
 いや、別に脱いでも凄くないという意味ではない。充分に凄い――はず。
 それはさておき、海へ行きたいと駄々をこねる天竜童子やパピリオに乗せられて、こんな場所にいる自分がなんとも情けなかった。
 吸い込まれそうな青い空。わた飴みたいな入道雲。日に焼けた砂浜と、どこまでも続く水平線。
 引いては寄せる波打ち際で、天竜童子やパピリオは楽しそうに遊んでいる。
 日よけのパラソルの下で、ガラにもなく露出の多い水着――白地のビキニで、トップスの前面とパンツの両サイドにリボンがある、可愛くて大胆な――を着た自分が、そういう事情も含めて恥ずかしくて仕方がない。
 小竜姫はもう一度、大きなため息をついていた。

「なんじゃ、せっかくの海でそんな顔をしとったら美人がもったいなかろう」

 そう言うのは、鮮やかなアロハシャツに短パン、サングラスといったおよそ歳を考えていないファッションの斉天大聖老師である。

「もう、からわかないでください老師」
「んーんー、若くてピチピチしとってええ感じじゃぞ。目の保養になるわい。なあ、ジーク」
「えっ」

 話を振られて固まったのは、同じく妙神山で生活しているジークフリード。彼は肌の色を変えて、程良く日に焼けた好青年に姿を変えている。整った顔立ちと無駄なく引き締まった肉体は、魔界の速水○こみちと言ったところだろうか。そんな彼は、浜辺の女性の視線を釘付けにしている。

「まあ、せっかくみんなで遊びに来たんだ。今日は楽しむことを考えよう」

 ジークは目を逸らしながら言った。目のやり場に困ると言った風に顔を赤くされると、小竜姫はますます恥ずかしくなってしまう。楽しめと言われても、さすがにこんな格好ではしゃぎ回るのは竜神として、そして女としての恥じらいにおいて大きな抵抗があった。

(そうだ、こんな時こそ美神さんに――)

 困った時の令子頼み、とばかりに小竜姫は自分たちの隣に立ててあるパラソルの方へ目をやった。令子なら、こんな時の身の処し方を知っているはず。

「すー、すー……」

 だが、小竜姫の願いも虚しく令子は寝息を立てていた。

「ああーん、美神さ〜ん!」
「ど、どうしたんですか小竜姫様?」

 突然変な声を出した小竜姫に驚いて、おキヌが目をぱちくりさせている。
 小竜姫たちは偶然にも、この浜辺で美神令子とその仲間たちと出会い、そのすぐ隣に自分達の場所を取っていたのである。令子とおキヌ以外のメンバーは波打ち際で遊んでおり、ここにはいないが。

「私は、どうすればいいのでしょうか」
「はい?」

 ひどく深刻な雰囲気の小竜姫に、おキヌは思わず変な声で返事をしてしまう。

「ど、どうすればって……せっかく海へ来たんですし、みんなと楽しめばいいんじゃないですか?」
「あなたまでそのような……仮にも妙神山の管理人である私が、このようなはしたない姿ではしゃぎ回るなどっ」
「か、神様も色々大変なんですね」
「ですが、このままここでじっとしていては、こんな格好をしてきた意味が……ああっ、私はどうすれば!」

 一人で興奮したり落ち込んだり、小竜姫はミュージカル女優のように忙しい。そんな竜神様を見て、さすがのおキヌもすっかり引き気味であった。

「あ、あの、何か飲み物買ってきますね! 冷たいもの飲めば、きっと気持ちも静まりますよ」

 苦笑しつつ、おキヌはそそくさとその場を後にする。ポーズを決めて天を仰ぐ小竜姫がそれに気付いたのは、数分も経ってからの事だった。
 自らの境遇に葛藤する小竜姫達の元へ、熱い砂を踏みしめて近づいてくる人影が三つ。

