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【夏企画】夏の魔界の物語


魔界にだって夏はくる。ただ、魔族は誰も夏なんか気にしない。
だって夏が暑いとか言う前に、熱いとか冷たいとか痛いとか年中トンデモナイ場所だからだ。
そしてそれに慣れてしまっている魔族は毎日が退屈だ。

退屈な毎日がよろしくないのは周知の事実だ。
夏休みに入ったBBSなんかがその良い例だろう。



「えー、ま、そういうわけや。魔界の夏の娯楽の為によろしゅう頼むで!」



みんなの人気者、魔界の最高権力者である魔王は獄民想いだ。
そんな季節感の無い退屈な魔界の為に、とあるイベントを開催していた。


『ウハウハ!水着美女てんこ盛り魔界水中大運動会!』


魔界首都にある獄立競技場に、そう書かれた巨大な看板が鎮座していた。
家族連れやカップル、色々な魔族が続々と入場していく。

もちろんほとんどの悪魔は古臭いネーミングだの80年代風味だなどと言わない。
ちなみに人界に毒されウッカリ『サムいんじゃない?』言ってしまった悪魔デミアンは
灼熱地獄で身を焦がし続ける暖かさを堪能している。


『さ、盛り上がってまいりました!現在黒組は120点、白組は105点です!』

『最後の決戦に各陣営気合を入れています!』


この水中運動会は魔界貴族派を白組、魔界軍派を黒組に分けての構成だ。
魔界貴族派リーダーにはアシュタロスの部下でアネゴ肌のメドーサ嬢。
魔界軍派リーダーは魔界軍でも人気の高いクール美女ワルキューレ嬢。


「いいかい!私たちはプロだよ!くだらない遊びでもやるからには勝つよ!」

「魔界軍の威信にかけて、勝負は必ず勝つ!民間人に負けることはあってはならない!」


白組リーダーはチームカラーの白のセパレート水着を着ている。
上下とも紐で支えるタイプで布地も少ない、まさに大人のチョイスだ。

黒組リーダーもチームカラーに合わせた黒だが、レスリングスタイルの水着だ。
機能性を重視しているが腰部分は鋭角のハイレグで、そのVゾーンは見るものの目を奪う。

共通する事は、共に爆乳であり胸元の布地よりも球体の露出面積が大きい事。
魔族青少年は魔族親にコッソリ隠れながら、魔界ワンセグ携帯で番組を凝視していた。
魔族PTAも『乳がけしからん』と何度も魔界テレビに抗議していた。
因みに生中継で魔界テレビから全魔界に放映されている。


『『あっはん水中騎馬戦』ではまさかの白組敗退でしたからねー。』

『メドーサさんが武器を持ち出して反則負けする大波乱でした!』


ひょうきんな芸人魔族と清純派元気系アイドル魔族が司会進行を進めていた。
派手なトランクス型の水着と色気の無い原色形のワンピース型の水着だ。
もちろん彼らは一滴も水に触れることは無い。だが、水着である。
そして、VTRに画面が切り替わる。

水中騎馬戦シーン。
画面右下には丸で囲まれた映像が入っている。
人界の人気デュオ『ユミィ&マリー』がその中で小さく歌っていた。

我々はよく『知恵のたりなそうなアイドル』と新人アイドルを評する事があるが
魔界では『マイトのたりなそうなアイドル』と評する。奈室安美江ですら魔界では不人気だ。
ユミィ&マリーはそんな人楽(人間界の音楽)好きの魔族の間では評価が高いのである。
プロダクションは正体を秘密と公表しているが、某女子高霊能科に通うお嬢様と元不良らしい。

そしてメイン画面では水着姿の女性悪魔たちがワイワイと頭のハチマキを奪い合っていた。


「あはははは!だらしないねえ!来い来い!死にに来い!今の私は停められないよ!」


白い騎馬が戦場を縦横無尽に疾走する。その跡には魔界軍騎馬が無数に頓挫していた。
白い水着と白い波、そして白い肌。そして誰もが目を奪われる上下に揺れる双房。
白騎士メドーサは手に10本近く黒い布キレを握り締め、ご満悦だった。


「ハーピー上等兵!メドーサを止めろ!」

「了解じゃん!メドーサ、覚悟するじゃーん!くらえフェザーブレッド!」

「うわっ!あ、あぶない事するじゃないか!このっ!」


鳥形悪魔から放たれた羽根を寸でのところで避けた白組リーダーが、
手から得意の長い武器を取り出すと、鳥形悪魔を殴り飛ばした。
鳥形悪魔は目を回しながら水没していく。


『はい、メドーサさん反則でーす!』

「な、なんでさ!アイツの方が先に手を出したんだよ!」

『彼女の羽根は身体の一部ですから。貴女のソレはどう見たって武器です!』


機を見るに敏、ワルキューレはメドーサの戦線離脱にすぐさま対応した。
白組の布陣は1トップ、メドーサ以外の残りを全て防御主体の方円陣形にしていたのだ。
魔界軍側の残存騎馬が司令官の指示ですぐさま中央に集結する。


