【考察:
接触感応能力と
予知能力の関係性】
一般に、
接触感応能力とは《事物の記録・記憶を認識》するという、いわば『過去知』に位置する超能力である。
しかし、高超度の
接触感応能力者は、対象の思考を読み取るのみならず、物品の最適な使用方法の見極めや、接触した対象の動作の見切り、十数秒程度というごく短時間とはいえ、空気の動きを知覚することも出来るとの報告が超能力管理局当局からも為されている。
接触しなければならない、と言う条件付きではあるが、これは最早『予知』の領域に達しているとしてもいいだろう。
しかも、数の上では
念動能力者と並ぶものの、高超度の能力者が出にくいために確率にばらつきがある
予知能力者の予知を凌ぐと言っても過言ではない。
『予知』と『過去知』―― 未来、そして過去と感知出来るものは正反対のベクトルではあるものの、両者共に“時間”に根ざした能力である。
また、先に述べた高超度の
接触感応能力者ならば未来すらも見通すことが可能であるという幾つかの実例から鑑みるに、
接触感応能力者にも
《予知能力者プレコグ》以上の精度で未来に『接触』出来る可能性はゼロではない。
この仮説が実証されれば、戦時中の超能部隊時代から管理局上層部によって秘匿されて続けて来た重大案件にも触れることが出来るだろう。
そして、それによってここ数年を境に増加の一途を辿る超能力者と普通人との軋轢がいかなる結末を辿るのかを知り、原因の早期排除を実行すれば、超能力テロの撲滅にも―― 。
* * *
「東都大学の、友平道長講師だね?」
掛けられた声に、友平は液晶画面に向けていた視線を背後に向ける。
そこには、学生服を纏った白髪の少年が立っていた。
「だ……誰だッ?!」
「キミの考察は、まぁ面白い仮説ではあるけど……問題がある」
友平の言葉を無視し、くすくす、と笑いながらノートPCを悪戯っぽく覗き込む少年は、壮年の域に入ろうとする友平を明らかに子ども扱いした口調で言った。
「その仮説を実証するためには、|女帝をはじめとした
接触感応能力者を実験に駆り出すことになるじゃないか?
そんなことを認めさせるわけには行かないんだよ―― 僕は、ね?」
言葉と共に、“少年”の視線が友平の左胸に向けられる。
急激に生まれた胸の痛みが、血流を逆流させ、友平の呼吸を止める。
霞む視線が黒々としたキーボードに重なり―― ぷっつりと消えた。
「おっと……そろそろ桐壺クンが来る頃かな?」
他人の生命を手に掛けた感慨は何一つない。
その思考、その論理が超能力者にとって危険を伴う―― その一事によって、邪魔な石ころを蹴り転がす気軽さで哀れな学者の生命を無慈悲に刈り取った、残酷なる
永遠の少年―― は、退屈さを貼り付けたそれまでの表情を期待含みの微笑みに変え、姿を消した。
「やあ桐壺クン。20年ぶりかな…?
変わらず若々しいね…!!」
言葉とは裏腹に、視線は桐壺の後ろに控える眼鏡の青年に。
―― さっきのヤツはつまらなかったが…キミはどうだい?
視線で問う。
―― キミは楽しませてくれるかな、皆本光一クン?
返答は、疑念と敵意のこもった無言で返って来た。
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