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tea break 〜 絶チル 94th sense.より 〜

※ 「絶対可憐チルドレン 94th sense. 面影(6)」(07/31号)
 のネタバレが含まれています。未読の方はご注意下さい。

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     《宇宙へ》



 2016年、国際月ステーションよりSOSの発信が確認されるが直後通信が途絶える。NASAは情報収集に躍起になるが芳しい結果は得られない。やがて、国際宇宙ステーションに月からの救命艇が回収され、その乗員らによって月の状況が判明する。あるスタッフのESPが暴走したらしく、施設が大きな被害を受けた事。特に通信施設や発着施設への被害が大きかった事。月ステーションにはまだスタッフが残っている事などなど。
 コメリカは月ステーションの調査と生存スタッフ救助の為のチームを結成。プロジェクトの参加国である日本に対し、「ザ・チルドレン」の参加を要請する。事前情報の少なさ、宇宙空間という未知の舞台での救助活動などリスクの高さから、政府関係者や桐壷局長は要請に応じる事に躊躇するが、彼らに対しチルドレンは自ら救助チームに加わる意思を見せる。
 事態は急を要する。チームを乗せたシャトルは即座に打ち上げられた。月へ向かう船内で皆本は薫に問う。今回の任務には何故そんなに積極的なのかと。薫は答える。月には彼女がいるから。皆本だって助けに行きたかったんだろと。礼を言う皆本に背を向け、薫は心の中で付け加える。それに、彼女とはもう一度会って話をしたかったからと。

     *   *   *

 シャトルは月ステーションに何事も無く到着。施設のそこかしこには大きな破壊の跡が見受けられるものの、幸いにして生存者はすぐに発見され、その中にはキャロラインの姿もあった。無事に再会できた事を喜ぶキャロラインと皆本達。彼女らの説明によると、ESP研究の日本人スタッフが長年の宇宙生活の影響によるものか、ノーマルのはずがサイコキネシスに目覚め、あろう事か各施設を破壊、さらには他のスタッフにまで襲いかかってきたとの事。キャロラインを含むESPを持つスタッフの働きによりESP錠で能力を封じる事には成功したがそのまま逃走され、今はどこかに潜伏しているはずだと言う。
 外は宇宙空間、ステーション自体もそう広くはない。問題のスタッフも近くいて、救助が来た事に気づいているのではないか。もしそうなら彼の次の行動は……。皆本がそこまで口にした所で、シャトルの方で騒ぎが起こる。例のスタッフが襲撃してきたのだ。狙いはシャトル。どのようにしたか不明だがESP錠は外されている。葵のテレポートで即座に駆け付けたチルドレン一行は彼の攻撃をシャトルから逸らす事には成功したものの、逸れたサイコキネシスは外壁を破壊。開いた穴の近くにいたキャロラインが衝撃で宇宙空間に放り出されてしまう。皆本は咄嗟に手を伸ばすが届かない。私に任せてと代わりに薫が飛び出して行った。
 残った面々は他の救助チームの手も借りて、何とか暴走スタッフを拘束する。紫穂のサイコメトリーにより彼の行動の理由が判明した。彼は実は「普通の人々」である事。月ステーションでの研究により、宇宙空間ではESPの発現率が地球に比べて高く、超度も強まる傾向にある事が分かり、宇宙進出によるエスパーの増加に反エスパーとして危機感を抱いた事。そしてエスパーを化け物と恐れる自分自身がその化け物となってしまった事が耐え難かった事。それらの要因が混ざり合い今回の暴走に至ったのだろうと紫穂は述べ、ESP錠が外されていたのはその特異な発現の仕方によって彼の超能力の周波数が安定せず、ESP錠が効きにくかったからではないかと皆本が推測を付け加える。いずれにせよ、後は薫とキャロラインが帰ってくるのを待つしかない。

     *   *   *

 キャロラインと薫は無事だった。キャロラインの船外服にはやや損傷があったものの、追いついてきた薫の能力でカバーし事無きを得ていた。虚空の中を月ステーションへと引き返しながら、薫はキャロラインに遠慮がちに訊ねる。皆本の恋人はキャリーだったけど、キャロラインも彼の事を好きだったんじゃないのと。キャロラインは答える。そうかもしれない。いいえ、きっとそう。でも、彼女以上の存在になる勇気が無かったのね。本当にそれでいいのと薫。それで良かったのとキャロライン。迷いなく言い切る彼女に、薫はそれ以上問わなかった。

     *   *   *

 救助チームと生存スタッフは地球へ帰還した。
 事後処理を終え日本に戻る皆本達はキャロラインに別れの挨拶を告げる。キャロラインは皆本と握手をし、チルドレンとはそれぞれ抱擁を交わし合う。その違いにちょっと不思議そうな顔する面々をよそに、キャロラインは薫にだけ聞こえるよう小声で言った。あなたは私と違うのだから、あなたの思う通りにすればいいのよと。薫はかすかに微笑んで頷いたのだった。





     ― END ―
 本編はキャロラインが再登場せずシリーズ終了となったので、彼女の再登場を希望して、思いついたエピソードをつらつらと書き綴ってみました。ああいう別れ方ですと、蛇足にしかならないかもしれませんが、キャロライン自身は皆本をどう思っていたのかな、と。

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