「遅れてこめんなさいなのね〜」
「人が多いな。バカンスに向いている場所には思えんが……まあいい」

 手を振りながら先頭を歩いているのは、Aラインワンピース水着のヒャクメ。露出は多くないが、フリルのスカートが本人の雰囲気に似合っていて可愛らしい。その後ろで周囲を見ながらブツブツ言っているのは、競泳用水着のワルキューレ。黒地で胸元にブルーのラインが斜めに走ったデザインで、正面から見ると普通に思えるが、背中側は腰の部分まで大きく開いており、肩から続くストラップがクロスしていて大胆な雰囲気である。

「やれやれ、熱くてしかたないね」

 そして最後に現れたベスパに、小竜姫の表情が固まる。ベスパの水着はストライプのビキニで小竜姫と同じタイプだが、トップスに包まれているのは、はちきれんばかりの膨らみがふたつ。いきなり3ゲーム差ほど引き離されたような気分になって、小竜姫は口元をヒクつかせた。

「隣、入らせてもらうよ」

 ベスパはパラソルの下に避難すると、ジークの隣に立ってふう、と小さくため息をつく。横目でジークの向こうに立つベスパを見ると、起伏の激しいスタイルの威力を思い知らされる。そのせいかどうか知らないが、さっきよりもさらに目のやり場に困るといったジークの表情が無性に腹立たしい。

(――いえ、落ち着くのよ小竜姫。こんな事で神経をピリピリさせてしまうのは、きっと水着姿で平常心を失っているからだわ。由緒ある妙神山の管理人にして名前に姫が付く程の『はいそさえてぃ』な私は、小さな事で取り乱たりなど……ち、小さ……な……)

 なだらかな自分の胸元を見て、ガックリと肩を落とす小竜姫。
 気分を落ち着かせようとしたつもりが、余計にダメージを受ける結果となってしまったようだ。

「それにしても珍しいのねー。小竜姫から海で遊ぼうなんて誘ってくるなんて」

 ヒャクメが、持ってきた浮き輪を膨らましながら尋ねる。

「えっ、あ、それはほら、こういうことはみんなで楽しんだ方が」

 実際にはその方が自分に向けられる視線が減ると踏んでのことなのだが、もちろん秘密である。

「そのわりには浮かない顔をしているようだが。まさか、自分から視線を逸らすために頭数を増やしたんではないだろうな?」

 ワルキューレの的確すぎるツッコミに、小竜姫はビクッと身体を硬直させてしまう。

「な、なにを根拠にそのよーな。純粋に休暇を楽しもうという配慮ですよっ。あは、あははは……!」
「声が裏返ってるぞ」

 しどろもどろな小竜姫を、ジトッと見つめるワルキューレ。彼女はやれやれといった風に肩をすくめると、周囲を見渡し、

「ま、気持ちは分からなくもない。さっきも言ったが、ここは人が多すぎる。我々がのんびり過ごすには、いろいろと排除せねばならん問題がありそうだ」

 鼻の下を伸ばしながら通り過ぎる男をギロッと睨みつけて追い払う。

「あんまり神経質にならずに、見られるのも修行の一環だと思えばいいのねー」

 浮き輪を身体に通したヒャクメの発言に、場が凍りつく。

「あなたは見る方が専門だと思っていましたが」
「まさか逆の趣味もあったとは」
「し、神族もあなどれないね」

 明らかにドン引きな三人に、覗きの女神様はわたわたと手を振って否定する。

「ち、違うのねー! そういう意味じゃないのねー!」
「ええい近寄るな、ヒャクメが伝染るっ」
「ひどっ!? ワルキューレひどっ!?」

 ショックで涙目になるヒャクメに、小竜姫は苦笑い。ベスパも「ホントに神様?」と首を傾げていた。

「――で、お前は誰が好みなんじゃ? ん?」
「は、はあ?」

 きゃあきゃあと騒ぐ女性陣の横で、斉天大聖がジークをつついて言う。

「ヒャクメはああ見えて素材はいいし、ワルキューレはキリッとした雰囲気がたまらんのう」
「あ、あのう、老師。一体何の話を……」
「だがっ! 小竜姫のピチピチした身体もたまらんし、ベスパのボインはけしからん! 実にけしからんぞっ!」

