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そうなの? 紫穂ちゃん!?

【注・この話は夢オチです(笑)】
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 ガチャ、バタン。

「たでーまー。」
「あ、お帰り、シュウ」

賢木修二が自宅に帰ると、リビングにいた賢木紫穂は、手にしていた電話の子機を台に
戻して、笑顔で出迎えた。

「食べてくるって言ってたけど、どうする? 軽く食べるなら用意するわよ?」
「おう、じゃあ・・・ひとっ風呂浴びてから、食うわ」
「わかった」

紫穂がダイニングに向かうのを見て、修二はそそくさと脱衣所に急いだ。
ワイシャツとスラックスを脱ぎ、洗濯機に突っ込んだ所で、修二は背後に気配を感じた。

 ゴリッ。

同時に後頭部に固く冷たい感触。
修二は全身の血の気が引いた。

「会議で遅くなるって・・・ずいぶん女の子の多い会議だった様ね」
紫穂は愛用の銃を手に、冷ややかな口調を投げかけた。
「うおっ!待て、紫穂。お、落ち着けっ!」
「私は落ち着いているわよ?」

修二は、ホールドアップの姿勢のまま、冷や汗を流した。
「会議は、会議だったんだ。そうだ! 皆本に聞いてくれ、あいつなら・・・」
「知っているわ、さっき薫ちゃんから電話があったもの」
「・・・で、何と?」
「軽くシメたら、あっさり吐いたって」
「・・・アーメン」
修二は、宙に十字を切った。

 ゴリゴリッ。

「今度は、あなたの番かしら?」
紫穂の瞳が鋭く光った。
「だっ、違う、だっ、だから!」
「部署が違うっても、同じ職場なんだからバレないワケないでしょ?」
「あ・・・」
「新歓コンパなら、そうと言えばいいのに。別に行っちゃダメって訳でもないし」
「・・・そ、そうなのか?」

 ゴリゴリゴリッ。

「新歓コンパだけ、ならの話よ!」
紫穂は、一層強く銃口を押しつけた。
「痛ててっ!紫穂っ!」
「あなた、途中で抜け出したそうね」
「・・・あんにゃろう、バラしやがったな・・・」
「あ・な・た・の・こ・と・よ・! ど・こ・に・行・っ・て・た・の・?」

「いや、それはその・・・」
しどろもどろの修二に、紫穂は呆れたのか、ゆっくりと銃口を下げた。
「・・・紫穂?」

「ふう・・・」
紫穂はため息をついた。
「・・・紫穂?」
「無理矢理、聞いてもいいのよ?」
紫穂は、銃の代わりに手のひらを拡げて突き出した。
「・・・でも、それはしたくない。あなたもその理由は判るでしょ?」
「紫穂・・・」
「昨日、ニュースで云ってた。サイコメトラーの離婚率の高さは社会問題だって」
「おい、紫穂?」
「私は本当の事を、あなたの言葉で知りたいだけ」
紫穂は、両手を下げ、寂しそうにうつむいた。

「紫穂、俺・・・」
修二は、紫穂を取りなそうと優しく声を掛けた。

 チャキッ。

「ぐすっ、あなた、もう私の事なんてどうでもいいんでしょう?」
「わーっ、泣きながら銃口を向けるんじゃないっ!」

修二は、銃を構えた紫穂を慌てて制した。
そして、勢いよく抱きしめた。
「ったく、俺って奴はバカだ!」

「気付いたのは、夕方だったんだ」
修二の言葉の意味が分からず、紫穂はきょとんとした。
「シュウ?」
「コンパを会議と偽ったのはすまない、俺が浅はかだった」
「・・・シュウってば・・・」
「途中で抜けたのには、理由がある」
「シュウ、もういいよ」
紫穂は、修二の腕の温もりの中に、確かな愛情を感じて微笑んだ。

「そうはいかない」
修二は、紫穂を抱きしめたまま、ずるずると歩きはじめた。
「シュウ、何? どうしたの?」
「いや、ちょっと時間をね」
「時間?」

修二は、リビングの入り口まで紫穂を引きずった。
そして、壁掛け時計を見やった。
時は午前零時を過ぎ、既に日付も変わっていた。

「もう、今日か」
「何の事?シュウ?」
不思議そうに問う紫穂。
「知り合いの店に無理言って、遅くまで開けてもらってたんだ。コンパにもその店にも
 女の子はいたから、変に誤解させてすまない。皆本には口裏合わせを頼んだだけだ」
「だから、何の事?」
首を傾げる紫穂の目の前に、修二はいつの間にか手にしていた小さな包み箱を掲げた。

「シュウ、これ、何?」
「開けてみな」

紫穂は銃をホルスターにしまうと、その包みのリボンをほどいた。
箱の中には、輝く二つのリングが入っていた。

「シュウ、これ!?」
「一年、たったろ?」
「・・・あっ!」

紫穂は思い出したのか、顔を赤らめた。

「何だよー、普通は女の子の方がこーゆー事に敏感なんじゃないのか?」
苦笑する修二に、紫穂はむくれてみせた。
「仕方ないでしょ、ばたばたしてて気付けなかったもの」
「やれやれ、慌てた俺が損したっ!」

どさりとソファーに座り込んだ修二の隣で、紫穂は嬉しそうにリングに指を通した。
「シュウ、ありがと!」
そして、紫穂はもう一つのリングを修二の指に通すと、カチリと軽くかち合わせる。
「これからもよろしく、シュウ!」
「どーも、こちらこそ」
紫穂は、修二の胸元に飛び込むと、その腕を抱えて笑った。

「・・・あ、そういや・・・」
修二は天井を見上げてつぶやいた。
「何?」
「皆本の奴、とんだとばっちりになっちまったな」
修二は、親友の身を案じて嘆いた。

「あら、大丈夫よ」
紫穂は、意味深に微笑んだ。
「あ? どうして分かる?」
「向こうは今、治療中よ」
「あ、そう。ごちそうさまだな」

「じゃ、こっちはさっきのお詫びっ!」

紫穂はだしぬけに、修二の頬に顔を近づけた。

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窓からは、朝の陽の光が差し込んでいた。

「ありえねぇー・・・」
むくりと起き上がった薫は、まだ半分寝ボケた様子でつぶやく。

「紫穂と賢木先生が? 何で? ありえねぇー・・・」
今しがた見た、夢の世界での出来事。
自分がなぜ、そんな夢を見たのか、全く理解出来なかった。

「ふーわわ・・・」
あくび一つ。
薫は目をこすろうとした。

が、片腕に隣で寝ている紫穂の腕が絡まっている。
薫はゆっくりと紫穂の腕をほどくと、ベッドから這い出した。
既に葵は起き出していて、寝ボケまなこの薫を洗面所で笑って迎えた。
そして、顔を洗っている内に、薫はすっかり夢の事など忘れてしまった。

「うーん・・・」
寝返りを打った紫穂は少し、幸せそうに微笑んだ。

・・・これは、アリですかね?ちなみに平和な未来の可能性としても・・・
・・・でも、この二人は色んな意味で眼が離せません。こんな「甘い」展開に
なるかどうかは別にしても(笑)

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