「よくやったハーピー上等兵!よし、白組を教育してやる!私のケツをなめろ!全軍突撃!」

「「「「Panzer Vor!」」」」


魔界軍に魚鱗陣形で一気に中央を突破され、魔界貴族側は崩壊した。
本来ならメドーサの活躍で数の上では優位だった貴族側は、陣形を変え防ぐ事も出来ただろう。
しかし、指揮官不在の部隊ほど脆い物は無いのである。

因みに決して黒組隊長が特殊な性癖の持ち主では無いことは名誉の為に付記しておく。
ゲーテの戯曲「ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン」の初稿にある台詞よりの引用である。
原文は『Leck mich am Arsch !』。


「く、あんなブイ(注:VTR)何度も流さないでもイイだろうにさ。・・・すまないねみんな。」

「そ、そんなことありませんオネエサマ!私たちがもっと頑張ればよかったんです!」

「そうですわ!まだ次があります!オネエサマには絶対勝って頂きます!」


手放しで擁護され面食らう白組隊長。さもありなん、彼女のチームは魔界貴族派なのだ。
有名貴族なのに悪魔付き合いが究極に下手な毒男アシュタロスでこそ部下を派遣したが、
その他の面々は魔界貴族の深窓の令嬢ばかりなのだ。
頼れる年上をオネエサマと呼ぶのはそのせいでもある。

お嬢様がたは、それぞれ白を主体としながらも思い思いのデザインのヒラヒラ水着。
魔界貴族女性に最近流行の、天界人界のデザイナーズブランドを身に纏っている。
露出は低いがフェミニンな雰囲気は、さすが令嬢といったところだ。


「敵はメドーサ1人!あとはバカ娘にすぎん!必勝不敗こそ魔界軍の責務と知れ!」

「「「サーイエッサー!」」」


一方の魔界軍はどれも生粋の軍人ぞろいである。
ワルキューレと同じ黒いレオタード型の水着を着ている美人さん達である。
ちなみにハーピー上等兵だけは大会出場者の中で唯一、全裸で出場だ。
もっとも、放送コードに引っかかる部分は羽毛で隠れているので問題なし。


「ハーピー上等兵、あの白組リーダーはなんだ!」

「え?メドーサにしか見え・・・あ!ダメな民間人でありますじゃん!これが正解じゃん?」

「馬鹿者ッ!」


黒い水着の上官におもいっきり殴られる上等兵。
納得がいかないという顔をしながら、ワルキューレの顔を見つめていた。


「あんな垂れチチは干し柿だ!繰り返し諸君に問う!メドーサはなんだ!」

「「「干し柿です!」」」

「声が小さい!」

「「「ホシガキー!」」」

「もっと大きく!」

「「「ホシガキィィィ!!!」」」


当然軍人達の大音声は、白組にも届いていた。
当の干し柿、いやメドーサは、すでに血管を何本も浮き上がらせ
口元のチャーミーな八重歯がギリギリと音を立て、感情の炉心は臨界を突破しようとしていた。


「だ、だれが干し柿だ!殺す!勝負なんか関係ない!あいつら10万回殺す!」

「お気を確かにオネエサマ!あれは挑発です!乗ってはいけません!」

「次の勝負は軍人には不向きな個人競技です!策なんですよ!」


ほぼ白組の全員がメドーサにすがりつき暴走をかろうじて押し留めていた。
中には抱きつきながらも何故か頬を赤らめキャーキャー言う令嬢も居たようだ。

かくして険悪な(?)ムードの中、両軍指揮官は互いへのライバル心を燃やす。
そして次の競技の内容は・・・・・・


『さて、最終競技は『うっふん水中大相撲』でーす!』

『水に浮いた土俵の上で相手を落とした方の勝ち!でも、手も羽根も使っちゃダメですよ!』


競技にいちいち『うっふん』とか『あっはん』とか付けるのは魔王の趣味である。
もちろん魔界では魔王のネーミングセンスに文句をつける者などほとんど居ない。
ちなみに灼熱地獄で番組を見ていた悪魔デミアンはウッカリ『イタいネーミング』と言い放ち
針山地獄に移され刺激的過ぎる痛さを思いっきり満喫している。


「メドーサ、貴様のようなアシュタロスの腰巾着に負ける我々ではない。」

「そうかい。じゃあ腰巾着以下のアンタはクズってトコだね。」


先鋒には、互いに両軍のリーダーが出ていた。
互いに上半身を大きく反らし、不遜を体現化しているようである。
試合開始を告げるホイッスルが、会場に鳴り響いた。


「ふんっ!」

「はぁぁぁっ!」


互いに正面を向き合い、脚を広く構え上半身を相手にぶつけてきた。
単に手を使わないで相手を倒すだけなら頭突きやタックルの方が有効だ。
しかし、半径2m弱の小さくバランスの悪い円形の水上土俵はその衝撃には耐えられない。