 鼻の穴を広げて興奮する斉天大聖に、ジークは開いた口がふさがらない。

「ろ、老師ってそういうキャラだったんですか?」
「儂の若い頃はなあ、天界魔界を股にかけてブイブイ言わせたモンじゃ」
「そ、そうですか」
「で、お前的な好みはどれなんじゃ。そっと打ち明けてみい」
「いや、私はそう言う――」

 師匠の追求にジークが困り果てていると、通りがかった短パンTシャツの若者に一枚のビラを渡された。

『海辺の祭典 女性限定ビーチバレー大会! 浜辺の女神たちよ集え! 優勝者には豪華賞品を用意! 腕に自信のある方の参加をお待ちしています――』

 ここからちょっと離れた場所で、ビーチバレー大会があるという。景品は液晶プラズマテレビやら○ンテンドーのゲーム機など、遊び盛りのパピリオや天竜童子が喜びそうな物ばかりである。スポーツで身体を動かすなら小竜姫も悩まなくて済むだろうと思い、ジークは女性たちに提案してみることにした。

「びーちばれー、ですか?」
「ネットを挟んでボールを打ち合う人間の球技だ」

 聞き慣れない横文字に目をぱちくりさせる小竜姫に、ワルキューレが解説する。

「これなら、みんなで楽しめるんじゃないかと思ったんだが……」

 ジークの提案に、小竜姫はしばし考え込む。確かにスポーツで汗を流すならば、海へ来た面目も立つ。それに、景品の魅力も捨てがたい。断る理由が見つからない事もあって、小竜姫はビーチバレー大会への参加を決めるのだった。

(ほうほう、こりゃあ面白いことになりそうじゃな。アレを持ってきた甲斐があるってもんじゃ……ひっひっひ)

 その裏で、ビラを見ながら斉天大聖が助平な笑みを浮かべていることに、まだ誰も気付いてはいなかった。



 砂浜にネットを張ったコートで、二人一組のチームで対戦。ボールに接触していいのは三回までで、相手にミスがあった場合はその場で得点となる――
 ルールブックに目を通しながら、小竜姫は会場を見渡す。砂浜に作られたコートの周りには多くの観衆が集まっているが、距離があるせいかさっきよりは気にならない。やはり、気の持ちようなのだろうか。

「チームエントリーはどうしましょう?」
「ちょうど二人ずついることだし、ここは神族と魔族の対抗戦といこうじゃないか」

 ワルキューレの提案は望むところであった。神族と魔族の関係が良好であるとは言え、やはり勝負事となると負けたくない気持ちが働いてしまう。

「お手柔らかに頼むのねー」
「あたしはいいけど、ウチの上官には気をつけなよ。勝負事になると目の色が変わるからさー」
「小竜姫も似たような所あるのねー。体育会系の運命かしらー?」

 ヒャクメとベスパは、後ろの方で何やら話し込んでいる。
 腕を組んで、胸の谷間がくっきりしているベスパを見ていると、それだけで対抗意識がメラメラと燃え上がってくる。

(絶っっっっっっっ対、負けませんっ!)

 密かに闘志を燃やしながら、小竜姫はトーナメントのくじを引きにいく。
 小竜姫とワルキューレのチームはそれぞれ反対側の端にエントリーし、対決は決勝戦に持ち越されることとなった。



 その頃、おキヌは冷えたジュースの入った袋をぶら下げて、会場の近くを通りかかっていた。大勢集まった人だかりの向こうでは、水着に身を包んだ女性たちがバレーボールに興じており、大きく盛り上がっている。女性が飛んだり跳ねたりするたびに、男が歓喜の声を上げているのを見ておキヌは苦笑した。

(横島さんがいたら、釘付けになっちゃうんだろうなあ)

 幸いと言うべきか、横島の身体はシロタマや子供たちが確保しているので、その点だけは安心なのだが。そんなことを考えながら歩いていると、思いがけない人物に声をかけられた。

「あら、氷室さん?」

 立ち止まって振り返ると、学校のクラスメイトである弓かおりと一文字魔理がかき氷を持って立っていた。かおりは白いハイビスカス柄のスカート付きビキニ、魔理は黒地の花柄キャミソールにデニムショートパンツを合わせたタンクトップビキニという、活動的なスタイルである。

「奇遇ですね、弓さんに一文字さん」
「あれ、おキヌちゃんもここに来てたんだ」
「はい、今日は仕事で。そっちは二人で遊びに来たんですか?」

 おキヌの質問に、かおりと魔理は凍りついたように硬直する。

「え、ええ、そうですの。ちょっと時間を持て余してしまって」
「そうそう! べ、別におキヌちゃんに隠れてこっそりデートしに来たわけじゃ――」

 魔理が自爆した。かおりに刺すような視線で睨まれている魔理を見て、おキヌはクスクスと笑いをこぼす。しかし、肝心の男の姿が見えないことに気付いて、彼女はさらに尋ねる。

「そういえば、デートのお相手はどうしたんです?」

 再び、かおりと魔理が凍りつく。今度は氷河のように表情が硬く冷たい。

「……うん、まあ、ちょっと」
「色々、あるのよ氷室さん」

 かき氷の容器がへこむほどギリギリと握りしめて震える二人に、おキヌはこれ以上突っ込んではいけないと肌で感じていた。

「え、えっと……それじゃ、美神さんたちが待ってるから行きますね」
「ええ、お姉様によろしくね」
「仕事、頑張りなよ」

 おキヌは二人に手を振って別れると、てくてくと砂浜を歩き出す。こつんとサンダルに何かが当たったので足元を見ると、男物の財布が二つ。もちろんそれを自分の物にするような発想が出てくるはずはなく、おキヌは財布を拾うと浜辺の忘れ物保管所に届けておいた。
 この後、おキヌは砂浜をコソコソと移動する横島たちと出会う。
 ビーチバレー大会のことを悟らせたくない女心から、おキヌは横島の宝探しに同行したいと申し出て、ある事件に巻き込まれることになる。



 ビーチバレー大会は異常な盛り上がりを見せていた。
 人間に混じって参加した神族、魔族チームは怒濤の快進撃を見せ、他の追随を許さぬまま決勝戦へと勝ち進んでいた。

「さー盛り上がって参りましたビーチバレー決勝戦! 互いに劣らぬ美女と美少女のチームが火花を散らすと思うと、実況の私もついテンションが上がってしまいますっ!」

 即席の放送席にはマイク片手にまくし立てる実況アナウンサーの男と、日に焼けた優男、そしてサングラスにアロハシャツを身に付けた、サル顔の老人が一人。

「解説には浜辺で見つけたイケメンボーイのジークさんと、女体と揺れる物体の分析に定評があるという自称写真家のマチャーキーさんをお呼びしております」
「ど、どうも」
「がんばるぞ、と」

 ジークは緊張した様子で頷き、マチャ−キーと呼ばれた男は、業界人風の変な抑揚で答え、やる気のないガッツポーズ。というか、斉天大聖その人なのだが、小竜姫たちは試合に夢中で気付いていない様子である。

「さてこの試合、どう見ますか? かたや可憐な美少女チーム、かたや魅力爆発美女チームといった趣ですがっ」

 アナウンサーがずいっとマイクを向ける。

「いずれも甲乙付けがたい逸材じゃ。ぴちぴちの娘たちを選ぶか、クールビューティ&ボインちゃんを選ぶかは見る者の自由っ! しかし……」

 言葉を溜め、斉天大聖はクワッ! と目を見開く。

「この試合、他とは違う何かが起こるであろうっ!」

 その声と共に、会場がワァッと湧き上がる。それを見て、斉天大聖はニヤリと笑いながら、奇妙な作りの一眼レフカメラを取り出してコートに向けた。

「やはりこう言う結果になったようだな。手加減はしないぞ小竜姫」
「そちらこそ、私たちを甘く見ると痛い目に遭いますよ」

 ネットを挟み、ワルキューレと小竜姫が視線を交わす。だが、小竜姫が本当に見ているのはベスパである。あのぽよんぽよんのたゆんたゆんにはここで差を付けておかなければならないと、密かに闘志を燃やしていた。
 そして、試合開始のホイッスルが鳴り響く。
 まずは魔族側、ベスパからのサーブで試合がスタート。小竜姫がそれをレシーブすると、ヒャクメがトス、そして小竜姫がスパイクの体勢に入る。
 華麗なフォームで跳躍する小竜姫の姿に、ギャラリーも「おおーっ!」と歓声を上げる。