互いにそれを考慮し、相手の隙と自滅を誘う防御型の姿勢で来たのだ。
地勢を判断し的確な体勢をとるあたりに彼女らの戦闘センスを垣間見る事が出来る。

そして同じ姿勢で胸をぶつけてきた二人は、一歩も譲らない力相撲の様相となった。
ひたいをこすりあい、鋭い眼光で睨み合っている。


「鍛えもしないで小手先を駆使しても真の勝利はつかめん!軍人は常に鍛錬している!」

「は、実戦がほとんど無い軍人なんか張子の虎さ!踏んだ場数が違うんだよ!」


やや嘲笑気味に笑顔を作るメドーサと、
全く表情を変えずに引き締まった顔のワルキューレ。

圧力に形を変えながらも隙を探る軟体生物のような、狡猾で柔軟な乳と、
圧力など意に介さず隙を与えない鉄球のような、傲慢で張りのある乳。

互いの意思と身体能力と双乳が、不安定な足場なぞモノともせずにせめぎあう。


「ほらほら、自慢の刺青の色が変わってきたんじゃないか?ええ、ワルキューレっ!」

「軍人は常に冷静だ。貴様こそ、そのにやけた顔の奥から焦りと泣き顔が見えるようだぞ?」


メドーサが腕をゆったり上げ、一層激しく動き始める。
一方のワルキューレは腰に手を当て、微動だにしない。
一見相反する両者だが、その両者の額に浮かんだ汗が互いの苦戦を物語っていた。


「さっさとオチな!」

「やらせるか!」


攻めようと軍人が更に胸を押しつけた一瞬、何かが、バランスをごく僅かだが狂わせた。
その一瞬のほんの小さな隙を、白い歴戦の戦士は見過ごさなかった。
次の瞬間、爆乳軍人は派手な水しぶきを上げプールの中に背中から落ちていった。


「あはははは!勝負はアタシの勝ちだよ!ざまあないね!」


腰に手を当て、首を使い颯爽と髪を振り上げ、勝ち誇るように胸を反らすメドーサ。
しかし、会場は水を打ったように静寂に包まれていた。
喜ぶはずの味方でさえ目を丸くしてメドーサを凝視していた。

勝者は賛美が欲しかった訳ではなかったが、周囲の異常が気になった。
しかしまだこの時点ではその異常の正体を知らず、立ち尽くすのみ。


「ん?なんだいなんだい。どうしちまったのさ。」

「・・・・・・・・お、オネエサマ、あの、その、お、お胸が・・・・」


そう言われたメドーサが自分の身体に目を落とす。
砲弾型の胸は柔軟さをアピールしつつも絶妙な角度をキープしている。
そしてその白い砲弾の先には、意外なほど純情なのが判る、薄桃色の・・・・・


「・・・・・あ?あ?!あああ!」


現在の状況が上手く噛み砕けないメドーサ。しかし、じわじわと理解していた。
勝利と引き換えにした何か、そして今自分が置かれている状況。


「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


裏返った高い叫び声が会場内に響き渡った。
誰もが彼女の口から出るとは思わなかった、乙女の叫び。

そう。
ワルキューレに生じた僅かの隙の正体。
それは重心を幾らか支えていたはずの水着が取れたせいだったのだ!

わかりやすくいうと、おっぱいポロリ。


そして前述にもあるとおり、この模様は全魔界に放映されていた・・・・・








******しばらくお待ちください<MAKAI=TV=NETWORK>******










「オネエサマしっかり!ほら、誰も干し柿だなんて思わなくなりましたし・・・・」

「ば、ばかー!こんな目にあうくらいなら干し柿でいいよっ!もうやだー!」


因みに白組はその後、異様な興奮の中で軍人勢を圧倒した。
彼女らの中でメドーサの雄姿が何かの力を与えた様だ。
最終ゲームは白組の完全勝利で勝負の幕を閉じた。

逆転優勝を遂げた白組への惜しみない拍手の中、表彰式は行われた。
スケジュールに無い魔王陛下からの総評を賜ったりと、大興奮の中で大会は終了した。

なお敢闘賞やMVPを総なめにしたメドーサだったが、その時既に会場には居なかった。
風の噂では、しばらく彼女はフード付きのマントを着込み隠れる様に生活していたという。
天龍童子暗殺未遂事件が起きるちょっと前。
夏の魔界の物語であったそうな。





おしまい。
フライングギリギリいっぱいで投稿してみましたが先着が居たようです。
ぬうう、MSの時間同期までして投稿したのに!くやしいっ!
やはり一番の小者に相応しい2GETということでしょうか。

お祭りは参加する事に意義がある!とゆーわけで投稿広場からやってきました。
こちらでははじめまして。よろしくお願いします。

作品につきましては『推奨スペック:流し読みが出来る方』です。
楽しんでいただけたら幸いです。

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