「奥義! 竜神稲妻落としッ!」

 青白い電撃を纏った右手で、小竜姫はボールを力一杯打つ。それは文字通り稲妻のような一筋の光線となり、ワルキューレの後ろ――ベスパの足元に突き刺さって炸裂、すり鉢状のクレーターを作っていた。

「面白い……本気というわけか」

 着地して髪を掻き上げる小竜姫に、ワルキューレは不敵な笑みを向ける。ベスパは砂まみれになった髪を払い、ぺっぺっと口に入った砂を吐き出していた。

「ぶはっ、やってくれるじゃん!」

 そして、ヒャクメのサーブで試合が再び動き出す。それをベスパがレシーブ、ワルキューレがトス、そして

「アナフィラキシー・スマッシュ!」

 ベスパの霊力を込めた一撃が小竜姫の顔の横を抜け、ヒャクメの足元に突き刺さって爆ぜる。ヒャクメは砂糖をまぶしたように、身体の前面だけが砂まみれになっていた。

「おーっと、両チーム共に素人とは思えない凄まじいスパイク! 綺麗なバラには刺があると言いますが、彼女たちはこんな刺を今まで隠していたというのかーッ!?」

 身を乗り出し叫ぶアナウンサー。興奮気味なアナに気圧されるジーク。そしてこっそりカメラを構える斉天大聖は、カシャリとシャッターを押す。
 直後、会場が大きなざわめきに包まれる。
 これにはさすがに小竜姫たちも何事かと周囲を見てみたが、特に何も変わったようには――

「……え?」

 引きつった声を出して、小竜姫は固まった。ネット越しに見えるワルキューレがおかしい。いや、彼女自信がおかしいわけじゃないが、その姿が。
 水着はチューブトップの白いレオタードに変わっており、丸い尻尾がふわり。白いカフスに蝶ネクタイを身に付け、ウサギの耳が頭からぴょこんと出ている。

「ワ、ワルキューレ、その姿は一体?」
「ん? な、なんだこれは!?」

 言われて始めて気付いたらしく、ワルキューレも自分の姿に驚いていた。

「おーっと、これはどうしたことか!? ワルキューレ選手のコスチュームがいつの間にか変わっているぞーーー!?」
「あ、姉上?」
「ほうほう、あえて本人の雰囲気とはミスマッチな白いバニーガールがたまらんのう」

 放送席でも、斉天大聖以外の二人は目を丸くしている。だが、本物はこの後やってきた。

「どんな仕掛けかマジックか、これには小竜姫選手も驚きを――ぶはっ!?」

 アナウンサーは、小竜姫を見て思わず吹き出してしまう。アナウンサーとしてあるまじき失態なのだが、彼の目に映る竜神様の姿はとんでもないことになっていた。

「わ、私はともかく小竜姫、お前……」

 ワルキューレは口をヒク付かせながら、震える手で小竜姫を指す。

「へっ?」

 小竜姫、自分の姿を見る。
 そして、しばしの沈黙。

「きゃああああぁぁぁぁぁぁ――――――――ッ!?」

 小竜姫は真っ赤になってその場に座り込み、張り裂けんばかりに絶叫した。
 自分の水着がいつの間にか、肩から股間にかけてVの字に細い布地が覆っているだけの、露出してない面積の方が少ないというヌードグラビアでも滅多にお目にかかれない過激な――スリングショットと呼ぶ――ものに変わっていたのである。

「な、な、一体どうしてこんなことになって……イヤァァァァァ―――ッ!?」

 両腕で胸を隠すようにうずくまり、わけもわからず混乱していると、小竜姫は会場の(主に男性からの視線)が自分に集中していることに気付いて二度目の絶叫。
 ある意味裸よりいかがわしい格好なだけに、それを見られている事実が最高に恥ずかしくてたまらない。

「こ、これは一体どうした事でしょうか!? 見てる側としては嬉しいのですが、私には理解の範疇を越えています。どうでしょう、ジークさんマチャーキーさん?」

 アナウンサーは鼻を押さえながらジークと斉天大聖にマイクを向ける。

「いや、これは、なんというか……げふんげふん!」

 ジークはアナウンサーと同じく鼻を押さえており、まともなコメントは出なかった。

「ええのう、ええのう、この恥じらう姿がたまらんのう。君らもそう思うじゃろ?」

 斉天大聖は助平な目で小竜姫とワルキューレを見つめながら、アナウンサーとジークに言う。

「わ、私も男です。否定はしませんが、どうして突然コスチュームが変わるという事態に――」

 アナウンサーとジークから向けられる視線に、斉天大聖はゴホンと咳払い。

「これは神が、この大会を盛り上げるために起こした奇跡――儂はそう思うぞっ」
「き、奇跡ですか!?」
「さよう。得点を取られると水着がきわどいものに変わるようじゃなあ」
「しかし、そんな都合の良い奇跡があるのでしょうか?」

 アナウンサーのツッコミに、斉天大聖は彼の手からマイクをもぎ取り、立ち上がる。

「会場に足を運んだ諸君! 色々疑問に思うことはあるじゃろうが」

 斉天大聖は力一杯言葉を溜め――

「目の保養になるから、細かいことは気にすんなッ!」

 あまりに漢らしい叫びに、会場が沸いた。地の底から響くような歓声と共に、会場の心が今、ひとつになっていた。

「こっちは思いっきり気にするんですバカ――――――――――ッ!」

 うずくまって涙目で叫ぶ小竜姫であったが、もはやそんな言葉は届かない。

「その水着はどんなに激しく動いても乳を揺らしても、決してずれたり大事な部分が見えたりすることはない、奇跡の素材! 安心して思う存分戦えッ!」

 斉天大聖はびしっと指を差し、試合続行を促す。だが、小竜姫はなかなか立ち上がろうとしない。

「ま、まあその格好は気の毒だが……試合は棄権するつもりか? それでもこちらは構わんが」

 ワルキューレの言葉で、うずくまっていた小竜姫はピクッと動く。そして、ゆっくりではあるが身体を起こし、立ち上がり始める。
 それだけでもう、会場は大騒ぎである。

「うふ、うふふふ……棄権なんてしませんよ……私は最後まで戦います」

 うつむいたままボソボソ呟くような声であったが、小竜姫の闘志はまだ折れていないようだった。そんな彼女に感動したヒャクメが駆け寄る――が。

「私一人だけこのような辱めを受けるのは不公平……みんな私と同じ格好になればいいんだわっ!」

 ガバッと顔を上げた小竜姫の目は、完全に据わっていた。

「あああっ、小竜姫がプッツンしたのねー!?」

 彼女の中で何かがガラガラと音を立てて崩れていくのを、ヒャクメは心眼で見抜いてしまった。
 そして、魔族チームのサービスで試合が再開。しかし、ここからはもはやビーチバレーの範疇を越えた霊能バトルへと突入していく。

「竜神秘奥義、下り飛竜!」
「悩殺のシェルブリット!」
「天殺龍神拳!」
「ナッツシュート!」
「盧山昇龍覇!」
「スカイラブハリケーン!」

 どこかで聞いたような、あるいは誰も知らないような技が飛び交い、互いのコート足元が穴だらけになっていく。そして、両チームともに得点を奪い合い、ベスパもヒャクメも巻き込んで次々に恥ずかしいコスチュームへと強制的にチェンジさせられていく。

「な、なんだよもう、こんな恥ずかしい格好……犯人見つけたらぶっ飛ばしてやるっ」

 ベスパはほとんど紐のようなマイクロビキニ姿にされ、羞恥に顔を真っ赤にしている。あふれんばかりのたわわな果実は、間違いなく会場の視線を一点に集めていた。

「ベスパ選手、コレは凄まじい破壊力だぁぁぁぁッ! まさにFの衝撃ッ! さすがの自分も、これには驚きでございますッ!」

 アナウンサーもすっかり興奮し、ノリノリである。

「むう、前評判通り凶悪なボインじゃなぁ。なにより揺れ方がもうぷるんぷるんのたゆんたゆんで……けしからん、実にけしからんっ!」

 カメラを片手にハァハァする斉天大聖の横で、ジークは鼻血を出して失神していた。

「……なんで私はこんなのなのね〜? 恥ずかしくはないけど、なんか、なんか」

 一方のヒャクメはなぜかカエルやら動物の着ぐるみのようなコスチュームばかりで、色気とは程遠い扱いに不満そうである。
 しかし、ヒャクメがパワー面で役に立たないぶん神族チームが不利なのは明白で、次第に小竜姫のスタミナも消耗してしまう。

「はあ、はあ……」
「だ、大丈夫なの〜?」

 息が切れ始めた小竜姫に、ヒャクメが心配そうな目を向ける。

「ま、負けません……容積の差が決定的戦力差でないことを証明するまでは……ちょっとおっぱいが大きいからといって、この作者にやたら優遇されているハチ娘に負けるもんですかっ!」

 小竜姫の発言に、ベスパもゴリゴリッと額に井桁を貼り付ける。

「こっちだって迷惑してるんだよ! いつもいつも乳の大きさでバカ呼ばわりされたりケンカ売られたりっ! 挙げ句の果てにはこんな格好させ……られて……ごにょごにょ」

 互いの恥ずかしすぎる姿に、ベスパも小竜姫も赤くなって声が尻すぼみになる。

「とにかく、次で勝負を決めます!」
「望むところだよっ!」

 小竜姫とベスパは睨み合い、今はむっちむちの体操服とぶるまー姿のワルキューレと、目玉のお○じの着ぐるみのヒャクメも頷いた。

「でやあああっ!」
「くうっ!?」

 激しいラリーが続いた後、とうとう小竜姫はベスパのスパイクを受け損ねてしまった。弾かれたボールはヒャクメの方に飛び

「きゃーッ!?」

 着ぐるみの頭部を吹き飛ばし、さらに弾かれたボールは放送席めがけて飛んでいく。

 ガチャーン!

 ボールは派手な音を立ててテーブルをへし折り、アナウンサーとジーク、斉天大聖を巻き込んでようやく止まった。

「いたた、まいったのう……って、ああっ!?」

 頭をさすりながら起きあがった斉天大聖は、手にしているカメラが壊れていることに気付いて声を上げた。直後、コートの四人の姿は元通りの水着姿に戻っていく。

「……これはどういう事ですか」

 その事実に気付いた小竜姫が、顔に影を落としたままつかつかと歩み寄ってくる。
 ベスパ、ワルキューレ、ヒャクメもその後に続く。

「あっ、いや、違うんじゃこれは」

 わたわたと弁解しようとする斉天大聖から壊れたカメラを取り上げ、小竜姫はそれを見る。

「どうやらこの機械に奇妙な効果があるようですね。これはなんですか老師」

 抑揚のない、平坦な声が逆に恐ろしい。斉天大聖は全身に嫌な汗をびっしりとかきながら、答えた。

「そ、それは天界の青い猫神に作ってもらったひみつの道具で、着せ替えキャーメラという夢のアイテム――」
「つまりコレで私たちをあんな姿にしたと」
「せっかくのイベントじゃから、盛り上げようと思ってやったことなんじゃ。おぢいちゃんの茶目っ気のあるイタズラだと思って許してくれッ」

 斉天大聖は正座をし、頭の前で両手を合わせて許しを請う。しかし

「茶目っ気のある」
「イタズラで」
「済むと思ってるのね〜?」

 ゴゴゴゴゴゴ――――!

 放出された圧倒的な霊力がどんどん膨れ上がっていく。空気が渦を巻き、静電気がバチバチと火花を散らす。小竜姫以下三名の髪の毛は逆立ち、それが臨界点に達した瞬間



 ちゅど――――――――――ん!



 会場が爆発した。
 すり鉢状にえぐれたグラウンド・ゼロの周囲には男性ギャラリーがアフロ頭で転がっており、その中心地では斉天大聖が終わらない鉄拳制裁を受けていた。



 潮が満ちると海に沈む場所に斉天大聖を埋めて上から砂山を落とすと、お札で封印をかけて制裁は終了した。

「いや、ちょっと!? 全然終わってないんじゃけども!? あああっ、潮が、潮が満ちてくるぅぅぅぅ!」

 顔だけ出されてもがく斉天大聖の目の前には、どんどんかさを増やす波が近づいていた。ジークはとりあえず共犯でないことが証明されて許してもらえたが、すっかり肩身を狭くして小さくなっている。

「やれやれ、ひどい目にあったよ……」
「まったくです。このような恥辱、お、思い出しただけでも」

 握り拳でわなわなと震える小竜姫であったが、遠く離れた海上に強い妖気を感じて顔を上げた。

「この気配……そういえば、殿下は!?」
「パピリオの気配を妖気と同じ方向から感じるわ。もう一人も多分そこだね」

 二人が水平線の向こうに目を凝らしていると、ワルキューレがバレーボールのたくさん入ったケースを持ってきた。

「相手が何かは知らんが、これで気晴らしをしてこい。私はこのジジイをもう少し尋問……いや、拷問だな」

 ヒャクメは斉天大聖の近くでしゃがみ込み、木の棒で「どうして私だけ着ぐるみなのね〜」と執拗につつき回していた。
 ケースを受け取って飛び立つ直前、ジークは二人に声をかける。

「何が起こったのか分からないが、二人とも気をつけ――」

 その時、ジークの鼻から一筋の鮮やかな体液が垂れる。
 さっきまでの二人のあられもない肢体を、つい思いだしてしまったのだ。
 ゆれる胸。ぴちぴちの肌。桃のようなヒップ――
 慌てて鼻を押さえたが、すでに時遅し。
 空気が、凍る。

「ジ、ジ、ジークの……」
「スケベ――――――ッ!」

 真っ赤に赤面した小竜姫とベスパから見事なダブルパンチを食らい、ジークは放物線を描いて海に墜落した。
 この日からしばらく、ジークは『むっつり鼻血マン』の称号を与えられて壁に話しかける日々を送ることになる。

「う、海なんて、海なんて――」
「まったく、男って奴はどいつもこいつも……ジークの、バカ――」

 結局、小竜姫たちにとってこの海は恥ずかしい思い出しか残らなかったのであった。


















「ちょっと待て」
「どうしたんですかいノー?」
「俺たちの出番がこれっぽっちもねーじゃねーか!」
「そ、それは」
「A面で足りない俺たちの出番は、こっちでフォローするはずだろうがコラァ!」
「そんなメタな発言されても……」
「イヤだ! こんな哀しい夏の思い出、俺はイヤだぁぁぁぁぁッ!」
「ううう、そんな事言うとワッシも、ワッシも涙が……うぉぉーーん!」

 夕陽が沈む海を見ながら、防波堤の上で叫ぶバカが二人。
 そう、雪之丞とタイガーである。
 二人揃って財布を無くし、かおりと魔理に愛想を尽かされた二人は、赤く燃える海に向かって叫び続けていた。
 背後から、長く伸びたふたつの人影が近づいているのも気付かずに。
 彼女達の手には、中身のプリクラが決め手となって回収された男物の財布が握られていた。
 この続きは、また別のお話――
















 後日、妙神山では斉天大聖の部屋からバカでかくて黒い箱のゲーム機と、若い女性キャラに様々な水着を着せてビーチバレーをするゲームが処分されたという。



 〜終わり〜

  
ギリギリセーフの駆け込み投稿ですが、どうにか間に合いました。
もはや王道なのですが、誰かがこう言うのやっても良いですよね!
そう信じて、水着のことを色々調べつつ書きました。
水着は可愛いのが多くて選ぶのに悩みました(笑)
とゆーわけで、ちょっとでも笑ってくれたら幸いです(ノ∀`)
それから、ギリギリ見えない方が浪漫ポイントは高くなると個人的に(ry

[mente]

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